2013 年の調査では日本の高校生の理科の有用感は米中韓と比較し低いが,一方で天文や宇宙開発への関心は高い。そこで,これらと関連し,理科の有用感も増す可能性のある教材として人工衛星電波受信実験に着目した。 受信実験の中では万有引力による運動やドップラー効果など高校物理で学ぶ多くの内容がわかりやすい形で現れ,物理や数学と科学技術との繋がりを実感できる。我々は科学教室と高校授業で実践を行い,理科の有用感と物理内容の理解の向上に対する効果を検証した。結果,多様な学生を対象とする高校授業の実践において効果が確認できた。
物理を効果的に学ぶための様々な相互作用型授業法が研究開発されている。しかし多くの学校においては,これらの方法を本来の方法でそのまま授業に取り入れることは難しいかもしれない。本研究では本来の理想的な方法とは異なる不完全な方法ではあるが,Tutorials in Introductory Physics(TIP)のワークシートを用いた授業を高校 1 年生の通常の授業時間に 2 時間だけ導入することを3 期(計 9 クラス,生徒約 350 名)行い,その授業効果を調べた。力学概念調査を用いた授業評価は,不完全な TIP であっても,この授業は事後テストスコアの上昇に有効であることを示した。
アインシュタイン・ドブローイの関係と,電子波の定常波を特徴付ける節・節線・節面,およびパウリの原理に注目すると,ボーア理論では見えなかった原子や分子のいろいろな側面が見えてくる。高校の原子物理の授業展開でどこまで迫れるか検討してみた。
“わかる”とは,“情報を集める→情報を分ける→情報をつなぐ→新しいことがわかる”ことであると考えてい る。物理現象をマジック風 / パズル風に演示すると,子どもたちはふしぎに思うとともに,謎解きをしたい気持ちがはやる。そこで,謎解きに挑戦させ,回りの意見を基に,自分の考えを修正しまとめるよう展開すると,子どもたちの思考回路はフル活動し,理解が深まり,とても盛り上がった授業展開ができた。
本学院では,週 40 時間分の物理授業を 5 人の教師が二つの物理教室を使って分担している。どの授業においても,演示実験か生徒実験の形で実験を行うことが多い。実験装置の準備・片付け・点検は物理教育現場において大切であるが,時間と手間のかかる作業でもある。昨今,教員の雑用が増える中で,実験を効率的に運営することが大切である。本学院でも,実験運営のシステムを構築している。以下は本学院での物理実験のシステム,および,授業の実施例である。また,授業実施にあたっての私の授業メモについても説明する。
新しい高等学校学習指導要領で設置された科目「理数探究」では生徒が「探究の過程全体を自ら遂行し,結果を取りまとめ,発表する」とされている。これは,英国の科学教育における Investigation に相当するものと受け取ることができる。本稿では,そのような活動を「探究活動」とよび,その教育的意義,性格,指導や評価の観点,準備のための授業の設計,科学教育のスローガンとしての「探究学習」や「探究にもとづく科学教育」との関係などについて議論する。
課題研究は,科学をする楽しさを体感させ,論理的思考力や主体性も伸長することができる優れた指導法である。愛知県立一宮高等学校では SSH 研究開発の一環として,10 年以上にわたって課題研究の実践に取り組んできた。この中で,令和元年度より高校 3 年間の各学年で反復して課題研究を体験させる取組を始めたところ,意欲や探究を進める力の育成に有効であったことが確認された。このことを含めて本校で行っている最新の課題研究の姿を紹介する。
東京農工大学工学部物理システム工学科では,学生各自の興味のある問題に対し,その解決のための手段を考える研究型の SAIL プログラムを独自に開発し施行してきた。2008〜2019 年に実施された 116 件の課題研究テーマを総括した結果,「学生が自発的にやってみたいと興味を持つテーマ」と「そのテーマが科学的な研究活動として成立しうるか」との間に相当のギャップがあることがわかった。本稿では,探究活動の指導において,テーマ設定の指導が本質的に重要であり,どのようなテーマ設定の指導が効果的であるかを論じる。
探究活動の効果的な指導法開発のために,筆者らが作成した学習評価ツールを用いた評価法を紹介し,探究活動の評価のあり方について考察する。評価ツールは,探究能力を 6 つのカテゴリーに整理して,探究活動の場面を想定した自由記述式の問題と,被験者の解答を分類し数値化する評価基準からなり,学習者の学習状況を評価するものである。評価ツールの作成方法と,約 10,000 人の高校生に対して調査したデータを用いた解析結果を示し,調査ツールの有用性を論じる。得られた知見をもとに授業中の探究活動の成績評価についての示唆をまとめる。
「アドバンシング物理」A レベル試験のコーディネーターであり問題作成の責任者でもあるローレンス・J・ハークロッツ氏による探究活動に関する講演会の記録である。英国 A レベル物理における実験探究活動とはどのようなものか,また,どう評価されるのか,実際に高校現場で指導している立場から具体例を交えて詳細に報告する。