エチレン型分子の二つの幾何異性体のうち, いずれがシス形でいずれがトランス型であるかを決定するには, いろいろの有機化学的な方法が用いられ, 主として経験則によって区別が行なわれている。双極子モーメントの測定によるシス・トランス幾何異性体の区別決定は, 有機化学的方法にくらべると直接的であり, 数多くの物理化学的決定手段のうちできわめて有効な方法の一つである。今回, 5種の 4,4' -二置換-α,α'ジメチルスチルペン (X-H
4C
6-C(CH
3)=(H
3C)-C-C
6H
4-X) に, 有機化学的見地からはそれぞれシス形およびトランス形と思われる異生体を2種ずつ得たので, それらの双極子モーメントを測定し, 直接にシス・トランス形の帰属を行なった。その結果は, -OCH
3基を置換基とする化合物を除いては, 多くの有機化合物にみられる経験則, すなわち融点が高く溶解度の低いものはトランス形,融点の低く溶解度の高いものはシス形であるという結果と一致した。しかしながら, ジメトキシジメチルスチルベンの双極子モーメントは, シス形およびトランス形でほとんど区別がなく, 双極子モーメント測定による帰属は不可能であった。4,4' 二置換 -α,α'ジメチルスチルベンの置換基としては, -C1, -Br, -I, -NO
2および -OCH
3 の 5種類が得られた。これらの試料は, 4-置換アセトフェノンを出発物質として,.VarghaKovacsの方法 で合成した。反応混合物からクロマトグラフ法と, 分別再結晶法との併用によって分離した各幾何異性体は, さらに数回の再結晶によって一定の融点を示した。こうして精製された置換ジメチルスチルベンを, 双極子モーメント測定の試料とした。
抄録全体を表示