高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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40 巻, 2 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
会長講演 1
  • 松田 実
    2020 年 40 巻 2 号 p. 131-142
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      「とっておきの蔵出し症例」として, 脳血管障害で再帰性発話を呈した症例と, ジャルゴン様発話を呈した重度のアルツハイマー病の症例を報告した。再帰性発話については, その典型例や非典型例の発話記録を通して, 再帰性発話の成立基盤や病態機序について考察した。再帰性発話の背景に重度の失構音, 喚語困難や文構成障害, 自己発話のモニタリング障害があること, 再帰性発話は命題的発話あるいはその代用であり, 右半球仮説には疑義があることを述べた。重度アルツハイマー病の empty speech の背景には, 注意障害, 語彙や概念の不明瞭化などの言語周辺機能の低下とともに, 重度の喚語困難や文構成障害などの純粋な言語機能低下, 語間代に代表される反復傾向などが存在する。そして, 時には新造語ジャルゴンや再帰性発話様の発話も認められるが, 脳血管障害例における典型例とは異なることを指摘した。

Debate 企画 : case study か,mass study か
  • 岩田 誠
    2020 年 40 巻 2 号 p. 143
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー
  • 森 悦朗
    2020 年 40 巻 2 号 p. 144-146
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      神経心理学において case study か, mass study かのどちらが勧められるかという debate で, mass study を推す立場で論を進めた。その問いかけが, 真実により近づくのはどちらかという命題なら間違いなく mass study である。また次の患者の治療のために確実な証拠は間違いなく mass study から得られる。 しかし case study は, 研究の開始や仮説を得るにはいい機会となる。case study で得た知見を次の研究の契機として, そこに留まることなく, ぜひ mass study として昇華していくことを勧めたい。

  • 平山 和美
    2020 年 40 巻 2 号 p. 147-153
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      自然科学理論の中心的な部分は全称命題である。したがって, それに合う事象がどれほど多くても, 理論が正しいことを証明することはできない。しかし, その理論に合わない事象が本当に一つでもあれば反証できる。症例報告の重要な役割の一つは, 既存の理論の反証事例となることでその理論をゆさぶり, より明晰で包括的な理論を生み出す営みを開始させることである。そのような症例報告の例を, 身体パラフレニア, 失運動視症, 知覚型視覚性失認から挙げて説明した。

特別企画 1: 山鳥論文を読む
シンポジウム 2 : 大脳機能の左右差から解く認知症の症候学
  • 數井 裕光, 西尾 慶之
    2020 年 40 巻 2 号 p. 169-170
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー
  • 成田 渉
    2020 年 40 巻 2 号 p. 171-180
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      認知症性疾患として最多を占めるアルツハイマー病には記憶障害を主症状としない一群が存在する。 このうち, logopenic progressive aphasia (LPA) は左半球の機能低下を反映し, 喚語困難に加え, 句や文の復唱障害として表現される言語性短期記憶の障害を特徴とする。Posterior cortical atrophy (PCA) は後頭葉から頭頂葉および後頭葉から側頭葉の機能低下によって視空間認知障害, 対象認知の障害などを生じる。
      片側の障害が多い脳血管障害と比較して, 左右差があっても基本的に両側性障害である神経変性疾患では両側の大脳半球損傷でみられる症状を認めやすい。視空間認知機能の側性化は言語機能に比べて弱く, 同時失認のように両側性の障害で顕在化する症状は, 神経変性疾患では比較的生じやすくなる。脳血管障害では検討の場面が限られていた認知機能の側性化について, 神経変性疾患の症状は新たな検討の機会を与えるものになると考えられる。

  • 品川 俊一郎
    2020 年 40 巻 2 号 p. 181-186
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      前頭側頭葉変性症は前頭葉および側頭葉前方部に病変の首座がある変性疾患群である。大脳の側性化については主に大脳後方の機能である記号的操作や視空間的操作の文脈で語られることが多いが, 前頭側頭葉変性症でも左右差は認められる。意味性認知症では側頭葉前方部が損傷を受け, 進行性の意味記憶障害を主徴とする。左側優位例では病初期から聴理解と呼称の障害, 表層失読が目立つ。一方で右側優位例では相貌失認が出現することが知られるが, 全ての例で出現するわけではなく, 前頭葉症状に類似した行動障害を呈する例も多い。右側頭葉優位例の疾患概念は整理が必要である。前頭葉が主に損傷をうける行動型前頭側頭型認知症は脱抑制, 自発性低下, 共感性の欠如, 常同行動, 食行動変化, 遂行機能障害などを症状とする。これまでの研究からは行動変容は右半球, 特に腹側の損傷の影響が大きいという right hemisphere hypothesis が提唱されているが, 一方で半球間の連絡が重要との報告もある。今後はさらなる神経病理研究やネットワーク研究が進むことにより, 単純な局在論以上の意味記憶や行動変容の神経基盤が明らかになることが期待される。

  • 樫林 哲雄, 高橋 竜一, 赤川 美貴, 上村 直人, 數井 裕光
    2020 年 40 巻 2 号 p. 187-193
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      右半球優位の低下を認める左右差の強いレビー小体型認知症 (DLB) 例を報告した。本症例では複数対象の視覚処理に時間を要し, 線画の一部を見て全体を推測していると考えられ, 腹側型同時失認が存在すると考えた。そして, 本症例に認めた視覚認知障害は右半球障害に起因していると考えられた。本症例のように, 左右差が見られ, いずれかの後頭葉が保たれている症例の場合, 基本的に視知覚障害は軽度であるが, 多彩な視覚認知機能障害を呈することが示唆された。DLB は, アルツハイマー病 (AD) や健常高齢者と比べてどの程度の左右差を持つ疾患なのか, また大脳のどの部位に左右差を認めるのかを明らかにするため, IMP-SPECT を用いて多数例の DLB 群, AD 群で比較を行った。DLB の左右差の頻度については AD よりも少なかった。DLB では後頭葉 (舌状回, 楔部) , 側頭葉後方に見られることが明らかとなった。

神経心理学入門 教育セミナー 1
  • 佐藤 睦子
    2020 年 40 巻 2 号 p. 194-198
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      失語症は, それまでに獲得されていた言語機能が脳損傷によって何らかの程度に障害された状態である。口頭言語だけではなく文字言語や内言語にも影響が及び, コミュニケーションに支障をきたすため, その対応に際しては多面的な捉え方が必要である。コミュニケーション場面における支援では, 失語症の本人はもちろんのこと関係者に対しても情報提供をすることが必要であり, 非言語的側面にも配慮するべきである。

神経心理学入門 教育セミナー 2
  • 二村 明徳
    2020 年 40 巻 2 号 p. 199-203
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      Hugo Liepmann (ヒューゴ・リープマン) は, 1900 年から 1920 年までに発表した論文で, 指示されたことは理解できるのに, その通りにできない症例や, 左手では正確にできても右手では誤る症例を紹介し, 失語や失認と独立した症候として失行を位置づけた。そして, 失行における左大脳半球優位性と脳梁の機能を最初に主張した。ここでは, 失行評価前の検査, 失行の検査, そして, Liepmann の肢節運動失行と観念運動性失行, 観念性失行についてレビューする。

神経心理学入門 教育セミナー 3
  • 佐藤 正之
    2020 年 40 巻 2 号 p. 204-211
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      失認は, “ 病前まで意味を有していた刺激の認識が特定の感覚モダリティを介してのみできなくなること ” と定義される。これまでの失認の報告の多くは視覚失認で, 聴覚失認がそれに次ぐ。患者は「見えない」「聞こえない」と訴えるため, 視力障害や難聴あるいは認知症や精神疾患と容易に誤診される。 患者が対象を正しく認知できているかは, 呼称課題により知ることができる。名称と意味・概念とは表裏一体で, 一方が想起されると他方も自動的に想起される。呼称が正しくできれば, 対象の知覚と意味・概念の想起, 両者の統合, 名称の想起が正常に機能していることを意味する。失認では特定の感覚で, 知覚されたイメージと意味・概念との統合が機能していないと解釈される。視覚失認, 聴覚失認ともに用語が混乱している。統覚型と連合型の二分法は理解しやすいが, 実際の症例ではいずれとも判断できないものも多い。症状の正確な記載がなによりも重要である。

神経心理学入門 教育セミナー 5
  • 太田 久晶
    2020 年 40 巻 2 号 p. 212-216
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      右大脳半球損傷は, 患者に病巣対側の空間や身体に対する認知の障害をもたらしうる。この障害にはいくつかの症状が該当し, 脳損傷の範囲が広ければ, 複数の症状が同時に出現することも少なくない。 しかしながら, 患者の日常生活場面やリハビリテーション場面などの行動観察のみでは, 各患者がどのような症状を呈しているのかを十分に把握しきれない。そこで, 本稿では, その代表的な症状として半側空間無視, 身体に対する半側無視, 片麻痺に対する病態失認, 半側身体失認・身体パラフレニアに対する検査方法と各症状の出現に関与する病巣部位について紹介する。患者の脳損傷部位を踏まえて, 上記の複数の検査を実施することは, 各症状の有無に加えて, 出現した症状の程度や特徴の把握を可能とする。さらに, 得られた結果を総合的に解釈することは, 個々の患者の呈する病巣対側の空間や身体に対する認識の障害を包括的にとらえることにつながると考える。

神経心理学入門 教育セミナー 6
  • 藤井 正純, 二村 美也子
    2020 年 40 巻 2 号 p. 217-226
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      疾患に関わる知識・脳解剖の知識があっても, その次のステップである, 画像上の病変が, 正確にどこにあるのか同定することは意外に困難である。そこで本稿は, 初学者を対象として, 解剖構造を診断画像上で同定する技術, この部分に絞って, 特に言語・失語に関わる皮質領域について, 主に脳回・脳溝構造の読影法を解説した。近年 MRI が普及するなか, 正確に読影を行うには, 特に 3D 撮像を行い, 対象となる解剖構造によって水平断, 冠状断, 矢状断を適切に選択すること, また, 連続的な複数断面を検討することが重要である。なかでも, 中心溝の読影が重要であり, 周辺の様々な脳溝は, 中心溝の位置に基づいて決めていくことになる。症例ごとに神経心理学的症状・所見を, 画像上の解剖学的構造情報とあわせて丁寧に検討することは, 個々の症例の理解・治療に役立ち, さらには, 神経科学そのものに寄与する。

原著
  • 田畑 阿美, 谷向 仁, 上田 敬太, 山脇 理恵, 村井 俊哉
    2020 年 40 巻 2 号 p. 227-234
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

      今回, 脳腫瘍摘出術後に Bálint 症候群を呈し, 視線計測装置を用いた評価が患者と医療者の症状理解に有用であった症例を経験した。症例は, 40 代右利き男性で, 再発脳室内髄膜腫摘出術後に, 右同名半盲, 複視, Bálint 症候群, 視空間認知機能障害, 健忘を認めた。日常生活上の問題点として, 文字を読み飛ばす, 他者が指さした対象物を見つけられないなどの症状を認めた。そこで, 視線計測装置 Gazefinder を用いて, 視覚性課題遂行時の視線計測を実施した。その結果, 日常生活上の問題点の多くは, 視野障害に対する代償手段の未獲得に加えて, 固視点の動揺, 眼球運動速度および衝動性眼球運動の正確性の低下, 両側視空間内における注意のシフト困難が原因と考えられた。Bálint 症候群に対するリハビリテーションでは, 眼球運動や視覚性注意に対する介入に加えて, 患者自身が理解しやすい評価法を用いて疾病教育を行うことが重要であると考えられる。

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