高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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38 巻, 4 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 足立 耕平, 伊集院 睦雄, 大槻 美佳, 小池 敦, 石合 純夫
    2018 年 38 巻 4 号 p. 414-421
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2020/01/03
    ジャーナル フリー

      本研究では標準言語性対連合学習検査 (S-PA) の標準化に際して収集したデータをもとに, S-PA の正答数と他の神経心理学的検査の成績との関連を分析し, S-PA の併存的妥当性について検討を行った。 S-PA 開発の際に収集した健常者データ 758 名分, および脳損傷例データ 48 名分を分析対象とした。 S-PA との関連をみる他の検査として健常者データに関しては, 言語流暢性検査 (WFT) および WAIS-III の数唱問題と類似問題を分析に用いた。脳損傷例データに関しては WFT および WAIS-III と WMS-R の全検査結果を分析に用いた。分析の結果, S-PA の正答数は WMS-R の言語性記憶指標や言語性対連合の成績と高い相関を示し, 言語性記憶検査として S-PA の併存的妥当性が確認された。一方で S-PA と WMS-R の論理的記憶の成績との相関はやや低く, S-PA は物語の記銘とは異なる側面を測定している検査であると考えられた。また, S-PA の成績には語彙の豊富さや単語の共通点を探す能力, 視覚的イメージの操作や処理の素早さも関連する可能性が示唆された。

  • 石井 由起, 春原 則子
    2018 年 38 巻 4 号 p. 422-428
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2020/01/03
    ジャーナル フリー

      複数の意味属性語の想起により目標語の喚語を促すSemantic Feature Analysis (SFA) による失語症の呼称訓練では般化や維持の報告が多い。しかし本邦での検討はほとんどない。今回, 慢性期流暢性失語症 2 例に SFA 訓練を行い, 訓練および維持効果, 非訓練語への般化を検討した。訓練前の呼称では, 両症例とも迂言がみられた。訓練は, 多層ベースラインをもとに 2 週に 1 回の頻度で 2 つのリストを実施し, 訓練前後に 100 語呼称を行った。その結果, ベースライン期 (基準期) に比べ訓練語の成績は有意に改善し, 維持期にも効果が持続した。非訓練語と 100 語呼称の成績も基準期より維持期で高かった。両症例の呼称の改善と般化には, SFA の手法を症例自身が self-generated cues として用いるようになったことの影響が考えられた。意味属性に関する語を有効な cue として活用するためにSFA の手法を意図的に用いるよう指導することの有用性が示唆された。

  • 大高 明夫, 隅谷 政, 平山 和美
    2018 年 38 巻 4 号 p. 429-436
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2020/01/03
    ジャーナル フリー

      右の側頭葉内側面と, 両側の前頭頭頂葉上部および後頭葉の梗塞後に, 着座の障害を呈した症例を報告する。本例の着座障害の特徴は椅子の手前に座ってしまい, 座るときの体の向きが決められた正しい方向からずれることであった。手前に座る症状は, 食器の手前や奥をつかむ誤り, 奥行き推定の誤り, 「距離感がわかりにくい」という内観から, 距離判断障害によると考えられた。座る方向のずれは, 座った後の自発的な修正, 本人の体の一部と外界の手がかりとを合わせる代償が有効であったこと, 「どのように座っていいのかわからない」という内観から, 自己身体定位障害によると考えられた。着座障害は, 平行棒や車椅子のフットサポートやアームサポートを使用すると改善した。手がかりとなるフットサポート, アームサポートを順次減らす方法でリハビリテーションを行った。それに伴い, 他の種類の椅子への着座も改善した。

短報
  • 甲斐 祥吾, 野村 心, 吉川 公正, 中島 恵子
    2018 年 38 巻 4 号 p. 437-441
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2020/01/03
    ジャーナル フリー

      失語症者の就労には種々の困難がみられ, 支援方法は確立されていない。今回, 高校英語教諭である伝導失語症例に外来で言語聴覚療法および就労支援を実施した。言語性短期記憶障害, 音韻性錯語が主症状であり, 週 1 回の言語治療には妻が毎回同席し, 職場へは書面にて経過を報告することで情報共有を図った。授業再開に向け, 教科書の本文にスラッシュを入れて文節を捉えやすくする, 低頻度語の漢字にはルビを打つという代償手段にて音読障害に対応した。リハビリ出勤には言語聴覚士が同席し, 上司や同僚と担当者会議を開催した。発症から 15 ヵ月後に 1 年生クラスという条件付きで原職復帰し, 現在 14 ヵ月が経過している。本症例の経験から, (1) 言語症状の特性を評価し, 場面に応じた代償手段を身につけること, (2) 周囲の理解を得るための説明を行うことにより, 伝導失語症例においても言語資源を多く活用する英語教諭への復職が可能であることが示された。

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