下水道では流入水質に応じた効率的な処理を行うことが重要であるが, 都市部における下水の一般水質特性と集水域特性の対応は解明されていない。そこで, 本研究では東京都区部における10年間 (2010年度~2019年度) の変化を対象とし, 人口, 土地, 嗜好などに関する集水域特性の時空間分布を整理した上で, 集水域特性と下水道水質の時空間的対応を統計的に解析した。その結果, BODおよび全窒素濃度の年平均値は昼間人口密度が増加すると濃度が高いという傾向が示され, 年単位で下水道水質と昼間人口密度および土地利用に空間的対応があることが示された。また, 月単位の解析では, 下水道水質と光熱・水道支出や月平均気温の間に季節的な対応も確認され, それらを総合評価することで両者の時空間的対応を解明した。以上より, 効率的な下水処理を行うために, これらの集水域特性を考慮した水質予測モデルが有効となることも示唆された。
部分循環湖である網走湖の上部好気層は, 夏季になるとアオコが発生し, 1950年代からはAnabaena属が優占しやすい湖沼であった。しかしながら, 近年Microcystis属等の他の藍藻の増殖が目立つようになってきた。我々はその理由を明らかにするために, 最大月3回の調査を実施した。網走湖の好気層への溶存無機態窒素 (DIN) の負荷は流入河川の影響を大きく受け, 溶存無機態リン (DIP) の負荷は嫌気層の影響を大きく受けていた。網走湖の好気層は夏季になるとDINが欠乏しやすい特徴があり, 窒素固定が可能なAnabaena属が増殖しやすい環境であるが, 流入河川の影響が大きくなるとDINの負荷が増加し, 他の種が増殖しやすくなると考えられた。近年, 流入河川のDIN負荷量が流域の農業等の変化と河川流量の増加によって大きくなっていることが, 優占した藍藻を変えている主たる要因と考えられた。
北上川水系雫石川の御所ダム下流には, 流入する小河川が複数存在する。牧草地や畑, 宅地, 主要国道や高速道路などの人為の影響を受ける人の生活圏に近い場所でありながら, カワシンジュガイをはじめとする希少水生生物が数多く残る。しかし, 希少水生生物は減少傾向にあり, 人為の影響が様々な形で現れていることが想定される。ここでは, これら小河川の複数箇所で行った通年の水質調査結果と, 集水域の土地利用区分との関係から, 土地利用種別による水質への影響の評価を試みた。その結果, 牧草地・畑の肥料や建物用地からの排水や処理水の影響に加え, 冬期において道路からの凍結防止剤の影響が強く表れた。小河川は流量が少なく希釈効果が限られることから流入負荷の影響を受けやすい。水生生物の保全が必要と判断された場合, 道路排水に対しても対策が必要である。