我々は右前頭葉の脳腫瘍摘出術後, 手指の意図的な運動を新たに開始することが困難となった症例を経験した。症例は 37 歳, 右利き男性。吻側補足運動野を含む右上前頭回, 中前頭回, 帯状回, および脳梁に浸潤する脳腫瘍を摘出した。術後 MRI で尾側補足運動野に梗塞巣を認めた。術後, 症例は左手で物を把持すると意図的に物を放すことができなくなる症状を呈した。しかし, 体性感覚刺激による運動開始のきっかけが与えられると, 容易に放すことができた。なお, 麻痺, 典型的な病的把握反射や失行は認めなかった。症状は徐々に軽減し, 術後 5 週で完全に消失した。本症例の症状は運動の抑制系や興奮系の障害, または両者の不均衡によるものと推察された。しかし, 運動の抑制-興奮の障害の臨床症状は多彩であり, 症状発現部位と責任病巣の関係や運動症状と関わる神経機能ネットワークは十分に解明されていない。今後, 症例を重ねた検討が必要と考えられた。
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