高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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38 巻, 2 号
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教育講演 I
  • 梅田 聡
    2018 年 38 巻 2 号 p. 133-138
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      共感に関する研究は, 近年, さまざまな観点から進められており, 理論的に確立され, 神経メカニズムも徐々に明らかにされつつある。本稿では, 共感を1) 行動的共感, 2) 身体的共感, 3) 主観的共感に分ける理論的枠組みを提案し, それぞれの定義および特徴について述べる。次に, sympathy とempathy の違いについて触れた上で, 共感の背後にある「心の理論」および共感との関係性について再検討する。 さらに, 共感を生じさせる上で重要な身体性について述べた上で, 各種の共感を支える神経メカニズムについて, ネットワーク的視点および局在論的視点からまとめる。最後に, 自閉症スペクトラム障害などの発達障害や神経心理学の視点から, 共感の病理について考える。

教育講演 II
  • 山末 英典
    2018 年 38 巻 2 号 p. 139-146
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      社会的コミュニケーションの障害など自閉スペクトラム症中核症状に対する治療方法は確立出来ていないのが現状である。本稿ではオキシトシン経鼻投与の効果を臨床評価に加えて, マルチモダリティ脳画像解析による脳機能変化として検出した医師主導臨床試験による, この中核症状治療薬の開発過程を紹介する。治療開始前の遺伝子情報による治療効果予測の可能性を示す研究成果も含めた。こうした本邦発の研究成果が活用され, 出来る限り早く自閉スペクトラム症当事者のために新規治療薬の臨床応用が実現することが望まれる一方で, 臨床的に意義の高い効果についての確認, 最適な用量や用法の設定, 特に幼少児期における長期投与の安全性など, オキシトシンを自閉スペクトラム症中核症状の治療薬として実用化するためにはまだ検討するべき点が多く残されている。そのため, こうした検討事項を踏まえてデザインした医師主導治験を含めた研究計画について, 現在進行形で実施している。

シンポジウム I : 地域における失語症支援
  • 深浦 順一, 立石 雅子
    2018 年 38 巻 2 号 p. 147-148
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー
  • 佐藤 卓也
    2018 年 38 巻 2 号 p. 149-154
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      自動車運転は現代生活において欠かすことのできないものである。高次脳機能障害者が社会復帰する場合, 自動車運転再開について適切な評価が必要である。運転に関する概念モデルとして Michon (1985) 及び渡邉 (2016) があるが, それに対応する高次脳機能として, 視空間認知, 視覚認知, 聴覚認知, 注意機能 (持続, 選択, 配分) , 遂行機能, 処理速度, 作業記憶, そして言語機能が挙げられる。運転評価は, オフロード評価として神経心理学的評価及びドライビングシミュレーター評価と, オンロード評価として自動車教習所での実車評価がある。自験例において, 神経心理学的評価について失語群 60 例 (運転再開可能群 44 例, 再開見送り群 16 例) と非失語群 84 例 (運転再開可能群 64 例, 再開見送り群 20 例) の 2 群で比較検討した。非失語群は, MMSE, 記号探し, 数唱, 語音整列で失語群よりも有意な結果であり, 失語群では負荷が多い可能性が示された。失語群を Goodglass ら (1971) のBoston diagnostic aphasia examination により重症度分類し比較検討すると, 区分 1-3 の群よりも区分 4 及び区分 5 の 2 群が運転再開可能群の割合が高く, MMSE, TMT-A 及び B, 数唱で有意に高い結果であった。言語処理の負荷がこれらの課題において不利となる可能性が考えられ, それは運転にも同様に不利に作用する可能性が示唆された。

  • 竹中 啓介
    2018 年 38 巻 2 号 p. 155-159
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      会話パートナー訓練 (conversation partner training: 以下 CPT) は, 失語のある人のコミュニケーションを支援する方法の一つである。CPT は, 失語のある人の対話者をコミュニケーションにおける重要な環境因子として捉え, 失語のある人の対話者に適切なコミュニケーション姿勢と会話技術の習得を図る。CPT は, これまでにいくつかの民間団体や自治体において行われてきたが, 厚生労働省は 2016 年度, 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」の見直しに伴い, 地域生活支援事業における意思疎通支援事業の中に失語のある人向けの意思疎通支援者の養成と派遣を地方自治体の必須事業として新たに位置づけた。これは CPT を公的に行うための新しい福祉サービスであるといえる。
      本稿では, CPT による意思疎通支援者の養成の内容を紹介する。また, 2005 年度から失語のある人向けの意思疎通支援者の養成と派遣を推進している千葉県我孫子市の取り組みを紹介し, 今後の課題と展望を論考する。

  • 内山 量史
    2018 年 38 巻 2 号 p. 160-164
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      1990 年代に 150 団体ほどあった NPO 法人全国失語症友の会連合会加盟の失語症友の会は, 会員の高齢化, 新入会員の減少などから現在, 100 団体以下となっていると報告されている。山梨県においても, 山梨県失語症友の会連合会主催の「山梨県失語症者のつどい」への参加者が三分の一以下に減り, 活動を休止する失語症友の会もでてきている。山梨県言語聴覚士会では, 友の会の活動が縮小しボランティアなどの派遣が少なくなることで, 地域で生活する失語症者と関わる機会が減少していることが懸念された。 そのような状況を把握するために平成 29 年「失語症友の会活動について」のアンケート調査を実施した。 その結果, 患者会支援における興味や関心が薄れている一方で, 友の会活動に参加したい意向をもつ会員が 80%以上いることが判明した。当会としては, 失語症者の在宅生活を支える事業の強化と失語症者の地域における暮らしを支援できる人材育成を図る目的で山梨県言語聴覚士会失語症友の会「ふじやま」を設立し, 平成 30 年度より事業を展開する。

シンポジウム II : 失語症とコミュニケーション
  • 春原 則子, 船山 道隆
    2018 年 38 巻 2 号 p. 165-166
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー
  • 吉田 敬, 長谷川 美佳
    2018 年 38 巻 2 号 p. 167-171
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      失語がある人 (失語症者) と大学生 1 名との会話を修復に着目して分析した。失語症者 6 名が本研究に参加した。全員脳血管障害を被り, 中等度から軽度の失語症を呈していた。失語症のタイプは様々であった。各失語症者は学生とおよそ20 分会話をした。修復のタイプでもっとも多かったのは自己開始・自己修復であったが, 自己開始・他者修復も比較的多くみられた。自己開始・他者修復においては, 失語症者が喚語困難などの問題を修復しようと試みるものの, 自らの会話の順番で修復が完了せず, 失語症者と対話者が協同して情報を復元していた。対話者は, 失語症者が言語的ないし非言語的手段によって部分的に呈示された情報を手掛かりとして, 目標とする語や命題を修復していた。

  • 廣實 真弓
    2018 年 38 巻 2 号 p. 172-176
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      臨床場面では「患者が医療者に何を言いたいのかわからない」という場面に遭遇することがある。 コミュニケーションが円滑になることは患者の生活の質の向上につながるだけでなく, 提供される診療の質をも向上させる。そのため問題となる言語症状が明らかになり, 対応策を考案できることは患者にとっても医療者にとっても有意義だと考える。脳外傷後にはしばしば非失語性の言語障害が起こることは国外では広く知られており, 言語聴覚士が介入している。しかし側頭葉てんかん (TLE) 患者の発作間歇期に起こる非失語性の言語障害についての研究は少ない。そのため本稿では, 失語症の評価法をTLE 患者の発作間歇期に見られる非失語性の言語症状の検討に使用できるのか自験例の結果から考察した。その結果, 語レベルと文レベルの問題は既存の失語症の検査を用いて検討できたが, 談話レベルの評価については今後さらに検討されていくことが望まれた。

  • 吉畑 博代
    2018 年 38 巻 2 号 p. 177-183
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      失語症のリハビリテーションでは, 失語症当事者と言語聴覚士が協働して, 訓練目標を設定することが大切である。そのためには, まず失語症当事者の思いを把握することが求められる。当事者の思いを把握し, 訓練の有効性を評価するためのツールとして, 近年, 患者報告アウトカム (patient-reported outcome, 以下 PRO) が注目されている。我々は, 現在 PRO 測定法の一つである Aphasia Impact Questionnaire-21 (AIQ-21) (Swinburn 2015) の日本版 (以下 JAIQ-21) を作成中である。本稿では, 生活適応期の失語症者に, 作成中の JAIQ-21 を試用した結果を報告した。失語症重症度が異なる 2 名の失語症者に JAIQ-21 を実施したところ, 当事者が抱える思いは失語症の重症度からは予測できず, それぞれに特徴があった。地域社会において失語症者のコミュニケーション力を高め, 失語症者自身が望むその人らしい生活を再構築するために, 自己評価である PRO 測定法を利用することの重要性が示された。

セミナー I : 脳画像
  • 石原 健司
    2018 年 38 巻 2 号 p. 184-187
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      脳画像は診断のみならずリハビリテーションでも有用な情報を提供してくれる。ここでは脳画像の読影において基本となる脳部位同定方法の考え方を呈示した。大脳の側面像で脳溝・脳回の名称を覚え, 画像の中でどのように表現されているのかを理解できれば, それらの相互の位置関係から, 手順を踏むことによって目的の構造を同定することができる。そのためには, どの方向の, どの断面で, どのような構造を同定することができるのか, を知っておくことが必要であるが, これは実際の脳画像を繰り返し見ながら習熟するのが唯一にして確実な方法である。

  • 岡本 浩一郎, 相場 恵美子
    2018 年 38 巻 2 号 p. 188-196
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      中枢神経の脳・脊髄は頭蓋骨や脊椎に囲まれ, 観察は容易ではない。意識障害, けいれん, 片麻痺などの神経学的症状を示す患者では, 病歴の聴取, 身体診察に加え神経学的診察により, 病変の局在と広がりを推定するが, 客観的に評価するために, 脳や脊髄の状態を確認できる神経画像検査を行う。
       中枢神経系の画像診断を専門とする神経放射線科医 (神経画像診断医) は, CT, MRI, 血管造影や, 必要に応じて核医学検査などの各種画像検査で得られる情報を統合して, 脳や脊髄に生じている病理組織学的な変化を推察し, 疾患に特徴的な病理学的所見や病態生理学的変化と画像所見の整合性を考え, 臨床症状や経過, 診察所見を考慮しながら画像診断を進める。
       神経放射線科医が臨床でどのように画像所見を確認して画像診断を進めるのか, 実際の症例の画像を例にとりその過程をお示しすることで, 神経疾患に携わる医療関係者の皆様の理解に貢献することを本稿の目的とする。

セミナー II : 症例に学ぶ
  • 大槻 美佳
    2018 年 38 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      非定型な症状を呈した患者を通して, 音韻処理について考察した。本患者は, 言語表出は, 自発話のみでなく, 呼称, 復唱, 書字など全ての表出で, 音韻性錯語, 新造語, 音韻性ジャルゴンが中心であったが, 一方, 言語理解は, 聴覚的には単語レベル, 視覚的には (文字呈示) , 文レベルでも可能であるという乖離を示した。また, 「1 音を聞いて, 該当する仮名文字を選択する」課題も全くできなかったが, 詳細に調べると「1 音」の弁別・認知は可能で, かつ, 「仮名文字」の弁別・認知も可能であることが明らかになった。本患者の症候から, いわゆる ‘音韻処理障害’ には, これまで言及されてきたような, 音韻の認知・喚起・選択・把持・配列などの障害のみでなく, 記号としての役割はある程度果たせるものの, 音響的な表出や文字表出という次のステップに利用できないという壊れかたもある可能性が推測される。

  • 佐藤 睦子, 新田 幸世, 小林 俊輔
    2018 年 38 巻 2 号 p. 204-210
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      症例は, 60 歳代, 男性。右利き。大学卒, 元会社員。元来歌唱能力は高く, また人前で話す機会も多かった。主訴は, 話せない, 聴き取れない, 音痴になった, 進行している。神経心理学的検査では, 聴覚的言語理解障害, 発語における音韻変化, プロソディ障害が認められる一方, 読み書き機能は保たれており, 発語失行と純粋語聾が同時に生じていると考えられた。また, 歌謡・楽曲の理解・表出・記憶も障害され, 失音楽も呈していた。MRI では両側シルビウス裂の開大, IMP-SPECT では左半球全体ならびに右頭頂葉の血流低下が認められたが, PiB-PET では βアミロイドの蓄積は認められなかった。本例では, 左半球の前方-後方言語野と右半球の前頭-側頭葉がともに機能低下を来したと考えられた。進行性疾患により発語失行と純粋語聾を呈した報告例はあるが, 失音楽を呈した例は稀である。本例の臨床症状について供覧し, 進行性疾患に対する言語聴覚療法について論じた。

  • 種村 留美
    2018 年 38 巻 2 号 p. 211-215
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      道具の意味知識とその障害に関する Raymer ら (1997) の認知神経心理学的理論を紹介した。道具の使用障害を呈した症例に対して道具の意味知識に関する課題を与え, その障害を確認した。そして, 道具の意味知識を与える介入によって道具の使用障害が改善し, 本例における道具の使用障害が道具の意味知識の障害に基づいていることを示した。

  • 能登谷 晶子
    2018 年 38 巻 2 号 p. 216-221
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      人は加齢とともに聴力閾値の上昇が高音域から生じる。内耳は加齢による影響を受け, 言葉や音楽の聞き取りに支障をきたすとされる。一方, 脳幹の聴覚伝導路は病理学的には加齢による神経の脱落は軽度にすぎないと言われている。したがって, 中枢性聴覚障害の精査では, 末梢レベルの聴こえの確認が重要である。本稿では, 広義の聴覚失認, Landau-Kleffner 症候群による純粋語聾, 皮質聾のうち自験例を中心に報告した。聴覚失認例では聴力は軽度から中度の閾値上昇で推移し, 語音・環境音では, 聴こえるが意味理解困難な状態を示した。母音聴取 50%, 子音は不可であった。純粋語聾例では, 聴力は正常から軽度の閾値上昇で推移し, 母音聴取は 100%, 子音の混乱が目立った。環境音の認知に問題なかった。 皮質聾例では, 純音聴力は無反応, 語音・環境音ともに聴取困難であった。いずれも聴性脳幹反応 (ABR) は正常範囲にあった。皮質聾例では, 患者自身の声が大声になる例とならない例に分類された。

原著
  • 橋本 優花里, 宗澤 人和, 澤田 梢, 近藤 啓太, 宮谷 真人, 吉田 弘司, 丸石 正治
    2018 年 38 巻 2 号 p. 222-230
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      表情識別には, 皮質のみならず皮質下の脳領域の関与も示唆されており, びまん性軸索損傷 (diffuse axonal injury, 以下 DAI) による表情識別能力の低下が示されているが, その報告 数はあまり多くない。 本研究では, 若年 DAI の男性患者を対象に, 表情刺激の表出強度を段階的に変化させながら, 実験心理学的手法に基づいて基本 6 表情の識別閾を測定できる課題を実施し, その成績を年齢が統制された若年健常者と比較した。その結果, 表情種に関わらず, 若年 DAI 群の表情識別の閾値は, 若年健常群に比べて高いことが示され, 局所損傷を持たない DAI であっても, 表情識別能力が低下していることが明らかになった。

  • 清水 大輔, 種村 留美
    2018 年 38 巻 2 号 p. 231-238
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      本研究の目的は, 自動詞的・他動詞的動作の産出能力に対する介入効果の汎化と質的経過を検討することである。対象は左大脳半球の脳出血後から約 4 ヵ月経過した 70 歳代の右利きの女性であった。神経学的所見では, 右半身の運動麻痺, 感覚障害, 筋緊張の異常を認めた。神経心理学的所見では運動性失語, 標準高次動作検査より, 口部顔面失行, 観念性失行, 観念運動性失行を認めた。本研究はシングルケースデザインを用い, 自動詞的・他動詞的動作の産出障害に対する介入効果を検討した。介入は, 誤りなし学習で行い, 分析は, 自動詞的・他動詞的動作の産出能力を得点化し, 質的にも分析した。結果, 介入効果が認められるとともに効果の汎化があった。質的分析の結果は, 介入経過の中で「修正行為」の増加が認められた。この「修正行為」は, 意識的な情報処理に伴う動作の試行錯誤により産出されたと考えられた。

  • 山田 恭平, 加藤 貴志, 外川 佑, 藤田 佳男, 三村 將
    2018 年 38 巻 2 号 p. 239-246
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      4 つの下位検査からなる脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版 (J-SDSA) が開発されたが, 本邦における参考値は明確になっていない。そこで本研究の目的は, 脳損傷者において J-SDSA を用いて運転可能と判断される各下位検査のカットオフ値を示すこと, さらに得られたカットオフ値と下位検査の組み合わせから実車評価結果の予測精度を明らかにすることとした。対象は 7 施設, 94 名の脳損傷者である。対象者には J-SDSA を施行し, その後実車評価を行った。実車評価の結果は, 教習所指導員の判定に基づいて運転可能群と運転不適群に分類された。群間比較では, J-SDSA の方向, コンパス, 道路標識の得点で有意差を認め, 可能群の成績が良好であった。上記 3 つの検査のカットオフ値を算出し, 検査の組み合わせを検討したところ, 3 検査ともカットオフ値を上回った対象者については 80%以上の精度で運転可能と予測できた。また, 3 つとも下回った対象者については運転不適と予測できた。

  • 飯干 紀代子, 藤本 憲正, 阿部 弘明, 澤 真澄, 吉畑 博代, 種村 純
    2018 年 38 巻 2 号 p. 247-254
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      アルツハイマー型認知症患者に, 回想法の亜系であるメモリーブックを用いたグループ介入を多施設で実施し, 可能な限り盲検化を図ったデザインで効果を検証した。66 例 (男性 13 例, 女性 53 例, 平均年齢 86.7±6.1 歳, MMSE 平均 15.1±4.4 点) を, 介入群と非介入群に割り付け, 介入群には週 1 回 90 分程度のメモリーブックを用いた活動を計 12 回実施した。介入前後の評価を実施できた介入群 28 例, 非介入群 23 例, 計 51 例を分析した。反復測定分散分析の結果, 語彙検査総点と読解, 情景画説明, 自伝的記憶流暢性検査の 60 歳以降, 能動的態度評価総点と関心, 対人意識, 発話行動, 社会的態度に交互作用がみられ, いずれも介入群が有意に改善した。これらの効果量は, 順に 0.31, 0.53, 0.76, 0.64, 0.63, 0.54, 0.80, 0.29, 0.67 であった。患者のコンプライアンスも極めて高く, 本介入の言語, 記憶, 態度への効果と有用性が確認された。

短報
  • 安達 侑夏, 笠井 明美, 今村 徹
    2018 年 38 巻 2 号 p. 255-259
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

      症例は 80 歳, 女性, 右利き。左前頭葉の脳内出血発症 60 日で当施設転入居。四肢に粗大な運動麻痺なし。自発話は乏しく, 話し掛けられると単語~短文レベルで発話がみられることがある程度。問いかけへの肯定 / 否定の意思表示は曖昧だが, 表情や行動, 態度から非言語的な状況理解は基本的に悪くないと思われた。施設内での生活場面で, 窓の鍵やドアが見えると開けようとするといった使用行動がみられた。さらに, 複数の職員がテーブルを囲んでミーティングをしていると, 近づいてきて職員の隣の椅子に座り, ミーティングの参加者のようにうなずきながら話を聞いたり, 机上の資料を手に取ったりする, など, 施設に勤務する職員であるかのように行動する場面が散発した。これは施設の環境が刺激となって出現した, Lhermitte の原著に忠実な環境依存症候群であると考えられた。

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