高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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35 巻, 2 号
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特別講演
  • Neill R Graff-Radford
    2015 年 35 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      For years Behavioral Neurology studies of focal syndromes has depended on patients with stroke and tumor lesions. With the development of imaging tools such as voxel based morphometry degenerative brain disease has expanded anatomical related syndromes such as the primary progressive aphasias. This paper describes degenerative brain disease cases illustrating focal syndrome onset related to the anatomy of the initial and most severe degeneration. The paper will start in the frontal area describing a patient with behavioral variant frontotemporal dementia relating the published criteria and different pathologies to this syndrome. The paper then describes a patient with posterior cortical atrophy affecting the occipital and parietal lobes and pointing out that these patients have preserved anterograde memory and other clinical features with which the anatomy correlates. Alzheimer pathology is typical but the syndrome may also be caused by corticobasal syndrome. The third case is one with corticobasal degeneration affecting the parietal lobe which has published criteria and a myriad of pathologies that may cause this syndrome. The next two case illustrations will be semantic dementia from the left more than right temporal lobe and prosopagnosia affecting the right more than left temporal lobe. The paper will discuss the diagnostic criteria and typical pathology of these cases. The paper describes a patient with non-fluent primary progressive aphasia and demonstrates that Progranulin mutation patients may present this way. To round out the causes of primary progressive aphasia the paper will describe a case with logopenic aphasia. The published criteria and typical pathology will be added. Lastly the paper describes an Alzheimer patient that demonstrates different memory pathways with the patient having retained “know how” (procedural memory) but not “know what” (episodic memory) and the underlying pathological anatomy that causes this. In conclusion Behavioral Neurology syndromes have expanded with the study of degenerative dementia.
会長講演
  • 森 悦朗
    2015 年 35 巻 2 号 p. 159-164
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      行動神経学は神経疾患による認知機能障害や行動異常・精神症状を対象とした学問体系であり, 神経内科学のサブ・スペシャリティの一つである。神経心理学はその重要な基礎でありツールだが, 行動神経学は単なる神経心理学の言い換えではない。行動神経学には遺伝子や病理, 生理や画像, 薬理やリハビリテーションまで, 他の重大な要素も包含している。この講演では私自身が歩んできた軌跡を通じて行動神経学研究の魅力を伝える。
シンポジウム I : 失語症の実態と治療戦略
  • 佐藤 睦子, 田中 春美
    2015 年 35 巻 2 号 p. 165-166
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
  • 稲富 雄一郎
    2015 年 35 巻 2 号 p. 167-174
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      言語聴覚療法の現在の問題を明らかにするため,急性期脳血管障害における失語症診療に関する調査を行った。 (1) 脳梗塞急性期失語症の実態。急性期虚血性脳血管障害の15%に入院時に失語症を認めた。 急性期転帰 (第 10 病日) は改善 46%, 不変 44%, 増悪 8%, 入院後出現 2%であった。 (2) 失語症患者の転退院経過。急性期病院からの自宅退院率は失語症合併群 9%に対し非合併群 48%であった。回復期リハ病院での在院日数は 86 に対し 64 日,3 ヵ月後の自宅退院率は 40 に対し73%であった。 (3) 言語聴覚士の臨床上の問題。アンケートの回答 159 件を解析した。問題の内容は目標設定 32%,症候 19%,病態 16%, 教育や連携 8%, 患者対応 7%などであった。また所属施設での定例検討会の開催は 44%, うち詳細な病巣同定は 13%であった。失語症診療は限られた時間と教育機会の中で行われている可能性がある。
  • 東川 麻里
    2015 年 35 巻 2 号 p. 175-182
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      失語症の「障害の様相」と「改善の様相」を比較することを通して, 言語治療のあり方について提言を試みた。失語症の回復期に集中的な言語治療を受けた多数症例について, 治療開始時と治療後に行った標準失語症検査結果 (26 下位項目の検査データ) を用いて, 3 つの因子分析を行った。治療開始時および治療後の検査結果の因子分析では, 3 つの因子が抽出されて同様の構造であったが, 改善値 (治療後と治療開始時の得点の差) の因子分析では 6 つの因子が抽出されて, その構造は明らかに前者とは異なるものであった。このことは, 障害の構造と改善の構造は異なり, ある一時点の検査結果のみでは改善の予測は困難であることを示唆する。因子分析で導かれた 2 つの構造を比較して, 失語症の改善に見られる傾向をまとめて, 言語治療のプログラム策定の際の留意点として提示した。また, 一症例の言語治療経過を報告して, 症例の改善の特徴と提示した留意点を照合した。
  • 丹治 和世
    2015 年 35 巻 2 号 p. 183-189
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      失語症は頻度の高い症候であり病型の分類も確立しているが, 症状には著明な個人差があり, 環境や状況によって症状は変化するため, 個々の症例の症状を包括的に理解するのはけして容易ではない。評価に際しては, 標準的な言語機能の検査のみならず, 社会生活での実質的なコミュニケーション能力評価を盛り込むことが望ましい。今回の検討では,集団療法において, 分類上は全失語の失語症者でみられた豊かなコミュニケーションの特徴を分析した。その結果, 障害されているのは音韻処理全般であり, もっぱら特定の記号過程 (インデックス) を用いてコミュニケーションを行っていることが判明した。集団療法は,実用的なコミュニケーション能力を評価・訓練するための貴重な機会となるのみならず,それ自体が社会生活に参加する貴重な機会であり, 失語症者の抱える心理社会的な問題に対する有効な対応策と考えられた。
  • 三宅 裕子
    2015 年 35 巻 2 号 p. 190-196
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      失語症の言語治療は急性期,回復期,維持期に分けられているが, 急性期病院や回復期病棟での言語治療の期間は短縮されており, 言語治療の適応があっても終了となることが多い。維持期での治療, 支援体制もまだまだ不十分な状態である。本稿ではまず急性期病院の現状を報告し, 適切な評価と失語症チーム医療の必要性を述べた。次に維持期の取り組みとして, 失語症を対象とする地域活動支援センターの活動の様子と利用者へのアンケート結果を紹介した。重度の失語症であってもコミュニケーションの場への主体的参加は可能であり, 参加を促す援助や場の提供が求められている。失語症の言語治療は言語症状の改善だけでなくその人個人の生活への参加や社会参加を目指す必要があることを再確認し, 長期的な治療や支援の継続,地域における失語症理解と支援の充実, 急性期, 回復期, 維持期の連携が課題であることを述べた。
シンポジウム II : 視覚背側経路は何をしているのか
  • 平山 和美, 武田 克彦
    2015 年 35 巻 2 号 p. 197-198
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
  • 平山 和美
    2015 年 35 巻 2 号 p. 199-206
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      近年,ヒトの大脳における視覚情報処理には大きく分けて 3 つの流れがあると考えられている。(1) 腹側の流れは, 後頭葉から側頭葉に向かい, 対象を同定したり対象についての知識を呼び出したりするために色や形を分析する。(2) 腹背側の流れは, 下頭頂小葉に向かい, 対象の位置や運動を分析し対象を意識することに関わる。(3) 背背側の流れは, 頭頂間溝や上頭頂小葉に向かい, 対象の位置や運動,形を分析して, 対象に向けた行為の無意識的なコントロールに関わる。腹背側の流れの病変では, 失運動視症, 視覚性注意障害, 半側空間無視が起りうる。背背側の流れの病変では, 視覚性運動失調,把握の障害や自己身体定位障害が起りうる。これらの症状について責任病巣, 詳しい特徴などを, 上記 2 つの流れの機能との関係で論じる。
  • ―Continuous Flash Suppression を用いた検討―
    桜庭 聡
    2015 年 35 巻 2 号 p. 207-213
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      視覚背側経路はリーチングや把持だけではなく, 道具に関する情報処理や読字に関してもその役割が報告されている。Continuous Flash Suppression (CFS) という画像提示方法は, 行動学的かつ簡便に本経路の働きを推測することができるツールとして利用できる。CFS はアナグリフなどを用いて両眼に各々異なる視覚刺激を提示することで, 両眼競合と呼ばれる現象を起こし, 無意識下での視覚情報処理を生じさせる手法である。CFS 下で短時間提示された静止画像に対する処理と視覚背側経路の関係が推定されている。CFS とプライミング効果を利用することで, 視覚弁別課題から得られる反応時間の変化より視覚背側経路の働きを推定することができる。CFS は視覚背側経路の働きを行動学的に推測するプローブとして用いることができるが, この手法は具体的な脳部位との関連性について十分な知見があるとは言えず, 今後様々な脳機能イメージング手法と併せて検討する価値がある手法かもしれない。
  • 船山 道隆, 北條 具仁, 砂川 耕作, 中川 良尚
    2015 年 35 巻 2 号 p. 214-220
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      Bálint 症候群とは, 両側頭頂-後頭葉の損傷に伴う顕著な視空間の障害であり, 精神性注視麻痺, 視覚性運動失調,視覚性注意障害といった 3 つの症状から成る。Bálint 症候群に類似する記載には, わが国の井上達二の論文や Holmes らの視覚失見当 visual disorientation がある。井上や Holmes はBálint よりも視覚認知面の障害を強調している。特に, リーチングの障害を Bálint は視覚と運動の協調の障害である視覚性運動障害と捉えたが, Holmes は距離判断の障害と捉えている。われわれは,主観的に距離判断の障害を訴える右頭頂-後頭葉の脳出血後の 1 例に距離判断の障害を大型車や 2 種免許を取得・更新する際に用いられる距離判断の検査機種 (KowaAS-7JS1) を用いてより客観的な検査を行った。その結果, 健常群および左半側空間無視群と比較して有意な成績の低下を認めた。本症例および過去の報告例から, 距離判断の神経基盤は頭頂-後頭葉の後方, すなわち, 上頭頂小葉, 下頭頂小葉後部, 楔部にある可能性が考えられた。
  • ―道順障害の検討から―
    高橋 伸佳
    2015 年 35 巻 2 号 p. 221-224
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      地理的障害 (道順障害) を呈した臨床例における症候学的検討に加えて, 近年のサルを用いた生理学的研究および神経機能画像研究の結果から右頭頂葉内側部の機能を推定した。右頭頂葉内側部は旧知・新規の両方の場所で, 自己中心的座標系 (egocentric representation) とともに他者中心的座標系 (allocentric representation) における空間認知に関与する。特に旧知の場所での egocentric な空間認知における役割が大きいと考えられる。移動に際して, 新規の場所では, 地図 (allocentric representation) と周囲に見えるランドマークの空間的位置を参考に自己の進むべき方角 (egocentric representation) を決める。同様に旧知の場所では, 脳内にある地図と周囲にあるランドマークの位置から目的地への方角を決める。右頭頂葉内側部は allocentric な座標系と egocentric な座標系の統合, 特に allocentric から egocentric への変換に重要な役割をもつものと思われる。
原著
  • 武田 千絵, 能登谷 晶子, 塩田 繁人
    2015 年 35 巻 2 号 p. 225-232
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      距離判断の障害は脳損傷後に出現することがあるが, その介入方法についての報告はない。今回距離判断の障害を呈した脳出血発症後6 年経過した症例のリハビリテーション経過を報告する。症例は障害への気づきがみられ, 代償手段を用いながら日常生活を送ることができていたが, 距離判断の障害は症例の日常生活や趣味活動に影響を及ぼしていた。距離判断の障害に対する機能的代償法として, 症例で保たれていた体性感覚を用いて距離を学習し, その後学習した距離を視覚にて確認し, 当該距離を学習していくボール投げアプローチを考案・実施した。約 1 ヵ月半の実施により, 症例の判断可能な距離が拡大し, 日常生活でも改善がみられた。発症後長期間経過した距離判断の障害に対して, 機能的代償法を用いることにより, 距離判断の障害に対して効果がみられる可能性が示唆された。
  • ―失書との関連―
    坂井 麻里子, 柏木 敏宏, 江口 香織, 西川 隆
    2015 年 35 巻 2 号 p. 233-241
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      非失語性の失書を伴うタイピングの障害を呈した症例を報告した。症例は 69 歳,右手利き男性, 脳梗塞により発症した。病前はパソコン操作に習熟し, ブラインドタッチが可能であり打鍵速度は書字より格段に速かったが, 発症後, 失書とともにタイピングの障害を認めタイピング速度も低下した。失語, 失読, 失行や構成障害は認めなかった。失書では音韻選択・配列の問題はなく, 「文字運動覚心像」の表出面の障害,すなわち「運動覚性失書」と考えられた。タイピングの誤りにも音韻選択・配列の問題はなく, ほとんどが打鍵位置の空間的誤りであり, 「タイピング運動覚」の障害に基づくものと考えられた。 本例の病巣は左中心前回,角回皮質から皮質下, 上・下頭頂小葉であり, 書字における音韻選択や配列に関わるとされる左中前頭回後方部に病変は認めなかった。タイピングは書字の過程と神経基盤の一部を共有しており, 本例では書字運動に関わる部位が損傷されたことにより, タイピングにも書字と類似した誤りが出現したと推測される。
  • ―文字を使用しない音韻操作課題,順序情報処理課題の効果―
    唐澤 健太, 春原 則子, 森田 秋子
    2015 年 35 巻 2 号 p. 242-249
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
      仮名一文字や仮名単語の音読は比較的良好だが, 仮名非語の音読に著明な障害を示す音韻失読の 1 例を経験した。単語音読では同音擬似語効果を認め,転置非語において語彙化錯読を多く認めた。音韻操作課題ではすべての検査において成績の低下を認め, 特に単語の逆唱のような音韻操作に負荷がかかる課題で誤りが多くみられた。また, 単純動作を指示された通りに素早く繰り返す課題では, 異なる順序に誤る傾向を認めた。訓練として, 文字を使用しない音韻操作課題と順序情報処理課題を約 3 週間実施した。 その結果, この間音読訓練はまったく実施しなかったにもかかわらず非同音非語の音読が有意に改善し, 音韻操作課題,順序情報処理課題ともに成績が向上した。本例における非語音読の改善は, 音韻操作と順序情報処理のいずれか, あるいは双方へのアプローチによる可能性が大きいと考えられた。
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