農薬の環境変化体の中には, 河川水中の濃度が農薬よりも高濃度な物質や, 農薬と同程度の薬理活性を有する物質が報告されている。このため, 環境変化体の水生生物に対する影響の検証が重要だが, ネオニコチノイド系殺虫剤ジノテフランについては, 環境変化体の構造や殺虫活性の検討例が少ない。そこで本研究では, ジノテフラン水溶液にクセノンランプ光を照射し, 高分解能LC/MSを用いて, 生成した環境変化体を探索した。その結果, 2物質の未知環境変化体を発見した。その2物質の構造を推定したところ, 28物質 (立体異性体として82物質) が推定された。推定された構造の物質の中から, 殺虫活性を保持している可能性があり検討の優先順位が高い物質を選定した。選定は, ヨーロッパモノアラガイのグリア細胞由来のアセチルコリン結合タンパク質への結合親和性評価により行った。その結果, 殺虫活性を保持している可能性がある物質が20物質選定された。
2015年に琵琶湖岸の132の抽水植物群落を対象に, 単独測位携帯型GPSを用いたオオバナミズキンバイの植生分布調査を実施した。琵琶湖岸12か所の観測所における風速, 風向および有効吹送距離を元に群落ごとの有義波高を算出し, オオバナミズキンバイの生育地盤高との関係を検討した。その結果, 1) 有義波高18 cm以上の群落ではオオバナミズキンバイは確認されなかった。2) オオバナミズキンバイは55群落で確認され, 地盤高別の生育分布を整理すると, 琵琶湖標準水位B.S.L. -150 cm~-50 cmに分布する群落 (沖型) , B.S.L. -90 cm~-30 cmに概ね均等に生育する群落 (準沖型) , B.S.L. -50 cm~-30 cmに集中して生育する群落 (準陸型) , B.S.L. -30 cm~-10 cmに集中して生育する群落 (陸型) の4タイプに分類することができた。3) 平均有義波高は沖型, 準沖型, 準陸型の順に5.5 cm, 9.4 cm, 13.2 cmであり, 有義波高によりオオバナミズキンバイの生育地盤高をある程度説明することができた。
必須脂肪酸は動物の餌の指標として一般的に用いられている。しかし実際の環境中において餌の必須脂肪酸が動物の出現種数に影響を与えるか否か明らかでない。そこで本研究では湿地生態系の潜在餌源である底質中の脂肪酸組成が動物群集に与える影響の評価を行った。2009~2011年に宮城県の複数の水田において底質および底生動物を採集した。採集した底質は脂肪酸組成およびクロロフィルa含有量を解析し, 底生動物に関しては科まで同定を行った。底質の20:5ω3含有率と出現した底生動物の科数に有意な正の相関が確認された。