国際的な学力調査方法の一つであるOECD生徒の学習到達度調査(2015年実施)の分析等から,高等学校の理科授業内における探究活動の質を向上することが求められている。小学校や中学校は,探究や問題解決を段階的に実施する方法が学習指導要領に記述されている一方,高等学校では,生徒の探究力をどのように段階的に向上させるかが明確に示されていない。高等学校の理科教師は,多忙さや探究活動教材の不足,授業時間数の制約等の様々な障壁から,探究活動の実施に前向きだと言い難いと報告されている。本研究では,日本の高等学校理科授業における探究活動の質を段階的に変化させる手法として,探究のレベルという概念に着目し,2018年公示の学習指導要領に準拠した5社の高等学校生物基礎教科書における探究活動の探究のレベルを分析した。その結果,教科書記載の探究活動は,Banchi & Bell(2008)およびBuck, Bretz & Towns(2008)の定義を参照し,教師から生徒に与える情報量をもとに0から4の5つの段階の探究のレベルを定めることで分析することができた。分析の結果,教科書に記載された探究活動は,ほとんどがレベル2以下であり,探究のレベル3以上の活動が全くないか,少しある程度であり,最も探究のレベルが高いレベル4の探究は1社の教科書の一つの活動だけであった。しかし,1社の教科書には探究のレベルを上げる記述が数多く見られ,教科書の実験教材を使用して,よりレベルの高い探究を行うことができることが考えられた。理科教師は,身近な実験教材を扱う際に,探究のレベルの概念を使用して生徒に与える情報量を調整することで,自由に探究のレベルを変化させることができるため,探究活動の質の向上や生徒の探究力の向上を考慮して,教材の取り扱い方を今一度再考することが望ましいと考えられる。
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