理科教育学研究
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64 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • ―5年「ものの溶け方」の学習を事例にして―
    鐙 孝裕
    2023 年 64 巻 2 号 p. 113-124
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,理科学習におけるグループ内での対話の特徴と役割を明らかにするために,3つの分析方法を用いて量と質の両面から検証することを試みた。その方法として,行動ビッグデータを収集分析するシステムの「ビジネス顕微鏡」を用いて,グループ内でのコミュニケーションの状態を可視化し,その様相と量を明らかにした。コミュニケーション量を基に,グループを2つの群に整理し,予想とまとめに記述された内容を,それぞれ大量の文章データをクラウド上で定量的・定性的に分析・可視化するテキストマイニングツールの「User Local AIテキストマイニング」を用いて分析したところ,グループ内でのコミュニケーション量が,個人の意味生成に影響を与えることが明らかになった。さらに,コミュニケーション量高位群と低位群のプロトコル分析を行なったところ,意味生成につながる発話の特徴を整理することができた。以上のように3つの分析方法を用いて明らかになった子どもの様相を基に,意味生成につながる他者との関わりを検討した。以上の研究成果は,理科学習におけるグループ内での対話の意義を高めることに貢献する。

  • ―「探究のレベル」を使用した分析―
    小坂 那緒子
    2023 年 64 巻 2 号 p. 125-133
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    国際的な学力調査方法の一つであるOECD生徒の学習到達度調査(2015年実施)の分析等から,高等学校の理科授業内における探究活動の質を向上することが求められている。小学校や中学校は,探究や問題解決を段階的に実施する方法が学習指導要領に記述されている一方,高等学校では,生徒の探究力をどのように段階的に向上させるかが明確に示されていない。高等学校の理科教師は,多忙さや探究活動教材の不足,授業時間数の制約等の様々な障壁から,探究活動の実施に前向きだと言い難いと報告されている。本研究では,日本の高等学校理科授業における探究活動の質を段階的に変化させる手法として,探究のレベルという概念に着目し,2018年公示の学習指導要領に準拠した5社の高等学校生物基礎教科書における探究活動の探究のレベルを分析した。その結果,教科書記載の探究活動は,Banchi & Bell(2008)およびBuck, Bretz & Towns(2008)の定義を参照し,教師から生徒に与える情報量をもとに0から4の5つの段階の探究のレベルを定めることで分析することができた。分析の結果,教科書に記載された探究活動は,ほとんどがレベル2以下であり,探究のレベル3以上の活動が全くないか,少しある程度であり,最も探究のレベルが高いレベル4の探究は1社の教科書の一つの活動だけであった。しかし,1社の教科書には探究のレベルを上げる記述が数多く見られ,教科書の実験教材を使用して,よりレベルの高い探究を行うことができることが考えられた。理科教師は,身近な実験教材を扱う際に,探究のレベルの概念を使用して生徒に与える情報量を調整することで,自由に探究のレベルを変化させることができるため,探究活動の質の向上や生徒の探究力の向上を考慮して,教材の取り扱い方を今一度再考することが望ましいと考えられる。

  • 瀧本 家康
    2023 年 64 巻 2 号 p. 135-143
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    将来理科教員を目指す教育学部の理科専攻で実施する実験項目として,教室内で容易に実施可能であり,雨滴の大きさと終端速度の関係を見いだすことができる実験を開発した。雨滴のモデルとして異なる半径の発泡スチロール球を用いるとともに,その落下速度の測定にスマートフォンのハイスピードカメラ機能を活用することで,終端速度の理論値と測定値が概ね一致し(相対誤差3.7%),終端速度が半径の平方根に比例する関係を得ることができた。開発した実験の有用性を検証するために大学生を対象とした試行実践を行い,実践前後で終端速度についての理解度の変容を捉えた結果,本実験によって終端速度の理解が高まることが示唆された。

  • 中山 直之, 小倉 康
    2023 年 64 巻 2 号 p. 145-154
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,協調的な問題解決を通じて児童の協調性と有能感を向上させるための小学校理科の指導法を開発することである。児童の協調性と有能感を向上させるために開発した手立ては,問題を解決するために児童が計画した複数の実験の中から各児童が1つの実験を担当し,同じ実験を選択した者同士で実験を行い,各児童が自身の行った実験の結果を他の実験を行った児童に伝える場を設定し,「グッドジョブ」を讃えるワークシートを使用して協調的に問題を解決させるというものである。小学校第5学年「物の溶け方」の単元で,開発した手立てで指導する実験群と標準的な方法で指導する統制群を設定し,検証授業を行った。結果は,実験群のみで児童の協調性と有能感を高める効果を示した。加えて児童の理科における自信や興味・関心を高める効果も示唆された。

  • ―科学のテクスト読解としての理科学習―
    比樂 憲一, 遠西 昭寿
    2023 年 64 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,小学校第6学年「燃焼の仕組み」に,『ロウソクの科学』(ファラデー,2012)のテクストの一部を用い,三読法(石山,1973)による解釈的読みによって,「炭素と酸素の結合による二酸化炭素の生成」を理解させることを試みた実践的研究である。児童はテクストに科学的な問題を発見し,理論,実験方法,得られる結果を読み取りながら有意味に実験を行うことができた。また,実験の成功から理論を確証することでテクストの読みを確かにすることができた。ここでは,粒子モデルを導入して「炭素と酸素の結合」をイメージさせる指導がテクストの読解を支援した。また,テクストの中心的な内容を児童実験で,補足的な内容を演示実験で行うことで,燃焼単元の標準時間内に本実践を組み込むことができた。児童は科学のテクスト読解により「炭素と酸素の結合」を理解することができた。

  • ―3社の2020年の検定済教科書の比較を通して―
    柳瀬 堅司, 本田 勇輝, 山田 健人, 田代 直幸, 栗原 淳一, 山田 貴之
    2023 年 64 巻 2 号 p. 163-173
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,教科書会社3社(X社,Y社,Z社)の2020年検定済中学校理科教科書に記載されている全ての「問い」を対象に,関根ら(2012)に基づく分類を行い,その特徴を明らかにすることを目的とした。分析の結果,以下の4点が明らかとなった。(1)「どのように+動詞(how+動詞)」,「どのような+名詞(how/what+名詞)」,「何(what)」といった検証可能な「問い」が全体の約83%を占めていること。(2)領域における比較では,各領域において「問い」の傾向が異なっており,エネルギー領域では,関係や規則性に関する「問い」が見られる。粒子領域では「はい・いいえ(yes/no)」が多い傾向にある。生命領域では「性質」が多く見られる。地球領域では「なぜ(why)」が多い傾向にあること。(3)学年における比較では,第2学年,第3学年において「問い」の傾向が異なり,第2学年では「どこ(where)」が多い傾向にあり,第3学年では「何(what)」,「変化・状態」が多い傾向にあること。(4)出版社における比較では,Y社において「どのように+動詞(how+動詞)」,「何(what)」,「手段」が多く見られること。

資料論文
  • 中村 竜征, 宮本 直樹
    2023 年 64 巻 2 号 p. 175-183
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,理科において重視される体験活動の充実のために,高橋熙の「体験教育」の教育原理とその具体的プロセスを基に,「体験」の発展拡充に着目した実践の検討を行い,理科教育用W型問題解決モデルにおける「探検学習」の内実を吟味し,得られた知見から理科における体験活動へ示唆することを目的とする。その結果,自然体験を含んだ表現活動としての「体験教育」の実践や,理科教育的要素を含む「体験教育」の実践において,「体験教育」の具体的プロセスである「体験」・「表示」・「再体験」の「連関」要素すべてを踏まえた「体験」の発展拡充が確認できた。また,理科教育用W型問題解決モデル「探検学習」の第一段階,第二段階が往来することも明らかとなった。そして,これらの「連関」要素を理科教育における体験教育に取り入れることで,学習者である児童は「体験」の価値を見出し,体験活動の充実につながることが示唆された。

委員会報告
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