近年, 立方体透視図模写課題の小児への適用が進んでいる。しかし, 立方体透視図の模写が可能となる年齢や, 遂行の可否に関与する認知機能については未だ明らかとなっていない。本研究では, 立方体透視図模写遂行における発達的変化を分析するとともに, 当該課題の遂行に関与する認知機能について検討することを目的とする。5 から 18 歳の幼児, 児童および生徒37 名を対象に, 立方体透視図の模写課題を実施し, 依光ら (2013) に従って得点化した。同時に, 視機能, 運筆能力, 視知覚および構成能力を評価する課題を実施した。その結果, 立方体透視図模写課題の得点は8 から9 歳にかけて有意な上昇を認めた。また, カテゴリカル回帰分析の結果, 構成能力と運筆能力が立方体透視図模写課題の得点を有意に予測していた。立方体透視図の模写課題は9 歳頃から遂行可能となり, 課題遂行には構成行為のプランニングと運筆能力が関与していると考えられた。
左被殻出血後に慢性期まで記号素性錯語を呈した流暢性失語例において, 記号素性錯語の特徴について検討した。症例は 64 歳右利き女性で, 意識障害はなく, 非言語的な認知機能は保たれていた。自発話や呼称において豊富な錯語を示し, 特に呼称における記号素性錯語が特徴的だった。記号素性錯語は発症 1 年後にも認められ, 保続型と非保続型に分類できた。保続型はすでに表出された記号素やその意味的関連語を含む記号素性錯語で, 目標語を含まないものが多かった。一方, 非保続型は目標語や目標語の意味的関連語を含む記号素性錯語が多かった。経時的には保続型記号素性錯語が徐々に減少していく傾向があった。本例にみられた記号素性錯語は, 意味や運動など種々のレベルでの保続や, 目標語に関連して活性化された語の抑制障害など多様な機序により生じていることが示唆された。記号素性錯語の出現には左基底核損傷が関与している可能性があると考えられた。
言語流暢性課題 (Word Fluency Test: WFT) には, 意味流暢性課題 (Category Fluency Test: CFT) と文字流暢性課題 (Letter Fluency Test: LFT) があり, 臨床における認知症の評価にも有用と考えられている。
今回われわれは, 認知症のWFT の成績とワーキングメモリ (working memory: WM) の関連について検討することで, 認知症の WFT に現れた WM の特徴を明らかにすることを目的とした。さらに, 認知症における WFT の結果によって, WM をどのように推定できるかについて考察した。
結果, 認知症においても WFT は WM と関与する可能性があり, 特に LFT の成績には WM がより関わりが強いことが示唆された。さらに, アルツハイマー病と前頭側頭型認知症によって, WFT の遂行に関与する WM の特徴が異なる可能性も示された。
これらより, 認知症タイプによって WFT の遂行に必要な WM の側面が異なる可能性について考察した。