高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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31 巻 , 4 号
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原著
  • 中川 良尚, 佐野 洋子, 北條 具仁, 木嶋 幸子, 加藤 正弘
    2011 年 31 巻 4 号 p. 373-383
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2013/01/04
    ジャーナル フリー
         失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として, 失語症例の超長期的言語機能回復後の経過, および言語機能に低下を示した症例の特徴について検討した。対象は, 右利きの左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した 270 例中, 2 年以上経過を追跡することができ, かつフォローアップの最終評価時年齢が 70 歳以下であった 151 例。言語機能回復訓練実施中あるいは訓練終了後に, SLTA 総合評価法合計得点が低下した症例が 151 例中 37 例 (24.5%) 存在した。内訳は, 最高到達点から 1 点低下した症例が 19 例, 2 点以上低下した症例が 18 例であった。
         SLTA 総合評価法得点を合成項目別に検討すると, 約 90% の症例で訓練によって回復した合成項目に低下を認めたことから, 訓練により回復した機能は必ずしも保持されるのではなく, 脆弱であるとことが示唆された。
  • 生方 志浦, 磯野 理, 種村 留美
    2011 年 31 巻 4 号 p. 384-392
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2013/01/04
    ジャーナル フリー
    症例は 68 歳女性, 右後大脳動脈領域の脳梗塞後に街並失認をきたした。基本的な視知覚機能は保たれていたが, 状況図の同定では全体把握が困難であり, 同時失認が認められた。街並の同定や描画においても, すべてが部分部分のつなぎ合わせであり, また街並を想起する際にも全体をとらえることが困難であった。街並を認知するには, 各建物とそのレイアウトを理解し, それらをまとめ上げて意味に到達することで同定に至る。本症例は右海馬傍回病変によって街並のレイアウト, context の理解という全体把握の機能が損なわれたことで, 複雑な視覚対象の認知が困難となり, 街並失認が生じたと考えられた。本症例の示すような街並失認と同時失認は, 全体把握の障害という共通した特徴を持ち, その背景基盤が極めて近接した障害であることが示唆された。
  • 赤沼 恭子, 目黒 謙一, 目黒 光恵, 山口 智, 石井 洋
    2011 年 31 巻 4 号 p. 393-400
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2013/01/04
    ジャーナル フリー
    地域在住の軽度認知障害 (MCI) および認知症高齢者を対象に, 書字障害の文化間の影響を検討するため, 日本在住者とブラジル移民の書字データベースをとくに運用エラーに焦点を当てて後方視的に分析した。日本在住者は田尻プロジェクト・1998 年有病率調査の対象者 625 名, ブラジル移民は 1997 年調査の対象者 327 名である。臨床的認知症尺度 (CDR) に基づき健常 (CDR 0), MCI (CDR 0.5), 認知症 (CDR 1 +) 群に分類し, 自由書字課題, 文の書き取り課題の運用エラーを分析した。その結果, 自由書字は日本・ブラジル間, および各対象群の CDR 群間で有意な差は認められなかったが, 書き取り課題では日本在住群よりもブラジル移民群のほうが, 健常群における「置換エラー」を示した対象者が多く, 認知症群における「省略エラー」を示した対象者が多かった。しかし MCI 群ではブラジル移民群よりも日本在住群のほうが「置換エラー」を示した対象者が多かった。ブラジル移民群は使用頻度の低さの理由から CDR 0 群でも「置換エラー」が日本在住群よりも多くの対象者で認められ, CDR 0.5 群では教示された例文を音韻的に同じまたは似ている文字で記載した場合が多く, このことはブラジル移民群より日本在住群で, 常用している話し言葉により引っ張られてしまった可能性がある。
  • 中薗 寿人, 松永 薫, 中島 雪彦, 永友 真紀, 中西 亮二, 堤 文生
    2011 年 31 巻 4 号 p. 401-410
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2013/01/04
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病 (PD) における日常生活上の遂行機能障害について検討するために, PD 群 29 名と対照群 22 名を対象に, BADS 日本版の遂行機能障害の質問表 DEX と遂行機能検査であるWisconsin Card Sorting Test Keio Version (KWCST), Trail Making Test (TMT), Paced Auditory Serial Addition Test (PASAT) を施行した。PD 群は DEX の20 項目中 8 項目, 遂行機能検査は全課題で有意差が認められた。次に PD 群の中で DEX 8 項目中, 遂行機能検査と有意な相関がみられた 6 項目を抽出した。今回抽出した DEX 6 項目の総得点 (以下 DEX-PD と略) を遂行機能検査とロジスティック回帰分析を行った結果, PD 群を予測するために DEX-PD と KWCST が重要な因子であると考えられた。また, DEX-PD の Receiver-Operating-characteristic Curve (ROC 曲線) の評価からArea under the curve (AUC) は 0.777 を示し, これらの結果から PD の ADL 上の遂行機能障害の評価としてDEX-PD の有用性が示唆された。
  • 高倉 祐樹, 大槻 美佳, 中川 賀嗣, 大澤 朋史, 谷川 緑野
    2011 年 31 巻 4 号 p. 411-421
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2013/01/04
    ジャーナル フリー
    発症時から失語症を認めず, 言語性短期記憶 (Short-Term Memory : STM) に選択的な障害を呈した 1 例を報告した。本例の知見から, 言語性 STM の解剖学的基盤は優位半球の側頭弁蓋~横側頭回近傍と示唆された。本例は数唱に比べ, 明確な意味を伴い, かつ同じ音韻系列を持つ文の復唱が良好 (例 : “8-2-3-1”の数唱は困難だが, “蜂に刺されて散々な一日だ”という文の復唱は可能) , 桁数付き数字の復唱が良好 (例 : “7-2-3”の数唱は困難だが, “ななひゃくにじゅうさん”の復唱は可能) , 無意味語系列に比べ有意味語系列の再生が良好であった。以上から言語性 STM における「容量」は必ずしも音韻情報量に依存せず, 意味の付与や情報のチャンク化の効率により決定されると考えられ, 既報告を支持した。さらに, 刺激提示の時間間隔や素材の変化により把持成績には差異が生じており, 援用されるストラテジーもそれぞれ異なる可能性が示唆された。
  • 浦野 雅世, 三村 將
    2011 年 31 巻 4 号 p. 422-429
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2013/01/04
    ジャーナル フリー
    複数の事象の空間的な関係を表す文の理解能力を調べる目的で「関係の理解テスト」を作成し, この検査が統語処理能力の低下では説明できない水準の障害を検出しうるか, それは左頭頂葉病変に特異的な障害であるかを検証した。対象は左頭頂葉に病変のある軽度流暢型失語症例 5 名, 左頭頂葉に病変のない失語統制群 5 名 (軽度流暢型 3 名・軽度非流暢型 2 名), 左頭頂葉病変群と年齢をマッチさせた健常統制群 10 名である。統制群 2 群は「関係の理解テスト」で良好な成績を示したが, 左頭頂葉病変群では全例で低下を示した。しかし, 失語症構文検査, トークンテスト, 助詞理解検査では左頭頂葉病変群の成績は良好で, 「関係の理解テスト」の成績とこうした従来の文理解検査の成績との相関は明らかでなかった。これらの結果から「関係の理解テスト」は文の統語的側面とは性質の異なる, 空間的な関係を表す文の理解障害を検出するのに鋭敏であることが示された。
  • 秦 若菜, 藤田 郁代, 安田 菜穂, 雪本 由美, 福田 倫也
    2011 年 31 巻 4 号 p. 430-438
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2013/01/04
    ジャーナル フリー
    流暢性失語症者における格助詞や動詞の接尾辞の誤用に関する研究は少なく, その出現機序は明らかになっていない。本研究では, 文の産生時に助詞の誤りを認めた Wernicke 失語症 6 例の構文能力について, 動詞の文法的特性の差異による障害特徴を検討した。自動詞・他動詞文表出検査を作成し, 対象者に文の発話をもとめた。課題文は自動詞・他動詞の対立のある動詞を含む文 (例 : コマが回る / コマを回す) と対立のない動詞を含む文 (例 : 犬が歩く / 字を書く) 各 40 文で, 各症例の両文の発話成績を比較した。その結果, 6 例中 2 例で自・他の対立のある文の成績が対立のない文より低下しており, 格助詞と動詞の接尾辞が一致しない誤りを認めた。しかし, 動詞の語幹部分の発話成績は対立の有・無による差を認めなかった。これは, 対立のある文は対立のない文より文法操作が複雑なためであり, 格助詞と接尾辞を関係付ける文法操作能力の障害が 2 症例における文の産生障害の中核であると考えられた。
  • 中島 明日佳, 船山 道隆, 小嶋 知幸, 稲葉 貴恵, 川島 広明, 青木 篤美
    2011 年 31 巻 4 号 p. 439-448
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2013/01/04
    ジャーナル フリー
    語義失語は, 井村 (1943) が, 日本語の特性を考慮した上で超皮質性感覚失語を捉え直した失語型であり, (1) 良好な復唱能力, (2) 言語理解障害, (3) 語性錯語を伴う発話障害, (4) 特徴的な漢字の障害, などを特徴とする。近年, 前頭側頭葉変性症の 1 亜型である意味性認知症 semantic dementia (SD) に伴う失語型として論じられることが多いが, 語義失語と意味記憶障害との関連は十分には調べられていない。今回われわれは, 静脈性の脳梗塞によって左側頭葉を前方から広範に損傷した後, 語義の理解障害と喚語困難を中核とする語義失語 (超皮質性感覚失語) を呈した 1 例について, 意味記憶の検討を行った。その結果, われわれが調べ得た範囲で, 意味記憶障害を示唆する所見は認められなかった。以上より, (1) 語義失語=SD ではないこと, (2) 記号である語彙項目とリファレントである意味記憶との間の相互の記号変換 (coding) の障害が存在すれば, 語義失語の定義を満たす失語像が出現することを指摘した。
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