高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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37 巻, 3 号
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シンポジウム II : 古典的症例の今日的意味
  • 板東 充秋, 西川 隆
    2017 年 37 巻 3 号 p. 241-242
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー
  • 辰巳 寛, 佐藤 正之, 前島 伸一郎, 山本 正彦, 波多野 和夫
    2017 年 37 巻 3 号 p. 243-252
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      19 世紀フランスの外科医 Paul Broca (1824 ~1880) による Leborgne とLelong の臨床神経病理学的報告は, 今日の「失語症学aphasiology」あるいは「言語の神経心理学 neuropsychology of language」の誕生に大きく貢献した。前頭回の一つ (おそらく第三) , une circonvolution frontale (probablement la troisième) を「構音言語の座 le siège de langage articulé」として推究した Broca は, その領域の部分的損傷により惹起する特異な話し言葉の喪失 perte de la parole をaphémie と名付けた。 Broca の aphémie は, Armand Trousseau (1801 ~1867) によるaphasie/aphasia (失語症) への呼称変更を経て, Carl Wernicke (1848 ~1905) による感覚失語sensorische Aphasie, および伝導失語 Leitungsaphsie の記載, その後の Ludwig Lichtheim (1845 ~1928) の失語図式 Wernicke-Lichtheimʼs AphasieScheme (1884) による古典的失語論の萌芽とともに, 当初 Broca が提唱した言語病理像とは些か様相の異なる「皮質性運動失語 kortikale motorische Aphasie」として位置付けられ, 以後広く認知されるに至った。 Broca の独創的研究から派生した失語学的問題の幾つかは, 現代に至っても決定的解答は得られておらず, 失語症研究の最重要テーマとして存在し続けている。

  • 近藤 正樹
    2017 年 37 巻 3 号 p. 253-259
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      古典症例を振り返ることは, 症候がまとめられた時の経緯を理解し, 症候の本質をとらえ直すことにつながる。特に失行研究では依然として controversial な問題が残されており, 失行研究の嚆矢である Liepmann の最初の報告例 (第一例) の内容を知り, 彼の考えを振り返ることは重要と考える。
      本稿では, まず Liepmann の背景について述べ, 次いで第一例の紹介と考察を記載し, その後の Liepmann の報告と失行論を補足した。最後に第一例の問題点 (あるいは問題提起) について述べた。Liepmann の失行論から顧みて, 第一例は, 右手の失行, 多彩な動作の障害の全てが失行によるものでない, 失語の合併の 3 点で実は特殊例であったのではないかと考えた。
      失行研究は Liepmann が報告した局所脳損傷だけでなく変性疾患を含めた領域まで広がっており, 原点に戻って失行の症候を見直していくことも必要と思われる。

  • 海野 聡子
    2017 年 37 巻 3 号 p. 260-266
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      1953 年, 長年てんかん発作に苦しんでいた27 歳の男性に, 両側の側頭葉内側部を切除する実験的な手術が行われた。手術は成功し, 発作は軽減したが, 重篤な記憶障害となった。1957 年, この症例が発表された当時, 記憶は脳に局在を持つとは考えられていなかった。この結果は, 記憶が脳の機能の 1 つであり, 側頭葉内側部が記憶に重要であることを示した。本症例の今日的意味は, たった 1 人の患者が, 当時の常識を覆し, 記憶システムの解明をもたらしただけでなく, さらなる探求の端緒となったことである。症例H. M. として, この男性は神経心理学史に永遠にその名を刻まれることとなる。

  • 今福 一郎
    2017 年 37 巻 3 号 p. 267-272
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      1944 年に Paterson とZangwill は右大脳半球に損傷を負った症例について論文を発表した。この症例は, 今日では「半側空間無視」ともいえる症候を呈していた。Paterson と Zangwill がこの症候を最初に報告したわけではないが, それまでの報告と比べて注目に値する点がいくつかある。それらは, 病変が右下頭頂小葉に限局していると同定している点, 患者ができることとできないことを詳細に調べている点, できないことについて, それがどのような理由からかをさまざまな観察と実験に基づいて客観的かつ定量的に分析している。彼らの論文は現代の半側空間無視モデルの先駆となるものであり, 熟読することによって多くのことを学ぶことができる。

シンポジウム III: 高次脳機能障害:社会的行動障害支援と展望
  • 原 寛美, 中島 八十一
    2017 年 37 巻 3 号 p. 273-274
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー
  • 中島 八十一
    2017 年 37 巻 3 号 p. 275-280
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      高次脳機能障害者に向けての支援は順調に進捗を見せている一方で, 社会的行動障害の強い症例への対応は困難を極めており, 支援拠点機関でも取り組むべき大きな課題となっている。厚生労働省事業である「高次脳機能障害とその関連する障害に対する支援事業」では, 社会的行動障害が強く対応困難であるばかりでなく, 当事者が居場所を失ってしまったり, 触法行為をするに至ったりするような処遇困難事例に対して, 研究班を組み, 社会的行動障害の強い症例の定義を明確にした上で, 実数・実態調査から対応方法の構築まで取り組んでいる過程にある。目指すところは地域において精神科医療を組み込んだ地域支援体制の構築により, 疲弊した当事者及び家族の生活上の安寧を回復することにある。

  • 上田 敬太
    2017 年 37 巻 3 号 p. 281-287
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      社会的行動障害とは, 同種の生物の集団の中で生じる行動の障害のことである。社会的行動の行動のみが障害される場合, DSM-5 では「他の医学的疾患によるパーソナリティの変化」と定義される。しかしながら多くの場合は, 社会的行動障害の基盤として, 社会的認知の障害が想定され, その場合は神経認知障害群に分類されることになる。社会的認知の多くを占める要素として, 情動価をもった情報の処理が挙げられる。本稿では, 情動価をもった刺激に対する認知から反応までの処理過程を, 認知, 反応, および最終的な情動の表出過程に分け, それぞれの過程に対応する病態について解説を行った。このように整理することによって, 異なる機序によって生じる似た病態を正しく理解することが可能であり, 治療や対処に役立つと考えられる。

  • 宍戸 康恵
    2017 年 37 巻 3 号 p. 288-292
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      当院は 2004 年に高次脳機能障害支援拠点病院の指定を受け, 長野県東部地域における高次脳機能障害診療の中心を担っている。当院では, 医学的な管理が中心となる急性期は脳神経外科や神経内科, リハビリテーションが中心となる回復期は当科, 退院後の生活期は支援ワーカー等の福祉分野と, 支援者の主体を移しながらも, 全経過において当科が関わることで, 切れ目ない支援を行っている。また, 高次脳機能障害の中でも社会的行動障害支援においては, 精神科の役割も重要である。社会的行動障害による問題に満点の対応をすることは困難で, むしろすっきり解決できないことの方が多いが, 当院では, ① 基本的な対応をきちんとする, ② 他科・多職種と協力して支える, ③ 投げ出さない, ④ 見守る, の 4 点を基本として支援をしている。 社会的行動障害支援では, 患者や家族に寄り添い, 一緒に悩みながら, それぞれの立場で, その時々にできる対応を一生懸命行っていくことが大切であると考える。

  • 武澤 信夫
    2017 年 37 巻 3 号 p. 293-300
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      2007 年 4 月 1 日~2016 年 3 月 31 日までに当院に紹介された高次脳機能障害者の連続症例 139 名を対象として分析した。社会的行動障害なしが 81 名 (58.3%) , 社会生活上に問題となる社会的行動障害を 38 名 (27.3%) に認め, より重篤な社会的行動障害による社会生活が困難となった事例を 20 名 (14.4%) に認めた。困難事例の特徴は, 平均年齢 35.9 歳と若年で, 男性が女性の 4 倍で, 原因疾患としては外傷性脳損傷に多かった。困難事例では, 衝動性が強い症例が 16 名, 衝動性と知的低下を伴う症例が 6 名, 幻覚妄想を伴う症例が 4 名であった。困難事例では, 薬物療法や精神科との連携がなされ, グループ訓練, 就労支援などが提供されていた。より重篤な症例では精神科入院治療, 精神科デイケア, 訪問看護や保健所などとの連携がなされていた。また, 支援拠点の相談事業における困難事例は 1.9%にみられ, 頭部外傷後精神病では数%の報告があり, 決して稀とは言えない。

  • 小西川 梨紗
    2017 年 37 巻 3 号 p. 301-307
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      平成 13 年から始まった「高次脳機能障害支援モデル事業」の後, 平成 18 年から「高次脳機能障害支援普及事業」が開始され, 各都道府県において支援拠点機関の設置が進められた。支援拠点機関としては病院やリハビリテーションセンターの他, 社会福祉法人にも設置されている。
      滋賀県は社会福祉法人が支援拠点機関を受託している数少ない県であり, その中で医療機関を持たないということの他, 「社会の中」で本人を捉える支援を考えること, ライフステージに応じ長きにわたり伴走するといった特長があると考えられる。このような中で, 交通事故後の人格変化が激しく脱抑制と内省の難しさにより, 万引きなど触法行為を繰り返す 50 代男性の事例を通し, 支援拠点機関を担う社会福祉法人として社会的行動障害が強く表れる方に対し支援者ができたことと今後の課題について考察を行いたい。

エクスパートに聞く 5
  • 綿森 淑子, 本多 留美
    2017 年 37 巻 3 号 p. 308-313
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      高次脳機能障害のリハビリテーション (以下, リハ) の本質は, その人にとって必要な生活上のゴールを達成し, その人にとって価値のある活動への参加を支援することである。標準的な検査の結果が〝底辺〟レベルや, 〝天井〟レベルの患者であっても, 適切なリハ・プログラムの恩恵を受けることにより, より自立した生活が可能となり, 生活の質を向上させることができる。本稿では, 記憶障害を含む高次脳機能障害を抱えて暮らす人の家族2 組について, 家族の話に〝耳を傾ける〟ことによって生活の中で対応を要する具体的な課題を明らかにし, 長期にわたるリハの治療戦略に生かす取り組みについて解説する。家族は, 約 20 年にわたる高次脳機能障害の人との暮らしを振り返って, 「何年たっても闘いは終わらない」現実と, 「検査成績ではなく, 生活の中の障害に目を向けてほしい」という医療関係者に向けた要望を語った。

エクスパートに聞く 6
  • 横張 琴子
    2017 年 37 巻 3 号 p. 314-320
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

    脳卒中後の重い障害を残したまま訓練終了となり, その後適切な支援を得られず, 重篤な失意や抑うつ状態の生活を余儀なくされている慢性期重度失語症者とそのご家族は今なお少なくない。そうした方々への支援を目的として, グループ訓練, 自主グループ, 友の会, 作品展などを開催し, 家族を含む仲間づくり, 家庭学習, コミュニケーション活動, 書・画制作などの指導と支援を継続してきた。その中で殆ど全ての失語症者に言語を含む各種機能の改善と, 家族ともどもの心理や生活の著明な活性化が認められた。本稿では, 実施した主な支援の内容と方法, およびこれらの支援を 10 ~20 年継続した 3 症例についての経過を報告し, さらに参加家族らの手記を通し, 「回復困難」とされることの多い慢性期重度失語症者らに内蔵されている大きな再生力の存在と, それをみつけ育てる適切な長期支援の有用性を述べた。

原著
  • 元木 雄一朗, 武井 徳子, 東川 麻里, 波多野 和夫
    2017 年 37 巻 3 号 p. 321-329
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      特異な症状変化の経過を示した非失語性呼称障害の症例を報告した。症例は 54 歳の男性で, くも膜下出血にて発症した言語障害例である。重要な特徴は, 復唱が一貫して良好だったことである。発症 1.5ヵ月時, 発話は流暢で, 呼称では無関連錯語, 語新作, 記号素性錯語が頻発する語新作ジャルゴン様発話であった。その後, 言語症状は全般的に改善し, 発症 7.5 ヵ月時には, 語新作が消失し, 記号素性錯語と無関連錯語が残存した。この経過は, 当初, 超皮質性感覚失語と非失語性呼称障害が合併しており, その後双方の改善を認めたが, 失語の要素がより早期に改善し, 非失語性呼称障害が少なからず残存した, と解釈された。語新作や記号素性錯語の分析を通じて, これらの語新作は単なる不規則な語音の連続ではなく, 複数の記号素の結合によるという「雑種語彙仮説」 (Buckingham 1981) による説明が可能と考えられた。

  • 松元 瑞枝, 市川 勝
    2017 年 37 巻 3 号 p. 330-338
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      失語症のある人 (Persons With Aphasia, 以下 PWA) がインフォームド・コンセント (Informed consent, 以下 IC) について抱いている思いを明らかにし, 必要と考えられる支援について検討した。在宅生活を送っているPWA 21 名に半構造化面接を行って逐語録を作成し, 質的に分析した。その結果, 言語障害や退院などに関する不安, 変化する言語症状についての自覚, リハビリテーション (以下リハ) 内容について理解困難, IC の説明不十分又は覚えていない, コミュニケーション支援に関するニーズ, 不 十分な同意の確認などの 12 のカテゴリーが生成された。従って, 医療関係者は PWA への IC の説明や同意の確認の際には, コミュニケーション支援を提供する必要があると考えられた。例えばリハ開始の説明の際写真や絵を用いるなどが考えられた。そして ICは必要に応じて繰り返すことが求められており, また, 言語聴覚士は適切なコミュニケーション支援について医療従事者に伝える役割を担う必要があると考えられた。

  • 浦野 雅世, 谷 永穂子, 武藤 里佳, 穴水 幸子, 三村 將
    2017 年 37 巻 3 号 p. 339-346
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー

      動詞の理解 / 産生が二方向性に障害された症例の 2 時点の経過を報告した。症例は 40 代男性, 左被殻出血により流暢型失語症を呈した。理解/ 産生課題いずれにおいても名詞に比し動詞での成績低下が明らかで, 1 時点目に比し 2 時点目で全体成績に改善を認めながらもなお, 名詞>動詞の傾向は不変であった。また動詞産生課題では, 提示された動作絵に見合う動詞が産生されなくとも正しい格助詞が産生されることが少なくなく, 格助詞の産生は動詞産生の成否とは必ずしも一致しなかった。このような結果から, 動詞の意味は文法機能と密接でありながらも, 独立したシステムであることが示唆された。

短報
  • 野村 心, 甲斐 祥吾, 吉川 公正, 中島 恵子
    2017 年 37 巻 3 号 p. 347-352
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル フリー


      高次脳機能障害における社会的行動障害に対しての治療的介入は確立していない現状であるが, 脳損傷後の行動障害に対して, 患者の気づきのレベルや抑制コントロールに合わせて行動的アプローチと認知的アプローチなどの治療の形を変えていく必要がある (三村 2009, Sohlberg ら 2001) 。しかし, 気づきの定量化は難しく治療を選択・変化させる指標は明確ではない。今回, anger burst を呈した若年症例について, コーピング活用の観点から後方視的に検討し, アプローチの比重を変化させるタイミングを考察した。その結果, 行動的アプローチ期で学習したコーピングを活用して, 怒りに直面した際の適応行動が出現し, Social Skills Training (SST) などの場面で自発的にコーピングの活用がみられた時期, つまり, 自己の不適切行動を修正しようとする意欲が生じた時期が認知的アプローチへ変化させるタイミングと考えられた。

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