理科教育学研究
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56 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説論文
  • 久坂 哲也
    2016 年 56 巻 4 号 p. 397-408
    発行日: 2016/03/19
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    メタ認知は学力や動機づけ, 学習方略などと密接な関係にあるため, 我が国の理科教育学研究においてもメタ認知を対象とした研究が数多く見受けられるようになった。しかし, メタ認知の重要性は多くの研究者が認めるところであるが, メタ認知は高次な認知機能であると同時に抽象的な概念であることから研究の遂行が困難な側面も併せもっている。
    そこで, 我が国の理科教育学研究におけるメタ認知研究の動向と課題を明らかにするため, 代表的な学術誌から文献を収集して分析を行った。その結果, 観察や実験活動を中心とした理科学習場面における児童生徒のメタ認知的モニタリングやメタ認知的コントロールといったメタ認知的活動を発問や教材教具の工夫によって直接的に促す授業設計や学習方略に関する研究が盛んに行なわれており, 実践的な知見が蓄積されていることが示された。しかし一方, 科学的思考や科学的探究といった科学的な問題解決能力を育成する際に必要なメタ認知的知識の種類やそれらを獲得させるための教授方略に関する研究といったメタ認知の知識的側面に着目した研究が少ないことが明らかになった。また, メタ認知を変数として扱った場合の測定方法に関しても課題が残されており, 今後の研究が待たれるところである。
原著論文
  • ―初等・中等教育段階の接続に着目して―
    遠藤 優介
    2016 年 56 巻 4 号 p. 409-420
    発行日: 2016/03/19
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    コンピテンシー指向の科学カリキュラム改革が様々に展開されつつある昨今のドイツにあって, そうしたカリキュラム編成の理論的基盤となるコンピテンシーモデルに多くの研究関心が寄せられている。本稿では, ドイツ科学教育におけるコンピテンシーモデル構築の視点について, とりわけ初等・中等教育段階の接続, 一貫性という側面から次の四点を明らかにした。(1)行動に関する次元と内容に関する次元の二つを設定すること。(2)そうした次元について, 初等・中等教育段階に共通する構成要素を設定し, その対応付けを図ること。(3)行動に関する次元においては, 教育段階の進行に伴い, 科学学習一般に通ずるコンピテンシーの規定からより高度な専門性を有するコンピテンシーの規定へと移行していくこと。具体的には, 「認識獲得」領域では, 科学学習の基底をなすような科学の方法に関する幅広いコンピテンシーの規定からより専門特化したコンピテンシーの規定へ, 「コミュニケーション」領域では, コミュニケーション全般に通ずるような基礎的なコンピテンシーの規定から専門用語による教科特有のコミュニケーション様式の習得, 相手に応じたそれらの適用といった側面からのコンピテンシーの規定へ, 「評価」領域では, 科学学習の前提となるような学習そのものに係るメタ認知的なコンピテンシーの規定から科学の多面的理解・社会的能力の育成に係るコンピテンシーの規定へ, とそれぞれ移行していくこと。(4)内容に関する次元においては, 教育段階の進行に伴い, 日常の事例を取り入れたコンピテンシーの規定から専門概念を中心としたコンピテンシーの規定へと移行し, 特に中等教育段階では, 「基本概念」によって, 教科内で習得すべき体系的知識に加え, 教科を越えた知識の関連付けをも考慮すること。
  • ―ビデオを活用した振り返り学習による効果の検証を通して―
    奥村 仁一, 熊野 善介
    2016 年 56 巻 4 号 p. 421-434
    発行日: 2016/03/19
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    PISAやTIMSS等の国際学力調査において日本の児童・生徒の読解力に問題があるとの結果を受けて, 平成21年に学習指導要領の改訂が行われ, その大きな7つのポイントの第1番目に「言語活動の充実」があげられた。これは各教科を貫いて改善されなければならないとしている。そこで本研究は, 高等学校生物においてグループ学習による調べ学習および学習内容の発表を行い, 生徒が発表に取り組む様子を撮影したビデオを使って振り返り学習を行った。そして発表直後とビデオによる振り返り学習後にアンケートを行い, 生徒の意識の変容についてt検定や計量テキスト分析により客観的に分析した。その結果, ビデオによる振り返り学習は, 学習内容や発表内容そのものではなく, 発表の態度や声の大きさ, 文字や図・グラフ等についての直接的・物理的な発表における言語活動自体を振り返る効果が大きいことが確認され, 言語活動に対しての意識付けの観点から教育的価値が高いことが証明された。
  • 杉山 雅俊, 山崎 敬人
    2016 年 56 巻 4 号 p. 435-445
    発行日: 2016/03/19
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 教師知識の形成を目指した協働的省察の効果を検討することであった。小学校理科の模擬授業を実践した教師役の学生を対象に協働的省察を実施し, 発話プロトコルを作成した。作成した発話プロトコルについて, 発話単位と話題単位で分析を行った。研究の結果, 発話単位では, 「問題の発見」と「問題の解決」の両方が行えていたことが明らかとなった。しかしながら, 複合的な知識領域に関わる内容についての検討がさほど多くなく, 省察の対象も個別の教授行為に関することに偏っていた。一方で, 話題単位の分析では, 他の知識領域に関する内容を踏まえた省察が行われていたこと, 学習者を視野に入れた省察も行われていたことが明らかとなった。
    以上の結果から, 協働的省察は, 教師知識形成のための方策として効果的であると結論付けた。
  • ―中学校2年「電圧と電流の関係を調べる」の学習を事例として―
    鈴木 禎弘, 稲田 結美
    2016 年 56 巻 4 号 p. 447-458
    発行日: 2016/03/19
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    本研究では, 実験計画能力のうち, 独立変数の値を設定する能力を育成するための指導方策を作成し, その効果を実践的に検証することを目的とした。生徒が独立変数の値を設定する際に, 「基準となる0の値」, 「値の個数」, 「値の間隔」, 「値の設定範囲の実現性」の4種類の要素を満たせるようになることを目指した。具体的には, 同じ文脈の中で異なる独立変数の値が設定された複数の事例を提示し, 生徒自身に4種類の要素を満たしているかどうかという観点から評価させた。この方策を中学校2年「電圧と電流の関係を調べる」の授業に導入したところ, 独立変数の値設定に関する生徒の能力は, 4種類の要素すべてにおいて高まり, この後の学習内容においても発揮できることが明らかとなった。
  • ―「火山活動と火成岩」の単元において, 知識・理解に与える影響を中心に―
    相馬 惠子
    2016 年 56 巻 4 号 p. 459-468
    発行日: 2016/03/19
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    我々は平成24年の実証研究により, 中学校理科の授業において, 班に1台のiPadを配置し, FaceTimeを利用して他校の生徒と班ごとの意見交換を行わせることは, 生徒の科学的思考力・判断力および表現力を育成する可能性があることを確認した。本研究は, FaceTimeを利用して他校生徒と班ごとの情報交換を行わせることにより, 単元の学習内容に関する生徒の知識・理解に与える影響を明らかにすることで, その有効性を検討することを目的とした。学習後に実施した, 単元の内容の知識・理解を問う検査の結果およびビデオ通話で交わされた生徒同士の会話等の分析から, ビデオ通話を利用した他校生徒との協働学習は, 授業の学習課題に取り上げた内容に関する「知識・理解」を深めることに有用であることが示唆された。
  • 渡辺 理文, 森本 信也, 小湊 清隆
    2016 年 56 巻 4 号 p. 469-480
    発行日: 2016/03/19
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    本研究では, キー・コンピテンシーを基にして, 理科教育において育成すべき資質・能力を, 協同的な問題解決によって科学概念を構築し表現する能力と捉えた。その育成を促す教授・学習方略の実践を行うことを目的として, Taylorらの提案した学習環境のデザインの枠組みである「構成主義に基づく学習環境の五つの鍵となる要素(five key dimensions of critical constructivist learning environment)」に基づいて理科授業を計画・実践した。実践した授業は, 小学校第4学年の空気の温度変化による体積変化の学習である。授業を分析した結果, (1)児童が協同的に問題解決を行っていた, (2)児童は自らの考えをパフォーマンスとして表出し, 学習を進める中で, それを深化させていた, (3)教師は児童のパフォーマンスをアセスメントし, それに基づいて支援を行っていた, ことが明らかになった。本研究で計画・実践した理科授業は, 資質・能力の育成を促す教授・学習方略が具現化されており, 理科授業を計画する枠組みとして, Taylorらの提案が有用であることが明らかになった。
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