高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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30 巻, 2 号
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特別講演
  • Jacquin-Courtois S., O'Shea J., Luauté J., Pisella L., Farn&eac ...
    2010 年 30 巻 2 号 p. 235-250
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    A large proportion of right-hemisphere stroke patients exhibit unilateral neglect, a neurological condition characterised by deficits for perceiving, attending, representing, and/or performing actions within their left-sided space. Unilateral neglect is responsible for many debilitating effects on everyday life, for poor functional recovery, and for decreased ability to benefit from treatment. Prism adaptation (PA) to a right lateral displacement of the visual field (induced by a simple target-pointing task with base-left wedge prisms) is known to directionally bias visuo-motor and sensory-motor correspondences and has recently been found to improve various symptoms of neglect. For example, performance on classical pen-and-pencil visuo-motor tests could be improved for at least two hours after adaptation. Effects of PA have also been described for non-motor and non-visual tasks, such as for somatosensory extinction, for deficits in mental imagery of geographic maps and in number bisection, and even for visuo-constructive disorders. These results suggest that the effects of prism adaptation can extend to unexposed sensory systems. The bottom-up approach of visuo-motor adaptation appears to interact with higher order brain functions related to multisensory integration and can have beneficial effects on sensory processing in different modalities. Lesion studies and functional imaging data point to a cerebello-cortical network in which each structure plays a specific role, though not necessarily one that is crucial for adaptation. Prism adaptation could act specifically not only on the ipsilesional bias characteristic of hemineglect but rehabilitates more generally the other spatial cognition deficits due to damage of the right hemisphere.
シンポジウム:古典症候の解体から新たな介入に向けて
  • 大槻 美佳, 池田 学
    2010 年 30 巻 2 号 p. 251-252
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
  • ─特異的言語障害と分子生物学,損傷脳,機能画像知見からの科学的検証─
    川崎 聡大
    2010 年 30 巻 2 号 p. 253-262
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    近年の機能画像や認知神経心理学の進歩により Brodmann44,45 野が構文の処理に密接に関与していることは明らかである。今回,「構文処理」の障害について特異的言語障害と FOXP2 遺伝子変異の関連から,「構文処理」における側頭葉の関与については機能画像および損傷脳での知見とGarrett (1981) のプロセスモデルとの対応関係の二つの視点から検討を行った。その結果,「構文処理」の障害における形態素以前と,意味論以降で障害機序が異なる可能性を示唆した。後者では,構文処理のプロセスにおいて, 統語構造の生成や語彙の選択,文法的形態素の付与には Brodmann44,45 野が関与し,述語項構造については側頭葉が関与し「動詞の意味」を手がかりとして格の付与を行うことが示唆された。このことは,前方病変での文法障害症例への新たな訓練の視点を付与するものであると考えられた。
  • ─症状を適切に把握するために─
    望月 聡
    2010 年 30 巻 2 号 p. 263-270
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    古典的失行とされる観念性失行 / 観念運動性失行の分類を再考する試みを行った。はじめに,臨床場面において病態把握のための検査を施す際に考慮すべき,行為のカテゴリー,入力刺激提示様式・出力様式,誤反応分析の3 つの観点を整理した。次に,Liepmann モデルから Rothi-Ochipa-Heilman モデルまでの拡張の経緯を概観したうえで,失行症状が出現すると想定される7 つの原因を示し,症状発現機序を考察するうえでの有用性を論じた。最後に,他の高次脳機能障害と失行症状 (行為表出障害) との関連について言及し,むしろ積極的に他の高次脳機能との関係で「行為」を捉える視点の必要性を論じた。これらの理由から,観念性失行 / 観念運動性失行の分類体系は,今日の視点からみると症状を過度に矮小化して捉えてしまうおそれがあり,症状も発現機序も適切に把握することができないことから,解体すべきであると思われた。
  • ─3 つのタイプによる症状区分とそれぞれの責任領域について─
    太田 久晶
    2010 年 30 巻 2 号 p. 271-276
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    視覚失認は,統覚 (知覚) 型と連合型に古典分類で分けられていたが,視覚情報の処理過程にもとづいて,近年,これら 2 つのタイプに統合型を加えた 3 つのタイプによる症状分類が提唱された。病巣分析より統覚 (知覚) .型は両側内側後頭皮質が,統合型と連合型は左内側側頭後頭皮質が責任部位として報告されている。その一方で,脳機能画像研究において,外側後頭皮質が視覚形態処理に関与することが明らかとなっている。これらの結果を総合すると左内側後頭皮質から外側後頭皮質までの経路が著しく損傷されると統覚 (知覚) 型となり,この経路が部分的にでも機能していれば統合型となると考えられる。また,左外側後頭皮質までの経路は保たれているものの,そこから吻側の経路に損傷があれば連合型になると考えられる。このように,視覚情報の神経経路を推定することによって,3 タイプの視覚失認のそれぞれに対する責任部位は理論上,説明可能であった。
  • ─記憶の一側面を評価する課題で困難を呈する症例─
    吉村 貴子
    2010 年 30 巻 2 号 p. 277-284
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
       ワーキングメモリ (WM) は,いろいろな認知活動の遂行に必要不可欠な一時的な記憶という,その「機能」に着目した概念である。WM には 2 つの従属システムである音韻ループと視空間スケッチパッドと,この 2 つの従属システムをコントロールする中心的な役割を担う中央実行系 (central executive) からなる。さらに,2 つの従属システムに加えて,長期記憶からの情報の検索に関するエピソディックバッファー (episodic buffer) (Baddeley 2000) .が提唱されている。WM を測定する課題には,さまざまな評価方法があるが,言語と空間などの異なった様式の情報を統合するバインディング課題 (binding task) (Prabhakaran ら2000) には,エピソディックバッファーが関与し (Baddeley 2000) ,特に機能的磁気共鳴画像 (fMRI) による研究から,右前頭葉が関わるとの報告もある。
       今回はバインディング課題をとりあげて,この課題における健常例や神経心理学的症例の反応結果から,記憶と情報統合能力に関する報告と考察を示した。
  • 濱 聖司
    2010 年 30 巻 2 号 p. 285-298
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    脳卒中後の Depression (うつ病) と Apathy (意欲低下) は混乱して使われることが多く,精神科領域では,Apathy という用語が使われることは極めて少なく,むしろ Depression の一部の症状と考えられる一方,神経内科領域では,Depression と Apathy は分離して考えることが多い。そこで,この総説では,Post-stroke depression (脳卒中後うつ病 : PSD) を Depression と Apathy を大きな二つの核となる症状とみなして,これまでの研究結果をまとめてみた。まず,脳卒中の損傷部位と PSD 発症との関係を調べてみると,Depression と Apathy を分離して考えると,前者は左前頭葉損傷,後者は両側基底核損傷と関係があった。また,PSD が脳卒中後の機能障害改善に及ぼす影響について検討すると,Depression よりも Apathy のあるほうが,機能が改善しにくい,とする結果が得られた。そこで,Depression と Apathy は,PSD の中で,各々異なる神経基盤に立って存在することが示唆された。一方,PSD を考える上で,障害を受け入れていく過程は非常に重要なポイントになることから,その中で,固執に焦点を絞って調べてみた。今まで,固執は否認の症状で良くない因子と考えられてきたが,我々の検討では,適度の固執があると,かえってうつ病になりにくく,機能も改善しやすい,とする結果であった。脳卒中後の患者に接する場合,固執は必ずしも悪いばかりではないことを考慮し,機械的に障害受容を押しつけるのではなく,患者に合わせた,適切な配慮を心がける必要がある。
モーニングセミナー
  • 前島伸 一郎, 大沢 愛子, 宮崎 泰広
    2010 年 30 巻 2 号 p. 299-307
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    高次脳機能評価に必要な検査の進め方について解説を行った。患者の病状を正確に把握するためにも,適切な検査と詳細な観察,そして正しい解釈が必要である。高次脳機能障害は神経心理学的検査の成績だけでなく,患者が具体的にどのような課題に対して,どのように反応したかという過程が重要である。患者の日常生活や社会生活を念頭におき,患者や家族の声を傾聴する姿勢が何より大切である。
  • 佐藤 睦子
    2010 年 30 巻 2 号 p. 308-312
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    どのタイプの失語であれその言語治療では,「適切な刺激を与えることによって,何らかの反応を得る」という作業が大部分であり,言語刺激を与えることはもっとも強調されるべき失語症言語治療の原則である。しかし一方,失語症には,刺激するだけではなく,保続や再帰性発話などのようにその出現を抑制しなければならない症状もある。言語治療の目的は様々な側面の言語能力の向上をはかることではあるが,最終的には運用面としてのコミュニケーション能力を高めることである。すなわち,失語症言語治療で重要なポイントは,それぞれの失語症状に合わせて適切に「刺激 (あるいは抑制)-反応」の作業を繰り返し,双方向性のコミュニケーション場面を形成することである。失語症者の脳機能の再編をはかりコミュニケーション能力を向上させるためには,言語治療者側にも柔軟かつ機敏なコミュニケーション能力が求められる。
  • 今村 徹
    2010 年 30 巻 2 号 p. 313-316
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
原著
  • ─存在想起と内容想起における側頭葉と前頭葉の関与の違いについて─
    黒崎 芳子, 梅田 聡, 寺澤 悠理, 加藤 元一郎, 辰巳 寛
    2010 年 30 巻 2 号 p. 317-323
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    脳外傷者に対し展望記憶検査を実施し,病変部位の影響を検討した。対象は脳外傷と診断され,脳挫傷,脳内血腫を前頭前野,側頭葉に認めた 55 例である。検査方法は,梅田ら (2000) の自発的想起型展望記憶課題 (番号札課題) に準じて実施した。展望記憶の結果を,(1) 存在想起可能群と不能群,(2) 内容想起可能群と不能群の 2 群にグループ化した。また,前頭前野 (背外側・腹外側・内側部・眼窩部) と側頭葉 (内側部・外側部) の各病変に基づき集計した。各病変部位が本課題の成績に与える影響を調べるため判別分析を行った。その結果,(1) 存在想起の可否にもっとも影響した病変部位は,側頭葉内側部であり,次に前頭葉内側部が高い影響を認めた。(2) 内容想起の可否でも側頭葉内側部は高い影響を認め,ついで前頭葉背外側,側頭葉外側部の順となり,前頭葉内側部の影響は低かった。これより,側頭葉内側部は存在想起と内容想起の両方に高い影響を与えるのに対し,前頭葉の各部位については存在想起と内容想起で関与の仕方が異なることが示唆された。
  • 堀川 貴代, 藤永 直美, 早稲田 真, 村松 太郎, 三村 將, 加藤 元一郎
    2010 年 30 巻 2 号 p. 324-335
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    脳梗塞後,物体失認および画像失認を伴わない相貌失認を呈した症例を報告した。症例は 69 歳右利き女性。頭部 MRI 画像において両側の外側後頭葉皮質と右側の紡錘状回外側部の損傷を認めた。標準高次視知覚検査 (VPTA) の結果,本例は熟知相貌認知が重度に障害された相貌失認のみを呈した症例と考えられた。そこで,本例の物体認知と相貌認知について精査した。本例では物品線画と有名固有建築物の呼称,有名人の言語的説明からの呼称が良好であり,物体・画像認知や呼称能力,人物の意味記憶は保たれていた。人名呼称課題では言語性課題に比較して,視覚性課題が著しく困難であった。以上より,本例は物体失認および画像失認を伴わない相貌失認のみを呈した症例であると考えられた。また,本例では未知相貌の弁別と再認が可能であり,相貌の形態知覚が成立していた。したがって,本例は相貌の視知覚機能が良好に保たれた連合型相貌失認 (De Renzi ら1991) であると考えられた。また,本例の相貌認知障害の責任病巣は,両側後頭葉外側皮質と右紡錘状回外側部であり,相貌失認の出現には,これらの部位,とくに右側後頭葉外側皮質がきわめて重要と考えられた。
  • 原 麻理子, 前田 眞治
    2010 年 30 巻 2 号 p. 336-348
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
       道具の使用障害の現象を明らかにするために,右利き左脳損傷・道具の使用障害者 16 名に 20 種類の道具使用課題を施行し,エラータイプの分類を試みた。さらにエラータイプと道具の特性・関連病巣について考察した。エラータイプを道具の使用過程から,I. 行為の意味,II. 動作準備,III. 道具把持,IV. 対象選択,V. 使用手順,VI. 道具操作,VII. 効果検証,VIII. 終了判断の 8 つに分けた。エラーの数は道具の特性に左右される可能性が示唆された。また行為の意味エラーはすべての道具に出現するが,道具把持・操作エラーは道具の形状の影響も考慮された。病巣は I : 側頭葉,III : 大脳基底核,V : 側頭葉・頭頂葉から前頭葉への連絡経路,VI : 頭頂葉皮質下との関連性が示唆された。
       以上より,病巣から推測しうる道具の使用障害のタイプから,それに応じた方策を展開することが,道具の使用障害のリハビリテーションを一歩推し進めることになると考えられた。
  • 寺澤 悠理, 梅田 聡, 斎藤 文恵, 加藤 元一郎
    2010 年 30 巻 2 号 p. 349-358
    発行日: 2010/06/30
    公開日: 2011/07/02
    ジャーナル フリー
    島皮質は,我々が感情を経験するために,自身の身体内部から生じる感覚と環境情報を統合する中心的な機能を担う部位として注目されている。本研究では,右島皮質に限局的な損傷を持ち基礎的な認知能力に問題のない症例 A を対象に,表情判断および,表している感情の強さの評価課題を実施した。島皮質が感情処理における身体反応の受容・調整とどのような関係にあるかを調べるために,課題実施中の皮膚コンダクタンス反応 (SCR) を記録した。喜びや中性表情の識別は正確であったが,怒りや嫌悪といったネガティブ表情については識別能力の低下が観察された。さらに,表情が表す感情の強さを低く評価する傾向にあった。一方,顔表情に対する SCR は健常群とほぼ同一であった。本研究の結果は,右島皮質が特殊な感情の認識にとどまらず,主観的に経験する感情の強さを調整し,感情の正確な識別に重要な役割を担っていることを示唆している。
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