以上コランダムバイトを試作し,その切削特性を実験的に検討した結果を要約するとつぎのようである.
(1)コランダムにより切れ刃稜あらさ0.5μ以下,丸み1μ以下の鋭利な切れ刃稜を持ったバイトを作ることができた.
(2)銅や黄銅に対してはすくい面摩耗は生ぜず,逃げ面や切れ刃稜の摩耗は超硬やセラミックの1/2~1/5程度である.アルミニウムに対しては凝着性が強く正常な切削ができない.炭素鋼に対してはチッピングや大きな欠けが生じやすい.
(3)アクリル,硬質塩化ビニル,フッ素樹脂などのプラスチックに対しては鋭利な切れ刃が長時間保たれ,刃先への溶着もなく,ダイヤモンドに近い切削性能を期待できる.しかし強化材の入った布入りフェノール樹脂などに対しては切れ刃がチッピングを起こしやすい.
(4)逃げ面をコランダムの結晶べー面にとった場合の逃げ面摩耗は結晶の他の面を逃げ面とした場合に比べかなり大きい.コランダムの微量固溶成分の耐摩耗性や切削性におよぼす影響はほとんど認められない.
(5)銅,黄銅,炭素鋼に対する切削抵抗,切削比は超硬と同じか少し良好な程度である.切削速度との関係も超硬とほとんど同じ傾向を示す.一方ダイヤモンドは銅や黄銅に対し切削抵抗は大幅に小さく,切削比は2倍近い値を示す.また切削速度の影響も少ない.
(6)このことからコランダムは金属被削材に対する親和性が高く,切削工具材としては金属的な性質を持っていると考えられる.
(7)切削仕上面は銅,黄銅,プラスチックともにセラミック,超硬,コランダム,ダイヤモンドの順に良くなっている.特にプラスチックと銅に対してコランダムの有効性は大きい.
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