高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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37 巻, 1 号
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特別講演
  • 本川 達雄
    2017 年 37 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

      サイズの生物学によれば, 時間は体重の 1/4 乗に比例し, 体重当たりのエネルギー消費量は体重の 1/4 乗に反比例する。よって, 動物の時間の速度はエネルギー消費量に比例するという関係が得られる。 この関係は現代人の社会生活の時間にもあてはまると考えた。そしてエネルギーによりつくり出された異常に速い時間が現代人のストレスの源になっていると心配した。現代人はエネルギーを使って時間をつくり出す。一つにはコンピュータなどの時間加速装置を用いて余暇を生み出している。もう一つは医療により死という不活発な時間を活発なものに変換している。こうして人工的に生み出された時間とどうつきあうかは, 高次脳機能障害の治療に関わる方々にとっても, 大きな課題であろう。

会長講演
  • 武田 克彦
    2017 年 37 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

      アインシュタインは, 観察結果を並べてもある概念を作り出すことはできない, 事実とは直接つながらない公理に思考をジャンプさせることが必要と述べた。事実アインシュタインはその手法で独創的な特殊相対性理論を作り上げた。次に脳に対する理解の変遷を振り返った。ガルの登場前には, 精神機能は脳室に存在するとされた。ガルは各々の精神機能は明瞭な境を持つそれぞれの脳回にあると述べた。ガルによれば, 局在する精神機能は従来の記憶力判断力などではなく, たとえば音楽能力などであった。さらに脳損傷例を自身の主張の根拠とした。骨相学の開祖としてだけ有名なガルではあるが, 驚くべき思考のジャンプをなしたのである。知覚とは脳内の処理であり, そうした脳内の処理を通して知覚システムが世界の内的表象を構成する。形成された像が蓄えられている表象との照合を経て認識は完了する。この表象説についての疑義を, 文字間隔が錯読に及ぼす影響, 不注意, 純粋失読, 色の処理などの研究を取り上げて論じた。最後に, 表象説に代わる考え方として, 感覚運動過程を重視する考え方, 脳の構造に結びついた個別の見方で毎回新たに刺激を処理する考え方を述べた。

原著
  • 鐘本 英輝, 数井 裕光, 鈴木 由希子, 佐藤 俊介, 吉山 顕次, 田中 稔久
    2017 年 37 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

      漢字の純粋失書を伴う皮質基底核症候群 (CBS) を呈したアルツハイマー病 (AD) 症例を経験したので, 本例の漢字の純粋失書の発現機序について検討を行った。症例は右利き男性で, 58 歳頃から軽度の物忘れを自覚。64 歳の当科初診時には日常生活に支障はなく, 口頭言語や読字に障害は認めなかったが字形想起障害による漢字の失書が目立ち, 右優位の軽度のパーキンソニズム, 右上肢の肢節運動失行を認めた。頭部 MRI では両側性の前頭葉と頭頂葉の軽度萎縮を認め, IMP-SPECT では左側頭葉後下部を中心に左半球の血流低下を認めた。臨床的に CBS が疑われたが, 髄液バイオマーカーから AD が示唆された。本症例の失書はAD で報告されている特徴に合致する一方, 皮質基底核変性症における失行性などの運動性要因を含むものが多いという失書の報告とは異なっていた。CBS の背景病理は多彩であることが知られているが, CBS における失書の様式はその背景病理を推定する一助となるかもしれない。

  • 齊藤 珠美, 松田 実
    2017 年 37 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

      重度非流暢性失語を呈するにもかかわらず, 流暢なジャルゴン発話を伴う状態が 1 年以上継続した 1 例を報告する。症例は左被殻出血後の 60 歳右利き女性である。発症 5 ヵ月時では重度運動性失語を呈していたが, 通常の発話では努力性で発話速度の遅い単語レベルの非流暢な発話であり, 場面によっては流暢なジャルゴン発話となるという二相性を認めた。このジャルゴンは構音明瞭な無意味音の羅列であり, 文法的機能語の分離が明らかではないことから音節性ジャルゴンないしは phonemic jargon の特徴と一致した。また課題場面より自由会話場面に出現頻度が高く, さらに難易度の高い課題や感情が高じた場面にも多く出現し, 他のジャルゴンタイプへ変化することなく徐々に頻度が減少し消失した。その場面特異性と消失過程から, 旺盛な発話意欲により語彙の回収や音韻選択・配列および文の生成がなされないまま音声表出が駆動されてしまったものであると考えた。

第40回 日本高次脳機能障害学会学術総会講演抄録 一般演題
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