高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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26 巻, 3 号
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教育講演
  • 前島 伸一郎
    2006 年 26 巻 3 号 p. 235-244
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    ある基準によって区分された各項をさらに細かく分けることを下位分類という。半側無視を下位分類することは,局在診断の手段としての重要性のみならず,日常生活場面での問題点や対処法を明確にしていく必要性の上に成り立ち,完治とはいかないまでも,何らかの改善方策を見出す可能性へとつながるものである。本稿では半側無視の発現機序の解明や治療法の確立を期待して,いくつかの基準に基づいた分類を行った。すなわち,原因疾患からみた分類,半球優位性からみた分類,重症度の分類,病巣の違いによる分類,無視空間の違いによる分類,無視する感覚様式の違いによる分類,認知·遂行過程による分類,発現機序からみた分類などを行い,それらについて解説を加えた。
  • 福澤 一吉
    2006 年 26 巻 3 号 p. 245-252
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    一般に脳研究では神経細胞の働きや,脳損傷に由来する神経学的,または神経心理学的症状の記述,分析などのボトムアップ的なアプローチを取る。一方,脳の計算理論的アプローチでは脳が解こうとする問題は何か,それを解くにはどんな計算が必要か,その基本原理は何かをトップダウンに考える。脳が解く必要のある問題の 1 つは不良設定問題であり,到達運動のような単純な運動でも,ターゲットへ到達可能な無数の軌道から最適な軌道を 1 つ選択するための制約条件を決定しなくてはならない。たとえば,トルク変化最小モデルでは,到達運動では各関節に生じるトルクの時間変化の 2 乗の総和を運動軌道全体にわたり積分した値が最小となるような制約が腕にかけられているとしており,不良設定問題を解いている (川人 1996) 。本講演では運動の計算理論を背景に運動にまつわる神経心理学的症状 (失書症,失行症,視覚性失認の模写運動) の検討を試み,運動の計算理論と神経心理学の接点を模索した。
  • 岩村 吉晃
    2006 年 26 巻 3 号 p. 253-260
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    アクティヴタッチについて,その研究史と筆者が行った大脳メカニズムの研究をふりかえり,これに関連する最近のヒト体性感覚中枢の研究を紹介した。さらに触認識のしくみ追求の立場から,頭頂葉における体性感覚と視覚の統合に関する研究を概観するとともに,触認識中枢をめぐって後頭葉における視覚と体性感覚の相互作用について最近の知見を紹介した。
シンポジウム:高次脳機能障害支援モデル事業
  • 椿原 彰夫, 三村 將
    2006 年 26 巻 3 号 p. 261-262
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
  • 中島 八十一
    2006 年 26 巻 3 号 p. 263-273
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害支援モデル事業は,高次脳機能障害をもつ者に適切な医療·福祉サービスを提供することにより,社会的に自立した生活を送ることができるようにするための支援体系を整備する試行事業であった。5 年間にわたり集積された外傷性脳損傷,脳血管障害,低酸素脳症などを原因疾患にもつ 424 名の症例の集約分析とサービス提供の実践を通じて収集された詳細な調査結果に基づいて,「高次脳機能障害診断基準」「高次脳機能障害標準的訓練プログラム」「高次脳機能障害標準的社会復帰·生活·介護支援プログラム」が作成された。これらにより,行政的に高次脳機能障害者としてサービスを受ける対象者が明確にされ,社会復帰のために必要なサービスの提供方法が具体的に示された。今後は,障害者自立支援法の施行により一般施策としてこれらを用いた支援サービスの提供が全国的になされる。
  • 大橋 正洋
    2006 年 26 巻 3 号 p. 274-282
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    モデル事業の間に,国立リハセンターのデータベースへ登録された高次脳機能障害は 424 例であり,この 76 %が脳外傷であった。米国では脳外傷法が制定され,行政が毎年多額の補助金を,脳外傷発生数調査や脳外傷者の地域生活支援のために支出している。神奈川リハ病院においては,モデル事業の間に外来を受診した脳損傷者が増え,その 68.3 %が脳外傷者であった。それらの患者の調査では,身体的に障害が軽度でも認知的に障害が重度である脳外傷者の障害像が明確に示された。脳外傷リハにおいては病院治療終了後も継続的な支援が必要となる。モデル事業後の高次脳機能障害への取り組みは,障害者自立支援法のもとで都道府県に 1ヵ所「高次脳機能障害支援センター機能」を有する拠点を指定し,そこに「高次脳機能障害支援コーディネータ」を配置して,総合相談,専門的マネジメント支援,地域支援,啓発と研修活動を行うことになる。
  • 阿部 順子
    2006 年 26 巻 3 号 p. 283-289
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    心理士は,認知リハビリテーションとして,認知障害を改善するための訓練および,障害への対処法を学ぶ訓練を行う。さらに,本人を取り巻く支援の環境を作るために心理教育を行う。これらのトータルなかかわりによって高次脳機能障害者の社会生活への適応を支援している。実際,モデル事業において心理士は,リハスタッフの中で高次脳機能障害に対する関与時間がもっとも多かったが,関与時間の 4割がカウンセリングで占められていた。名古屋リハでは高次脳機能障害データベースの分析を通して脳外傷後の高次脳機能障害の回復について検討した。神経心理学的検査の結果,脳外傷者の認知機能は受傷後 1年までの回復がもっともよく,早期に訓練を開始した場合および若い年代の回復がよいことが示された。最終的に,脳外傷者の社会生活への適応の様相を GAFの評定を通して明らかにし,適応を改善するアプローチの実際について事例を報告する。
  • 白山 靖彦
    2006 年 26 巻 3 号 p. 290-298
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    外傷性脳損傷を中心とする高次脳機能障害者の問題発生の多くは,医療を終え地域·社会生活に移行した時点がはじまりとされている。すなわち,記憶·注意·遂行機能障害,社会行動障害などの機能障害によって,就労および在宅生活の維持や他者との関係性を良好に保持できず,いわゆるドロップアウトしてしまうためである。こうした問題に対して,医療から福祉の対応に連続性をもたせ,リハビリテーション (以下「リハビリ」という) の枠を医学的なものに限定せず,職業的リハビリ,社会的リハビリ,認知的リハビリを包括的に提供するシステム構築を目的に「三重モデル」を創設した。三重モデルでは,早期から支援コーディネーターを設置し,生活·職業上などの総合的な相談支援および救命から地域·社会生活に至る連続したケアを提供して一定の成果を得ている。本稿ではこうした新たな医療·福祉連携モデルである三重モデルについて紹介する。
  • 加藤 元一郎
    2006 年 26 巻 3 号 p. 299-309
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害支援モデル事業において作成された高次脳機能障害診断基準を紹介し,その問題点をいくつか指摘した。また,高次脳機能障害の診断に難渋すると思われるケース,すなわち,外傷後ストレス障害 (PTSD) や機能性健忘に高次脳機能障害が重畳した症例,器質的脳病変が MRI,脳波,脳血流検査などで検出されない症例,児童期に脳外傷を受け青年期·成人期に症状が顕在化した症例,幻覚や妄想を主症状とした高次脳機能障害の症例について,その臨床症状,脳画像所見,認知検査の成績などを紹介した。
特別報告
  • 加藤 元一郎, 注意·意欲評価法作製小委員会
    2006 年 26 巻 3 号 p. 310-319
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会) Brain Function Test 委員会—注意·意欲評価法作製小委員会は,標準注意検査法 (CAT : Clinical Assessment for Attention) と標準意欲評価法 (CAS : Clinical Assessment for Spontaneity) の開発をほぼ終了した。この 2 つの検査は,脳損傷例に認められる注意の障害や意欲·自発性の低下を臨床的かつ定量的に検出·評価することを目的としている。この報告では,CAT と CAS の概要を示し,信頼性の検討,健常例データの集積と加齢変化の検討,脳損傷例データの解析,カットオフ値設定などの標準化のプロセス,および CAT と CAS のプロフィール用紙などを簡単に紹介した。
原著
  • 大沢 愛子, 前島 伸一郎, 種村 純, 関口 恵利, 板倉 徹
    2006 年 26 巻 3 号 p. 320-326
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    “もの忘れ外来”を受診した高齢者に対し,Auditory verbal learning test (AVLT) を施行し,疾患の違いによる記憶能力の成績を比較した。対象はアルツハイマー病 (AD) 114 名,血管性認知症 (VD) 68 名,レビー小体病 (DLB) 6 名,前頭側頭型認知症 (FTD) 25 名,Mild cognitive impairment (MCI) 49 名,および非認知症·非 MCI (CS) 46名であった。短期記憶と全即時記憶は,CS 群に比べ,MCI および認知症の各群で顕著に低下を認め,MCI と認知症群の間にも差を認めた。言語学習能力は MCI や認知症群が,CS 群に比べ,明らかに低下していた。 MCI は AD に比べて良好であった。AVLT の学習曲線は,CS 群に比べ,MCI,認知症群の順に平坦化した。逆向性干渉効果は CS 群より MCI や認知症の方が高く,MCI と AD ,AD と FTD の間にも差を認めた。再認は,CS 群と MCI の間で差を認めなかった。しかし,MCI と AD,VD,DLB の間で有意な差を認めた。これらの結果は,AD と FTD の記憶障害が異なる基盤を有する可能性を示唆するものであった。MCI では,情報処理過程のうち,符号化や貯蔵の障害のみで検索過程は保たれているが,認知症では検索過程にも問題があると思われた。
  • 大沢 愛子, 前島 伸一郎, 種村 純, 関口 恵利, 板倉 徹
    2006 年 26 巻 3 号 p. 327-333
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/05
    ジャーナル フリー
    “もの忘れ外来”を受診した在宅高齢者に対し,言語流暢性課題 (WFT) を施行し,その意義について検討した。対象は 65 歳以上の高齢者 276 名であった。WFT は意味カテゴリー流暢性課題 (CFT) と文字流暢性課題 (LFT) を行った。認知症と診断できたものは 170 名で,アルツハイマー病 88 名,前頭側頭型認知症 21 名,レビー小体型認知症 5 名,血管性認知症 56 名であった。Mild cognitive impairment (MCI) は 39名であった。CFT,LFTの成績は,健常群,MCI 群,認知症群の順に高く,それぞれの群間に明らかな差を認めた。しかし,認知症をきたす疾患群の間で差は認めなかった。CFT の再生語数はいずれも LFT の再生語数より多かった。以上より,WFT は認知症を見出すために有用であるが,その成績で認知症のタイプを鑑別することは難しいものと思われた。
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