岩見沢市において実施されている下水汚泥の肥料利用を, 産業廃棄物処理を行った場合を対照として事業評価した。同評価では, それぞれの事業を行った場合の岩見沢市の産業連関表を作成し, 粗付加価値総額の差額を求めた。産業連関表は, 環境省が頒布する産業連関表をもとに, 各々の事業費および事業の経済構造を反映して作成した。事業費は岩見沢市の実績値を用いた。事業評価の結果, 下水汚泥の肥料利用は産業廃棄物処理に対して事業費差額 (15.7百万円 year-1) 以上の粗付加価値 (19.6百万円 year-1) をもたらすと推計された。また, 肥料利用事業の持続には, 汚泥乾燥機の取り扱いが議論となると指摘した。下水汚泥の肥料利用は, 地域内の事業者によって実施され, 地域内の需要を喚起する。このことは地域内の経済波及効果として期待され, 本評価はこの点を確認した。本評価は地域性の強い事業評価において有効と考えられる。
本研究では, 電気や上下水道インフラから独立した運用が可能な自立型トイレの開発を目指し, 水の循環に必要な最小限の動力だけでトイレ洗浄水を再生する浄化ユニットを試作し, 水洗トイレと組み合わせて試験運用を行った。その結果, トイレの使用回数が897回 (大便218回, 小便679回) に達しても, 洗浄水の色度を30度未満に維持できた。しかし, 浄化ユニットだけで大腸菌を完全に阻止することは困難であり, 衛生的安全性を保障するには殺菌対策が必要であることが明らかとなった。トイレの使用回数と洗浄水の水質から推定したCODMn, 全窒素及び全リンの除去率は, それぞれ99%, 83%及び98%程度であり, トイレの使用頻度に関わらず高いレベルであったことから, ろ過や吸着による物理化学的作用と生物膜による生物学的作用の両方が働く多段型ろ床を浄化ユニットとすることでトイレ洗浄水を安定して再生できることを実証できた。
本研究では, 石炭灰・貝殻混和固化体 (fly ash-shell block, FSB) の付着珪藻増殖に対する好適性評価を目的とした。海水を注水した水槽内にFSB, コンクリートおよび花崗岩のブロック (縦4 cm × 横16 cm × 高4 cm) を2週間浸漬し, 毎平日, ブロック上面をデジタルカメラで撮影した。Chl-a量と相関が高い色チャンネルを用いた画像解析から, ブロック上で経時的に増加する珪藻着生量 (Chl-a量) を把握した。着生量の経時変化から, 増殖特性を特徴づける項目すなわち対数増殖期の比増殖速度, 初期加入の早さ等を求め, 各材質間で比較した。珪藻加入がコンクリートで他材質に比べて早かった一方で, 対数増殖期の比増殖速度には材質間で差が見られなかった。
大阪湾では, 湾奥部で富栄養化に起因する問題が生じている一方で, 湾西部や隣接する播磨灘では栄養塩不足が問題となっている。本研究では, 淀川から流入する栄養塩が大阪湾奥に偏在するプロセスを把握するため, 河口部汽水域における有機態窒素 (Org-N) の分布, 起源と分解特性について調べた。汽水域ではOrg-N濃度が淡水域及び海域の両側に比べて大幅に高いことが現地観測により示された。Org-Nのうち74 ± 11%は粒状有機態窒素であり、一定の沈降速度を持つ形態であった。また低塩分水とともに沖側へ流出すると考えられる汽水域表層の溶存有機態窒素の100日間分解率は29 ± 4%であった。このような河口部汽水域の有機物の形態および分解特性を考慮することは, 陸域からの負荷が海域の栄養状態に及ぼす影響を調べるためのモデルの高精度化につながると考えられる。
本研究の目的は, 2001年~2016年のモニタリング結果に基づき, 台風0418号が岩国市地先干潟の底生動物群集に及ぼした影響を明らかにすることにある。アマモ, コアマモからなるアマモ場が, 2004年9月の台風0418号の襲来によって消失し, その後も2005年の0516号と2006年の0613号と台風が続いたことで, 台風前の面積水準に戻るまでに8年以上を要した。この間, 河口付近の干潟の含泥率, COD及びILの変動は大きく, アマモ場面積の経年変化パターンと一致しなかった。干潟の底生動物は, 台風0418号襲来後, 種類数, 個体数, 湿重量のいずれも著しく減少した。これらの値は, アマモ場の消失・低迷期に低く, 2009年以降の回復期に増加する傾向にあった。これらのことから, 台風0418号が, 物理的撹乱によって底生動物群集に短期的な影響を及ぼしただけでなく, アマモ場の存在が底生動物にとって重要で, その後の台風とともに, アマモ場の消長に関連して長期的な影響を及ぼしていることを示す。
都市淡水域の底泥を対象に, マイクロプラスチック (MP) の汚染現状の把握と起源推定を試みた。その結果, 大部分の調査地点でMPが検出され, 濃度値は熊本市の江津湖が725~1,034 個 kg-1乾燥重, 福岡市の大濠公園池は61 個 kg-1であった。大濠公園池では砂ろ過や無機凝集剤を用いた凝集沈殿が可能な浄水設備が稼働しており, これが地点間の濃度差を生じた理由と考えられた。一方, 両地点のボート乗場周辺の底質から江津湖で36,086 個 kg-1, 大濠公園池で2,794 個 kg-1という高濃度のMPが検出された。いずれもアクリルの一種であるポリメタクリル酸メチル (PMMA) が卓越しており, 他地点とは異なる傾向を示した。また, ボート塗料の破片を分析したところ, PMMAであることがわかった。本結果は, 都市淡水域におけるMP発生源の一つにボート塗料の可能性を示しており, この種の知見はMP汚染対策の一助になると考えられる。