「イオン」およびイオンと関係が深い「電気」に関する発見史・認識史を大きく分類することで人類が「イオン」を認識してきた流れを調べ,平成10 年度の学習指導要領改訂で高校へ移行統合された「イオン学習」の在り方を科学史の観点から検討を行った.イオンは,はじめ電解質溶液の電気伝導性あるいは電気分解において,電場がかかっているときのみ存在する「電荷を持った粒子」として認識された.それが日常的に存在する「物質を構成する粒子」すなわち「イオン」として認められたのは,電離説,そしてイオン結品の構造解析によってであった. しかし,その過程には約1世紀もの長い年月を必要とした.イオンと原子との関係で見てみると,原子の存在が最終的に実証されるより前にイオンの存在が実証されている.これは電荷を持った粒子の方が実験的に実証し易かったことを示している.つまり,イオンそのものの扱いはそれほど難しくないことを示しており,イオンが物質を構成する基本粒子であることも含めて考えると,義務教育段階で積極的に「イオン学習」を導入すべきであるといえる.また,多くの諸外国ではイオンを13, 14 歳ころに学習していることをあわせて考えると,導入の仕方を工夫すれば中学生でも十分理解できるといえる.イオンの認識史をひもとく中で明らかになったことの一つは,イオンそのものの扱いが難しいのではなく,イオンの存在の実証から原子やイオンの構造などを推論することが難しかったということであろう.つまり,イオンを理解するためには電子及び原子の構造と関連させて学習することが必要ということであり,そのことは中学校におけるイオン学習のあり方を考えるときの指針になると思われる.
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