高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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37 巻, 4 号
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原著
  • 花田 綾香, 山田 麻和, 笹原 佳美, 佐藤 聡, 辻畑 光宏
    2017 年 37 巻 4 号 p. 366-371
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/01/02
    ジャーナル フリー

      大脳や脊髄障害など四肢の欠損を伴わない患者にみられる幻肢を余剰幻肢と呼ぶ。余剰幻肢は, 脳血管障害ではこれまで比較的稀と報告されてきた。今回, 筆者らは, 右被殻出血により重度麻痺を呈した左上肢に余剰幻肢を生じた 40 代男性例を経験した。余剰幻肢は, 麻痺肢を他動的に動かされても出現しないが, 本人の動かそうとする意図と共に, 他者により他動的に動かされると出現するという, 稀な特徴を認めた。本例の病態機序については, 線条体-視床-皮質回路において運動前野皮質の機能は保持されているが, 視床からの求心性感覚情報が遮断されているために, 企図された運動のイメージと実際の運動のミスマッチが矯正できず, 運動企図による余剰幻肢が誘発されたものと推測する。

  • 原 有希, 衛藤 誠二
    2017 年 37 巻 4 号 p. 372-379
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/01/02
    ジャーナル フリー

      左中大脳動脈領域の脳梗塞により, 倒立書字・倒立描画を呈した症例を報告した。症例は基本的な視知覚機能は良好で, 文字・物体・画像の認知も保たれていたが, 向きの判断が困難であった。また, 文字・線画の正立像と倒立像の識別にも困難を示した。「線画」では上下の同定は可能であったが, 「文字」では上下の同定も困難であった。これらの特異的な徴候は, orientation agnosia と一致し発症 6 ヵ月後も残存した。線画と文字に対して外的手がかりを利用した空間定位の練習を 10 ヵ月実施したことによって, 倒立書字・倒立描画が消失した。症例の呈した症状を, 物体中心座標系と観察者中心座標系の視点から考察した。倒立書字・倒立描画は, 障害されている空間座標系の脳内表象に基づいて, 運動を実行することで出現した可能性がある。

  • 後藤 多可志, 最上 麻子, 松永 鮎美, 春原 則子
    2017 年 37 巻 4 号 p. 380-385
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/01/02
    ジャーナル フリー

      立方体非透視図模写課題は小児への適用も進んでいるが, 当該課題が可能となる年齢や遂行の可否に関与する認知機能については未だ明らかとなっていない。本研究では, 立方体非透視図模写遂行における発達的変化と, 当該課題の遂行に関与する認知機能について検討することを目的とする。6 ~10 歳の児童 30 名を対象に, 立方体非透視図の模写課題を実施し, 大伴 (2009) に従って得点化した。同時に, 視機能, 運筆能力, 視知覚および構成能力を評価する課題を実施した。その結果, 立方体非透視図模写課題の得点は 7 ~8 歳にかけて有意な上昇が認められた。また, カテゴリカル回帰分析の結果, 運筆能力が立方体非透視図模写課題の得点を有意に予測していた。立方体非透視図の模写課題は8 歳頃から遂行可能と思われた。

  • 髙野 裕輝, 関野 とも子, 山﨑 勝也
    2017 年 37 巻 4 号 p. 386-394
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/01/02
    ジャーナル フリー

      左側頭葉後下部性失読失書 1 例と対照群 5 例に対し, 仮名文字列の語彙性判断検査および仮名実在語の音読-意味説明検査を, 呈示時間を統制した上で実施し, その成績や反応潜時の分析から仮名文字列の読み方略について検討した。その結果, 逐字音韻変換が機能し得ない短呈示条件下で本例はチャンスレベルを超える語彙性判断能力を示したが, それに比し音読や意味説明能力は低下が顕著であり, 欧米語圏で報告されている潜在性読みが観察された。以上より, 本例は単語形態熟知性の高い文字列を視覚的な「まとまり」として捉え, それが既知であるとの判断は概ね可能だが, それを音韻に変換するか意味にアクセスする過程に障害を呈していた。このような傾向は, 左側頭葉後下部性失読失書と病態的に近似していることが指摘されている日本語話者の純粋失読例にも認められる可能性が考えられた。この点については症例の蓄積を重ね, 今後検討を行う必要があると思われた。

  • 鈴木 則夫, 翁 朋子
    2017 年 37 巻 4 号 p. 395-402
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/01/02
    ジャーナル フリー

      アルツハイマー病 (AD) やレビー小体病 (DLB) の特徴のひとつである視覚構成障害の評価には立方体模写課題 (CCT) と重なった五角形模写課題 (PCT) が多用されるが, これらの成否は時に二重に乖離し, 構成能力の他に異なる要因の影響を受けていることが考えられる。2 課題に影響を与える要因を探索的に検討した。対象は 264 例の認知症および疑い患者である。結果, CCT と PCT は互いに関連するものの, CCT は TMT, 教育年数, 時計描画 (CDT) の誤りにおける遂行機能障害要因 (CDT-ex) との間で, PCT は MMSE 総得点と CDT の誤りにおける構成障害要因 (CDT-con) との間で有意な関連がみられた。PCT は教育年数や注意障害, 遂行機能障害の影響をあまり受けずに構成障害を描出できると考えられたが, 強い天井効果が認められた。

  • 渡辺 眞澄, 中村 あかね, 佐久間 真理, 津田 哲也, 筧 一彦, 辰巳 格
    2017 年 37 巻 4 号 p. 403-412
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/01/02
    ジャーナル フリー

      絵の呼称時に名詞や動詞などの干渉語を音声呈示する絵・単語干渉 (PWI) 課題を用い, 呼称に影響を与える要因を検討した。実験Ⅰでは, 呼称潜時 (RT) に意味効果, すなわち絵 (例, 兎) と同じ意味カテゴリー (例, 狐) の干渉語は異なるカテゴリーの語 (例, 机) より RT が長くなる意味効果が, また絵とは異なる意味カテゴリーの連想語 (例, 人参) は RT を短縮する連想効果が, そして絵と同一の語 (兎) は呼称を促進することが明らかとなった。しかし先行研究ではみられなかった, 干渉語が名詞のとき動詞より RT が長くなる品詞効果ないし文法効果が得られた。一般に名詞の心像性は動詞より高いので, これが文法 (品詞) 効果を生んでいる可能性がある。そこで実験Ⅱでは心像性をマッチさせたところ名詞と動詞の RT の差は有意ではなくなった。これらの結果を語彙選択競合説で説明した。 PWI 課題は, 失語症にみられる喚語困難に有用なアプローチを提供すると思われる。

短報
  • 甲斐 祥吾, 青山 昌憲, 吉川 公正, 中島 恵子
    2017 年 37 巻 4 号 p. 413-420
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/01/02
    ジャーナル フリー

      今回, 重度の記憶障害, 社会的行動障害を呈した若年高次脳機能障害者が, 主介護者であった母親の急逝により突如独居となったため, 多機関多職種による生活自立への支援をした。症例の障害特性, 対応方法などについては言語聴覚士である筆者が各支援者へ実際場面で説明した。独居開始直後はインフォーマルな支援を行い, 社会資源が整った後は住居の変更や問題事案発生ごとにケア会議を開催した。作話や問題行動に対して不満を助長しない対応を図り, 現実検討能力の向上に対して家計簿作成を支援した。 その結果, 地域での独居生活を4 年間継続している。高次脳機能障害者の地域支援では問題が生じた場合に迅速に支援を受けられる体制を整える必要があり, 病態認識の低い症例でも統一した声かけや対応方法をとる人的環境の構造化により独居継続が可能と示唆された。さらに, 高次脳機能障害の専門職種がヘルパーなどの直接援助者と協働することが必須と考えられた。

  • 木村 亜矢子, 堀 匠, 佐藤 啓子, 佐藤 智美, 先崎 章
    2017 年 37 巻 4 号 p. 421-427
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/01/02
    ジャーナル フリー

      記憶障害と発動性低下のため日常生活の遂行が難しい患者 1 例に対し, SNS (social networking service) を用いた支援を行った。症例は 40 代, 男性の運転手で前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症した。身体, 言語機能はほぼ問題ないが, 重度記憶障害, 発動性の低下を中心とした高次脳機能障害を認めた。入院当初メモリーノートや, アラーム機能による行動指示を試みたが, 活用は困難であった。 本人が使い慣れていた SNS (LINE のトーク機能) を使用し, 多職種チームが連携して支援を行った結果, 病棟生活では標準意欲評価法 (CAS) による評価が改善し, 退院後もLINE を用いて屋外での単独行動が安全に可能となった。家族にとっても行動を遠隔に確認し見守ることができ, 退院後の安心や省力化につながった。SNS (LINE) による行動指示や記憶を補完する支援は, 患者が自立した生活を送るために有効であった。

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