理科教育学研究
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48 巻, 3 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著論文
  • 磯崎 哲夫, ヴイーリ ヨウニ, 川上 昭吾
    2008 年 48 巻 3 号 p. 1-11
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,ユヴァスキュラ大学とヘルシンキ大学を分析対象として,フィンランドの理科の教員養成教育の特色について明らかにすることを目的とした。また,わが国の教師教育への示唆も導出した。その結果,初等学校教師も中等学校教師も大学院修士課程修了が基礎資格でありそのための教員養成教育のプログラムが構築されていること,生涯にわたる教師の専門的成長の導入と位置づけられ,研究者としての教師を育成することが目指されていること,授業を想定した教材化の知識が重視されていること,など,教師教育研究の知見が取り入れられていること等が明らかとなった。

  • 入江 薫, 尾竹 良一, 小林 辰至
    2008 年 48 巻 3 号 p. 13-23
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    小学校新規採用教員を対象に「1. 理科の有用感」,「2. 探究的態度」,「3. 学究的態度」「4. 理科指導の楽しさ」,「5. 観察・実験技能に対する自信」,「6. 理科指導に対する自信」に関する実態を明らかにすることを目的としてアンケート調査を行った。その結果,以下の事柄が明らかとなった。(1) 理科の学習の有用感については,新規採用教員の90 %以上が日常生活や環境保全等の実利的な側面に関する項目で肯定的に回答した。(2) 探究的態度については,新規採用教員の約7割が自分で観察・実験をして確かめたり自然の事象を要因と関連づけて考えたりする方だと肯定的に捉えていた。一方,仮説(予想)にもとづいて観察・実験の計画を立てるといった探究における最も重要なプロセスについて自分の姿勢を肯定的に回答したのは約5割であった。(3) 学究的態度については,科学に関する本を読んだり博物館・科学館によく出かけたりする新規採用教員は2~3%と少なく, 自ら科学的な知識を積極的に得ようとする姿勢の乏しいことが示唆された。(4) 理科指導の楽しさについては新規採用教員の約95 %が観察・実験を通して子どもたちに新しい発見をさせることは楽しいと肯定的に回答した。(5) 観察・実験技能については,新規採用教貝の8~9割がアルコールランプ等の一般的な実験器具の操作を習得していると感じていた。しかし,物づくりの代表として取り上げた電磁石について作製できると回答したのは,約5割であった。(6) 理科指導に対する自信については約4~6割の新規採用教員が本調査で取り上げたほとんどの学習内容の指導に関して自信をもっていなかった。

  • 小野瀬 倫也, 村澤 千晴, 森本 信也
    2008 年 48 巻 3 号 p. 25-34
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,理科学習における子どもの自己制御的学習の実現を支援するための「理科学習ガイド」を設計し,授業実践の分析からその効果を検証した。その結果,「理科学習ガイド」に記述された子どもの科学概念の構築過程をもとに有効性が示された。また,調査対象となった子どもへのアンケート調査から,理科学習ガイドを構成する各項目について子どもが肯定的に評価していることが明らかにされた。さらに,本研究における単元構想は,標準的な授業時数によって構成されていることから,構成主義に基づく子どもの学習観をベースとした授業の具体的な提案になり得るものであると考える。

  • 甲斐 初美, 森本 信也
    2008 年 48 巻 3 号 p. 35-44
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,中学校理科の植物の学習において, ⅰ) 学習者自身が記述した「観察・実験事実」,ⅱ) ⅰ) についての説明手段としての「比喩的表現(擬態語・直喩・隠喩)」, ⅲ) ⅰ) とⅱ) をもとにして科学概念を構築する「推論」の三つの表れを評価することによって,意図的概念変換(intentional conceptual change) 過程の実態を明らかにした。こういった分析の中から,学習者自身の「明確な意思」に基づく概念変換の有意味性を指摘した。さらに,その実現のために,次の三つの指導の方策を提起した。(1) 学習の全体像と個々の学習の関連性を認識させる。すなわち,学習全体を把握させることと個々の内容を追究させることを相互的に行う。(2) 意図的な学習を学習者自身の思考(内化)にとどめさせるだけではなく,それを他者に伝達するための手段としての表現活動(外化)を要求する。(3) 科学概念としての合意形成を行わせ,その解釈をパラフレーズ化させる。

  • 加藤 尚裕
    2008 年 48 巻 3 号 p. 45-56
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校5年生理科「おもりの働き」の単元を取り上げ,小学生の子どもたちのメタ認知の働きを促進するための学習ツールとして「コンフリクトシート」を開発した。そして,このコンフリクトシートを用いて理科授業を行った。その結果,以下の3点が明らかになった。① 実験の計画場面でコンフリクトシートを用いる授業は,その後の実験活動で子どもに振り子の特性に関する要素についてモニタリングに相当するメタ認知を働かせるのに役立っている可能性が高い。② コンフリクトシートを用いる授業は,メタ認知が高い子どもほど振り子の特性に関する概念形成に影評を及ぼす可能性が高い。③ コンフリクトシートを用いる授業は,メタ認知の高い多くの子どもに振り子の特性の要素に関するモニタリングに相当するメタ認知を働かせるのに役立っている。

  • 桐生 徹, 久保田 善彦, 西川 純
    2008 年 48 巻 3 号 p. 57-66
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,中学生が教師役となる理科の出前授業を2つの小学校で行った。二度の授業の分析と一度目の授業後に行った授業検討会での話し合いを分析した。その結果,中学生は, 2度目の授業を小学生が主として活動する授業デザインに改善していた。授業検討会での話し合いでは,「経験交換ケース」の話し合いが行われ,話し合いの内容で用いられた知識領域は,「教材」,「教授」,「学習者」の3領域を網羅していた。このように教師役が中学生であっても, 3領域の知識を表出し合う「経験交換ケース」のグループにおける話し合いが有効に作用すれば,授業デザインを見直し向上した授業を実践できることが明らかとなった。

  • 田川 健太, 西山 保子
    2008 年 48 巻 3 号 p. 67-74
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    理科と数学は密接な関係にあり,理科の授業で数学的知識が必要となることが多い。理科教師による数学的内容に関する指導の実態と意識を明らかにするために東京都立高等学校に勤務する理科教師を対象に質間紙調査を行い,数学的内容について指導しているか,指導すべきだと思うか,指導すべきだと思い指導しているか(積極的指導をしているか)を分析した結果,以下のことが明らかになった。(1) 有効数字,指数,平均は,半数近くの理科教師が理科の授業で指導している。(2) 有効数字と誤差は,7割以上の理科教師が理科の授業で指導すべきだと考え,平均,指数,ベクトル,対数は半数近くの教師が理科の授業で指導すべきだと考えている。(3) 四年制大学進学率が6割以上の学校では,平均はあまり指導されていない。(4) 誤差と指数は化学と物理で,対数は化学で,ベクトルは物理で積極的に指導される傾向にある。(5) 有効数字の指導をしている教師は誤差と指数の指導も行っている。誤差の指導をしている教師は有効数字と平均の指導も行っているが,確率,標準偏差,正規分布,散布図の指導は行っていない。

  • 古屋 光一
    2008 年 48 巻 3 号 p. 75-84
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,パフォーマンス課題を含む多様な作品群の評価をどのように,指導要録の評価・評定につなぐか,その方法を提案する。これは,マクロな視点とミクロな視点という2つの視点から生徒の学習を評価するものである。また, これによって実践を行った。その結果,次の3点が明らかになった。(1) この方法を用いると,教師は,数時間に1度という比較的少ない評価活動で,生徒の学習を評価することができた。(2) この方法では,筆記テストの結果だけでなく,パフォーマンス課題などを用いた評価を重視するが,パフォーマンス課題のルーブリックによる点数と定期テストの相関を分析した結果,筆記テストだけではとらえられない生徒の学力の実態をとらえることができた。(3) パフォーマンス課題を取り入れた評価法の実施によって,課題を設定し,実験を行い考察し,発表するという一連の学習をさせることができた。中でも生徒の書いた考察で,今日求められている理科における読解力というべき,表現ができる生徒がいることがわかった。これは従来の指導だけでは育てることが難しいものである。

  • 和田 一郎, 森本 信也
    2008 年 48 巻 3 号 p. 85-96
    発行日: 2008/03/19
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,理科学習における子どもの思考の内化を促進するため,ブルーナー(Bruner, J.)が提起する知識の表象形式(活動的→映像的→記号的)を踏まえた対話的な理科学習プログラムを構想し,それを高等学校の化学の授業を事例に検証した。その結果,観察・実験を起点として,事象に対する考えを子ども自身によるモデル作製を通じて表現する学習を一貫して行うことによって,知識の表象レベルの高次化が促進された。この際,心理学的アセスメントの視点を踏まえた教師による子どもの内言の読み取りと学習活動への介入および支援が,学習の内化と外化の往復運動を促進するために不可欠な要素であることが明らかとなった。加えて,電子黒板を利用して子どもの理科学習の内化と外化の過程をシミュレーション化することで,子どもの考えの価値付けと時宜に適した足場づくりが実現され,教師は子どもの思考に即したモデルの導入や支援が可能となった。

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