高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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43 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
シンポジウム : 高次脳機能障害者の自動車運転─運転行動上の特徴─
  • 佐藤 卓也
    2023 年 43 巻 2 号 p. 137-141
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

      運転の認知プロセスには認知-予測-判断-操作があるが, これを包含した運転モデルが Michon (1985) と渡邉 (2016) によって提唱されている。モデルは大きく strategic level (運転計画) , tactical level (状況把握と予測判断, 操作決定) , operational level (実際の運転操作) に分かれている。それぞれに関与する高次脳機能として, 遂行機能, 視覚や聴覚の感覚モダリティによる状況の認知・注意集中と分配・遂行機能があると考えられる。こうした運転行動における認知的負荷は, 運転の環境によって変わる。自験例での失語症の運転再開可能群と運転再開見送り群との神経心理学的検査の比較検討では, MMSE, BIT の文字抹消検査, WAIS-Ⅲの算数検査, BADS の動物園地図検査と修正 6 要素検査で有意差がみられた。 これらは言語機能が運転行動に影響を与える可能性があることを示唆する。また BDAE 別の比較検討では, MMSE, TMT part A と part B, および WAIS-Ⅲ の符号検査で有意差がみられた。これは失語の重症度によって影響が出る可能性が考えられたものの, 今後も検討が必要である。

  • 生田 純一, 那須 識徳
    2023 年 43 巻 2 号 p. 142-146
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

      脳損傷により高次脳機能障害を有する患者に対して, 実車評価によって問題となる運転行動を特定することは, 危険運転のメカニズムを理解することにつながる。また, 脳損傷後に低下した運転関連技能を再教育するためのリハビリテーションプログラムでは, これらの技能に焦点を当てることができ, 介入を効率的かつ効果的に行える可能性が高まる。本稿では, 脳損傷者が示す問題となる運転行動について概観し, 著者らが実施した脳損傷者の運転行動の難易度に関する研究結果について紹介する。

  • 岩城 直幸
    2023 年 43 巻 2 号 p. 147-151
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

      当指定自動車教習所は, 高次脳機能障害者に対して, 運転適性検査器と実車評価を行っている。これまで種々の事例を分析したところ, 運転適性検査器は, 神経心理学的検査と実車評価の中間的役割を果たすことが可能な評価であると考えられた。このことから, 高次脳機能障害者に対しては, 神経心理学的検査, 運転適性検査器, 実車評価を関連付けて分析し, 多職種連携のもと, 個々人の運転再開について検討することが, 評価としての妥当性や信頼性を高めることにつながるものといえる。なお, 数十年の運転経験を有しており, 運転について一定の知識や技能を有していることが想定される高次脳機能障害者に対する実車指導は, 経験上, 心理的リアクタンスを低減させ, 指導の効果を持続させるため, GROW モデルを例にした質問による能動的学習が効果的である。

シンポジウム : 感じられない, 感じてしまう, 違って感じる─視覚─
  • 佐々木 千波, 平山 和美
    2023 年 43 巻 2 号 p. 152-155
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

      パーキンソン病 (以下, PD) にいくつかの種類の錯視が起こることは知られている。しかし, 患者がどのような種類の錯視をどのような頻度で体験しているのかは明らかでない。我々は, PD 患者 40 名に 19 種類の錯視について症状を伝え, そのような体験があるか否かを尋ね, 具体的な内容を聴取した。 結果, PD 患者 40 名中 30 名が発症後, 質問時までに錯視を体験していた。報告された錯視は, 変形視, 複雑錯視, 変色視, 選択性二重視が多かった。そのほかに, 多視, 大視, 小視, 遠隔視, 近接視, 動視, 失運動視, 加速視, 減速視, 傾斜視, 逆転視, 反復視がみられた。錯視が日常生活に悪影響を与えている場合もあった。PD の診療においては, 錯視の有無, 内容についての系統的な聴取が重要であると考えられた。

  • 藤本 寛巳, 寺川 智浩, 平山 和美, 玉井 顯
    2023 年 43 巻 2 号 p. 156-160
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

      発達性相貌失認は, 視力や知能, 注意, 記憶などには問題がないにもかかわらず, よく知っている人の顔を見ても誰であるかわからなくなる症状である。原因となる器質的脳損傷はなく, 画像検査上でも異常所見は認められない。発達性相貌失認を呈した 3 症例を紹介し, 相貌認知機能, 表情認知などを比較した。また, 幼少時から現在までの体験や心情についてインタビューを行った。3 症例とも職場の理解など社会生活を営むうえで多くの問題が残されており, 発達性相貌失認の存在と不自由を理解してもらうための啓発が最も重要であると思われた。

シンポジウム : 感じられない, 感じてしまう, 違って感じる─聴覚─
  • 川上 暢子, 菅野 重範
    2023 年 43 巻 2 号 p. 161-165
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

      原発性進行性失語 (以下, PPA) は現在の診断基準では非流暢性 / 失文法型PPA (以下, nfvPPA) , 意味障害型PPA (以下, svPPA) , ロゴペニック型PPA (以下, lvPPA) に分類されるが, これに当てはまらない症例があり, その 1 つが進行性語聾 (または聴覚失認) の 1 群である。語聾では言語音の音韻認知が障害されており, 中枢神経の聴覚領域の損傷が原因とされる。神経変性疾患を背景とする PPA に併存する進行性語聾は, 背景疾患の種類により障害されやすい聴覚経路・領域が異なるため, 主要な聴覚処理障害および聴覚症状も nfvPPA, svPPA, lvPPA のそれぞれで違いがあることが報告されており, 本稿では最新の知見についてまとめた。また, 語聾の診断の基礎である言語音認知の評価は言語機能の影響を受けるため, PPA 症例では正確な評価が難しい場合も多い。評価方法の 1 例として, 基本的な聴覚機能および聴覚的言語理解について, 複数の言語・聴覚課題を組み合わせて評価を試みた症例を提示する。

  • 津野田 尚子, 福原 竜治, 橋本 衛
    2023 年 43 巻 2 号 p. 166-171
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

      幻聴は精神科領域において最も一般的な症候の 1 つであり, その研究は主に統合失調症などの機能性精神疾患で論ぜられてきた。一方, 器質性精神疾患の幻覚は幻聴よりも幻視が特徴的であり, 幻視はレビー小体型認知症 (dementia with Lewy bodies : DLB) の中核症状の 1 つとして位置づけられている。 しかし DLB において幻聴は決して稀な症候ではなく, 我々の調査では, DLB 患者の約 3 人に 1 人が幻聴を有していた。また DLB の幻聴の大半は幻視とともに出現し, その多くが「幻視の人物が話す」という特徴を有していた。さらに幻聴の発現には, 妄想, うつ, 難聴, 女性などの因子が関与していた。DLB の幻聴は, そうした多様な因子が幻視に作用することによって引き起こされる可能性が考えられた。

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