石油化学品製造におけるカーボンニュートラル実現に向けた技術開発が進展しているが,化石資源の有効活用も重要課題の一つである。本研究は,メタクリル酸メチル(MMA)の原料であるイソブテンの製造に焦点を当て,イソブタンの酸化脱水素反応における高性能触媒の開発と劣化抑制を目的に,Cr修飾メソポーラスシリカ(SBA-15)を用いた触媒を検討した。酸化脱水素反応はCO2生成による選択率低下が課題であるが,Cr種の導入により高い比表面積を有する触媒構造が得られ,触媒活性 · 選択性が向上し,イソブテン収率が最大15.5 %まで向上した。Cr種は酸化還元機構により活性点として機能し,反応中にVI価からIII価へ還元されることで触媒劣化が生じる。そこで,Moの添加によりCr種の酸化還元挙動を補助し,過度な還元を防ぐことで触媒の安定性を向上させた。CrとMoのモル比を最適化することで,収率の維持と劣化抑制の両立が可能となった。

ゼオライトは,その骨格中への異種金属の同型置換や,金属あるいは金属酸化物ナノ粒子の担持によって構造や機能を容易に制御することができるため,触媒や吸着剤として重要な材料に位置付けられてきた。ゼオライトに賦与される機能やその程度は調製方法に大きく影響を受ける。本稿では,Siをベースとした非晶質複合酸化物を水熱処理に供して得られる特異な機能を示すゼオライト群について概説する。最初の例はGaを同型置換したMFI型ゼオライトであり,これは酸化的メタン変換において高いCO選択率を示す。AlとFeを同時にMFI型ゼオライトに導入すると,ジメチルエーテルからのオレフィン合成において長い触媒寿命を示す。Ce修飾MFI型ゼオライトとPdナノ粒子を複合化すると,低温でも酸化的メタン変換活性を示すようになり,低収率ながらエタンを与える。さらに,AlあるいはGaペアサイトを意図的に構築することも可能であり,これらは2価カチオンの捕捉サイトとして機能する。

再生可能かつカーボンフリーなエネルギー源として燃料アンモニアの燃焼利用が提案されている。しかし,燃料アンモニアの使用には,高い着火温度や未燃アンモニアの流出,窒素酸化物(N2O/NOx)の副生などの課題がある。これらの課題を克服するために,新しい触媒燃焼システムの開発を検討し,高性能触媒を開発した。これまでに,Al2O3粉末材料に担持されたCu,Ag,Ptの一元系および二元系からなる新しい触媒アンモニア燃焼システムが開発され,アンモニア燃焼に対する高い触媒活性,低いN2O/NOx(高いN2)選択性および高い熱安定性を示すことが報告されている。さらに,計算化学手法と分光測定技術を用いることで,開発された触媒の物理化学的特性と活性/選択性との関係,および開発された触媒上でのアンモニア燃焼の反応機構が明らかにされている。本総説では,副生する可能性がある温室効果ガス(GHG)としてのN2Oの分解反応機構を含め,これまでの関連するアンモニア燃焼触媒の研究開発を包括的に紹介する。

This study focuses on the temporary wellbore security operation conducted in the Dai Hung (DH) field in the Nam Con Son basin, Vietnam. It explores the use of LockCem as a solution to prevent gas migration and accumulation through the valve system of the DH-3P Subsea Xmas tree. The pumping history of previous brine pumping attempts is examined, along with the objective and necessity of securing the wellbore to ensure the safety of the Floating Production Unit (FPU)-DH01 production. The execution plan and general methodology of the operation are outlined, including the required equipment and risk assessment. The study provides a detailed discussion of the LockCem solution, including the lab report and mixing procedure. Additionally, the operation procedure for LockCem, Viscous Pill, Musol A, and Retarded Fluids’ density and setting depth is presented. The study emphasizes the importance of well security in oil and gas production and demonstrates the effectiveness of LockCem technology in well killing. Moreover, it details the tubing required to set 200 m of LockCem at the bottom plug around 1652 m. LockCem technology kills wells and emphasizes the importance of well security in oil and gas production.

本稿は,石油需要の決定要因の一つとなるEVの普及について考察し,移行期の石油流通機構の取り組み方の視座を提供することを目的とする。環境優位性を強みにした日本の自動車メーカーが,なぜ国内でEV市場を開拓できなかったのかをEVパラドックスとし,EV普及の遅れを導いた構造的要因を明らかにした。本稿では,EVの受容を阻害または促進する要因を,(1)環境意識,(2)ニッチ形成,(3)HV体制,(4)政策シグナル,(5)住環境と充電設備の五つから考察した。結論として日本のEVパラドックスは能力のわなと社会的 · 制度的硬直性に起因することから,EVへの移行はICEの代替として進むというよりも,経験と学習を通じて既存の市場に新たな市場を追加する形で段階的に進み,結果的に移行期が長期に渡る可能性を示唆した。これは,現在の流通機構構造の維持要因として機能するが,次の段階で代替に変化することを前提に,消費者の視点から持続可能な流通機構への変革が必要である。

廃プラスチックを化学原料にケミカルリサイクルするために,炭化水素溶媒中でのベータゼオライトによるポリプロピレン(PP)の触媒分解を行った。石油精製におけるLight Gas Oil(LGO)とLight Cycle Oil(LCO)を溶媒として使用した。LGOに含まれる塩基性化合物を除去して溶媒として使用したところ,PPの転化率は50.9 %から97.0 %に大幅に増加した。一方,塩基性化合物を除去した後でも,LCO中のPPの転化率は低いままであった。LCOに多く含まれる芳香族のPP分解への影響を評価するために,モデル溶媒であるn-ヘキサデカン,1-メチルナフタレン,テトラリンで分解テストを行った。その結果,溶媒中の芳香族化合物がPPの転化率を低下させることが分かった。石油系溶媒をPPのケミカルリサイクルに使用する場合,塩基性化合物の除去が必要であり,またLGOなどの飽和炭化水素含有量の高い溶媒が適していることを明らかにした。
