理科教育学研究
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51 巻, 3 号
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総説
  • 宮田 斉
    2011 年 51 巻 3 号 p. 1-14
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    White(l988)によると,1970年頃までの実験室の問題は,生徒の操作技能の習得に関する研究が主流であり,これらの研究は実験書に従って教材や実験器具を正しく操作できるかという観点から考察されているが,学習論の観点からは考察されていない。本研究の目的は,1970年から2009年の期間において,理科実験器具の操作技能に関する研究の動向と課題を明らかにすることである。これまでの研究を概観した結果,(1)理科実験器具の基礎操作についての教師や生徒の実態に関する調査研究,(2)理科実験器具の操作技能指導法の開発研究に大別された。(1)では生徒の実験器具の操作技能の習得不足,及び習得度の性差があり,その原因として,教師の実験器具の操作技能不足,実験操作や助言が一部の生徒に偏る等という問題がある。(2)では,教えあいを促す指導法・操作のシミュレーション・これらを併用する方法が提案されたが,これらの指導法には特有の課題が残されている。

原著論文
  • 石井 健作, 本間 均
    2011 年 51 巻 3 号 p. 15-23
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校の理科学習における教授過程で,学習者が学習内容を理解する際の,「科学用語」導人の有効性についての研究を行った。特に,小学校第5学年で学ぶ「流れる水のはたらき」の単元において,「科学用語」:「浸食」・「運搬」・「堆積」を学習過程の中で学習者に導入し,「流水のはたらき」についての学習内容の学習者の理解のプロセスを,学習ノートヘの記述等を分析・考察し,以下の3つの結果を得た:① 新しい内容を学習する時に,学習者自らが「科学用語」を活用しながら考えるようになる。② 「科学用語」を用いながら,自分の言葉で自然事象を説明することができるようになる。③ 流水のはたらきについての科学的に妥判な知識を獲得することができる。以上のことから,学習内容の理解のための「科学用語」導人の有効性を明らかにすることができた。

  • 石井 俊行, 橋本 美彦
    2011 年 51 巻 3 号 p. 25-32
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,「分解」と「化合」の学習のうち,どちらを先に学ばせた方が「化学変化」の内容の習得に有効であるかを明らかにするために行った。その結果,以下のことがわかった。1) 意識調査の結果から.「化学変化」の学習では,「分解」よりも「化合」の方がわかりやすいと思っている生徒が多い。2) 約70%以上の生徒が,「化合」を学習した後に「分解」の学習をした方がわかりやすいと回答した。特に理科学力が下位の生徒にその傾向が強い。3)「分解」の次に「化合」を学習していた生徒の60%以上が,逆の順に学習したと記憶していた。その理由として,「化合」の実験の方が印象深い実験が多いこと,物質と物質とが組み合わされることによって新しい物質かできるという考え方が理解しやすいこと,等があげられていた。我々教師は,これらの知見を生かして生徒の学習意欲が継続されるよう,授業を組み立てていく必要がある。

  • 稲垣 成哲, 舟生 日出男, 山口 悦司, 三澤 尚久, 出口 明子
    2011 年 51 巻 3 号 p. 33-46
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,理科教育の実践研究において広く利用されてきている運勢ライン法のシステムを開発した。理論的な背景は概念生態系モデルである。システムの開発理念は「コミットメントの可視化・共有化」であり,そのデザイン指針は次の3点であった。1)学習者が自分自身のコミットメントを表現する,2)学習者同士がお互いのコミットメントを参照する,3)教師や学習者がコミットメントの変化を把握する。システム評価としては,教師及び学習者を対象にした3つの予備的な評価を行った。1)授業に先立つ5名の教師を対象とした面接評価, 2) 授業に参加した児童37名を対象にした質問紙評価, 3) 授業に参加した児童から無作為に選ばれた20名を対象にした面接評価である。その結果,上述の3つの指針を実装した本システムの有効性が認められた。

  • 内ノ倉 真吾
    2011 年 51 巻 3 号 p. 47-58
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    中学校における電気単元を事例とし、アナロジーを基盤にして認知的な葛藤を生起・促進し、それを解消することで、科学的な理解が促進されること、およびそのアナロジーの活用方法の有効性を、質問紙調査およびプロトコル分析によって探った。その結果、次のことが明らかとなった。(1) 生徒の学習前の科学的に適切とはいえない考えを代表するアナロジーと、それとは明確には異なって、より科学的なモデルに近いアナロジーという、対照的な複数のアナロジーの導入は、認知的な葛藤を生起・促進し、それを解消するという教授展開において有効であった。(2)背理法的な推論プロセスと関連付けて、生徒の考えを代表するアナロジーを評価すると同時に、そのアナロジーによって、生徒の電流のモデルを評価するというプロセスを通じて、生徒の認知的な葛藤を生起・促進する効果が認められたのであった。(3) 生徒の考えを代表するアナロジーの限界が明白になり、認知的な葛藤が高まった場面は、生徒自身による新たなアナロジ一生成の時機でもあった。このとき、科学的なモデルに近いアナロジ一を導入することによって、先の認知的な葛藤が解消され、生徒の考えを変容・転換させることにつながり、生徒自身がその認知的な変容も実感しうるのであった。(4) 構造化されたアナロジーによって、科学的な意味で未分化であった生徒の考えのうちに、関連概念間の区別が意識化されるような、科学的な理解の促進効果があった。

  • 加藤 圭司, 松本 伸示
    2011 年 51 巻 3 号 p. 59-73
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,学習者の科学観や科学に対する情意の実態を,理科の学習経験の蓄積による科学的知識の獲得状況と共にとらえていく中で,理科学習が学習者の科学との関係性を変えていく実態を明らかにすることを目的とした。本研究では,対象とする学習者の科学観や科学に対する情意が,理科を学ぶ中で緩やかに変化することを想定して,約5ヶ月に及ぶ中学校1年理科第1分野の授業を追跡するとともに,科学観の変化についてはロスとルーカス(1997) の調査・分析手法をもとに.また,科学に対する情意や科学的知識の獲得状況については当該の内容に関する学習者の記述をもとにとらえていくことを試みた。この結果,中学校1年の初期段階における未成熟で曖昧な科学観が,科学的知識の獲得が進むにつれてより具体的かつ明瞭になる傾向があること,理科の学習内容の理解が進む一方で,科学に対して興味を失う等の傾向が見られるなど,学習者固有の科学との関係性の実態を明らかにすることができた。得られた学習者の実態特性から見て,本研究で用いた一連の評価スキームは,中学生の科学観や科学に対する情意をとらえることに有用であり,科学との関係性を探るための手立てとなりうることを確認できた。

  • 金子 健治, 小林 辰至
    原稿種別: 本文
    2011 年 51 巻 3 号 p. 75-83
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    中学校物理領域の力の大きさとばねの伸びの学習指導では,生徒が実験を行い,実験結果を正しくグラフ化し,そのグラフから力の大きさとばねの伸びの関係を見いだすことが重要である。本研究は,力の大きさとばねの伸びの学習において,生徒一人一人がThe Four Question Strategy (4QS) に基づいて仮説設定を行ってから実験に取り組むことが,生徒のグラフ作成能力の習得に与える効果について実践を通して明らかにすることを目的とした。そのために,力の大きさとばねの伸びの関係について4QSを用いて生徒自身が仮説設定を行ってから実験を行う実験群と,4QSを用いないでクラス全体で討論しながら仮説設定を行った後に実験を行う統制群を設定して,両群のグラフ作成能力の習得状況とその応用問題への適用状況を比較検討した。その結果,次の2つのことが明らかになった。1つは,4QSを用いた実験群の方が,4QSを用いなかった統制群よりもグラフ作成能力を習得した生徒の割合が有意に高かったことある。もう1つは,応用問題に対しても実験群の方が,統制群よりもグラフ作成能力を適用できる生徒の割合が有意に高かったことである。

  • 黒田 篤志, 森本 信也
    2011 年 51 巻 3 号 p. 85-99
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    近年.言語活動の重視が叫ばれ,談話を通した協調的な学習が盛んに実践されてきている。本研究においては. Scardamalia,M.の学習支援研究を参照することで,理科における対話的な授業について議論した。プロトコルの分析の結果,以下の点について明らかとなった。(1)科学概念構築が図られる授業では,教授行動をとる際の教師の意図としてScardamalia,M.の12の因子が働くことが確認できた。(2)子どもは,学級内で表現した言葉を専有(appropriation) しながら,科学概念構築を図ることが確認できた。(3)教師は,科学概念構築が図られるように,子どもとの対話において.ハブの役割を果たしながら学習活動をコーディネートしている。(4)Scardamalia.M.の学習支援に関する理論やPalincsar,S.による教授行動の理論が,授業分析の枠組みとして使用できる。

  • 佐伯 英人, 岡田 明子, 金田 隆史
    2011 年 51 巻 3 号 p. 101-111
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では、中学校における遺伝学習の教材としてカイコBombyx moriの卵色に着目し、授業を実践した。実験結果に併せ、生徒の意識を基に、教材としての有効性について議論した。その結果、学習意欲の高揚、学習内容の理解、生命に対する意識(生命の連続性や神秘の認識)と生命を尊重する態度の育成の3つの視点から、有効な教材であることが分かった。特に学習内容の理解については、目的意識をもたせること、遺伝の規則性を見出させ、理解させること、遺伝に対する両親の等分な寄与を理解させること、遺伝の確率的性質を認識させることについて有効であった。

  • 柴 一実
    2011 年 51 巻 3 号 p. 113-126
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は, 1949 (昭和24) 年発行の第5・6学年用『小学生の科学』の原案内容が如何に採択され,修正されたのかを明らかにすることである。関係する文献資料を分析した結果,第5・6学年用『小学生の科学』の原案は理科研究中央委員会によって採否が決定され,中央委員会及びCIEによって修正が行われていた。採択された19単元のうち, 17単元が全国9地区に設置された理科研究地方委員会の1つである九州地区委員会によって作成されていた。理科研究中央委員会は『小学生の科学』の原案採択に当たって,次のような基準を設けていた。(1) 児童が行う実験数が多いこと. (2) 学習に適した種類の動植物を取り上げること. (3) 児童にとって理解困難と思われる内容を削除すること.(4)暫定教科書(1946)と同ーの内容を削除すること.(5)B.M.パーカー著『基礎科学教育叢書』を参考にすること.等々。理科研究中央委員会と地方委員会による共同での教科書づくりは、現場の声を教科書内容に反映させる地方分権的,民主的システムであり,他の教科には見られない理科独自のやり方であった。

  • 橋本 健夫, 劉 卿美
    2011 年 51 巻 3 号 p. 127-136
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    急速なICTの発達は、社会の国際化を促し、各国に産業の構造転換を追っている。特に、産業界にあっては技術革新のスピードが加速され、日々新しい技術の開発に取り組まなければ、それぞれの企業の存続が難しい状況になっている。この厳しい局面を打開し、科学技術創造立国を掲げる我が国が世界的なリーダーとして存続していくためには、益々激しくなる技術革新を支える優秀な研究者や技術者の育成に、国を挙げて取り組んでいく必要がある。そして、この取り組みには、科学者や技術者の数を増やすという目標の他に、従来の科学や技術の枠にとらわれない発想ができる人物を育てるという視点が重視されなければならない。それは、これまでの科学水準を遙かに超える発想による飛躍的な技術革新こそが日本のリーダーとしての地位を保証すると考えるからである。この飛躍的な革新に貢献する者をどのように育てるかについては、各国で様々な試みがなされているが、我が国においては、その試みが始まったばかりである。これを順調に育てるためには、その教育内容や方法が的確に検討されなければならない。そこで、我が国と同じような学校制度を持っている韓国での英オ教育を取り上げ、調査・分析を行った。その結果、次のような特色が明らかになった。① 個の最大限の伸張を目標にしていること。② 才能ある子どもたちを見つけ、育てるために、その裾野拡大と育成システムを機能的に関連させていること。③ ②を確実に行うために従来の学校制度に特例を設け、国を挙げて推進を図っていること。④ 育成システムの教育においては、斬新的な方法の採用とカリキュラムの革新を行っていること。⑤ 大学の力を最大限に活用していること。

  • Koichi MORIMOTO
    2011 年 51 巻 3 号 p. 137-144
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    This paper surveyed the effect of introducing problem solving in the lesson at the University of Education. The obtained findings are as follows. (1) To compare with the lesson before introducing the problem solving. the students' attitude become better after introducing it. They listen to the lecture explanation: they talk about science matter each other, they think about science. (2) The students won high score of average in the final test after introducing problem solving. As for the problem that the students had not been able to solve before. most of the students successfully solved it in the final test. (3) As for research program. the students conducted the interesting topics. They could solve them by themselves. As they listened to the students' presentation carefully, they seem to be interested in science. Thus. I can conclude that the introducing problem solving in the lesson is very effective to enhance the students' science ability. The students could acquire the knowledge of science teaching materials and inquiry ability.

  • 山下 修一
    2011 年 51 巻 3 号 p. 145-157
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,高等学校で物理Iを選択した理科系大学生31名と選択しなかった文科系大学生130名「光の性質」を学んだ直後の中学校1年生43名を対象にして, まず, どの程度凸レンズを通る光の作図ができるのか作図の意味がわかっているのかについて調査した。そして,作図について解説した読み物を通じて,どの程度作図の意味がわかるようになり,獲得した知識を用いて発展的な課題に回答できるようになったのかについても調査した。その結果,凸レンズを通る光の作図については,解説を読む前でも,理科系学生(実像:97%,虚像:90%)・中学生(実像:81%,虚像:70%)は2本以上の光路を描いて正しい作図ができていた。作図の意味については,解説を読む前には理科系学生・文科系学生ともに,作図はできても意味まではわかっていないという傾向が見られた。解説を読んだ後には,文科系学生でも実像(96%)・虚像(95%)についての作図ができるようになり,作図ができて意味もわかるという状態になっていた。また,凸レンズを半分隠した場合の実像の作図には,理科系学生84%・文科系学生65%が正答でき,顕微鏡の見え方を問う課題についても,文科系学生でも40%が十分な説明をするようになっていた。中学生の場合には,解説を読み進めながら新たな知識を獲得するのが困難で,発展的課題にはうまく回答できなかった。

  • 吉田 拓郎, 芝原 寛泰, 川本 公二
    2011 年 51 巻 3 号 p. 159-167
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    混合物の分離・精製に関する個別実験が可能なマイクロスケール実験教材の開発を行った.高等学校化学の教科書には,ろ過・蒸留・昇華・抽出・再結晶・クロマトグラフィー実験が写真付きで掲載されている.高等学校学習指導要領にも実験を通した指導が明記されているが、時間や費用.準備片付け等の問題から,生徒実験を含めた指導は容易ではない.本研究では,小型の試験管や試験管立て,電子天秤,実験用ガスライター等を用いたマイクロスケール実験により,上述の6種類の混合物の分離・精製実験教材を開発した.マイクロスケール実験では,複数の実験を短時間で行うことができる.また,一人ひとりが実験操作を行う個別実験では,演示実験やグループ実験に比べ,物質の持つ化学的性質に着目しやすくなる.開発した実験教材を用いて.高校生対象に授業実践を行った. 50分×2コマの授業で6種類の混合物の分離・精製実験を個別実験で行うことができ,廃液量も通常スケールの約10分の1に抑えることができた.アンケート結果から,「物質の持つ化学的性質を利用して.分離を行っていることが理解できた」という回答が多く見られた.混合物の分離・精製において個別実験を通した指導が重要であることが明らかになった.

  • 和田 一郎, 森本 信也
    原稿種別: 本文
    2011 年 51 巻 3 号 p. 169-179
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    近年,子ども自らが考え,表現する理科授業の開発が強力に要請されている。こうした時代の要請は,理科授業において教師に子どもの学習を的確に見極め.時宜に適した支援を施していく必要性を増強させている。子どもは学習過程において, 認識の源泉である様々な種類の表象(representation) をダイナミックに稼働させ,変換させながら科学概念の構築を図っている。本研究では,こうした科学概念構築過程における表象の変換過程に関わり機能している表象の操作上の因子について検討することによって,より具体的に子どもの理科学習の内実を精査することを試みた。この際,Kozma.R.ら(2007) が提起する自然事象の解釈に関わる表象の操作の5つのレベルに関する理論およびWhite. R.T. (1988) の提起する知識の構成要素の理論を援用し,表象の操作レベルの高度化と科学概念構築過程との関連性について分析した。結果として,表象の自律的操作の具現化が知識の構造化を促進し,科学的な思考カ・表現力の向上に寄与していることが明らかとなった。

資料
  • 大山 光晴, 鈴木 康治, 谷口 哲也, 根本 滋之
    2011 年 51 巻 3 号 p. 181-188
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    手回し発電機と大容量の電気二重層コンデンサーは,新しい学習指導要領で小学校の6学年での利用が決まっている。手回し発電機と電気二重層コンデンサーは安価であり, これらを使った教材の開発が容易である。我々は小学校での授業実践をふまえて,これらの特性を調べるとともに,低学齢の子ども達がこれらを安全に使用するために必要な基礎知識を得るための実験をおこなった。児童が手回し発電機で豆電球やLEDを点灯させる場合は,発電電圧を押さえないと壊す可能性が高い。また,コンデンサーの利用に際しても,耐電圧と極性を正しく理解していないと,破裂や破損の可能性が高くなり急激な性能の劣化がおこる。これらの実践と実験の成果を基に,授業で適切に児童の疑問に答え,これらを小学校で安全に使用するためにQA集という手引書をまとめた。

  • 大貫 麻美, 髙山 真記子, 福岡 敏行
    2011 年 51 巻 3 号 p. 189-199
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    「総合的な学習の時間」は、生きる力を培う上で重要な役割を担う学習活動の機会である。環境問題はいずれの学校段階でも「総合的な学習の時間」の課題として重視されているが、学習・教授上の難しさをもつ学習課題でもある。本論文では、これらを踏まえて中学校第3学年の「総合的な学習の時間」向けにカリキュラムを開発した。カリキュラムの特徴は、学習活動にコンセプトマップ法を導入した点、及び子どもが身近な環境を対象とした実験・調査を自ら考え、研究活動を実践できるよう複数の教師による専門的な学習支援を行った点である。平成14年度より4年間にわたり湘南白百合学園中学校の第3学年の「総合的な学習の時間」において、「環境問題」を大きなテーマとした学習を行う際に本カリキュラムを用いた学習効果について報告する。子どもが研究活動をまとめた論文や学習活動を振り返って子どもが記述した感想からは、子どもが教師の支援を受けながら身近な環境について実際に調べたことで自分たちと環境問題とのつながりについて実感を伴った理解をした様子や、今後の主体的な活動につなげていこうとする姿勢が見られた。子どもが作成したコンセプトマップからは、学習活動を進める過程で、子ども自身が研究課題となる環境問題と自分との密接な関係の認識を深めたことが分かった。また、子どもが自由記述した文章からは、コンセプトマップの作成が、ほとんどの子どもに概念の再構築に関するメタ認知を促し、研究活動に向けた意欲の向上や、協同的な学びの場での知の共有化、学習活動の成果の自己評価につながることを示した。このように、コンセプトマップ法により個の学びと協同的な学びを結びつけ双方を促進させること、及び、教科に根ざした知識や技能の習得に重点を置きながら体験的および問題解決的な学習を行い、探究活動に主体的に取り組む態度を育てることは、平成20年に改訂された新しい学習指導要領のねらい1)にも合致し、今後の教育実践の場においても有効であるといえる。

  • 櫻井 勇良
    2011 年 51 巻 3 号 p. 201-207
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    磁界を検出あるいは観察する実験器は、鉄粉、鉄線、小型の永久磁石などを用いた理科教材が試作・研究され、教育に用いられてきた。本研究では、従来の実験器に対して流動的な動きを示す点で優れている「磁性流体」を用いた磁界観測器を試作し、次の結果を得た: (1) 試作した実験器をはさむようにして磁石の同極同士および異極同上を向かい合わせた時の、引カ・反発力(斥力)の働く様子を磁性流体の動きの変化から直感的に理解できることを示すことができたこと、(2) さらにそれらの同極同士の距離を変化させた時の相互作用の変化を可視化しその原理の理解を助けることができたこと、(3) 斥力発生時に、磁性流体特有のパターンの形成を可能にし、学習者のこの問題に対する興味・関心を引き出すのに大いに貢献した。

  • 清水 誠, 肥田 幸則, 紺野 雅弘
    2011 年 51 巻 3 号 p. 209-215
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,外的資源の持つ操作可能性が科学的な概念の形成に与える効果について検証することを目的とする。授業は,台風の進路の学習内容で実施した。外的資源として,実験群は気象衛星画像に加えクリアシートとカラーシールを用意した。統制群は,気象衛星画像のみを用意した。学習を行った結果は,実験群が統制群に比べ科学的な概念の形成に有効であることが分かった。実験群の児童たちには,クリアシートを重ねる行動や,重ねることで台風の動きが顕在化したことに気付いた発話が多く見られた。また,重ねたクリアシートをもとに台風の動きを他者と比較・検討している発話を多く確認することができた。外的資源の持つ操作可能性の機能は,学習者に操作を促し,操作することにより問題の解が可視化可能となることで科学的な概念の形成に有効に働くことが示唆された。

  • 鈴木 康代, 山下 修一
    2011 年 51 巻 3 号 p. 217-225
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,中学生第3学年『水溶液とイオン』でより充実した説明活動の開発をめざした。電解質水溶液と2種類の金属の関係を探る課題1から課題4について考察する場面で, 自分の考えをまとめる際に物質と対話する形式で考えをまとめる「対話法」を用いて記述した対話法クラス23名と,一般的な文章で記述した一般クラス22名でどのような説明活動が展開されたのかを探った。その結果,「対話法」を用いた効果として以下のような点が明らかになり,「対話法」が説明活動を充実させるのに有効な手立てであることが明らかになった。(1) 対話法クラスでは「何で?」という問いかけを自ら作りだし,根拠を明確に記述することができた。(2) 対話法クラスでは,結論と根拠を区別して考えをまとめることができ,他者に説明する際にも根拠を明確にして順序立てて分かりやすく説明することができた。(3) 一般的な文章で書かせた課題4についても,対話法クラスでは課題1から課題3での他者を意識して考えをまとめた経験や自分の考えを振り返りチェックした経験が生かされ,課題に応じた結論を導き出すことができていた。(4) 事前・事後アンケート結果から,対話法クラスの方が「自分の考えを説明できた」「自分の考えを分かってもらうことができた」と実感できるような説明になっていたことが示された。

  • 村瀬 公胤
    2011 年 51 巻 3 号 p. 227-237
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,森本・瀧ロ・八嶋(1999) による科学的概念の深化に関する研究をふまえて,理科授業の話し合い場面で子どもたちが比喩表現の意味要素(semantics) を変化させながら科学認識を協同的に構成していく過程を明らかにし,教師の適切な支援を可能にする実践的示唆を得ることである。そのために,本研究では子どもたちがお互いの発言にある表現を借用/領有する「アプロプリエーション」という活動に焦点を当てた。分析の対象は,小学校6年生の学級で行われた人体に関する単元の授業である。観察記録から話し合い場面の発話データを起こし,Lemkeの分析を参照しながら比喩表現の意味要素を同定した。そのうえで,各発言によってどのように意味要素が変化するかについて分析した。結論は以下の3点である。第一に,話し合いの中で子どもたちの発言にある比喩表現はアプロプリエーションを通して意味要素が変化していた。第二に,個々の子どもは比喩表現のアプロプリエーションを通して,自らの科学認識を深化させていた。第三に教師がこうした比喩表現を積極的に利用して話し合いを組織している可能性が示唆された。

  • 森 富子
    2011 年 51 巻 3 号 p. 239-244
    発行日: 2011/03/10
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    サブマリン型簡易電気泳動装置を用いて、タンパク質の分解酵素・ペプシンの働きを短時間のうちに、客観的に判定できる実験を開発した。消化される基質タンパク質として、ウシ血清アルブミン(BSA)を用い、色素・ブロモフェノールブルー(BPB)を加えることによって、泳動後の染色、脱染の時間を省き、実験時間を短縮することができた。 また、電気泳動装置を使うことにより、マイクロスケールの試薬量で、消化酵素の働きを様々な条件で確かめられることが分かった。

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