下水処理水の再利用を目的とした統合的膜処理システムでは精密ろ過膜 (MF膜) - 逆浸透膜 (RO膜) の処理プロセスが用いられるが, RO膜の主なファウラントであるバイオポリマーの挙動は知見が不十分である。4か所の下水処理場からサンプリングした下水処理水を用いた本研究により下記が明らかになった。下水処理水に含まれるバイオポリマーはタンパク質より多糖類が多く, 中でもアルギン酸様多糖類 (ALP) がバイオポリマーの48-64%を占めていた。また, ALPの多く (~70%) はCa2+に対して立体特異性を示さず配位結合能が低いMMブロックであり, Ca2+と安定な配位結合を形成するGGブロックの割合は5.1-6.3%と低かった。その結果, 下水処理水に含まれるバイオポリマーは0.1 μm以上の集合体を形成しておらず, ファウリングしていない0.1 μmのMF膜では除去されなかった。しかし, ファウリングにより透水性が27%低下したMF膜では主に多糖類が除去され, バイオポリマー全体としては62%が除去された。
底質中の重金属含有量を正確に測定するため, 近年普及が進んでいるマイクロ波分解法を用いた方法を検討することを目的とした。ケイ素を含む試料の分解にはフッ化水素酸の添加が必須である一方, Ca, Mg, Alを含む難溶性白色沈殿を生成する。今回, ケイ砂を多く含む干潟底質のマイクロ波分解により生じた沈殿を走査電子顕微鏡 (SEM) で観察し, 沈殿にはFe, Mn等の重金属元素が含まれていることが新たに明らかとなった。そこで過塩素酸による加熱処理によって沈殿を分解し, 残渣を少なくする分析方法に改善した。この分析方法の様々な環境試料への適用性を確認した結果, Cr, Cu, Znの含有量がそれぞれ平均して40%, 20%, 18%増加したことが明らかになった。本研究にて検討した方法は, 底質中の重金属含有量をより効率的な定量を可能とし, 将来的に生態系保全に係る基準や分析方法を定める際に有効であることが示された。
三河湾東部の豊川河口域において, 2018年10月~2019年3月に実施された広域流域下水道のリン濃度増加運転が, 減少傾向にあるアサリ稚貝の発生状況に与えた影響を調査した。2018年度秋冬季は, 管理運転前の2016年度より干潟部のクロロフィルa濃度および1歳稚貝の生残率が高かった。2018年10月~2019年1月に発生した着底稚貝 (S.L. ≦ 300 μm) が, 3月にかけて個体数を維持しながら成長した。豊川からの負荷量が低下した時期に, 下水道が放流したリンを元に0.2~10 μmサイズのナノ・ピコプランクトンが増殖した。着底稚貝および初期稚貝 (300 μm < S.L. ≦ 500 μm) の個体数密度は, 0.2~10 μmサイズのクロロフィルa濃度と相関関係にあった。管理運転で供給されたリンが植物プランクトンの増殖を介して, アサリ稚貝の好適な餌料環境を維持していた。