理科教育学研究
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53 巻, 3 号
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原著論文
  • 石川 聡子
    2013 年 53 巻 3 号 p. 403-418
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    文部科学省が発行した放射線等に関する副読本をもとに,高等学校理科における放射線等に関する教育実践の内容の水準および範囲を評価した。同時に,当該副読本と新旧の高等学校学習指導要領解説理科編の照合をおこない,高等学校理科教科書における特徴的な内容についても検討し例示した。評価の結果,分析対象の教育実践の内容の水準は総じて,文科省発行の副読本のそれを満たしていない傾向であり,高等学校に要求される水準を満たしていた内容は「定義」と「放射線による影響」の2項目,逆に満たしていなかった内容は「放射線」,「放射性物質」,「観察・測定」,「放射線の利用」の4項目だった。教育実践の内容の範囲は,文科省発行の副読本に比べると項目によってかたよりがあった。放射線の種類や自然放射線の存在,放射線の透過と遮蔽などは比較的多く扱われている一方,単位グレイ,放射線の蛍光作用や電離作用の実践での扱いは少なかった。実践で多く扱われていた項目は「放射線」,「観察・測定」,逆に少なかった項目は「定義」,「単位」で,とくに「観察・測定」では,霧箱を用いた実験は少なかったが全体的には観察・測定活動の該当数は比較的多かった。

  • 石崎 友規
    2013 年 53 巻 3 号 p. 419-427
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    理科における探究学習論は,米国新カリキュラム運動の中で,J.J.シュワブらによって提唱された考え方を基礎としている。本研究では、シュワブの探究観を分析し,それとの関連から,探究におけるディスカッションの位置づけ,科学授業へのディスカッション導入の意義に関するシュワブの考えについて,以下の点を明らかにした。すなわち,第一には,シュワブの探究観は,(1)探究の二相性,(2)探究の社会性,(3)探究の多様性によって特徴づけられる点。また第二には,シュワブの探究観のうち,探究の社会性を基礎としながら,探究の多様性の観点から,自然の事物・現象に関する様々な見方を関係づけるものとして,科学的探究におけるディスカッションの必要性が導かれている点。そして第三には,シュワブはそのような視座から科学授業にディスカッションを導入することによって,科学的知識の洗練過程を授業で実践することを目指している点である。

  • 小川 博士, 松本 伸示
    2013 年 53 巻 3 号 p. 429-439
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,オーセンティック・ラーニングに依拠した理科授業が児童の燃焼概念形成に与える影響を明らかにすることである。この目的を達成するために,小学校第6学年理科「ものの燃え方」において授業を行った。そして,実践後,12人の抽出児童を対象に概念についての面接法を実施し分析した。その結果,オーセンティック・ラーニングに依拠した理科授業は,より統合された科学的知識を児童に獲得させ,その適用範囲を拡張させることに影響を与えていたことがわかった。また,現実世界の事柄や状況と関連をもたせることにも影響を与えていたことが明らかとなった。

  • 齋藤 裕一郎, 黒田 篤志, 森本 信也
    2013 年 53 巻 3 号 p. 441-450
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    協調的な理科授業における談話では,子どもたちが互いに多様な考えを表現し,それらに対する意見の交流により科学的な側面について吟味し深化させ合い,問題解決に有用な情報としてアプロプリエーションする。本研究では,こうした活動の一助として機能していると考えられる鑑識眼について,小学校理科授業を対象としてその形成と機能の分析を行った。この結果,鑑識眼は協調的な学びを通した社会文化的な所産であり,その形成には教師による子どもの学びと科学を結びつける価値付けがよきモデルとして寄与していること,子どもは鑑識眼に基づいて,談話の進展に応じて社会的分散認知化された他者の考えやイメージをアプロプリエーションしていたことを明らかにした。また,子どもはこうした鑑識眼を自ら形成し,さらに学び合いを通した自己・相互評価を通して更新することにより,科学的側面についての基準を深め,科学概念構築を行うことができたことを明らかにした。

  • 柴 一実
    2013 年 53 巻 3 号 p. 451-461
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,戦後日本の検定理科教科書『よいこのかがく』(1949・50)を戦前の『自然の観察』(1941・42)と戦後の代用教科書『理科の友』(1948)の単元内容と比較検討することによって,『よいこのかがく』が『自然の観察』や代用教科書『理科の友』の影響を受けて,どのように作成されたのかを解明することであった。関係する文献資料を分析した結果,次の諸点が明らかになった。(1)1949・50年に発行された第1〜3学年用検定教科書『よいこのかがく』において,40%以上の内容が代用教科書『理科の友』の内容を引き継いでいたが,20%程度の内容は1949年2月に告示された教科書検定基準である「理解の目標」等を参考にしながら,新しく導入されていた。(2)『よいこのかがく』の単元「しゃぼんだま」は戦前の『自然の観察』や戦後の『理科の友』においても取り上げられており,いずれもシャボン玉に対する児童の興味関心を喚起することに主眼を置いていた。(3)『よいこのかがく』におけるシーソー教材は『自然の観察』には見られないものであり,『理科の友』の内容を引き継いでいた。同教材は,B.M.パーカー著『基礎科学教育叢書・機械』(1944)を参考にしながら,新しく取り入れられたのではないかと考えられる。(4)『よいこのかがく』における自由研究は『自然の観察』と比較すると,選択されるテーマ内容が変化しているだけでなく,研究発表会の進め方も児童主体に変わっていた。

  • 辻本 真治, 藤井 浩樹
    2013 年 53 巻 3 号 p. 463-470
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    小学校第5学年「流水の働き」の単元において,流水の実験器を製作し,授業で試用した。そして,流水の働きについての理解を図ることができるかどうかを捉えることによって,実験器の有効性を明らかにした。その際,土山を用いた実験による理解の実態と比較対照した。その結果,次のことがわかった。(1)授業前後の調査によると,流水の実験器は,土山に比べ,流量・流速と侵食の働きの関係について正しい理解を導きやすいものであった。(2)授業で用いたワークシートの記述の分析によると,流水の実験器は,運搬や堆積の働きに比べ,侵食の働きについて正しい理解を導きやすいものであった。流水の実験器の教材としての有効性は,侵食の働きについての理解を促すという点に顕著に見られた。そして,「流水の働きにかかわる条件をそろえやすく,再現性のある実験ができる」という実験器の特徴が,その有効性にかかわったと考えられた。

  • 山本 智一, 坂本 美紀, 山口 悦司, 西垣 順子, 村津 啓太, 稲垣 成哲, 神山 真一
    2013 年 53 巻 3 号 p. 471-484
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    近年の理科教育では,アーギュメントの重要性が注目されている。しかし,小学校高学年の児童であっても,アーギュメントを構成する際に理由付けを行うことが難しいと指摘されている。本研究の目的は,主張,証拠,理由付けから構成されるアーギュメントの教授方略を設定した授業の有効性を明らかにすることである。本研究は,小学校5年生理科「振り子の運動」の単元で,振り子の周期に影響する要因を解明する授業を行った。教授方略は,単元の準備段階のフェーズで4つ,実施段階のフェーズで8つが設定された。単元後,単元内容の知識・理解課題において,児童の正答率,自信の程度が,ともに単元前より有意に向上していた。単元内容に関するアーギュメント課題においては,主張,証拠,理由付けの得点率が,1つの指標を除いてすべて80%以上であった。また,単元前後に実施した既習内容に関するアーギュメント課題では,証拠や理由付けの指標の一部において,児童のアーギュメントに有意な向上が見られた。さらに,単元内容に関するアーギュメント課題と既習内容に関するアーギュメント課題の遂行には関連が見られた。これらのことから,本研究の授業が,主張,証拠,理由付けから構成されるアーギュメントの向上に有効であることが明らかになった。また,児童のアーギュメントに見られる記述の省略を克服することが,今後の課題として見出された。

  • 柚木 朋也
    2013 年 53 巻 3 号 p. 485-495
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    この研究の目的は,原子力の指導に関する問題点を明らかにし,今後の指導の一助とすることである。原子力に関しては,多くの問題点が山積し,その指導の在り方についても多くの困難な課題がある。平成20年に公示された中学校学習指導要領では,意思決定などのむずかしい問題を孕んでおり,そのためには,原子力に関する基礎的な知識,理解が必要であると考える。今回,教員養成課程における学生の原子力に関する認識について調べたところ,学生の多くは原子力に関して知識が不十分であることが明らかになった。そこで,原子力に関する特別講義を行った。その結果,原子力に関する知識,理解が進み,関心,自信が高まった学生が多くなったことが明らかになった。

  • 吉田 安規良
    2013 年 53 巻 3 号 p. 497-521
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    観察,実験を取り入れた理科授業ができる小学校教員を養成するため,小学校教諭1種免許取得の必修科目「理科教育研究」の中で,物質・エネルギー領域に関する教材実験を一通り体験しながら理科の授業づくりに必要な事項を学べるような実践をした。学生にとって負担感はあったものの,6回の授業実践の評価の平均は,すべての観点で4.5点を超えた(5段階評価)。各単元の指導の自信度の自己評価(5段階評価)は,受講前が平均2.9点で自身があるとは言えない状況だった。受講後には3.9点まで上昇した。今回の実践は,小学校教育志望の学生が十分に満足したと評価できるだけでなく,限られた時間の中で教員としての最低限の資質能力の保証につながることが期待できる。

  • 和田 一郎, 熊谷 あすか, 森本 信也
    2013 年 53 巻 3 号 p. 523-534
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,近年の理科教育における重要課題の一つである,子どもの自律的な思考・表現の向上を志向した具体的な教授論的視点の導出を図ることを目的とした。その際,自律的な学習を成立させる源泉となる要素としてメタ認知に着眼し,学習におけるその情報処理過程の内実を精査した。具体的にはNelson, T.O.らのメタ認知理論を援用し,これと表象機能との関連性を見極めることによって,メタ認知に関わる情報構成要素の質的変容が科学概念構築に及ぼす影響を検討した。加えて,協同行為を基調とした子どものメタ認知の内実の相対化,これによるメタ認知と表象機能の相互結合を志向した教授論的視点の構想を試みた。結果として,自己の学習が適確にモニタリングされ,それを具体的に表象することによって,課題解決に繋がる具体的な方略の選択を可能とすることが明らかとなった。この際,子どものこうしたモニタリングとコントロールの内実を外化させ,他者のモニタリングとコントロール過程との相互作用を活性化させることによって,子どもの自律的な思考・表現の質的向上が図られ,メタ認知と表象機能の活性化を基盤とした科学概念構築が具現化された。

  • 渡邉 重義
    2013 年 53 巻 3 号 p. 535-545
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    日本の生物教育カリキュラムの実効性を高めるための観点や方策を得る目的で,1990年代に国家的な科学教育スタンダードが提示されたあとに出版されたアメリカの高校生物教科書の分析を行い,スタンダードの内容と教科書の記載内容の関係を調べた。2003-2010年に出版された9種類の教科書の記載内容を調べた結果,①探究中心のアプローチである,②観察・実験などの活動が多様化している,③進化を共通項とするような生物の分類の取り扱いがある,④ヒトに焦点を当てた内容の取り扱いがある,⑤生物学に関連した職業,先端研究,社会問題が提示されている,⑥インターネット教材とのリンクがある,などの特徴があることがわかった。生物教育内容の構成については,生物の基本概念を階層化して具体化し,教科書の単元・章・節の先頭に記載したり,基本概念間のリンクを提示するためにコンセプトマップを学習に取り入れたり,内容間のリンクの説明を付記したりする方策が用いられていた。また,観察・実験や学習の振り返りにおいて,必要となる探究スキルが具体的に提示されていた。探究活動に必要なスキルを考慮して,生物教科書の学習内容のシークエンスを検討する必要性が示唆される。

資料
  • 曽谷 紀之
    2013 年 53 巻 3 号 p. 547-556
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    小学生は本質的に理科(実験)が好きであり,関心を持っている。理科実験を行い自然現象が理解でき,成功したという「達成感」・「充実感」を経験すると,理科への興味を高校生(大学生)まで持ち続けることができる。理科への関心を高校生まで持続しても,理系への進路希望は中学生で40%,高校生で約25%に減少する。子どもは地球環境などの自然現象に深い関心を持っており,学年の進行とともに,理解する内容に深化が見られる。子どもの理科への関心度は,親の理科(科学・技術)への関心度によって左右される。親が理科に関心を持ち,親子での対話がある子どもは「理科」が好きである。

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