本研究は,理科の学習における自己効力の違いが,生徒の学習目標の設定にどのような影響を及ぽしているか,その因果関係を生徒の自己効力の分析から明らかにしようとするものである。またその結果から,理科の学習での自己効力を高める学習指導の可能性を明らかにしようとするものである。分析は,理科の学習に対する動機づけの異なるAとBの2群を仮定し,両者を比較検討した上で進めた。その結果,以下のことが明らかになった。1. A群は, B群より学習目標の設定や,「リハーサル方略」を除いた生徒の自己効力を構成する様々な概念の得点平均値が高い。2. ラーニング目標に影響を与える要因として, A群は内的要因である手段保有感の「能力」が,B群は外的要因である「教師」の存在が要因となっている。また,「努力」は両群に共通する要因である。3. 自己評価の「学習課題の把握」は, A群B群ともラーニング目標に影響を与える要因である。また,自己制御の「課題解決の情報処理」は, A群固有の要因である。4. 社会的関係性の「教える役割」は, A群B群ともラーニング目標に影響を与える要因である。また,外的要因である「周囲の期待」は, B群固有の要因である。5. 自己効力の高低にかかわらず,学習方略の「精緻化方略」はラーニング目標に影響を与える要因である。
動物の発生や成長を扱う小学校第5学年理科A区分「生物とその環境」における単元「メダカの成長」で構築される「生殖」概念を,その下位概念である「性別」概念と「受精」概念の構築の様子から分析した。単元の学習の前,中,終了時の3回に作成された概念地図から,以下のことがわかった。「性別」概念を構築する子どもの人数は学習を通して増加傾向にあった。概念を単元の学習前から一貫して保っている子どもが約26%である半面,単元を通して一度も構築していない子どもも全体の約26%にのぼった。「受精」概念は,単元の学習に伴い,約57%の子どもに概念の内容の増加が見られた。その概念構築について福岡・大貫1) の手法を用いて分析した結果,ほとんどの子どもは階層性が3まで高まっていた。分化・横断性については,単元の学習前から高い階層性を示した分化・横断型の子どもが,分化・横断性の平均値が4であるのに対し,統合型の子どもは,分化・横断性の平均値が2と低い値を示していた。また,「おす」ラベルの追加の様子を調べた結果から,メダカを実際に飼育し,子メダカを育てる経験を通しても,生殖についての「おす」の存在は軽視されがちであることが示された。これらの結果は,小学校達成度調査における横山2)の調査結果と一致していて,その調査において高い誤答傾向を示した「(たまごを子メダカに孵したいときの条件として)水槽にメスだけ入れてかう」という誤答が,オスの必要性を忘れたためではなく,単元の学習時にその概念が構築されていなかったことに起因することが示唆された。本単元でメダカの飼育を行う場合には,「生殖」概念においてオスが必要不可欠であるという概念を構築出来るような工夫が必要であるといえる。そのための具体的な案を示した。
森本らがこれまでに開発した紫外線が生物に及ぼす影響を示す教材の有効性を検討するために,高等学校3年生を対象として, TV会議システムを含む授業を行った。TV会議では,紫外線の定義オゾンホール,紫外線が生物に及ぼす影響の話を行った。実験教材は, ショウジョウバエ,アサガオ,バナナと紫外線ランプである。有効性は,授業観察,実験レポート,アンケート, コンセプトマップを用いて検討した。その結果,アサガオ,バナナは,高等学校において充分実験できるものであり,生徒達の概念の変容をもたらす授業の一環として利用できることが明らかとなった。
本研究の目的は,コンセプトマップに関する理科教育研究をレビューし,研究動向を明らかにすることであった。まず第一に,最近の国際誌に掲載された計35の研究と,国内の理科教育誌に掲載された計34の研究を検討して,現在においてもコンセプトマップが幅広い学年段階や内容領域や主題で利用されている実態を確認した。第二に,1984年から2001年までのコンセプトマップの研究を3つの世代に区分して,それぞれの研究の展開を検討した。第1世代はコンセプトマップの開発,第2世代は学習者個人の知識獲得支援を目的としたコンセプトマップの利用,第3世代は協調学習の支援を目的とした利用であった。最後に,今後の研究の焦点とコンセプトマップの現代的な意義を考察した。