高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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36 巻, 1 号
選択された号の論文の53件中1~50を表示しています
特別講演
  • 渡邊 正孝
    2016 年 36 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
      高次機能の中枢としてヒトで最も発達した前頭連合野は, 外側部, 内側部, 腹側 (眼窩) 部に区分される。外側部は行動の認知・実行制御, 内側部は心の理論・社会行動, 腹側部は行動の情動・動機づけ制御, に重要な役割を果たす。また前頭連合野内でより前方の部位はより抽象的かつ高次な情報処理を担う。前頭連合野の腹内側部 (内側部と腹側部の前部) は, 情動・動機づけに基づく意思決定に関わる。前頭連合野の最前部 (前頭極) の特に外側部はヒトに特有な脳部位であり, 複雑, 抽象的な認知操作に重要な役割を果たす。サルを用いた私たちの研究において, (1) 競争における勝ち負けを捉えるような社会行動に関係する前頭連合野ニューロンがあること, (2) PET で調べると, 前頭連合野内側部において, 安静時に活動性が増すこと, (3) 前頭連合野ドーパミンは認知課題遂行中に比して安静時に前頭連合野外側部では減少し, 内側部では増加すること, が示された。
原著
  • ―通常見かけない文字表記語による検討―
    若松 千裕, 石合 純夫, 林 圭輔, 相原 伸子
    2016 年 36 巻 1 号 p. 9-19
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
      頭部外傷後に語義聾を呈した 1 例を報告した。症例は 60 歳代の右利き男性。音声言語の理解障害を認めたが, 語音弁別, 単語と無意味語の復唱, 音声と文字による語彙性判断は保たれていた。一方, 文字言語の理解は非通常表記語を含めて良好であった。また, 聴いて理解できない語を自ら書き下して理解する場面がみられた。語義聾の障害機序として, 聴覚性語形から意味記憶へ至る経路の離断に加えて, 聴覚性語形から視覚性語形に至る経路の離断が必要と考えられた。視覚性語形から意味記憶へのアクセスは可能であり, 非通常表記語は, 通常表記の視覚性語形を直接的に喚起して意味記憶に至ると推定された。 頭部 MRI では左上中側頭回前部と左上中側頭回後部に病変を認めた。左側頭葉前部の病巣は部分的であるために意味記憶は保たれ, 左側頭葉内の白質の損傷により, 聴覚性語形から意味記憶へ至る処理に障害が考えられる。一方, 左側頭葉下部に損傷がなく, 視覚性語形から意味記憶に至る処理が可能であったと説明できる。
  • 宮崎 泰広, 種村 純
    2016 年 36 巻 1 号 p. 20-29
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
      半側空間無視における時計描画の数字の配置に関与する要因を検討した。対象は脳血管障害により半側空間無視を呈し, かつ時計描画において数字を不適切に配置した 32 名とした。数字の配置に関する分析として, 時計の左右側における数字の分布率を示す Transposition index (TI) を用いた。分析項目は, (1) TI と損傷部位の関係, (2) TI と線分抹消課題のLaterality index (LI) の関係, (3) 反時計回りに数字を記入した際の反応, (4) 単一の数字を記入した際の反応の 4 つとした。結果は数字の配置の偏りが症例により異なりTI は広範に分布した。さらに時計の外円内の右側のみに数字を配置した症例は, 6 までと 6 以上の数字を書く 2 群が確認された。前者は頭頂葉に限局した損傷例で, 後者は前頭葉や頭頂葉を含む広範な脳損傷例であった。また TI と LI は関連を認めなかった。反時計回りや単一の数字を記入する場合では数字の配置に偏りを認めない症例が確認された。以上より, 半側空間無視における時計描画の数字の配置の誤りは, 半側空間無視に合併するその他の障害の影響を受けることを示唆した。
  • 後藤 貴浩, 澤村 大輔, 戸島 雅彦, 中川 賀嗣
    2016 年 36 巻 1 号 p. 30-37
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
      上肢の道具の強迫的使用に伴って同側下肢にも道具の強迫的使用と解釈し得る症状を呈した症例を経験した。60 歳代男性, 右利き (手足共) , 高卒。左脳梗塞で, 前頭葉内側面に加え脳梁膝部および膨大部に異常信号域が認められた。右上下肢に極軽度の麻痺があったが, 意識障害はなく, 失語, 視空間認知障害, 記憶障害もなかった。上肢は, 右手には道具の強迫的使用, 左手にはパントマイム失行を認めた。 下肢は, 歩行, 階段昇降で右足が意思に反して踏み出す様子が観察された。また座位での靴履きやボール蹴りでも同様に禁止命令下で右足が意思に反して靴を履く, ボールを蹴る様子が観察された。使用物品は下肢で扱うものに限られた。この現象は左足では観察されなかった。また意思を反映した左手が右足を抑制する場面もみられた。本症例の右足の現象は, 上肢でいう道具の強迫的使用の諸特徴と合致する。しかし, 責任病巣等についてはさらなる検討を要す。
  • 宮崎 泰広, 種村 純, 鼠尾 晋太郎
    2016 年 36 巻 1 号 p. 38-48
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー
      道順の想起には街並みの視空間情報を構成するための心的回転の能力と, 目的地の方角や距離を地図に表象する空間定位の能力が必要と思われる。そのため, これらの能力障害は道順障害と関連すると推定されるが, 今回我々は脳損傷により心的回転, 空間定位能力が障害されたにも関わらず道順障害を呈さなかった症例を経験した。症例は48 歳, 右利きの女性で, 右頭頂葉皮質下に出血を認めたが脳梁膨大後域には損傷が及んでいなかった。本症例は心的回転や空間定位の課題, 地図や見取り図の作成はいずれも困難であったが, 道に迷うことはなかった。本症例より道順障害において心的回転や空間定位能力の障害は必須ではないことが示された。
第39回 日本高次脳機能障害学会学術総会講演抄録 一般演題
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