理科教育学研究
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58 巻, 2 号
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原著論文
  • 小松 智彦, 鈴木 誠
    2017 年58 巻2 号 p. 121-134
    発行日: 2017/11/24
    公開日: 2017/12/23
    ジャーナル フリー

    本研究は, 中学校入学直後の理科の定期テストと理科の自己効力の形成との関係を明らかにすることを目的とした。研究1では, 中学校1年生を対象に, 2度の定期テスト前後の4回にわたる縦断的な量的調査を実施した。研究2では, 中学校入学後の最初の定期テストに着目し, 生徒に対してインタビュー調査を実施し, 定期テストにより理科の自己効力が変容する背景を検討した。研究1と研究2という異なるアプローチにより, 中学校入学後最初の定期テストが相対的な自己評価を介して自己効力の低下を引き起こしていることが明らかになった。またその要因として, 小学校のテストの経験などから, 本人に見合わない高い目標設定がなされるが, 実際には思った通りの得点をとることができず, 様々な否定的な感情や認知が生起される事などが示唆された。本研究により, わが国の生徒の理科の学習意欲の低下の要因の一つを明らかにし, 今後の理科の学習意欲の向上に向けての新たな視点を提供することができた。

  • ―初等教員養成における生物分野での実践事例の検討―
    佐藤 綾, 栗原 淳一
    2017 年58 巻2 号 p. 135-146
    発行日: 2017/11/24
    公開日: 2017/12/23
    ジャーナル フリー

    小学校理科において児童の問題解決能力の育成が求められている一方で, 小学校教員を目指す大学生の問題解決能力の低さが指摘されている。本研究では, 教員養成学部に所属し小学校教員免許の取得を希望する大学生を対象とし, 生物領域においてデータセットを用いた仮説検証型の学習を行うことで, 学生の問題解決能力に影響が見られるか検証した。密度効果を題材に「集団の密度が増加すると個体のどのような性質が変化するのか」という問いを設定し, 学生1人ひとりに自身の考えをもとに問いに対する仮説を設定させ, 仮説を検証するための変数を設定させた。次に, あらかじめ作成しておいた密度と個体の形質についてのデータセットを学生に提示し, そのなかから必要な変数を選択してグラフを作成させ, 結果から考察を行わせた。そして, 授業前と授業2週間後で学生の「実験計画立案力」, 「変数設定能力」, 「結果の予想設定力」を評価した。その結果, 授業前に比べ授業2週間後では, 学生の「変数設定能力」と「結果の予想設定力」が向上していることが示された。データセットを用いた学習には実験の準備や機器などが必要ないこと, 検証結果が実験の技能などに左右されず, 仮説に対応した考察を確実に導けることなどの利点が挙げられ, 限られた時間や環境の中で, 大学生の探究過程の理解や問題解決能力の向上に対し安定した効果が得られると期待される。

  • 日髙 翼
    2017 年58 巻2 号 p. 147-158
    発行日: 2017/11/24
    公開日: 2017/12/23
    ジャーナル フリー

    本研究は19世紀のアメリカ合衆国におけるハイスクール教科「植物学」(botany)の変遷過程を解明するものである。当時用いられていた「植物学」教科書や各種史料を用いて研究を行った結果, 1826年にハイスクール教育課程に導入されてから, 19世紀の間に学習のねらい, 方法, 内容等の特徴によって大きく2度の変化が確認できた。全体として, 宗教的なものから科学的な物の見方を育てようとする方向への学習のねらいに関する変化, また, 多くの種に関する網羅的な扱いから生徒にとって身近な植物を中心とした扱いへの変化, 毒性や薬効のようなヒトの身体への影響に関する記述の縮小等の学習内容の変化, 問答形式から実習への学習方法の変化が確認された。また, これらの変化は, 学問としての植物学の成熟, 科学と宗教の分離, 形式陶冶思想, 高等教育の影響等の要因によって解釈された。今後の課題として, 19世紀末から20世紀初頭に生物学系の諸教科が「生物学」へと収斂する過程を明らかにすることの必要性があげられた。

  • ―小学校第5学年「川の働き」の授業において―
    藤本 義博, 佐藤 友梨, 益田 裕充, 小倉 恭彦
    2017 年58 巻2 号 p. 159-173
    発行日: 2017/11/24
    公開日: 2017/12/23
    ジャーナル フリー

    本研究は, 小学校理科授業において, 主体的・対話的で深い学びを促進するための, 教師の発話による働きかけを明らかにすることを目的に行った。具体的には, 小学校理科授業において, 協働的な学習の場面を設計した指導案, 教材・教具を同一にして, 2名の熟達者教師の授業中の発話と班での協働的な学習の場面での児童の発話や協働性の意識を分析して, 主体的・対話的で深い学びを促進する教師の働きかけを検討した。その結果, 主体的・対話的で深い学びを促進するためには, 「観察する方法を知る」場面では, 観察に主体的に取り組めるように「探検調査隊」や「お出かけ」という発話による働きかけを行うこと, 「観察する」場面では, 問題を解決するためにチームワークが重要であると意識させるための「チームワーク」, 「チームでかけ声」, 「チームで相談」などの発話による働きかけを行うこと, 「観察した結果を話し合う」場面では, 他者と積極的に関わることを誘発するための「結果を共有」や「話し合いへ参加」及び, 話し合う内容を確認して話し合いのきっかけをつくる上で大切な「話し合う内容の順序」に関する教師の発話による働きかけを行うことが重要であることが示唆された。

資料論文
  • 小野寺 正己
    2017 年58 巻2 号 p. 175-182
    発行日: 2017/11/24
    公開日: 2017/12/23
    ジャーナル フリー

    小学生の月の満ち欠けの理解に関わる空間認識能力に影響を及ぼす諸要因を検討したところ, 「自然科学的体験」, 「科学への興味関心」, 「主体的・探求的活動」, 「理科学習への好感度」, 「天文学習への好感度」, 「算数学習への好感度」の6つの因子が抽出された。その後, 6つの因子が, 空間認識能力にどのように影響を及ぼしているかの因果モデルを作成し, 検討した。その結果, 「自然・科学的体験」が「科学への興味関心」と「主体的・探求的活動」の双方と共変的な関係にあり, 「科学への興味関心」と「主体的・探求的活動」が, 「理科学習への好感度」, 「天文学習への好感度」に影響を与えていることが明らかとなった。さらに, 「理科学習への好感度」と「天文学習への好感度」が「算数学習への好感度」に影響を与え, 「算数学習への好感度」が直接的に空間認識能力に影響を与えていることが示唆された。

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