統計学は心理学の研究にいろいろな形で適用されている.その現状を,網羅的に述べるのではなく,少数の典型的な事例について統計学導入の必然性,心理学の場合における特殊事情,特殊問題などを中心に考察した.特に取り上げたのは因子分析法誕生の由来,心理検査,テストにおける数量化の問題学習過程に対する確率論的モデルである.心理学にとっては,観測データを数式によって記述しても,それだけでは実用上,学術上,特別の意義をもたない場合が少なくない.数量化,数式化したことが意味をもつとすれば,それによってデータの背後にある"見えざる"心理現象の内容についてなんらかの知見がもたらされた場合であろう.こういう観点から,若干の実例を示しながら,心理学における統計学の適用の問題点を浮彫りにすることを試みた.なお,現在の心理学においては,決定論的数学,確率論,公理論的アプローチも多く用いられ,数理心理学という名称も定着してきているが,ここでは統計学と簡単な確率過程の適用に限定してある.
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