理科教育学研究
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53 巻, 1 号
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総説
  • 山本 智一, 山口 悦司, 稲垣 成哲, 坂本 美紀, 西垣 順子
    2012 年53 巻1 号 p. 1-12
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,欧米におけるアーギュメントの研究から,アーギュメントの教授方略を抽出・整理し,今後のアーギュメント・スキル育成のために,理科の授業でどのようなデザイン原則を持つことができるのかを見出すことである。 近年,理科の授業において,アーギュメントを導入した研究が行われ,アーギュメントの必要性が注目されている。一方で,学習者にとって証拠の利用やアーギュメントの構成が難しいという課題も見出され,教授法の工夫が求められている。我々は,書くアーギュメントに限らず,話すアーギュメント.オンラインのアーギュメントで明確なアーギュメントの教授方略を持つ5つの研究から,アーギュメントを支援する多様な教授方略を抽出した。さらに,これらの教授方略から,「アーギュメントの意義を理解させる」「アーギュメントの構造を理解させ,その構造を利用できるように促す」「アーギュメントを行う際に内容知識を利用できるように促す」の3つのデザイン原則を見出すことができた。これらのデザイン原則は,日本の理科教育の中で,アーギュメント・スキルをどのように育成するのかという,今後の実践研究の具体的支援に資するものである。

原著論文
  • 小野瀬 倫也, 佐藤 寛之, 森本 信也
    2012 年53 巻1 号 p. 13-27
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    理科学習において子どもが抱く疑問は,子どもの学習の契機となり,学習活動を継続するための要素となり得る。よって,子どもの抱く疑問を的確に捉えることは理科授業をデザインする上で重要な意義がある。本研究では,観察・実験場面で使用するワークシートである認識論的Vee地図を踏まえた理科学習ガイドに学習の後に生じた新たな疑問とその疑問に対する自分の考えを述べる項目を設定した。そして,3つの学習のタイプの観察・実験場面における子どもの記述を分析した。その結果,例えば「内容が連続していて,既有の知識や概念を適用して問題を解決する」タイプの学習では,「新たな疑問とそれに対する自分の考えを論じることができる子どもが多い」というように,子どもの新たな疑問の記述内容には,学習のタイプによって特徴があることが明らかとなった。

  • 木下 博義, 松浦 拓也, 清水 欽也, 寺本 貴啓, 角屋 重樹
    2012 年53 巻1 号 p. 29-38
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,観察・実験の結果を考察する活動における小学生の学習実態を明らかにすることを第一の目的とした。さらに,同場面における小学生および中学生の学習に影響を及ぼす要因構造について,両者の比較の視点から明らかにすることを第二の目的とした。これらの目的を達成するため,小学校5,6年生200名を対象に,15項目からなる質問紙調査を実施した(中学生の分析には,これまでに実施した同様の質問紙調査で得た回答を用いた)。その結果,考察を導出する活動における小学生の学習実態として以下の①②,同場面における小学生および中学生の学習に影響を及ぼす要因構造として③のことが明らかになった。①児童が仮説を設定する活動に比べて,考察を導出する活動が十分に行われていない。②児童自らが仮説を設定したり考察を導出したりする活動に比べて,教師がまとめた考察を見て自分の考察を記述する活動が多く行われている。③考察を導出する活動に対して,小学生の場合は仮説を設定する活動が強い影響を及ぼし,中学生の場合は教師への依存が強い影響を及ぼしている。

  • 栗原 淳一
    2012 年53 巻1 号 p. 39-48
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,小学校6学年「水溶液の性質」の授業を対象に,個別実験を導入した協同的な学びと一般的なグループ実験での協同的な学びの違いが,科学的な概念の獲得や子ども同士の相互作用に与える影響を明らかにすることを目的とした。単元前後における水溶液の性質の保持概念に関する質問紙調査,TD(Transactive Discussion)の質的分析の類型に基づいた発話事例の解釈的分析により,以下の結果を得た。1)本研究における授業方略で個別実験を導入した協同的な学びを行った子どもは,統制群の子どもより概念的な理解が深まり,その効果は3ヶ月後も持続することが示された。2)個別実験を行った群では,一般的なグループ実験を行った群より操作的トランザクションの対話が生成された。3)本研究における授業方略(個別実験を導入した協同的な学び)で生成した操作的トランザクションが,概念形成を促していることが示唆された。

  • 黒田 秀子, 山本 智一
    2012 年53 巻1 号 p. 49-59
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,虫眼鏡を使った観察の実態を明らかにすることによって,低学年の児童が微視的な気付きを持つことができたのかを考察することであった。対象は,小学校1年生児童38名であり,分析の対象は,2010年6月に行われた4回の観察のうちの第1回目と第4回目の観察記録であった。本研究では,第1回目と第4回目の観察記録のスケッチとスケッチに付随されたコメントを対象に,スケッチに付随されたコメント数の量的評価とアサガオの生長に伴う各部位の表現を「理科的」と「絵的」に分類した質的評価によって分析された。また,第4回目の観察後に質問紙法によって観察時の虫眼鏡利用に関する主観的評価が行われた。量的評価では,第4回目は,スケッチに付随したコメント数が,第1回目に比べ増加した児童が,有意に多いことが明らかになった。また,質的評価では,第4回目は第1回目に比べ,各部位の特徴をよくとらえた「理科的」なスケッチを描いた人数が,「絵的」なスケッチの人数を上回った。さらに,スケッチの質的評価と付随されたコメント数の関係において,「理科的」なスケッチには,描かれた部位に関するコメントが書き込まれていた。主観的評価では,すべての項目において肯定的な回答が得られた。以上の結果から,小学校1年生活科で行われる栽培で,虫眼鏡を利用した観察活動において,低学年の児童が微視的な気付きを持つことができたことが明らかになった。

  • 佐藤 美子, 芝原 寛泰
    2012 年53 巻1 号 p. 61-67
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    マイクロスケール実験は環境に配慮した実験,個別化による「考える力の育成」に有効な実験として,教材開発と授業実践の報告を行ってきた。本研究では,環境分析等で一般に利用される,側面が透明なパックテスト容器を電解槽として,電極付近の化学現象の詳細な観察を可能にする教材実験の開発を行った。中学校理科の塩化銅(II)水溶液の電気分解・金属の組合せと反応の違いの実験を扱った授業実践を行い,開発した教材実験の有効性と問題点について検証した。授業においては,実験計画,実験記録,話し合いによる考察,結果の発表等の「考える力の育成」を図る実験活動を展開した。パックテスト容器を用いたマイクロスケール実験の教材が,考える力を育成する実験活動を行う上で有効であることを,授業実践時の生徒の活動,ワークシートの分析およびアンケート結果より確認した。

  • 柴 一実
    2012 年53 巻1 号 p. 69-80
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,理科研究中央委員会作成の「理解の目標」が戦後の小学校理科教育改革に及ぼした影響を明らかにすることであった。関係する文献資料を分析した結果,次の諸点が明らかになった。(1)低学年の「理解の目標」は,「生物に関するもの」「空と土に関するもの」「機械と道具に関するもの」の3領域において,40項目の科学的概念(上位概念)から構成されており,高学年の「理解の目標」は「保健に関するもの」を加えた4領域において,63項目の科学的概念(上位概念)から構成されていた。(2)「理解の目標」は学年段階や内容領域によって異なるものの,文部省著『理科の本』(1947)やG.S.クレイグ著『小学校教師のための科学』(1940),米国ワシントン州スポケーンのコース・オブ・スタディ(1943)などを参考にして作成されていた。(3)1949年2月に告示された理科教科書検定基準は昭和22年版学習指導要領ではなく,「理解の目標」が元になっていた。(4)昭和20年代に開発された香川県及び長野県の小学校理科カリキュラムの目標は,「理解の目標」を基準にして作成されていた。(5)「理解の目標」の作成は小学校理科教科書やカリキュラムに関する一つの基準を明示すると共に,地方での民主的な教科書及びカリキュラムづくりを支えるという点において重要な影響を及ぼしたのである。

  • 杉山 雅俊, 山崎 敬人
    2012 年53 巻1 号 p. 81-92
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    教育実習に向けての資質能力の形成について考えた場合,模擬授業は一定の役割を担うものと考えられる。この模擬授業を対象とした先行研究の多くでは,教師役の学生の力量形成に焦点が当てられてきている。しかし,実際のところ模擬授業で教師役を経験できる回数には限りがある一方で,児童役として模擬授業に参加し,授業づくりや授業実践のあり方について学ぶ機会が多いことを考慮すれば,授業実践の観察力や分析力等の形成の実態とその向上のための方策についても検討する必要がある。そこで本研究では,理科の模擬授業に児童役として参加した教師志望学生の理科授業に関する授業批評視点を明らかにすることを目的とした。学生がコメントカードの「良かった点」及び「改善点」として,どのような「内容」について記述しているか,また,どのような「深さ」のレベルで記述しているかについて分析した結果,次の3点が明らかとなった。(1)教師志望学生は,模擬授業について批評する際,「良かった点」及び「改善点」のいずれにおいても授業者の個別の教授行為を中心に検討していた。それに対して,教材について検討した学生は「良かった点」及び「改善点」のいずれにおいても少なく,授業構成については「改善点」において検討した学生が少なかった。(2)「良かった点」においては「小学校の授業全般」のレベルで記述する学生が多かった一方で,「単元固有」のレベルで記述した学生は少ない傾向にあった。(3)「改善点」においては「単元固有」のレベルで記述した学生が,他のレベルよりも多いか同程度であった。

  • 鈴木 一成, 森本 信也
    2012 年53 巻1 号 p. 93-104
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    現在,理科教育において「科学的な思考力・表現力」を育成することが,非常に重要な課題のひとつとなっており,この力を育成するためには一連の問題解決的な学習活動が必要であることが指摘されている。本研究では,マッカーシー(McCarthy, B.)の4MATシステムの視点を援用して授業実践を行うことにより,問題解決的な学習活動を体系的にデザインする視点について検証した。4MATシステムの視点を援用した授業実践の結果から,問題解決的な学習活動を体系的にデザインできることが明らかになり,さらに4MATシステムの第1象限から第4象限の活動において次の知見が得られた。・第1象限,第2象限において,生活経験や既有概念を用いて問題をとらえることにより,自然事象から多様な情報を収集して整理することできた。・第3象限において,集団の中では共通感覚の要素が多様に出現した。子どもは既習概念と実験結果から共通感覚の一要素をつくり,話し合いや発表といった活動を通して共同主観的にモデルをつくりあげ,それらを常識として取り入れながら科学概念が構築されていた。・第4象限において,第1象限から第3象限の学習を省察することにより知識を活用できる概念を,子どもが構築することができ,さらにその知識は新しい学習場面において課題導出に活用された。

  • 古屋 光一
    2012 年53 巻1 号 p. 105-121
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    PCKの働いている中学校3年生用の授業とそれに関する情報提供を大学2年生に行うと,どのような効果があり,彼らがこれをどのように受け止めるか調べること,及びポスト・遅延テストをPCK測定用テストとして使用できるかどうかを評価することを目的とした。そのため,教えた経験のない大学2年生に,中学校3年生が学ぶイオンの学習について授業を行った。授業の内容は,中学校3年生に実際に行う探究ベースの授業と,その説明(この授業のねらい,この学習を支える学問的な背景についての知識〜高校・大学レベルの知識,協同学習,教材の提示の方法,ポートフォリオの使い方)からなる。データ収集では量的データと,質的データを収集した。量的データでは,①プレ・ポストテスト,遅延テストの比較(3つは同じ問題),②この授業を受けた学生,受けない学生の比較,③大学の化学の授業のテストとこの授業で用いたテスト結果の相関分析をおこなった。その結果,この内容は教えないと大学生でも良い点が取れない。大学の化学の授業との相関はあるが,それは低い。大学の化学で良い点が取れても,この授業のテストでは必ずしも良い点が取れるわけではない。質的データでは,授業後にアンケートと面接を行った。その結果,①すべての学生がPCKを育てる授業から,内容知識を豊富化させている。②この授業を通して,大学生は教え方を学んだとしているが,その内容は授業のために内容知識を子どもにわかるように翻訳する方法などであり,ショーマンの定義に相当するものを学生自ら発見している事が明らかになった。最後に開発したテストをラッシュモデルにより分析した。その結果,妥当性と信頼性が得られた。このテストは,中学校3年生にイオンを教えることについてのPCK測定用のテスト(特に概念の理解と指導略に関するPCK測定テスト)として使用できることを示唆している。

  • 益田 裕充, 松原 詩歩
    2012 年53 巻1 号 p. 123-132
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,自己調整する能力が発達途中であるとされる小学校4年生の電流の理科授業を研究の対象とした。そこで,教師は,各自に電流回路を作製するよう課題を与えた。本研究では,まず,子どもが電流回路作製の情報をどのように選択しながら課題を解決するのか調査した。次に,ジマーマン(Zimmerman, B.J.)らの自己調整学習における「自己調整する能力」の発達レベルの視点から検証を行った。調査の結果,子どもは,理科室に配置された4つの電流回路の作製に関する情報を参照しただけで,電流回路を完成させたのではなく,それ以外に電流回路を完成させる要因があることが明らかとなった。子どもは自ら必要な情報を他者に求めたり発信したりしながら,新しいコミュニティを結成して問題を解決していた。このようにして展開した電流回路作製の授業において,子どもの自己調整する能力には,ジマーマン(Zimmerman, B.J.)らが指摘する4つの能力が出現した。さらに子どもは,コミュニケーション活動によって,自己の状況をモニタリングしたり,行動を動機づけるための支援を得たりしながら,自己調整的な適応を行い電流回路を組み立てる実態を明らかにした。

  • 宮下 治
    2012 年53 巻1 号 p. 133-145
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    東日本大震災を経験し,日本列島に住む私たちにとっては知っておかなければならない自然事象に対する知識と知恵が必要である。そのためにも,プレートの仕組みや,プレート運動によって引き起こされる地震・津波・火山活動などの自然事象について,小学生の段階から学習内容とともに野外自然体験学習の中から体験的に学ばせていくことが必要である。本論文は,東京都と神奈川県の公立小学校における,①.自然事象と自然事象(理科)指導に対する教師の意識の実態,②.野外自然体験学習の実施状況,③.野外自然体験学習の実施内容の調査結果に基づき,現状と課題を明らかにした。その上で,小学校教育における野外自然体験学習の推進に向けた課題改善について提言を行った。

  • 森本 弘一, 松本 郁弥
    2012 年53 巻1 号 p. 147-153
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    新学習指導要領の中学校理科において,「放射線の利用」が導入された。新しい内容であるので,授業で使用される教材の検討と実践の評価が望まれている。本研究は,「放射線の利用」に関する教材を検討し,中学生を対象に授業を行った結果を報告するものである。検討した教材は,「霧箱」による放射線の観察,「核分裂反応のシミュレーション」「放射線を用いた非破壊検査」「放射線を用いた工業製品の製造」「放射線による害虫駆除」「放射線の人体影響」などである。中学校2年生を対象に授業を行ったところ,子ども達は,霧箱による放射線の観察を実施することができた。そして,授業の事前と事後で子ども達の「放射線」に対する認識の変容が見られた。このことから,本研究で検討した「放射線利用の教材」が有効であったことが分かった。

資料
  • 浅井 尚輝, 森本 弘一
    2012 年53 巻1 号 p. 155-162
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    デジタル機器が氾濫している私たちの現代生活は,その内部を知らなくても,機械が結果を表示してくれたものを何の疑いもなく利用している。我々は,構造を知らない「ブラックボックス」をわからないまま使っているのである。そこで,デジタル機器の自作デジタル体温計の教材化を行った。数学を使って測定値処理をさせることで,デジタル体温計の仕組みを理解する1つの方法を提案する。学校現場で使用することを考慮して材料は比較的安価なもの,工作の作業は簡単であること,使用の手順も簡便なものとした。温度センサーを回路に組み込み,標準温度計と共に水温を測定した。測定値は電圧で表示される。10個の測定した電圧値をコンピュータ処理すると,温度上昇に比例して電圧値が上がり,高い相関が得られた。この相関関係から回帰直線を作り,温度センサーで実際の体温を測定すると,水銀体温計の測定値に近い数値を示した。これよりデジタル体温計の仕組みと,数値処理で科学と数学の接点が得られる実験となった。また,別の温度センサーを使って追試してみた。上記と同様の相関が得られたため,比較実験が可能になると考える。この自作デジタル温度計を作成することで,子ども達は少しでもデジタル機器の構造の理解が深まることが期待される。学習指導案も提案している。

  • 古屋 康則, 加藤 理恵
    2012 年53 巻1 号 p. 163-168
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    メダカの卵発生を顕微鏡で観察する際に,掲示物接着用シール(商品名:ワッポンなど)を用いる方法を考案した。スライドガラスにワッポン片2つを1cm程度の間隔で貼り付け,その間に水と卵を置き,カバーガラスを被せるという方法である。ワッポンの厚さはメダカの卵の直径よりもわずかに薄いため,カバーガラスによって卵はわずかに圧迫される。カバーガラスをワッポンの上でスライドさせることにより,卵を見たい方向に転がすことが可能である。この方法は従来研究用に用いられてきたスライドガラスに薄いガラス板を貼り付ける方法に比べ,材料費が安価であり,きわめて簡単に作成でき,児童・生徒が自ら作成することも可能である。しかも観察結果の鮮明さはガラス板を貼り付ける方法と同程度であった。今後,小中学校の理科や高等学校の生物の授業などで大いに活用できる方法である。

  • 守口 良毅
    2012 年53 巻1 号 p. 169-180
    発行日: 2012/07/17
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    高等学校教育課程「理科(化学)」履修における基礎学習項目の一つ物質量(モル)について,理系進学志望者とって必須学習項目との立場から,その修得動向や問題点を知るために平成2〜21年の20か年の大学入試センター試験(以下入試セと略)で出題された物質量(モル)関連問題(以下物関問と略)の出題動向や成績結果を利用し,この間における学習指導要領上での物質量(モル)記載内容の変遷と関連させて考察し,学習指導要領や大学入試に今後の課題を提起しようとしたものである。物質量(モル)が学習指導要領の学習項目に記載されている化学関連3科目「化学」,「化学IB」,「化学I」(以下化学関連科目と略)の入試セでの各平均得点と,それらに出題された物関問各平均得点率は学習指導要領改訂・実施ごとに変動するも,両者の間には非常に強い直線関係が成立し,少なくとも入試セ化学関連科目受験者に関しては基礎学習項目である物質量(モル)の修得定着化とその重要性が示唆された。しかしながら,学習指導要領の重要学習項目に物質量(モル)が記載されていた全員共通必修「理科I」の終了以降では,選択必履修科目の化学関連科目を選択履修しないかぎり物質量(モル)と無縁の理系大学進学者が出現することになった。その数を平成19〜22年における年平均大学等入学者の74%,51万人の入試セ受験者から推算したところ,19万人の理系大学等入学者の1.6%,約3000人となったが,残り26%,の非受験者約18万人については不明である。これらと大学新入生の化学基礎学力調査の結果とあわせ,学習指導要領,進学指導,入試制度について問題点と今後の課題を提起した。

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