繁用農薬と水質管理目標設定項目の対象農薬について, ガスクロマトグラフ質量分析法 (GC/MS) , 液体クロマトグラフ質量分析法 (LC/MS) , 液体クロマトグラフ誘導結合プラズマ質量分析法 (LC/ICP/MS) による一斉分析法をそれぞれ検討した。その結果, 209物質 (192農薬) についてグループ別一斉分析が可能であり, 地下水及び河川水を用いて添加回収試験を実施したところ, 多くの農薬について回収率及び相対標準偏差は良好な結果であった。また, 農薬は, 浄水場における塩素処理で分解する可能性があるため, 塩素処理実験を実施し, 反応速度をもとに対象農薬を10のカテゴリーに分類することができた。さらに, LC/TOF-MSにより塩素処理後に生じたクロマトグラフ上のピークを解析したところ, チオノ (P=S) 型からオキソ (P=O) 型への変化や塩素の付加を確認した。
わが国で導入されている種々の下水処理における生物処理過程で下水の藻類生長阻害作用が削減できるかどうかは未解明である。本研究ではわが国で導入事例が多いオキシデーションディッチ法等の4種の生物処理方法を導入した下水処理場の生物処理前水, 放流水あるいは二次処理水を下水試料として採水した。水界生態系の一次生産者として重要な藻類への影響に着目し, 下水試料に対し緑藻ムレミカヅキモを用いて生長阻害試験を実施した。その結果, オキシデーションディッチ法, 標準活性汚泥法, 嫌気好気活性汚泥法を導入した処理場では下水の生長阻害作用の削減が確認されたが, 嫌気好気ろ床法を導入した処理場では効果が削減されなかった。また, 阻害作用の削減能力は夏季に比べて冬季に低下する傾向にあった。生物処理方法及び季節によって生長阻害作用の削減能力は異なり, 様々な処理場において試験を行い, 更なる知見を蓄積する必要性があることが示された。
湖沼や河川におけるBODやCODが示す有機物の質を検討するため, 琵琶湖およびその流域河川と排水中の全有機炭素TOCとBODやCODとの比較を行った。また, 試料の生分解試験から生分解性とBODやCODとの関係も整理した。湖水のBODと100日生分解試験で得られた生分解性有機物に線形性はなく, BODは生分解性有機物の一部にすぎない。BODは粒子態有機物と強い相関があり, 初期生分解には粒子態有機物の分解が寄与している。琵琶湖水や河川水のCODは有機物全体の半分以下の検出にすぎないが, CODとTOCの相関は強くデータの散布度は類似しており, 概観するとCODは有機物の分布を捉えていた。しかし, CODの検出には, 1) 低濃度での過大評価, 2) 有機物の種類による検出の偏りがあり, 有機物量がCOD値で2以下となる低濃度域では, 試料の量や質によるCODの検出率の違いが有機物負荷量の算定に無視できないことを確認した。
メタン発酵システムの高効率化を目的として, サイフォン式の無動力撹拌機構を有するメタン発酵槽に担体を部分的に設置し, 運転性能を実験的に確認した。模擬生ごみのTS濃度を約5%に希釈した基質を対象に, 中温の条件下でHRTを50日から10日に段階的に短縮することでCODCr容積負荷を段階的に増加して処理性能を評価した。その結果, CODCr容積負荷9.56 kg m-3 d-1まで安定運転が実現し, 本リアクターの処理性能が示された。また, CSTRおよび改良前の同リアクターの既往の試験結果との有機物除去率およびメタン転換率を比較したところ, 処理性能の改善が確認された。
霞ヶ浦全域の底泥を対象に, 現場の形状を維持した状態 (底泥コアの状態) で脱窒速度を分析することで脱窒速度の季節変動や底泥鉛直方向の特徴を把握するとともに, 霞ヶ浦全域の底泥の脱窒量を算出し, 霞ヶ浦底泥の脱窒による湖内の窒素除去効果を検討した。その結果, 脱窒は底泥表層1 cm以内で起きていることが明らかとなった。また, 脱窒速度は霞ヶ浦上流から下流にかけて小さくなり, 春季や秋季に大きくなる傾向がみられた。底泥の脱窒量は西浦全域で638 kgN d-1, 北浦全域で325 kgN d-1と見積もられ, 2006年から2010年の霞ヶ浦に流入する年平均総窒素負荷量と比較すると, 底泥の脱窒による窒素除去率は, 西浦は5%, 北浦は6%であった。