次世代シーケンサーによって活性汚泥中の細菌群集を解析し, 培地と抗菌薬の選択圧のもとで生残する耐性菌の細菌群集を探索した。汚泥試料はタイと日本の下水処理施設から採取し, 培地にはLB培地を, 抗菌薬にはシプロフロキサシン (CIP) とテトラサイクリン (TET) を使用した。タイで採取した活性汚泥の細菌群集は4地点 (JJ, DD, BS, SPY) で類似しており, 日本の汚泥細菌群集とは全く異なっていた。タイの試料 (JJ, BS) についてCIPを高濃度 (1,000 μg mL-1) で添加して培養すると, Enterobacteriaceaeの割合がそれぞれ71.3%と81.4%に増加した。CIPを添加せずに培養した試料との相違は明らかであり, CIP耐性を示す同科細菌の存在が示された。TET添加で培養したJJ, DD, BSの試料では, 上位10種のうち7種類が共通しており, 多くの汚泥細菌にTET耐性が広がっていた。
付着動物の環境指標性を検討するため, 北九州市洞海湾で富栄養化の極めて著しかった1991~’92年 (前期) と工場排水の規制により全窒素・全リン濃度が著しく低下した2010~’11年 (後期) の両期間について, 水質と付着動物組成の調査を同様の方法で実施し, 得られた結果の比較検討を客観的に行った。富栄養化の改善された後期には溶存酸素が湾奥部まで行きわたったのに伴い, 海綿類や苔虫類が湾奥部まで分布するようになった。また, 後期には付着動物の全出現種類数が前期の約1.6倍となり, とくに軟体動物の巻貝類は出現種の変化と増加が顕著で, 軟体動物の種多様度指数も増加した。一方, ムラサキイガイとマガキの二枚貝類2種の総湿重量が後期には前期の約1.2%にまで減少し, 両種の激減には水温上昇の影響も確かめられた。以上のことから, 付着動物の種や組成が富栄養化や海水温上昇などの環境指標として利用できる可能性が示された。
メタノール含有排水の処理にUASBを適用した場合, メタノールを利用できる微生物は限られているため, グラニュール汚泥の安定的な維持形成に課題があった。本研究では, UASBの後段に汚泥回収槽を備えた処理方法で, メタノールを含有する実排水を用いた連続運転を行い, 種グラニュール汚泥からの馴致過程における菌叢ならびに汚泥粒径の変化を確認した。馴致過程において, グラニュール汚泥中のメタン生成古細菌のうちMethanosarcinaおよび Methanomethylovoransの占める割合が80%を超えると, グラニュール汚泥の微細化が進行し, 0.5 mm未満の粒径となった。微細化した汚泥でも汚泥回収槽による固液分離により安定に維持でき, 安定した処理性能を確認した。
平成25年3月, 厚生労働省健康局長より農薬類の対象農薬リストの改正が通知された。その中で, アミトラズが新たに対象農薬リストに追加されたが, アミトラズは加水分解性が高く, その分解物であるN-2,4-ジメチルフェニル-N-メチルホルムアミジン (DMPF) および2,4-ジメチルフェニルホルムアミド (DMF) の測定も必要であると考え, 3物質の定量分析条件の検証を行った。また, 有機溶媒含有率の違いによる検量線用標準液の保存性を調査したところ, アミトラズではアセトニトリル含有率50 v/v%, DMPFではメタノール含有率1~10 v/v%, DMFではメタノール含有率5~50 v/v%で保存性が高くなる傾向が見られた。平成29年5, 7, 10月および平成30年1月に多摩川水系河川水11地点における3物質の存在実態調査を行ったところ, 全調査における全地点で3物質は定量下限値未満であった。ただし, 5月の調査で, DMFが痕跡程度検出している地点があった。3物質の水道水中における存在実態状況を把握するため, 次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒剤による分解性を調査した。その結果, アミトラズは20時間程度で消失し, DMPFは消毒剤の添加直後に消失した。一方, DMFは5時間程度で半減するものの, その後は穏やかに減少していた。水道水中におけるアミトラズの測定では, アミトラズ単体の他に分解物であるDMFを同時に測定する必要があることが示唆された。