水環境学会誌
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45 巻, 3 号
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総説
  • 寺田 昭彦, 堀 知行, 久保田 健吾, 栗栖 太, 春日 郁朗, 金田一 智規, 伊藤 司
    原稿種別: 総説
    2022 年 45 巻 3 号 p. 91-105
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

    近年の超高速シーケンサー技術, 顕微鏡, 質量分析装置の開発のスピードは目覚ましいものがあり, 純然たる環境微生物学や微生物生態学を専門としない工学系研究者でも複合微生物系の機能や活性の解明といった, 微生物群集の高度な生理生態解析が行えるようになっている。このような潮流により, 水処理施設に潜む新奇微生物の存在や, 新機能の発見が進んでいる。本総説では, 水処理施設や自然環境の水質変換に関与する微生物の遺伝子, 細胞, 活性, 代謝物を高解像度に診る最新手法の紹介を行う。さらに, 手法の導入によってもたらされた水処理施設に存在する微生物群の生理生態に関する最新知見と今後の水処理技術の進展に向けた微生物生態研究の展望について概説する。

研究論文
  • 齋藤 利晃, 赤城 大史, 藤井 大地, 小沼 晋, 吉田 征史
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 45 巻 3 号 p. 107-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

    水処理プロセスにおける亜酸化窒素 (N2O) 生成を制御する新しい操作因子として, 様々な生物の情報伝達物質として注目されている一酸化窒素 (NO) の利用可能性を検討した。無機基質を用いて硝化細菌を培養し, 回分式運転における曝気工程または撹拌工程にNOを散気することで, 硝化性能及びN2O生成に及ぼす影響を調べた。その結果, 曝気工程及び撹拌工程のいずれの場合も, NO散気は硝化性能とN2O生成とを共に促進する傾向を示した。次に, N2O生成の強力な影響因子である亜硝酸や溶存酸素 (DO) の影響を転換率モデルを用いて排除し, NOの直接的な影響を検討したところ, 曝気工程でのNO曝露はN2Oの生成を抑制し, 撹拌工程での曝露は逆に, 生成を促進する結果が得られた。これらの結果は, 曝気槽及び最終沈殿池など水処理系内におけるNO濃度の適切な制御によって, N2Oの生成抑制が可能であることを示したものと考えられる。

  • 古閑 豊和, 柏原 学, 平川 周作, 石橋 融子, 宮脇 崇
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 45 巻 3 号 p. 115-123
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

    LC-MS/MSを用いて, 事業場排水中にテトラメチルアンモニウムイオン (TMA) として存在している水酸化テトラメチルアンモニウム (TMAH) やテトラメチルアンモニウム塩類の測定法を開発した。測定法開発の標準物質にはTMAHを用いた。弱陽イオン交換固相であるOasis WCX (WCX) による前処理方法を採用することで, 定量下限値が0.00034 mg L-1となり, サロゲート標準物質の回収率が50~120%の範囲で事業場排水中のTMAの測定が可能となった。次に福岡県内30か所の事業場排水を調査した結果, 2事業場 (事業場HとX) でTMAがそれぞれ0.0014 mg L-1, 2.5 mg L-1検出された。TMAが検出された事業場HとXの排水についてDaphtoxkit F magna附属の休眠卵を孵化させ, 簡易試験としてオオミジンコ急性遊泳阻害試験を実施したところ, 事業場Xについて排水を50%に希釈しても遊泳阻害が検出されるなど, 毒性が確認され48時間半数影響濃度 (48 h-EC50) が62%となった。次に事業場XについてWCXを用いた毒性原因物質の特徴化を実施したところWCXを使った処理水において毒性が低減した。

  • 出口 憲一郎, 堀江 和峰, 菊地 早恵子, 長坂 安彦, 神子 直之
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 45 巻 3 号 p. 125-134
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

    染料マイクロカプセル (DMC) をラグランジュ線量計法に適用するための基礎的検討として, DMCラグランジュ線量計 (DMC-LA) に対する回分式平行光紫外線照射試験を実施し, 紫外線量分布の算出方法を新規開発した。DMC-LAの蛍光強度分布は対数正規分布によく適合することが統計的に確認された。また, 対数正規分布を適用することで, DMSを用いた先行研究において必須とされていた複雑な逆畳み込み演算を行うことなく, 各DMC粒子のFCM測定結果から直接的に紫外線量分布を算出可能であることが示された。得られた紫外線量分布は, 少なくとも150 mJ cm-2 以下の平均紫外線量においては, log生残率が初期傾き直線から乖離しない程度の紫外線量分布の分散の狭さが維持されていることが確認され, 供試微生物のテーリング現象は紫外線量分布以外に起因する現象であることが強く示唆された。

調査論文
  • 北村 立実, 鮎川 和泰, 増永 英治, 小室 俊輔, 大内 孝雄, 湯澤 美由紀, 浅岡 大輝, 三上 育英, 清家 泰, 福島 武彦
    原稿種別: 調査論文
    2022 年 45 巻 3 号 p. 135-143
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

    多項目水質計を取り付けた自動昇降装置を用いて夏季における北浦の水温, 溶存酸素濃度, 酸化還元電位の鉛直分布を高頻度に調査することで, 水温成層および貧酸素水塊の形成や消失過程を検討した。さらに, 自動採水機で詳細な水質調査も行うことで現場における底泥からのPO4-P溶出速度を検討した。その結果, 水温成層の形成条件は気温25 ℃以上, 風速6.0 m s-1未満であること, 消失条件は風速6.0 m s-1以上が2時間以上吹くこと, Friの値が0.3から1.0へ増加すること, Weの値が0.5から0.1未満へ減少することが示唆された。貧酸素水塊は水温成層の形成後1~2日で形成し, 水温成層と同時に消失することが明らかとなった。貧酸素水塊形成時の下層のPO4-P濃度の上昇が全て底泥由来であると仮定すると北浦の夏季における現場観測によるPO4-P溶出速度は99.1 mg m-2 d-1以上になると推定された。

  • 藤原 建紀, 鈴木 健太郎, 木村 奈保子, 鈴木 元治, 中嶋 昌紀, 田所 和明, 阿保 勝之
    原稿種別: 調査論文
    2022 年 45 巻 3 号 p. 145-158
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

    海域の全窒素 (TN) ・溶存無機態窒素 (DIN) が大きく低下した大阪湾において, 生態系の栄養段階ごとに生物量の経年変化および季節変動パターンの変化を調べた。調査期間の1990~2019年には, 経年的水温上昇はほとんどなかった。DINの低下に伴って, 一次生産量が減り, クロロフィルで測った植物プランクトン量が減り, これが繊毛虫・カイアシ類などの動物プランクトンの減少, 仔稚魚量の減少へと連動していた。生態系全体としては, 各栄養段階の現存量がほぼ線形的に応答するボトムアップのシステムとなっていた。TNの低下が, DINの枯渇期間を夏のみから, 春から夏に広げ, これによる一次生産量の低下が, 上位栄養段階への窒素フローを減らしたと考えられた。また, 仔稚魚では, 内湾性魚種はどの優占魚種も生物量が大きく減少していた。一方, 広域回遊性のカタクチイワシだけは減らず, この一種のみが優占する状態に変化していた。

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