理科教育学研究
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46 巻, 2 号
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原著論文
  • 伊藤 稔明
    2006 年 46 巻 2 号 p. 1-10
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    1886年の新教科理科の誕生は2つの要素に分解される。理科誕生の要素のひとつは,「統合」であり, もうひとつは,教育内容の変化である。本研究は,明治前半期の実業教育思想と自然科学教育論を検討し,科学教育の内容変化の一因を探る研究である。当時の日本は資本の原始的蓄積がすすみ,そうした社会的状況のなかで,小学校のカリキュラムの中で,実業に関する教科が充実していく。1881 年の「小学校教則綱領」における“工業の初歩",1885年の「小学校及小学教場教則綱領」での工業小学科, 1886 年の「小学校ノ学科及其程度」のもとでの“手工科”, さらに1891 年の「小学校教則大綱」のもとでの“手工科”と,着実に初等教育での実業教育は前進したのである。こうした文部省全体の実業教育充実の流れのなかで,小学校条例取調委員のメンバーの多くも,実業教育のために科学教育の内容を変更することを主張していた。その結果として新教科理科を誕生させた「小学校ノ学科及其程度」は極めて実業教育思想の影曹の強いものとなった。科学教育の内容を「諸科学の大意」から,自然現象・自然物・人工物の羅列へと変化させた一因は,実業教育の充実であると結論付けられる。

  • 久保田 善彦, 鈴木 栄幸, 舟生 日出男, 加藤 浩, 西川 純, 戸北 凱惟
    2006 年 46 巻 2 号 p. 11-19
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    子どもたちが理科の授業において,科学者が実践するのと同じように「科学する」にはコミュニティの存在が必要不可欠である。小学校の実験室という限られた空間において同期型CSCLを用いることで,コミュニティの変容と,そこでの科学的実践を考察した。同期型CSCLであるKneading Board(通称KB) の利用によって,これまであまり見られなかった実験中の活動班の相互作用が緊密になった。それによって,お互いをリソースとした学習活動やコミュニティに共通する基準の設定などが行われ,教室全体がコミュニティとして機能していった。また, コミュニティ内では,実験班間の競争,データの正当性や儒頼性の確保,批判的な検討,評価基準の作成,基準の運用などの科学的実践が行われていた。同期型CSCLを小学校の理科実験で活用することは, コミュニティヘの参加を促し,そこでの科学的実践の支援に有効だといえる。

  • 佐藤 明子, 高橋 治, 菊地 洋一, 村上 祐
    2006 年 46 巻 2 号 p. 21-27
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    原子の構造やイオンを初めて学習するのは何歳で, どのようなレベルの内容を学習しているか,海外の教科書の比較研究を行った。調査した教科書は英国, フランス, ドイツ,イタリア,スロバキア,インド,中国,台湾,インドネシア,アメリカの計10 か国の中学のものである。その結果,内容のレベルは国によって様々であるが,原子の構造やイオンは13~14 歳で初めて学習する国が多いことがわかった。そして,多くの場合,イオンは基本粒子として,原子の構造の直後に学習されている。また,周期表もほとんどの国で13~14歳で扱われ,原子の構造,イオンの学習に活かされていることもわかった。原子の構造,イオンは,中学段階の学習で大きな役割を果たし, この段階でそれらを学習することが適切であることがわかる。

  • 高垣 マユミ, 田原 裕登志
    2006 年 46 巻 2 号 p. 29-38
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校4年理科「水の状態変化」の単元において,子どもたちが水の状態変化に関して強固に保持している既有概念の変容を促す授業及び学習ツールを考案した。授業過程で生成された発話と行為を, TDの質的分析(Transactive Discussion) の類型に基づいて微視発生的に分析・解釈した結果,以下の手だてが,「水の状態変化」の概念の変容に重要な役割を果たすことが示唆された。(1) 水以外の物質(ブタン,アルコール等)でも状態変化は起こり得る演示実験を提示し,概念を拡張しながら,水の状態変化のメカニズムを理解していくプロセスにおいて,既有概念と実験結果との間に『認知的葛藤』が生じ,かつ解消されるやりとりが生成されたときに,既有概念の変容が促進される。その際,使用した「学習ツール(タブレットPC, ペイントソフト等)」は,実験結果を自分自身の言葉で表現することを促す「認知的道具立て」として,有用な役割を果たした。(2) 水の状態変化を具体的にイメージさせる「動画モデル」を導入し,『思考の根拠が可視化』された文脈で議論が展開されていくプロセスにおいて,暗黙的に表象されていた「既有概念(=水は常に目に見える)」と,「科学的概念(=目に見えない状態の水蒸気が,温度差によってその状態が変化し,目に見える状態になったものが湯気)」が,具体的なイメージをもって対応づけられたときに,その結果として既有概念の変容が促進される。

  • 田中 謙介
    2006 年 46 巻 2 号 p. 39-47
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    観察・実験を重視し,体験的な学習を推進していくことが求められているなか,環境学習をはじめとして様々な化学種の定量分析をする機会が増している。微量分析には通常,高価な分析機器が必要となるが,教材として簡易比色計など自作装置も数々報告されている。今回は比色計よりも感度に優れる蛍光光度計を自作開発し,リボフラビン(ビタミンB2),フルオレセインの濃度測定を行った。同一試料3回ずつの測定値は安定しており,2種の化合物ではいずれも良好な検量線が作成できた。以上の実験の後,本装置を用いた授業実践を行った。生物を選択する生徒16名を対象とし,一人一実験の形態でビタミン剤に含まれるリボフラビン含有量を測定させることを目的とした。授業の後生徒の測定結果と質問紙調査から本装置の教材としての有効性を評価したが,①測定精度,②生徒の意欲・関心,③分析法への理解,④装置の操作性,いずれも良好な結果を得た。リボフラビンは栄養素としての位置づけから,理科のみならず家庭や保健においても重要な学習内容となっており,今回の教材には教科横断的活用が期待できる。

  • 松原 静郎, 猿田 祐嗣, 村山 孝, 鳩貝 太郎
    2006 年 46 巻 2 号 p. 49-56
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    教育課程改訂の方針に基づく教師の理科における指導法の変化を調べるため, 1989年度に小学校5年, 1992年度に中学校2年であった集団と, 2000年度に小学校5年, 2003 年度に中学校2年であった集団のデータを用いて,理科の教授/学習における諸活動の頻度について学級を基礎とした集計を行い,両集団を比較した。授業の進め方においては中学校2年で,教科書中心の授業から補充的な学習や発展的な学習に対応すると考えられる教科書以外の内容も扱った授業へと移り変わり,板書をノートヘと写す授業の頻度では学級による差が大きくなる等の変化が見られた。興味・関心の育成に関しても中学校2年で,現在重視されている理科学習と日常生活との関連を図った授業が増えた。一層の重視が強調されている実験・観察では,小学校5年,中学校2年とも生徒実験や演示実験を多く実施しようとする教師の取り組みが継続的になされており,特に中学校2年では生徒実験,演示実験,野外観察のいずれもその頻度が増し,野外観察については小学校5年でも実施の機会が増えていた。これらの変化のうち,生活関連の授業と生徒実験,演示実験では,中学校2年での頻度が小学校5年での頻度と違いがなくなるまでに増えており,中学校の教師が改善を図って小学校の教師に匹敵するきめ細かな授業を実施してきた結果と考えられる。しかし,知的好奇心の醸成に関しては,それに対応する楽しい(興味深い)理科授業の頻度に変化は認められず,児童生徒の理科が面白いとする態度の割合についても変化は認められなかった。

  • 宮田 斉
    2006 年 46 巻 2 号 p. 57-64
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学1年「ガスバーナーの操作技能指導(全2.4 時限)」とその直後2か月間に実施したガスバーナーを使用する5時限の授業を事例として,循環型の問答ー批評学習(以下,循環学習と略記する)を利用する授業と利用しない授業を設計し,操作技能指導終了直後とガスバーナーを使用する5時限の授業終了3か月後に実施したパフォーマンステストと質問紙調査の結果から,循環学習利用が生徒にガスバーナーの操作技能の獲得を促したりガスバーナーの構造や操作方法に関する知識の獲得を促したりするかについて検討することである。その結果,本事例の範囲内において,次の2点が見い出された。(1) 循環学習利用は,生徒にガスバーナーの操作技能の獲得を促す。特にこの点は女子に顕著である。そして,循環学習利用は,多くの生徒にガスバーナーの操作技能を獲得させる。(2) 循環学習利用は,生徒にガスバーナーの構造に関する知識や他人へ伝達できる程度の客観性をもつような形で自分なりに文章表現できる程度のガスバーナーの操作方法に関する知識の獲得を促す。

資料
  • 柴山 元彦, 根本 泰雄
    2006 年 46 巻 2 号 p. 65-70
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    2002年度から中学校で新学習指導要領が実施されている。本学習指導要領には従来の基本方針に加え「自然に親しみ,目的意識をもった観察,実験を行う」という趣旨の文言が付け加えられた。この部分を達成するためには野外観察も必要となるため,野外科学である地学領域や生物領域を背景に持つ教員の果たす役割は今まで以上に大きくなると考えられる。しかしながら,中学校の場合は数学・理科の教諭という教科の枠で採用されるため,中学校における理科教諭がどのような割合で物理・化学・生物・地学の4領域のどれを背景としてもっているかが知られていない。そこで,本研究では,大阪市立の全中学校134 校(教諭総数3,095 人)を対象とするアンケート調査(郵送法)により,理科・数学を背景に持つ教諭が全教諭に対してどの程度の割合で所属しているか,および理科の各領域の割合がどれだけであるかを明らかにすることを目的とした。アンケート調査用紙は,大阪市立の全中学校134 校に送付し,回収率は27.1 %であった。その結果,全教諭に対する数学・理科教諭の割合はそれぞれ, 8.2%. 11.9 %であり,これは教科数や授業数から考えるとかろうじて必要な割合と思われる。一方,物理・化学・生物・地学の4領域に分けて見ると,それぞれ1.8, 2.0, 1.6. 0.6 %と不均衡な結果となり,そのなかでも特に地学を背景に持つ教諭の割合の低いことが判明した。

  • 武田 直仁
    2006 年 46 巻 2 号 p. 71-77
    発行日: 2006/01/31
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本稿は,名城大学薬学部が平成12年度から実施してきた「高校生体験実験講習会」が参加高校生からどのように評価されているかについて,概括したものである。平成16年度に開催した「高校生体験実験講習会」のアンケート調査において実験I 『くすりの効果をみてみよう―摘出腸管に対する薬の作用―』(38名)では97%の参加者が,実験II 『身近な飲み物からカフェインを取り出そう』(36名)では91%の参加者が「講習会に満足した」と評価した。また,実験Iでは68%の参加者が,実験IIでは61%の参加者が「講習会は非常に楽しかった」と回答した。この講習会を受けて「化学に対する興味が増した」参加者は約9割にのぼり,そのうちの約3割は「非常に増した」と答えている。平成15年度本講習会に参加申込をした高校生がどのくらい名城大学の入学試験を受験し入学したかについて追跡調査をした結果, 71.1%の受験対象者が名城大学の入試を受験し, 60.5%の受験対象者が本学薬学部を受験したことがわかった。高大連携教育の一環として実施してきた本講習会は,高校生が大学教育に触れることで,学習への動機付けや幅広い学力の向上を図るとともに自らの適性を見出し,将来の進路意識の明確化及び進学目的の形成に繋ぐものであることがこの調査結果から示唆された。

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