気候変動が湖沼水質に及ぼす影響を把握することを目的に, 児島湖を対象として将来水質予測シミュレーションを行った。将来気象データには気候変動の程度が小さなSSP1-2.6と, 程度が大きなSSP5-8.5の2つのシナリオのデータを用いた。2050年までの将来30年間についてシミュレーション実施した結果, SSP1-2.6では現状に比べ顕著な水質変化はないものの, SSP5-8.5ではCOD濃度が有意に増加する期間が存在し, その濃度変化の大きさは現況期間平均の5%に相当した。この大きさは, 湖沼水質保全計画での改善目標と同程度であり, 行政による水質保全施策による効果を相殺すると考えられた。また, 植物プランクトン量を表すChl.a濃度が70 μg L–1を超える日数が増加すると予測された。湖沼の水質保全を計画する際には, 気候変動の影響を考慮すること, またそれに対する施策を検討することが必須と考えられた。
本研究は, 飼料イネ栽培における水環境への負荷と窒素除去率の評価を目的として, 熊本県立大学研究圃場内水田で飼料イネを植栽して実験を行った。飼料イネ栽培水田の水収支 (流入:給水・降水, 流出:表面流出・蒸発散・地下浸透) と窒素動態 (流入:給水・降水・肥料, 流出:表面流出・地下浸透, その他:植物体・未回収) を2年間 (2019年, 2020年) 調査した。飼料イネ栽培における水環境への負荷は, 大部分が地下浸透による窒素流出であり, 地下浸透と表面流出の合計が2019年では9.1 kg N ha-1, 2020年では34.1 kg N ha-1と水田への窒素流入量に対してきわめて少ないことがわかった。飼料イネを植栽した水田における窒素除去率は90%以上であった。また, 2020年では脱窒により184.8 kg N ha-1 (全窒素流入量の約4割) , 飼料イネの収穫により163.1 kg N ha-1 (全窒素流入量の約4割) の窒素が除去されることが確認された。
湖沼や海域に比べて, 河川における藻類増殖が引き起こす有機物量増加 (内部生産) の理解は不十分である。そこで, 河川の内部生産が水質に与える影響を明らかにすることを目的に, 顕著な藻類増殖が見られる花宗川において, 流況や藻類が分画される粒子状物質の元素組成に着目した検討を行った。その結果, 河川において藻類が観測される場合を, pH及び溶存酸素飽和度によって増殖型と流入・混合型に分類することができた。また, 花宗川の滞留区間では, 元素組成比から粒子状物質の多くを藻類が占めることが示唆された。このことから, 生物化学的酸素要求量 (BOD) のうち, 粒子状物質に由来するBOD (P-BOD) を藻類に由来するBOD (BOD-Algae) とした。藻類量の指標としてクロロフィルa (Chl-a) を用いることで, 式 ([BOD-Algae (mg L-1) ] =0.24 ×[Chl-a (μg L-1) ]0.66) が得られた。得られた結果を用いることで, 河川の内部生産がBODへ与える影響を定量的に把握することが可能であった。