高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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33 巻, 3 号
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教育講演
  • 大東  祥孝
    2013 年 33 巻 3 号 p. 293-301
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害における「気づき」の障害について述べた。1)なぜ「気づきの障害」を問う必要があるのか,2)認知と意識の障害はどのような関係にあるのか,について考察したのち,エーデルマンのニューロン群選択淘汰理論とそこから導出された意識論に言及し,一方で,最近の動向から,意識関連の三つのネットワークについて述べ,こうした構想から,気づきの障害としての病態失認について考察することを試みた。
シンポジウムⅡ:進行性失語
  • 三村 將
    2013 年 33 巻 3 号 p. 302-303
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
  • 池田 学, 一美 奈緒子, 橋本 衛
    2013 年 33 巻 3 号 p. 304-309
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    進行性失語の概念と診断について,脳前方部に原発性の変性病変を有する認知症の枠組みの中で特徴的な進行性失語症を主症状とする臨床症候群を捉える流れと,Mesulam が当初は全般的認知症を伴わない緩徐進行性失語症(slowly progressive aphasia without generalized dementia)として報告し,その後も発展させてきた(脳血管性失語に対しての)変性性失語症という流れを辿り,概念の変遷と診断基準の特徴を紹介した。そして,各々の診断基準を実際に自験例に当てはめた場合,進行性失語の各サブタイプの診断がどのように変化するかを示すことにより,各々の診断基準の特徴と課題を検討した。
  • 髙尾 昌樹
    2013 年 33 巻 3 号 p. 310-317
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    原発性進行性失語を 3 つの病態,すなわち進行性非流暢性失語( progressive non─fluent aphasia,PNFA ),意味性認知症( semantic dementia, SD ),logopenic progressive aphasia( LPA )に分けた場合,肉眼解剖学的には,それぞれ左前頭葉後方から島回(特に前頭弁蓋部),側頭葉前方,側頭頭頂葉における病変と関連が深いと考えられる。そして PNFA とSD は前頭側頭葉変性症( FTLD ),LPA は Alzheimer 病( AD )を背景に有することが多いとされているが,実際にはその詳細な神経病理学的背景は様々である。PNFA ではタウ蛋白が蓄積する疾患( FTLD─Tau )が多く,Pick 病,皮質基底核変性症( corticobasal degeneration,CBD ),進行性核上性麻痺( progressive supranuclear palsy,PSP )あるいはタウ遺伝子変異により生じる染色体17 番に関連する前頭側頭型認知症とパーキンソニズム( FTDP─17 )がある。また,TDP─43 が蓄積する疾患( FTLD─TDP )もPNFA に関係し,そのなかには筋萎縮性側索硬化症( amyotrophic lateral sclerosis,ALS )も含まれる。一方,SD では FTLD─TDP との関連が深いが,FTLD─Tau も関連する。LPA では AD との関連に加え,FTLD─TDP,FTLD─Tau が関連する。すなわち,原発性進行性失語という臨床的な表現形だけではなく,広く神経学的な診察・検査を加えることで,疾患の背景にある神経病理学的あるいは分子生物学的な本態を考慮することで,よりよい治療へと結びつけることができると考えられる。
  • 市川 博雄
    2013 年 33 巻 3 号 p. 318-323
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    進行性失語における系統的な書字に関する検討は極めて少ない。本稿では,著者が長年行ってきたMND/ALS 患者の検討を通して,書字障害に関する以下の3 点について述べてみたい。1)本邦初の失語症症例報告にある患者は脳血管障害ではなく,球麻痺症状を伴うMND あるいはALS(MND/ALS)症例であり,進行性失語としても最初の報告と思われる。2)従来,進行性失語では口頭言語に比較し書字は保たれるとされてきたが,言語機能障害のうち書字障害だけが前景となり得る。3)書字障害は単に進行性失語の部分症状であったとしても,構音障害により失語症の病像が容易にマスクされ,その際には書字障害だけが表面化するものと思われる。したがって,進行性失語の病像,そして主要変性部位や変性過程は,日本語特有の書字体系である仮名,漢字の障害パターンに大きく反映される可能性がある。
  • 吉野 眞理子
    2013 年 33 巻 3 号 p. 324-329
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    原発性進行性失語(以下,PPA)の失語像の多様性について,〝logopenic〟型PPA を中心に分類上の問題点を考察した。英語圏症例の示す臨床症状の検討をもとに確立されたPPA の分類基準を用いて,日本語話者PPA 文献例の分類を試みた。その結果,全87 例のうち,非流暢・失文法型に12 例,意味型に7 例,〝logopenic〟型に13 例が分類され,残り55 例はどの亜型にも分類できなかった。その要因として,言語症状の記載の欠如,検査時期の問題,3 亜型分類の解剖学的・病理学的基盤の問題が挙げられた。日本語話者におけるPPA 症候学の確立のために,少なくとも前2者の問題を解決する必要があると思われる。
  • 植田 恵, 高山 豊
    2013 年 33 巻 3 号 p. 330-338
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    原発性進行性失語(primary progressive aphasia;PPA)の評価は,既存の言語機能検査を使用して行われているが,その適切な組合せ・実施手順の明確化,あるいは新たな評価法の開発が望まれる。近年,新たな PPA の国際臨床診断基準とともにタイプ診断のための発話/言語機能の課題が示された。そこで,我々はこの課題と本邦で使用されている検査との対応について,また過去の自験例に実施した検査について検討することを通じて,PPA の評価における課題を整理することを試みた。タイプ分類は既存の検査を組み合わせることで対応が可能であると考えられたが,この検査の組み合わせの妥当性については今後さらなる検討が必要である。他方,長期経過をみていく際に必要となる ADL(activities of daily living)等生活面の評価についても PPA 特有の問題が反映される評価法が開発されることが期待される。
原著
  • 太田 信子, 種村 純
    2013 年 33 巻 3 号 p. 339-346
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    The Cambridge Prospective Memory Test (CAMPROMPT)原版を原著者らの許可を得て翻訳して,日本版を作成し,健常者242 名および脳損傷者57 名に実施した。その結果から,検査法の信頼性を検査者間信頼性,平行検査信頼性,内的整合性から検討した。検査者間信頼性について,1 名の評価者と4 名の採点者との一致率 (98.2%) および相関 (1 名はSpearmanʼs ρ=0.986,3 名はそれぞれSpearmanʼs ρ=1.000) から,採点方法の信頼性が高いことが示された。平行検査信頼性について,バージョン間の相関(Spearmanʼs ρ=0.537)から,成績はバージョンの影響を受けないことが示された。内的整合性について Cronbachʼs α は脳損傷群 0.849 と健常群 0.817 から,対象によらず一貫して展望記憶機能を評価することが示された。4 つの年齢別に標準値の作成により,標準化を行った。信頼性の検討を通じて,CAMPROMPT 日本版は,十分な信頼性を有する評価法であることが確認された。
  • 大内 義隆, 石川 博康, 中村 馨, 中塚 晶博, 葛西 真理, 田中 尚文, 目黒 謙一
    2013 年 33 巻 3 号 p. 347-355
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    軽度認知障害 (Mild Cognitive impairment;MCI) 高齢者における手段的日常生活動作 (Instrumental Activities of Daily Living;IADL) の量的および質的制限について調査を行い,さらに最軽度アルツハイマー病を通して検討した。 栗原市在住の75 歳以上の高齢者において,臨床的認知症尺度 (Clinical Dementia Rating;CDR) 0 (211 名) とCDR 0.5 (295 名) を対象とした。CDR 0.5 群のうち,最軽度アルツハイマー病は91 名であった。 量的側面についてはLawton IADL 尺度 (8 項目),質的側面についてはわれわれが作成した地域高齢者の質的 IADL 尺度 (27 項目) を用いて調査した。 CDR 0.5 群においては,CDR 0 群と比較し制限の割合が有意に高いIADL 項目は,Lawton IADL 尺度では4/8 項目,地域高齢者の質的IADL 尺度では25/27 項目であった。一方,最軽度アルツハイマー病群においては,Lawton IADL 尺度では 1/8 項目のみで,地域高齢者の質的 IADL 尺度では 19/27 項目であった。 すなわち,CDR 0.5 群においては,量と質の両面で IADL 制限を示すものの,最軽度アルツハイマー病群においては,質的制限のみを示すことが示唆された。
  • 小森 規代, 藤田 郁代, 橋本 律夫
    2013 年 33 巻 3 号 p. 356-363
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    左中前頭回脚部の限局病変により純粋仮名失書を呈した症例について,単語の音節数とモーラ数,仮名数の対応関係から症状を分析し,同部位の機能について検討した。症例は71 歳の右利き男性で,脳梗塞発症後5 年を経てなお仮名失書を呈した。本症例に仮名表記親密度を統制した仮名単語書取テストと音節数・モーラ数・仮名数の対応を統制した仮名単語書取テスト,モーラ分解テストを実施したところ,仮名表記親密度が低い語の書取が困難で,特に音節数とモーラ数,仮名数が一致しない特殊音節を含む語で誤りが顕著であった。誤りは長音,促音に相当する仮名の脱落と拗音に相当する仮名の置換であり,長音,捉音を含む語ではモーラ分解も困難であった。以上から,本症例の仮名失書は音節のモーラ分解障害および複雑な音韻-仮名変換の障害を特徴とし,左中前頭回脚部は仮名書字過程におけるモーラ分解および音韻を仮名に変換する機能に関係すると考えられた。
  • 佐藤 ひとみ
    2013 年 33 巻 3 号 p. 364-373
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
    健常成人88 名(23─63 歳)の呼称能力を,「生物」と「人工物」カテゴリーに属する単語(各々7 つの下位カテゴリーから選択)の成績が比較できる線画呼称課題(120 語)を用いて検討した。平均正答率は97.2%で,内2.9%は自己修正が占めた。呼称成績は,頻度(高頻度>低頻度)の影響を強く受けたが,意味カテゴリー(人工物>生物)と年齢(40 歳以上>39 歳以下)の影響もみられた。さらに,意味カテゴリーと性の交互作用があり,低頻度語・「生物」では男性の成績が有意に低下した。14 の下位カテゴリーの内,性差がみられたのは「花」(女性>男性)と「地上の乗り物」(男性>女性)であった。誤反応は被験者の85.2%でみられ,約92%は意味的関連のある反応(そのほとんどが目標語と同じ意味カテゴリーに属する意味的類似語,69.9%)であった。また誤反応は,目標語よりも頻度/ 親密度/ 心像性のいずれかが高い単語となる傾向がみられた。多変量解析の結果,誤答の生起を予測するのに寄与した属性は,心像性と意味カテゴリーであった。これらの結果を,認知神経心理学的観点から考察した。
  • 橋本 幸成, 水本 豪, 大塚 裕一, 宮本 恵美, 馬場 良二
    2013 年 33 巻 3 号 p. 374-381
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2014/10/02
    ジャーナル フリー
       発語失行の主な症状の一つであるプロソディー異常は,構音の問題に対する代償反応である可能性が指摘されている(Darley 1969)。本研究では,プロソディー異常が発話の主たる症状であった一発語失行例の症状を分析し,Darley の代償説との関連を探った。
        症例のプロソディーの特徴として,発話速度の低下と発話リズムの単調さを認めた。発話速度を評価するために,メトロノームの速度に合わせて発話速度を徐々に上げる課題を実施すると,一定の速度に達した時点で構音の誤りが出現した。発話リズムは単調で,その単調さを分析した結果,方略的にフット(2 モーラ)のリズムで発話している傾向がみられた。症例は自己の発話について「一本調子でゆっくり話さないとうまくいかない」と内省報告しており,上記の分析と合わせて考察すると,本症例の場合,明瞭な構音を得るために方略的にプロソディーを調整しているという説明が妥当と思われる。
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