高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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30 巻, 4 号
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原著
  • 鈴木 則夫, 平川 圭子, 佐敷 俊成, 厚見 さやか, 翁 朋子, 長濱 康弘, 松田 実
    2010 年 30 巻 4 号 p. 488-495
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2012/01/05
    ジャーナル フリー
    失語症者の言語症状に対する awareness について検討した。対象は音声言語表出と聴覚言語理解に障害を呈する失語症例 21 例。聴覚言語理解障害,音声言語表出障害に対して awareness の有無について interview を行い,これを 3 段階に評価した。客観的言語評価として SLTA を施行し,音声言語表出項目 30 点と聴覚言語理解項目 30 点を抽出し,加えて全例に知能検査として Raven 色彩マトリックス検査を行い,統計的分析を試みた。結果,awareness と障害重症度や知能との間には有意な相関を認めなかった。統計的検定の結果,言語表出に対する awareness より言語理解に対する awareness のほうが有意に損なわれやすい傾向が認められた。
  • 井上 雄吉, 荒木 一富, 西田 勇人, 藤田 明美, 藤本 万理, 青山 麗子
    2010 年 30 巻 4 号 p. 496-509
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2012/01/05
    ジャーナル フリー
    表出障害が主体の失語症に対する低頻度反復経頭蓋磁気刺激 (rTMS) の効果について検討した。対象は左大脳半球の主に慢性期脳血管障害 20 例 (梗塞 12 例,出血 8 例,全例右利き) で,発症から rTMS 開始までが 68~2793 日 (平均 591.6 日) であった。rTMS は健側右半球の Broca 野相同部位の Brodmann 45 野に,運動閾値の 90 %の強度で,1Hz,900 発刺激を計 10 セッション行った。評価は表出面を中心に,40 個の絵の呼称や短縮版 WAB,標準失語症検査 (SLTA) で行い,rTMS 前後の局所脳血流量 (rCBF) も調べた。結果は,絵の呼称では脳梗塞例全体で rTMS 施行 2 週後から有意の改善を認め,効果は終了 4 週後も持続し,SLTA でも有意の改善を認めた。脳出血例では有意の変化はなかった。脳梗塞例では rTMS 後に左基底核 rCBF の有意の増加を認めた。健側半球の低頻度 rTMS は,特に左基底核が保たれた慢性期脳梗塞に有効であり,失語症の改善に左基底核の関与が示唆された。
  • 北村 葉子, 今村 徹, 笠井 明美, 岩橋 麻希
    2010 年 30 巻 4 号 p. 510-522
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2012/01/05
    ジャーナル フリー
    BPSD の評価として専門職が行う構造化インタビューにはさまざまなものがある。しかし直接観察法では確立されたものはない。妄想,幻覚など個別の BPSD ごとに下位項目を含んだ施設職員用の直接観察式評価法があれば,臨床上の有用性は高いと考えられる。認知症利用者を直接観察するさまざまな職種が BPSD を適切に評価できる手段を確立することを目的として,8 つの主項目と,その下位項目からなる質問紙 BPSD-AS の試案を作成し,信頼性と妥当性を検証した。BPSD-AS は,NPI などの既存の評価法の項目を参考とし,認知症を専門とする行動神経内科医 (behavioral neurologist),PT,OT,ST 各 1 名の意見を元に試案を作成し内容妥当性を確保した。デイサービスセンターを利用した在宅療養中の認知症利用者 31 名を対象に,デイサービスセンターの介護職 5 名,医療福祉職 5 名の 2 群,合計 10 名の評価者で直接観察を行った。検査者間信頼性については多くの項目で重症度,負担度ともに級内相関係数 ri=0.6 から 0.7 であった。妥当性についても多くの項目で有意な相関が得られ,BPSD-AS は一定の信頼性と妥当性を有していることが示された。
  • 田村 至, 大槻 美佳, 中川 賀嗣, 西澤 典子, 田代 邦雄
    2010 年 30 巻 4 号 p. 523-532
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2012/01/05
    ジャーナル フリー
    ピック病が疑われる病初期の語義失語症例におけるカテゴリー特異的意味障害について検討した。症例は 63 歳右利き女性,喚語困難で発症し,呼称および聴理解障害の進行を呈した。失語症語彙検査の意味カテゴリー別名詞検査を用いて検討し,聴理解では,初回はすべてのカテゴリーで差がなく障害は軽度であった。16 ヵ月後には,「身体部位」「色」「屋内部位」「建造物」は比較的良好であったが,「野菜・果物」「植物」「動物」「道具」「乗り物」「加工食品」に低下がみられた。生物カテゴリーでは,すべてのカテゴリーにおける障害がみられたが,非生物カテゴリーにおいては,カテゴリーによる乖離がみられた。本症例のカテゴリー特異的意味障害より,意味処理系は生物と非生物カテゴリーに二分されていない可能性,さらに各カテゴリーの意味処理機構と左側頭葉前部との関連性が示唆された。
  • 堀部 有三, 高橋 伸佳, 河村 満
    2010 年 30 巻 4 号 p. 533-538
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2012/01/05
    ジャーナル フリー
    右中心前回中下部および右下前頭回弁蓋部の限局性病変により,口舌顔面失行を伴う交叉性 Broca 失語を呈した一例を経験した。本症例は失語症状と右半球病変との関連が,右利き左半球病変による失語と一致する鏡像型交叉性失語と考えられた。口舌顔面失行についても,誤反応の性質が左半球病変による運動性失語に伴う場合と類似し,いわば「鏡像型」であった。本症例は言語機能が右半球に側性化した場合でも,言語の半球内分化が左半球と同様の形で極めて限局性に存在しうることを示唆するものと思われた。
  • 福永 真哉, 服部 文忠, 田川 皓一, 藤田 学, 中谷 謙
    2010 年 30 巻 4 号 p. 539-545
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2012/01/05
    ジャーナル フリー
    純粋失書は失語症などの障害がないにも関わらず,後天的な脳損傷によって書字のみが選択的に障害されるため,その病巣から書字中枢の存在を探索する試みがなされてきた。これまでの検討では,左中前頭回,上頭頂小葉,側頭葉後下部,左角回から側頭葉におよぶ領域が責任病巣として有力視されている。しかしながら,右半球損傷での純粋失書の報告は少なく,その病態はいまだ不明な点が多い。我々は,右半球を中心とした病巣で失書を呈した一症例を経験した。本症例は明らかな失語症状や,書字に影響を及ぼすような意識障害,知的低下,失認,失行,構成障害などを認めないにも関わらず,漢字に比して仮名に顕著な失書を認めた。上記の所見から,本症例において仮名の書字機能は,側性化の異常により左半球損傷例に対し鏡像的に,右側の中心前回領域を中心とした前頭葉から頭頂葉におよぶ領域にかけて存在していた可能性が示唆された。
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