高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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34 巻, 2 号
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特別講演
  • 松元 健二
    2014 年 34 巻 2 号 p. 165-174
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    内発的に動機づけられていた課題に対して,成績に応じた外的金銭報酬を付加すると,内発的動機は低下する(アンダーマイニング効果)。内発的に動機づけられて課題を行っているときは,外的金銭報酬がなくても,課題開始の合図に対して前頭前野外側部が反応し,課題をうまくこなすことができただけで線条体が反応したが,アンダーマイニング効果によって内発的動機が低下すると,課題開始の合図に対する前頭前野外側部の反応も,課題をうまくこなすことができたときの線条体の反応も,外的金銭報酬なしには見られなくなった。課題で用いる道具を指定されたときと自分で選んだときとでは,後者を人は好み,課題成績も高い。指定されたときは,課題に失敗すると前頭前野腹内側部の活動が顕著に下がったが,自分で選んだときにはそのような活動低下は見られなかった。これらの結果は,内発的動機づけとその変動には,前頭前野の外側部と腹内側部そして線条体が重要な役割を果たしていることを示唆している。
シンポジウム : リハビリテーションにおけるアパシーとその対策
  • 蜂須賀 研二, 前島 伸一郎
    2014 年 34 巻 2 号 p. 182-183
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
  • 蜂須賀 研二
    2014 年 34 巻 2 号 p. 184-192
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    Marin はアパシーを意識障害,認知障害,感情障害によらない動機付けの減弱と定義し,Levy & Dubois は1)情動感情処理障害によるもの,2)認知処理障害によるもの,3)自己賦活障害によるものの3 タイプに分類した。アパシーは臨床症状にもとづき診断され,やる気スコア,Neuropsychiatric Inventory,必要に応じて標準意欲評価法を用いて評価されるが,MRI や脳受容体シンチグラフィーで客観的に責任病巣を確認する必要がある。薬物療法としてドパミン系薬剤,ノルアドレナリン系薬剤,アセチルコリン系薬剤が用いられる。非薬物療法としては,促し,チェックリスト,面接と外的代償,行動の構造化,音楽療法等の報告はあるが十分なエビデンスはない。今後,原因疾患,責任病巣とアパシーのタイプ,重症度とその経過に配慮して,訓練方法の研究が必要である。
  • 髙橋 真紀
    2014 年 34 巻 2 号 p. 193-198
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    脳卒中後にうつ(PSD)やアパシーが出現することが知られているが,両者は混同されリハ医療の現場でも不適切な対応をされていることがある。そこで,回復期リハビリテーション(リハ)病棟のPSD とアパシーの発現頻度と,PSD へのSSRI 投与およびリハの実施がうつや脳卒中の障害に及ぼす影響を調査し,回復期リハ病棟におけるPSD とアパシーへの適切な対応について考察した。 回復期リハ病棟に入院中で精神科医がPSD と診断した脳卒中患者を塩酸パロキセチン投与群(パロキセチン群)かニセルゴリン投与群(コントロール群)に割り付けリハを行い,うつの重症度,歩行,ADL を評価した。その結果,PSD とアパシーの発現頻度は13.8%,30.6%であり,薬剤投与終了時においてパロキセチン群はコントロール群と比べうつがより改善していたが,歩行,ADL 能力には差がなかった。 回復期リハ病棟でPSD と診断した場合SSRI による薬物治療とリハの実施でうつが改善し患者の精神的負担を軽減できる可能性がある。アパシーに対しては,入院中は治療計画に基づいた指導と誘導,自宅退院後は活動量維持のための福祉サービスなどの利用や外来指導が有効である。
  • 船山 道隆
    2014 年 34 巻 2 号 p. 199-204
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    脳損傷後に出現するアパシーは,患者の予後に影響を及ぼすことが多い。本稿では,当院精神神経科に脳器質疾患による精神症状のために入院した115 例のアパシーの経過,および,アパシーが改善した群と悪化した群の要因分析を後方視的に行った。その結果,アパシーは改善するものの改善の速度は非常に緩やかであった。アパシーの悪化には脳器質疾患以外の身体疾患の悪化/ 出現が関連する可能性が考えられた。一方で,アパシーの改善には,身体拘束の解除など患者が自由になれる環境設定や集中的なリハビリテーションが関連する可能性が考えられた。アパシーに対して,身体疾患の管理や環境設定の重要性が示唆された。
ワークショップ : 失語症と認知症における音楽療法の実際
  • 種村 純
    2014 年 34 巻 2 号 p. 210-211
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
  • 前田 キヨ子
    2014 年 34 巻 2 号 p. 212-217
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    失語症者と認知症者に対して,音楽によるアプローチとコミュニケーションの実践から,しばしば両者の反応には明らかな違いがみられた。 脳血管障害の後遺症による身体機能の障害を有し,言語による他者とのコミュニケーションが難しい失語症者は,家族やリハビリスタッフ以外の人間関係を築くことが難しい。 多くの施設ではアルツハイマー病などの認知症と同じように対応するために,失語症者の持てる理解力・判断力を十分に生かしていない現状がある。 私は20 年前から能力の維持・改善や言語機能の回復を目的として,音楽活動を続けてきた。 言語リハビリ教室に参加している本人とその家族の例から,他者との交流が難しい失語症者に対して心のケアと認知機能の回復を目的とした音楽療法を行い改善が認められたのでその実践報告を検討した。 歌唱・音楽演奏による自信が,発声・発話・発語・ストレスの発散効果と人間関係の構築および地域交流への参加を可能にした症例から検討した。
原著
  • 尾中 準志, 幸田 剣, 東條 秀則, 田島 文博
    2014 年 34 巻 2 号 p. 218-225
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    立位が半側空間無視検査に及ぼす影響についての報告はない。本研究では,脳梗塞患者9 名(男性 3 名・女性6 名,年齢73.4 ± 4.1 歳)を対象とし,姿勢の違いによる半側空間無視検査への影響を検討した。 選択基準は意識障害がない,右利き,梗塞巣が右半球にある左片麻痺者,検査を遂行できる症例とした。 方法は,臥位・座位・立位の各姿勢で半側空間無視検査であるBells Test,Line Bisection,Scene Copy,星印抹消試験を実施し,各々の検査結果を比較した。検査はすべて同日中に実施し,姿勢の順序は無作為に決定した。座位より立位で検査結果が改善した(p <0.05)が,臥位と立位では差を認めなかった。立位により脳梗塞患者の空間性注意の病的な右方偏倚が改善している可能性がある。これらの知見は,筋紡錘やゴルジ腱器官からの求心性刺激,または筋収縮が原因であるかもしれない。
  • 前澤 聡, 二村 美也子, 藤井 正純, 松井 泰行, 若林 俊彦
    2014 年 34 巻 2 号 p. 226-233
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    脳腫瘍摘出の際,作業記憶の局在を術前に知ることは高次機能温存の鍵となる。我々は新たな手法として数唱課題 (digit span) を用いたfMRI を考案し,その有用性を検討した。4 人の脳腫瘍患者に対し術前評価として3TMR によるfMRI を施行。作業記憶局在評価のための数唱課題を行った。ブロックデザインで課題A では4 桁の逆唱,課題B では4 桁の順唱を行い,課題A から課題B を引き算し解析した。 結果として,左側の背外側前頭前野皮質 (DLPFC) (4/4 例) ,前部帯状回 (3/4 例) ,左頭頂間溝付近 (3/4 例) に賦活が認められた。これらの部位は他の言語機能タスクとは一部を除き異なっていた。本結果は数唱課題によるfMRI が作業記憶に関与する脳内局在を示している可能性を示唆する。N-back やreading span のfMRI より簡便であり負担が少ないため,脳腫瘍患者の術前評価として有用である。
  • 宇治 百合子, 長谷川 啓子, 山中 義崇, 真々田 賢司, 岩立 康男, 村田 淳, 佐伯 直勝
    2014 年 34 巻 2 号 p. 234-241
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    左側頭葉神経膠芽腫により中等度の失語症状 (聴覚的理解・復唱・呼称に強い障害) を呈した患者に,「コミュニケーション手段の確保」を目的とした言語マッピングを行った。課題は「振り仮名付き漢字単語の音読」。術中,明らかな陽性所見は認められず,腫瘍の9 割が切除された。術後,〝漢字単語の読解〟機能はおおむね良好に保たれ,日常コミュニケーションに役立った。中等度の失語症状を呈していても,「コミュニケーション手段の確保」を目的とした場合,有益な言語マッピングが行える可能性が示唆された。
  • 田村 至, 濱田 晋輔, 中川 賀嗣, 森若 文雄, 田代 邦雄
    2014 年 34 巻 2 号 p. 242-251
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    皮質基底核症候群(CBS)による進行性非流暢性失語症例における書字障害について検討した。症例は78 歳右利き女性,発話および書字障害で発症し,右手に優位な運動障害がみられたが,注意機能は保たれていた。書字障害の運動的側面として,失行性失書が認められ,左頭頂葉機能低下が考えられた。 また書字の空間的配置に異常がみられる空間性失書や漢字に字画の過剰・欠落を呈する求心性失書がみられたことから右頭頂葉機能低下が推測された。書字障害の言語的側面として,仮名の錯書より左前頭葉機能低下,仮名の脱字より両側前頭葉機能低下が考えられた。漢字では類音的錯書が認められ,左側頭葉の営む意味処理の障害が推測された。一方,写字は良好であった。CBS の病初期に出現した多様な失書症状は,優位な血流低下を呈した左半球機能低下とともに視空間機能,視覚性・運動覚性フィードバックを営む右半球機能障害が関与した可能性が示唆された。
  • 本田 慎一郎, 鈴木 則夫
    2014 年 34 巻 2 号 p. 252-259
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
      右中大脳動脈領域の梗塞による左半側の視空間無視,左半側身体失認は消失したが,左半側口腔内に特異的な症状が残存した症例について,口腔内に限局した左半側空間無視の可能性について検討した。
       症例は64 歳女性右利き。左側口腔内において著明な要素的運動・知覚障害は認められないにもかかわらず,口腔内に挿入した模擬食塊の形状(球,三角錐,立方体)を識別させる物性認知検査を実施すると,口腔内左側においてのみ形状の認知ができないという異常を認めた。その際「左側では模擬食塊が消える」,「左側では模擬食塊が思い浮かばない」,「左側の口蓋の実がない」など特徴的な陳述が得られ,口腔内の描画検査でも異常を疑う所見が得られた。
      本例の左半側口腔内に限局した症状は,その原因を各口腔器官の運動・知覚障害,触覚性失認に帰結できない。本例の症状について,口腔内を複数の口腔器官に包み込まれた空間ととらえ,この空間表象が障害された口腔内左半側空間無視として解釈を試みた。
短報
  • 時田 春樹, 田川 皓一
    2014 年 34 巻 2 号 p. 260-263
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2015/07/02
    ジャーナル フリー
    右の脳梁膨大後部領域の脳梗塞により相貌の変形視と微視を呈した症例を経験した。症例は75 歳,右利き,男性。人の顔の左の眼や眉が下がって小さく見えると訴え来院した。神経学的検査では,相貌の変形視と微視を呈していた。なお,視力や視野,眼球運動,視覚認知機能などに問題はなかった。この変形視や微視は,写真や漫画などの二次元の対象や三次元の丸みをおびたもの,顔面に似た空間特性を持つ対象についても認められた。通常,変形視と微視は病巣と反対側に出現する。しかし,本例では病巣と同側性に症状が出現しており,右半球損傷により本人の右視野にある相手の左眉や左眼が小さく見えていた。 両眼や両眉,輪郭など,さらにはそれに類似した特徴を持つ対象を認識するのに特化した両側大脳領域間の視覚情報の統合が,脳梁膨大後部領域の病変により障害されたため,相貌の変形視と微視を生じたものと考えた。
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