設計や製図の処理にコンピュータが導入されるにともなって, 図学のような伝統的な分野にも, 教育法の変更が迫られるにいたった。伝統的な図学の作図題は, 18世紀末頃に確立されたモンジュの図法に基づいて, いくつもの副投象を順に作図してゆくことで解かれる。この手順は, 正投象法の原理に基づいている。
作図題を解くのに使われる道具立ては変わったとしても, 作図法そのものが有効でなくなったというわけではない。しかしながら, 設計や製図に3次元モデラを使うとなれば, 伝統的な作図題を解く際にも, 新しい方法が要請される。いくつもの副投象を順に作図してゆく技法は, この場合もはや必要でない。必要なのは, 設計者が, 図学の原理を充分に理解し, 問題に即してコンピュータを正しく扱う能力を有していることである。いくつもの副投象を作図して作図題を解くかわりに, 対象立体がCRT上に適切な形に表示されるような投射方向を見いだし, コマンドとして指令を出せばよいのである。ここでは, こうして解く方法とその基礎になる考え方をまとめて, 「正視図学 (space geometry) 」と呼ぶことにしよう。正視図学は, 作図題を解くために, コンピュータ上に設定された3次元空間内で立体を取りあつかう図形科学の一種である。
正視図学の理論は, 伝統的な図学の正投象, 点, 直線, 平面といった概念に基づいている。こうした概念は, 例題を通じて学生達に示される。
本稿は, オハイオ州立大学エンジニアリング・グラフィックス教室における, 筆者の教育上の試みをまとめたものである。ここでは, 副投象やラバットを用いる伝統的な作図法は, 3D-CAD上で立体を取りあつかう新しい技法に置きかえられている。
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