高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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28 巻, 3 号
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シンポジウム:高次脳機能リハビリテージョン最前線
  • 大東 祥孝, 岩田 誠
    2008 年 28 巻 3 号 p. 245-246
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
  • 石合 純夫
    2008 年 28 巻 3 号 p. 247-256
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      半側空間無視は,空間性注意の右方偏倚を基本とし,課題に対する性急さ,用いる方略の不適切さなど,非空間性要因が加わった最終的表現形である。非空間性要因は,課題ごとに指示を工夫すると改善できる場合がある。注意の右方偏倚の矯正目的で「左を見て」と指示する際は,空間的フレームの明確な左側を示すと有効である。しかし,フレーム内の処理向上には,探索の跳躍を抑えるpacing を要する。保存された感覚を一側性に刺激する方法には,カロリック刺激,視運動性刺激,頸部筋振動刺激があり,刺激中の無視改善効果がある。プリズム順応は短時間で感覚—運動協調に変容を創り出し,持続性の無視改善効果が期待されている。しかし,効果は症例と課題によって異なり,今後の検討を要する。新旧の方法を交えて多角的にアプローチし,半側空間無視患者の日常生活活動向上を目指したい。
  • 三村 將
    2008 年 28 巻 3 号 p. 257-266
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      前頭葉損傷に伴うさまざまな精神症状のなかで,もっとも対応困難な問題のひとつは,社会的認知の障害である。前頭葉損傷により,自己と他者の関係が歪み,集団のなかで適応的な生活を送れなくなる。このような社会性の障害が生じる背景には,相互に関連したいくつかの要因があると考えられる。ひとつは衝動コントロールの不良であり,また,これと関連して,自己の行動を意識的,無意識的に規定する報酬—罰の問題がある。前頭葉損傷患者では一般に,目先の報酬に引きずられ,将来的な罰に無関心になる。ギャンブリング課題施行中の反応パターンや皮膚電位反応から,前頭葉損傷患者の情動反応をある程度読み取ることができ,ときに症例の逸脱行動への対応を考える際にヒントになる。さらに,自己の言動を相手がどう思うかが理解できないこと(心的推測の問題)が対人関係障害・不適応を生んでいる場合もある。我々は対人関係トラブルを繰り返す前頭葉損傷患者を対象に,広汎性発達障害者に対する「心の理論」のワークを援用して,小グループによる訓練を試みた。前頭葉損傷患者はある程度「心の理論」を知識的に再獲得することは可能であったが,獲得した「心の理論」をみずからの日常生活に応用することは困難であった。前頭葉損傷患者の社会的認知の改善をめざす訓練はまだ予備的な検討にとどまっているが,今後さらに重要性を増していくものと思われる。
  • 前島 伸一郎, 大沢 愛子, 板倉 徹
    2008 年 28 巻 3 号 p. 267-275
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      高次脳機能障害に対する治療戦略は,原因疾患とその病態を充分に検討することから始まる。すなわち,その発現機序を理解した上で,治療戦略を考えていくべきである。正確な治療効果を検証するためには,高次脳機能障害の詳細な評価が必要である。高次脳機能障害の顕著な改善を期待できるものに外科的治療がある。慢性硬膜下血腫では穿頭洗浄術によって認知症に陥った患者を劇的に改善させる。閉塞性あるいは狭窄性血管病変を有する患者に対して,バイパスや血管形成などの血行再建術を行った場合,高次脳機能障害の改善がしばしばみられる。本稿では,高次脳機能障害を有する患者の診療にあたり,臨床現場で実践してきたいくつかのアプローチについて述べた。
  • 関 啓子
    2008 年 28 巻 3 号 p. 276-283
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      言語聴覚士(ST)は理学療法士(PT),作業療法士(OT)とともにリハビリテーションに携わる専門職種であるが,その数は他職種に比べてもまた欧米のST と比べても少なく,認知度は未だ低い。しかし,ST は失語を始めとする多様な高次脳機能障害の領域では活発な臨床・研究活動を行っており,急性期から維持期まで一貫して関わっている。OT が作業を通した活動を提供するのに対し,ST は包括的なコミュニケーションの向上を念頭におき,言語を介した活動を行う。効果的なリハビリテーションには,すべての専門職者の協働が重要である。
      ST の高次脳機能障害へのアプローチは,障害の種類や重症度,患者の年齢・性・状況などに応じて多様であり,一般像を描くことが難しい。そこで,本稿では一例として,筆者のこれまでの臨床・研究活動から(1)MIT(Melodic Intonation Therapy)日本語版の開発と適用,(2)純粋失読に対するなぞり読み訓練技法の開発と効果測定,(3)空間性失書の症状分析と半側空間無視の影響の検討,を紹介する。
  • 種村 留美
    2008 年 28 巻 3 号 p. 284-290
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      さまざまな高次脳機能障害者に対する作業療法では,生活障害の中でも特に道具使用や遂行過程に介入する。本稿ではGrafman の道具使用モデルに従い,障害レベルに応じた介入法を検討した。知覚システムの障害である半側無視に対しては,道具使用に際して右空間の刺激を縮減し,動作空間も限定し,左手を使用することが有効である。道具使用の手続きなどの知識表象ネットワークの障害であるAction disorganization syndrome に対しては,対象の制限,課題の細分化および動作表出を促す環境の設定を行う。動作システムの障害である失行症に対しては,具体的な動作エラーに即した介入を行うことが有効だと考えられる。
カレントスピーチ
  • 熊倉 勇美
    2008 年 28 巻 3 号 p. 291-295
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      近年,摂食・嚥下リハビリテーションにおいて,言語聴覚士(ST)が果たすべき役割はますます大きくなっている。まず,従来取り組みが困難とされてきた高次脳機能障害患者,さらに,意識障害や認知症などを持つ患者の摂食・嚥下に関連する問題点を列挙した。
      次に,病院などにおけるこれらの問題の実態について,協力の得られた施設のデータを急性期,回復期などに分けて紹介し,それぞれ問題点が異なることを明らかにした。また,Wallenberg 症候群の3 症例を提示し,認知機能の障害が嚥下訓練を進める上でも,帰結においても大きな影響を与える可能性のあることを示した。最後に,高次脳機能障害患者などにみられる摂食・嚥下機能に関連した代表的な症状を提示し,それらへの対応法について解説を加えた。
教育講演
  • 今泉 敏, 木下 絵梨, 山崎 和子
    2008 年 28 巻 3 号 p. 296-302
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      自閉症や学習障害,注意欠陥/多動性障害を持つ児童と定型発達児とを対象に,音声から発話意図を理解する能力を調べた。言語的意味としては相手を賞賛する語と非難する語を,語の意味と一致する意図あるいは反対の意図を持って女性話者1 名が発話した音声を刺激とし,発話意図を判断させた。その結果,定型発達児では高い正答率を示したものの,小学1 年生(6 歳児)では言語的意味と発話意図が矛盾する音声に対する正答率が一致する音声に対する正答率より有意に低かった。矛盾する音声に対する自閉症児の正答率は対象群に比べて有意に低かった。また「心の理論検査」の誤信念課題を通過できなかった自閉症児は,できた自閉症児より正答率が有意に低かった。この結果は,自閉症児が音声を介した発話意図理解に障害を持つこと,その障害は誤信念課題による「心の理論検査」で検出される障害と関連していることを示唆する。
  • 種村 純
    2008 年 28 巻 3 号 p. 312-319
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      遂行機能とは活動を計画し,周囲の人々と調整して社会的問題を解決していくことに関係し,その障害は前頭前野を中心とした脳損傷により出現する。関連障害としてaction disorganization syndrome があり,多くのステップを含む課題に困難を示す。遂行機能の評価法として,構造化されていない,手がかりもない課題,流暢性検査,概念形成検査などが用いられる。ワーキングメモリの研究法である2 重課題を遂行機能障害者に適用し,2 つの課題を単独で行う場合に比べ両課題を同時に行うと課題の遂行時間が延長する。遂行機能の治療では,複雑な活動の実行,特定の場面への適応方法,問題の解決法などを教育する。携帯情報端末(PDA)を用いて,実際場面で目標活動に含まれるステップを表示することもできる。遂行機能障害者の評価・治療成績を見ると,注意,記憶などの障害を併せ持ち,注意や記憶の訓練の後に遂行機能の訓練が行われていた。
  • 豊倉 穣
    2008 年 28 巻 3 号 p. 320-328
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      注意障害に関する臨床的事項を概説した。軽微な注意障害はADL に影響せず,臨床上見逃されることが少なくない。日頃から注意障害を疑う姿勢が重要である。日本高次脳機能障害学会は日本人で標準化された標準注意力検査を開発した。Trail Making Test もよく用いられる課題である。非利き手での成績が利き手での動作と同等に扱えること,施行時間は動作プロセスより認知プロセスに大きく依存すること,などの報告がある。日常生活の問題に還元しやすいとの利点から,注意障害の行動評価も検討されている。一例として著者の考案したBAAD(Behavioral Assessment of Attentional Disturbance)を紹介した。認知リハビリテーションとして多くのプログラムが紹介されている。APT(Attention Process Training)およびより軽症例を対象とするAPT IIは特異的に注意障害を改善する訓練プログラムとして開発されたものである。
原著
  • 船山 道隆, 小嶋 知幸, 山谷 洋子, 加藤 正弘
    2008 年 28 巻 3 号 p. 329-341
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2009/10/27
    ジャーナル フリー
      症例は56 歳右利きの男性である。50 歳から英語が読みづらくなり,52 歳より喚語困難が出現し,徐々に音韻からの意味理解障害や顕著な表層失読や表層失書を伴う語義失語を呈するに至った。言語によるコミュニケーションに支障をきたし仕事から退いたが,日常生活は自立している。物品使用の障害を認めず,人物認知の障害は軽度にとどまった。視覚性の意味記憶検査では生物カテゴリーと加工食品では成績低下を認めたが,それらのカテゴリーで日常生活に支障をきたすことはほとんどなかった。非生物カテゴリーでは意味記憶障害は認めなかった。頭部MRI では左側頭葉の前部から下部を中心に萎縮が認められた。
      少なくとも現時点での本症例において,非生物カテゴリーでの意味記憶は保たれており,語彙の理解および表出の障害は失語の範疇で捉えることが妥当であると考えた。一方で生物カテゴリーにはわずかながら意味記憶障害が存在した。また,語義失語は語彙の貯蔵障害という見解が多いが,本症例の障害の中核は,語彙と意味記憶の間の両方向性のアクセス障害にあると考えた。
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