理科教育学研究
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46 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 小野瀬 倫也, 森本 信也
    2006 年 46 巻 3 号 p. 1-11
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,理科学習における教授・学習過程の中で,子どもの科学概念構築と動機づけの関連を検討したものである。研究の理論的裏付けとして,最近の心理学における動機づけ研究では主流である動機づけ研究における認知論的アプローチを援用した。子どもの科学概念構築の実態把握調査には質問紙法を用いた。また,分析のカテゴリーには, Pintrichi,Rらが示す「学習を動機づける信念」と「自己制御的学習のストラテジー」の要素のうち,理科学習と関連が深いと思われるものを抽出した。調査の結果,子どもが「学習を動機づける信念」に基づき,「自己制御的学習のストラテジー」を駆使しながら科学概念構築を行っている実態を明らかにすることができた。

  • 木山 幸太, 金 京沢, 磯崎 哲夫
    2006 年 46 巻 3 号 p. 13-23
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,中国の後期中等化学教育を教育課程の側面から分析した。その際,全国的な教育課程とそれとは異なる上海の教育課程を分析対象とし,多面的に中国の後期中等化学教育の特色を明らかにすることを目的とした。その結果次のことが明らかとなった。①2002年の『化学教学大綱』から2004年の『化学課程標準(実験稿)』への改訂には,科学的素養の質的変容が大きく関わっていた。具体的には,科学的素養のうちの科学の方法論的側面,科学と社会,技術との関係という側面が重視されるようになった。②上海の教育課程においては,科学的素養における科学と社会,技術との関係という側面が比較的早い時期から重視されており, 2002年の全国的な教育課程よりも1998年の上海の教育課程の方が,科学的素養といった側面からは先進的であった。③中国の後期中等化学教育の全体的な動向としては,素質教育の一環として科学的素養の更なる向上が,科目の枠組みの変更や学習内容の変容といった大幅な改革により推進されている。

  • 小池 守, 高津戸 秀
    2006 年 46 巻 3 号 p. 25-32
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    スキャナやデジタルカメラを用いてパソコンに取り込んだ画像ファイルの色情報(RGB値)を解析するソフトウェアを作成した。本ソフトウエアとスキャナを用いて,ザルツマン試薬で着色した亜硝酸イオン水溶液の濃度と色情報(RGB値)から求めた吸光度との関係を調べ,高い相関が得られたことから亜硝酸イオンの濃度測定が可能であることを示した。次に,総合的な学習の時間に,公立小学校6年生を対象に,河川水の汚染を調べる目的で一般的に使用される化学的酸素消費量(COD) のパックテストと本ソフトウエアを用いた河川水中の亜硝酸イオン濃度の測定実験を行った。全ての児童が両方の実験操作を行い,亜硝酸イオン濃度については,精度良く測定を行うことができた。また,質問紙調査から,微量物質を調査する科学的な体験は児童の環境学習に対する肯定的な認識を高めると共に,児童は本ソフトウエアを環境学習にとって有用な教材と考えていることが示唆された。

  • 高橋 治, 菊地 洋一, 武井 隆明, 村上 祐, 佐藤 明子
    2006 年 46 巻 3 号 p. 33-43
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    平成10年の中学校学習指導要領の改訂により.理科から「イオン」学習が削除された。現在は「イオン」を発展的に扱うことが可能ではあるが,物質の基本的な構成要素であるイオンを義務教育段階ですべての中学生が学習する保証がないことには多くの問題がある。また,現指導要領の学習内容およびその配列では,粒子概念を学習しない段階で物の溶け方や状態変化の学習を行うことになっていたり,イオン概念を学ばないまま「酸・アルカリ・中和」の学習を行うため現象のみを確認する学習にとどまっている。これで生徒の「科学的な見方・考え方, 自然に対する総合的なものの見方」が育成できるのかと危惧される。そこで生徒の発達段階と理科の他領域の学習内容とのつながりを勘案し,「科学的な見方・考え方, 自然に対する総合的なものの見方」の育成に資するものとして「イオン」学習を組み入れたカリキュラムを構想した。次に,その中でポイントとなる「原子とその構造からイオンまでの学習(微視的な概念)」を中学1年生に導入する具体的な授業展開案(4時間)を作成し,授業実践を行った。その授業に関して,生徒が理解可能であるのか,および生徒の興味関心などの調査を行い,実践の検証を行った。結果は以下のとおりであった。1) 学習後の確認テストにより生徒の理解の状況を調べたところ,10の設問における正答率の平均は80%以上と良好であった。また生徒の授業評価においても80%以上が「よくわかる」,「だいたいわかる」と答えた。2) 生徒の授業評価から多くの生徒が「楽しく」,「興味を持って」授業に臨むことができ,「ふだんの生活や社会でも役に立つ」内容であると捉えていることがわかった。これらの結果から「原子」「イオン」を物質の基本要素として学習することは,中学1年生という発達段階でも可能であると考える。

  • 武井 隆明, 菊地 洋一, 菅原 尚志, 青井 千明, 大石 祐司, 村上 祐
    2006 年 46 巻 3 号 p. 45-53
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    「イオン」およびイオンと関係が深い「電気」に関する発見史・認識史を大きく分類することで人類が「イオン」を認識してきた流れを調べ,平成10 年度の学習指導要領改訂で高校へ移行統合された「イオン学習」の在り方を科学史の観点から検討を行った.イオンは,はじめ電解質溶液の電気伝導性あるいは電気分解において,電場がかかっているときのみ存在する「電荷を持った粒子」として認識された.それが日常的に存在する「物質を構成する粒子」すなわち「イオン」として認められたのは,電離説,そしてイオン結品の構造解析によってであった. しかし,その過程には約1世紀もの長い年月を必要とした.イオンと原子との関係で見てみると,原子の存在が最終的に実証されるより前にイオンの存在が実証されている.これは電荷を持った粒子の方が実験的に実証し易かったことを示している.つまり,イオンそのものの扱いはそれほど難しくないことを示しており,イオンが物質を構成する基本粒子であることも含めて考えると,義務教育段階で積極的に「イオン学習」を導入すべきであるといえる.また,多くの諸外国ではイオンを13, 14 歳ころに学習していることをあわせて考えると,導入の仕方を工夫すれば中学生でも十分理解できるといえる.イオンの認識史をひもとく中で明らかになったことの一つは,イオンそのものの扱いが難しいのではなく,イオンの存在の実証から原子やイオンの構造などを推論することが難しかったということであろう.つまり,イオンを理解するためには電子及び原子の構造と関連させて学習することが必要ということであり,そのことは中学校におけるイオン学習のあり方を考えるときの指針になると思われる.

  • 藤井 浩樹
    2006 年 46 巻 3 号 p. 55-64
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    19 世紀後半期のドイツ(プロイセンを指す,以下同じ)において,化学教育改革の先駆者として活躍したアレント(Rudolf Arendt:1828-1902) とウィルブラント(Ferdinand Wilbrand:1824-1893) を取り上げ,彼らの化学教育論を目標論,内容論,及び方法論という枠組みにおいて比較検討し,そして両者の論がドイツの近代中等化学教育の成立に果たした役割を明らかにした。(1) 彼らは化学のもつ文化・教養的価値,人間形成的価値を主張する立場から,化学の知識の習得や概念の獲得だけに終始するのではなく,加えて科学的な思考力や態度,探究能力の育成を求める新しい化学教育の目標論を主張した。(2) 彼らは化学反応ごとにあるいはまた,身近な物質ごとに化学教育の内容を区分するとともに,子どもの生活経験や興味・関心,理解力といった教育的要請に配慮した内容構成を提示した。(3) 彼らは従来の知識注入的・暗記中心的な化学教育の方法を強く批判し,科学的な思考力や態度の育成をめざして,帰納法に基づく実験教授法を提唱した。そして両者は,具体的には,仮説演繹法による教授過程を基本とし,アレントはその過程における帰納推理をウィルブラントは演繹推理を重視した。加えて,特にアレントは,化学教授の定型化を構想していた。彼らの化学教育論は,近代教育の基本原理と近代自然科学の研究方法との統一をめざしていたという点で重要であり, ドイツにおける近代中等化学教育の原型を形づくるものであった。

  • 古屋 光一, 戸松 一美
    2006 年 46 巻 3 号 p. 65-73
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学生の自己評価の繰り返し効果と, 自己評価と概念形成の関係を調査する実験を行った。そのため, 3つの小単元から構成される小学校6年生「からだのつくりとはたらき」の単元を取り上げた。そこで,小単元の授業前後にプレテスト,ポストテストを実施し,その比較による自己評価行う活動を1セットとし,これを3回繰り返した。ポストテストは学習内容の理解を調べるために実施した。また一連の学習終了後, 3ヶ月経過したところで学習内容の定着を調べるためにデイレイドテストを行った。なお,学習内容の理解(ポストテスト)と学習内容の定着(デイレイドテスト)の点数が高い場合,本研究では概念形成が進んでいるとした。その結果,次の3点が明らかになった。(1) 自己評価は,1回,2回,3回と繰り返すことで,その点数が上昇した。(2) 自己評価の点数(1回から3回までの合計)とポストテストの点数の間には,正の相関があった。(3) 自己評価の点数(1回から3回までの合計)とデイレイドテストの点数の間には,正の相関があった。これにより,自己評価の繰り返しには効果があること,自己評価と概念形成の間には正の相関があることが明らかになった。

  • 水落 芳明, 久保田 善彦, 西川 純
    2006 年 46 巻 3 号 p. 75-83
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校6年生「電磁石のはたらき」の実験記録作成場面において, コンピュータ操作スキルの向上と,実験記録の記載内容の質的な向上について,デジタルポートフォリオの利点を生かした評価法活用の視点からその効果を検証した。その結果,ポートフォリオをデジタル化したことにより,評価場面での学習者同士の相互作用が促進されることや,評価の交流により生じた学び合いが,実験記録をわかりやすくまとめるための有効なツールとなり得ること,デジタルポートフォリオを話し合い活動の中で活用することで,教師は教示のための時間を削減し,評価のための時間を生み出すことができることが明らかになった。つまり,学習者は,学び合いによって,デジタルポートフォリオ活用のための操作スキルを高め合い,わかりやすい実験記録を作成していくことができたのである。

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