高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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28 巻 , 4 号
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原著
  • 近藤 正樹, 望月 聡, 小早川 睦貴, 鶴谷 奈津子, 河村 満
    2008 年 28 巻 4 号 p. 352-360
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
      本研究ではAlzheimer 病が疑われる症例(64 歳,男性,右利き)にみられた伝導性失行を報告した。失行検査(自動詞的行為では口頭命令条件,模倣条件で検討した。物品を使用する他動詞的行為では口頭命令条件,検者の動作を模倣する模倣条件,物品が視覚提示されるが触れずにパントマイムを表出する視覚提示条件,実使用条件で検討した。),姿態模倣検査(4 課題,手指形態模倣 : 手の位置や手首の形を一定にし,手指の形が異なるものを模倣する。手位置模倣 : 手指形態を一定にし,手の方向と頭部顔面に対する位置を模倣する。Head 試験 : 手—眼—耳試験,一側の上肢・手を用いて身体部位を指さす。Grunbaum 試験 : 両側の上肢・手を同時に用いて身体部位を指さす。) を実施した。失行検査では,他動詞的行為のパントマイム模倣に選択的な障害を呈した。また検査者の姿態形態を模倣する姿態模倣検査では,手指形態・方向・位置や身体部位定位の誤りに加え,左右の混乱や交叉の欠如,鏡像動作が認められた。他者の身体部位情報を自己の身体部位情報に変換する過程での障害が示唆され,これが伝導性失行出現の一要因となっている可能性がある。
  • 吉村 貴子, 前島 伸一郎, 大沢 愛子, 関口 恵利
    2008 年 28 巻 4 号 p. 361-372
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
      時計の絵および指定された時刻を描く Clock Drawing Test (CDT) について,さまざまな実施および評価方法が提唱されている。それぞれの信頼性や妥当性などについての研究は多いが,多数の CDT 実施および評価方法を同一症例群に施行し比較した報告はない。今回われわれは,“もの忘れ”外来を受診した患者41 名 (男性11 名,女性30 名) に対して,さまざまな CDT 実施および評価方法を多く比較することにより,それらの信頼性と妥当性,そして認知症診断への役割について検討した。CDT の施行中の症例の様子と症例のプロフィールなどを知らない評価者2 名がそれぞれの CDT を採点した。
      その結果,その他の神経心理学的検査と相関が高く,年齢や教育歴の影響を受けにくく,罹患期間をより評価し,また認知症の重症度や類型診断への一指標として有用な方法は,外円をあらかじめ示した CDT である可能性が示された。
  • 松井 三枝, 三村 將, 田渕 肇, 加藤 奏, 鈴木 道雄, 葛野 洋一
    2008 年 28 巻 4 号 p. 373-382
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
      前頭葉性行動質問紙 (FBI) の日本版を作成し,その有用性の予備的検討を行った。対象は局在性脳損傷 (LB),アルツハイマー型認知症 (AD),軽度認知機能障害 (MCI),前頭側頭型認知症 (FTD) を含む33 名の患者および健常高齢者24 名であった。全員に FBI,WAIS — R 知能検査,WMS — R 記憶検査およびウィスコンシン·カード分類検査 (WCST) を施行した。結果,LB,AD, FTD は健常高齢者より FBI 得点が有意に高く,疾患群により項目の特徴が異なった。FBI で認められた行動特徴はWCST などの神経心理学検査所見とは関連がなかった。以上から,LB,AD,FTD には前頭葉性行動の何らかの問題があると示唆されたが,FBI で評価される所見は神経心理学検査所見とは異なる局面であると推測された。FBI は健常値との比較で脳損傷患者や変性疾患の認知行動障害を検出するために有用と推測され,さらなる検討が望まれる。
  • 船山 道隆, 加藤 元一郎, 三村 將
    2008 年 28 巻 4 号 p. 383-391
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
      限局性右前頭葉脳出血後,場所に関する重複記憶錯誤が出現した1 例を報告した。本例の特徴は,地理的定位錯誤(自分が現在いる場所の同定の錯誤),二重見当識を経て,「同一の病院が複数存在する」という場所の重複記憶錯誤に至った経過を詳細に追えた点である。本症例の経過を通じて,重複記憶錯誤の成立過程を考えると,その症候は,視空間障害による客体の定位障害に因るものではなく,自己の空間ないしは場所への定位障害から発展する可能性が考えられた。また,重複記憶錯誤を引き起こす責任病巣としては,右前頭葉背外側の機能低下が最も重要と考えられた。
  • 斎藤 文恵, 加藤 元一郎, 村松 太郎, 藤永 直美, 吉野 眞理子, 鹿島 晴雄
    2008 年 28 巻 4 号 p. 392-403
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
      漢字に選択的な失書を呈したアルツハイマー病と思われる症例を報告した。症例は51 歳右利きの男性で,漢字が思い出せずまた書けないことが主訴であった。本症例の特徴は,軽度の記憶障害および構成障害を認めるが,全般的知的機能障害が軽度であり,また失行,失認は認められず,さらに言語症状としては失語が存在せず,文字の読みにも問題がなく,仮名書字の障害が極めて軽度であるのに対して,漢字書字の障害が重度であったことである。漢字構造の結合・分解課題や漢字の正誤弁別課題の結果から,本症例における漢字失書は,漢字の視覚的イメージ (字形) の想起困難,および書字行為の間,そのイメージを保持することの障害により生じた可能性が高いと考えられた。またこの背景には,漢字の視覚的イメージの細部の想起障害と書字運動覚の障害の存在が示唆された。MRI および脳血流画像所見から,本症例の漢字失書の出現には,両側頭頂葉および左側頭葉後下部の障害が関与していると想定された。
  • 出田 和泉, 種村 純, 岸本 寿男
    2008 年 28 巻 4 号 p. 404-415
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
      アマチュア尺八奏者でピアノの訓練経験もあったKM は,五線譜および尺八譜の読み書きが可能な二楽譜使用者であった。くも膜下出血後尺八譜の読み書き障害は軽度だったが,五線譜の読み書き能力は顕著に障害され,既知のメロディーを聴いて書譜する課題や音読課題では,五線譜と尺八譜の成績が乖離した。楽曲を正確に記譜する五線譜に対し,尺八譜は楽器の操作法を仮名文字で表記する奏法譜である。西洋音楽と異なり邦楽には,演奏する前にリズムを付けて音名を唱える「唱譜」という口伝の習得様式が存在するため,楽譜は唱譜によって暗記した演奏法を記憶から再生するための補助手段として用いられる。既知のメロディーの書譜,音読課題で尺八譜が五線譜よりも成績が良かったのは,唱譜で覚えた記憶から正答を引きだした可能性が考えられた。このような尺八譜の特異性が楽譜の読み書き課題において成績の乖離に関与したと考えられた。
  • 用稲 丈人, 狩長 弘親, 山本 陽子, 八木 真美, 種村 純
    2008 年 28 巻 4 号 p. 416-425
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
      脳損傷者の社会復帰の判断指標となる神経心理学的検査を検討した。高次脳機能障害者38 名(年齢17 歳以上55 歳未満,FIQ ≧ 80,失語症や視空間認知障害を除く)を就労群と非就労群に分類し WAIS ─ R,RBMT,BADS,CAT(CPT 除く),TMT,仮名ひろいテストの成績を比較した。その結果,仮名ひろいテスト,Tapping Span forward,Visual Cancellation Task 2,Memory Updating Test 4 span,視覚性再生II,BADS 年齢補正得点,修正6 要素検査において有意に非就労群が成績低下を示し,修正6 要素検査は作業能力を直接的に反映すると考えられた。また,就労形態も社会的要因として関連していた。一般に,就労・非就労を神経心理学的検査で判断するには限界がある。しかし今回,注意,記憶検査に加え,遂行機能検査が社会復帰の判断指標に有用である結果を得た点は,今後の就労支援へ果たす意義は大きいと考える。
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