理科教育学研究
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50 巻, 3 号
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総説
  • 川上 昭吾, 渡邉 康一郎
    2010 年50 巻3 号 p. 1-14
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    1985年から現在までのわが国における有意味受容学習の研究のまとめをおこなった。有意味受容学習はオーズベルによって提唱された先行オーガナイザ(Advance Organizer AO)を使う演繹的思考過程を重視する学習理論である.先行オーガナイザは,学習の始まりに使うものであり,それ以降の学習に見通しをもたせるような一般的で抽象的な概念である.私達研究グループは,図やモデルも先行オーガナイザとして使うことができることを明らかした.先行オーガナイザを使うポイントは,学習者に「わからないな.どうしてだろう」という疑間をもたせた状態にして(これを私達は「モヤモヤを作る」と呼んでいる)おくことである.本報告ではモヤモヤ作りと先行オーガナイザを「資料」として整理した.なお,「先行オーガナイザ」は研究上使っている言葉であり,授業では「ヒント」を主に使い,「これからの学習の核となる見方」という言い方もしている。同様に,有意味受容学習を今後は簡潔に「受容学習」として使っていきたい.受容学習の効果は,「学習者がわかる」こと,特に「理科を不得意とする子もよくわかる」こと,「発展学習をスムーズに導入することができる」こと,「わかるから,理科の授業が面白く感じる」ことなどである.受容学習は,発見学習に置き替わるものでない.受容学習も発見学習と同様,問題解決学習に含まれる.受容学習は演繹的な思考過程をとり,学習内容が抽象的な場合適している.その意味で,中学校では適した単元が多い。

原著論文
  • 市川 智史
    2010 年50 巻3 号 p. 15-25
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,土から始まり,土へ戻る自然の循環を発見する中学生向けの体験型環境教育プログラムを考案し,試行実践を通じて学習効呆を考察した.具体的には,屋外へ出て,互いにつながりのある5つのものを写真に撮影するとの活動課題を用いた.中学1年生に対する試行実践の結果から,80%以上の生徒が,楽しいと感じ,積極的に取り組み,班で話し合うことができ,自然はすごいなと感じ.知らなかったことを学ぶことができたと言える.また,90%以上の生徒に対し,自然に対する気づきを培うことができたと言える.自然の循環・つながりに関しては,60~70%の生徒に対して学習効果が認められたと言える.その一方,資料・説明や活動課 題を難しいと感じた生徒も多く,とりわけ資料の提示,活動課題の説明の改善が求められることが明らかとなった.

  • 内ノ倉 真吾
    2010 年50 巻3 号 p. 27-41
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    構成主義的学習論の興隆以降,教授方法の観点と学習方法の観点の双方から,アナロジーによる理科教授法が検討されてきた。教授方法としてのアナロジーについては,アナロジー導入手順の定型化が図られ,アナロジーの導入時機の一端が解明された。また,複数のアナロジーを導入する場合は,その内容選択と配列などが検討され,教授上の指針を与えるような一定の成果が得られたのであった。しかしながら,教師主導のアナロジーの導入では,アナロジーによる知識構成の能動的な側面が十分に発揮されていない,という認識が高まり,子ども自身によるアナロジーの生成をより重視する,という方向性が示されるようになっていた。一方,上述のような教授方法としてのアナロジー研究の動向以前より,子ども自身に事物・事象を説明させる,自己説明という学習ストラテジー研究の一端として,子どもによるアナロジー生成を意識的に活用することが注目されてきた。そこでは,アナロジーの活用は,生成・評価・修正という動的なサイクルとして捉えられ,社会的な相互作用の場面設定も検討されたのであった。その後,理科授業におけるアナロジーは,教授方法と学習方法という観点からの研究の流れを汲む一方で,科学論的な内容が正規の理科カリキュラムに組み込まれる,という国際的なカリキュラム改革の動向に影響を受けて,科学の方法としてのアナロジーへと拡張もしくは転換してきているのであった。このことは,アナロジーは,理科学習を促進する道具としてだけではなく,アナロジーの生成・活用やその性質が教育内容としても,位置付けられるようになってきたことを意味するのであった。

  • 荻原 庸平, 小林 辰至
    2010 年50 巻3 号 p. 43-56
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,初等教員養成課程の学生を対象として,新しく開発した月の運行モデル教材と観測を組み合わせた実践を行い,月の見え方の理解への効果を検討したものである。実践の内容は2つである。1つは月の定時観測の記録であり,学生自身に月の満ち欠けの様子を2週間にわたって記録させた。もう1つは新しく開発したモデル教材を使用した学習である。実践の前後で月の見え方の理解を問う質問紙調査を行った。その結果,以下のことが明らかとなった。(1)「見える月の形が,日によってちがっている理由」について.「月の公転 」及び「太陽光の反射」の2つの観点を含めて記述できた学生の割合は,実践前に比べ有意に増加した。(2)「日没後,満月が見えるのはどの方角か」「日没後.三日月が見えるのはどの方角か」「日没後,上弦の月が見えている時の太陽と月の位置関係」の正答率は,いずれも実践前に比べ有意に増加した。(3)新しく開発した月の運行モデル教材と観測を組み合わせた実践を通して,初等教員養成課程学生の月の見え方に関する理解を改善できた。

  • 片平 克弘, 小川 博士, 鈴木 宏昭, 津田 陽一郎, 郷田 剛
    2010 年50 巻3 号 p. 57-66
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,オーセンティックタスク開発ための方法論を展望することである。そのため,まず.オーセンティックタスク開発の観点と方法を整理した。次に,オーセンティックタスクの開発から,実践までのプロセスを分析した。プロセスの分析はWeb上に残された記録を中心に行った。その結果,以下の3点を明らかにした。(1) オーセンティックタスク開発に関わる循環型Web検討システムは,開発者と実践者の時間的・空間的距離を縮小させただけでなく,両者にタスクの開発過程を省察させる機会を提供した。(2) Web上で開発したオーセンティックタスクを検討する際の観点は,実践を行う前には「タスクの内容」や「ルーブリック」の吟味にあり,実践後はその観点が「解答の考察」や「児童の反応」の分析に移行した。(3) オーセンティックタスクでは,児童にとって多元的な現実の課題を模写するような文脈の設定がより重要である。

  • 金子 健治, 小林 辰至
    2010 年50 巻3 号 p. 67-76
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,質量の異なる台車の斜面上の運動について実験を行う時に,The Four Question Stratcgy (4QS)を用いて生徒自身が仮説の設定を行うことが,慣性概念の理解に対して与える影響を検討することを目的として行った。その結果,2つのことが明らかになった。1つは,4QSを用いた群は,4QSを用いなかった群よりも,実験結果を正しく認識する生徒が多いだけではなく,慣性概念の理 解においても正しく理解できるようになる生徒が多かったことである。もう1つは,斜面 上の台車の運動と質量の関係について授業前に科学的に正しい考えをもっているか誤っている考えをもっているかは,慣性概念の理解に影響を与えないことである。むしろ大きな影響を与えるのは.従属変数と独立変数を言語化した仮説を学習者自身が明確に認識し記述することである。

  • 神崎 弘範, 西川 純, 久保田 善彦, 水落 芳明, 桐生 徹
    2010 年50 巻3 号 p. 77-90
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    生徒による自作教科書作りの活動を行い,毎授業後のアンケート用紙や完成した自作教科書に「わかりやすくするためのエ夫」を記入させた。このエ夫について分析することを通して,通常は学び手である生徒が考えるわかりやすさの要件について明らかにすることを目的として考察を行った。その結果次のようなことが明らかとなった。「生徒が多く取り入れた工夫」から見た「生徒が考えるわかりやすさの要件」として次の6点が挙げられる。①表やグラフや図を用いる。②実際の実験の様子を写真撮影し掲載する。③具体的な例を挙げる。④要点を絞るなど端的な表現にする。⑤語旬の字体や色を変えるなどして強調する。⑥見出しの色を変えるなどする。これらの「生徒が考えるわかりやすさの要件」は上記①から③までが該当する「詳しさ」と,④から⑥までが該当する「見やすさ」に大別できる。一方,「実際の実験データを示す」という工夫は生徒により判断が分かれた。実験データを示す意図としては次の2点が推察される。1点は,実験データを示すことで実験→結果(実験データ)→結論という理科の学習過程にそった記述を可能にするという意図である。もう1点は,生徒が実験を行う際に生じる自分達の実験データに対する不安を解消するという意図である。一方,実験データを示さない意図として,次の1点が推察される。自分達で実験を行い,結果を導き出すことの重要性を考慮した結果答えとなるような実験データは自作教科書に示さない方がよいという意図である。

  • 郡司 賀透
    2010 年50 巻3 号 p. 91-100
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    日本の理科カリキュラムにおける体験活動の特徴の一端を明らかにするため,第二次世界大戦前に各地の理科授業で行われていた「工場見学」のデイスコース(言説)に着目した。主に大正前期から昭和前期に発行された教育雑誌記事にみられた(1) 工場見学の意図と(2) その問題点と打開の仕方について類型化した。その結果,(1)には3つの類型を,(2)には4つの類型を見つけることができた。(1)については,A. 実用主義と校外教授,B. 郷士化運動と理科教材,C戦時体制と工場見学である。(2)については, A. 見学可能な工場の調査,B. 実物教授の推奨,C. 視聴覚メディアの活用,D. 教科外活動への編入である。これらの類型に基づきながら.当時の日本の理科カリキュラムの「工場見学」に見られた理科カリキュラム・デイスコースの推移を探り,そのモデルを提示した。

  • 佐伯 英人
    2010 年50 巻3 号 p. 101-107
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    「虫のこえ」という歌の歌詞には”直翅目Orthoptcra”に属している昆虫が登場する。本研究では、この歌に登場する昆虫を対象として、「児童・生徒が昆虫の姿を見たり、鳴き声を聞いたりすることで、どの程度、昆虫を同定することができるのか」と「性の違い・属性(学校,学年.所在地)の違いによって昆虫を同定する程度に差がみられるのか」を明らかにするために調査を行った。その結果、次の①~③のことが明らかになった。①「虫のこえ」に登場する昆虫について一部(エンマコオロギTeleogryllus emmaとスズムシMeloimorpha Japonica)を除き、姿を見て同定することは難しい。また、すべての昆虫で鳴き声を聞いて同定することは難しい。②男子と女子では昆虫を同定する程度に有意な差がみられ、女子は男子よりも昆虫を同定することが難しかった。③学校の違い、学年の違い、所在地の違いといった児童・生徒の属性の違いによって、昆虫を同定する程度に有意な差がみられなかった。

  • 清水 誠, 久保 厚彦, 大高 綾子
    2010 年50 巻3 号 p. 109-116
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    物質の質量保存概念形成は,難しいことが明らかにされてきた。有効な教授方法の開発が必要とされている。本研究では,質量保存概念形成のための教授方法として,児童の考えを図により外化させる方法と図による外化に加え他者と議論する方法の2つの効果を明らかにすることを目的とした。研究の成果として,質量保存概念形成には,1. 児童の考えを図を使って外化させるだけでは有効な教授方法であるとは言えないこと。2. 外化した図を使って他者と議論させることが有効な教授方法であることが明らかになった。

  • 高橋 多美子, 高橋 敏之
    2010 年50 巻3 号 p. 117-125
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本論では,10代から60代までの年代別に,幼少期における自然体験と自然科学への関心・自然に対する心情との関連性を考察する。その結果,自然科学への関心・自然に対する心情は,若年層ほど減少傾向であった。さらに,幼少期における自然体験と自然科学への関心・自然に対する心情に,弱い相関がある項目と,ほとんど相関がない項目が存在することが判明した。今後は,これらの調査結果を幼児教育や小学校教育における子どもの自然との関わりを豊かにする環境構成に反映させることが課題である。

  • 岳川 有紀子
    2010 年50 巻3 号 p. 127-134
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    プラスチックに関する一般市民から寄せられる質問や意見は、「プラスチックを燃やすと有毒ガスが発生する」「プラスチックはリサイクルすべし」というものが多く、身近な素材として日々使っていてもネガティブなイメージが先行し、科学的な根拠に基づかない知識が普及しているのではないかと感じてきた。それもそのはずで、今年度から実施された新しい学習指導要領で初めて義務教育でプラスチックが扱われることになったのであり、それまでに教育を受けた人々の多くは、理科(科学)としてプラスチックを学習する機会がほとんどなかったのである。本研究では、プラスチックの教育普及を目指し、生涯学習として有効な新しい学習プログラムの開発を行なった。事前に小学校高学年から成人までの一般市民を対象にプラスチックの意識調査を行ない、その結果を反映し学習者の立場に立った展開とした。その上で最も重視した点は、実験と科学館の実物資料を活用し、プラスチックを科学的、総合的に捉える力をつけることである。このプログラムを243人に対して実践し、効果を確認した。

  • 鶴田 孝一, 小池 守, 高津戸 秀
    2010 年50 巻3 号 p. 135-143
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    中学生が持つ音エネルギーに対する理解を深めるために,圧電素子とポリエチレン製カップ及び赤色LEDを用いて音声でLEDが点灯する音エネルギー変換教材を製作し,その教材を取り入れた理科学習を,公立中学校3年生を対象に実施した。本学習の前後に質問紙調査を実施したところ,次の2点が明らかとなった。1.「音は電気から生まれたり生活の中で使われたりするからエネルギーである」という素朴概念を持つ生徒,「音はエネルギーである」と言葉のみで理解している生徒,及び「音はエネルギーではない」と考えている生徒が「音は他のエネルギーに変換可能であり,仕事をする能力があるエネルギーである」という認識を持つに至った。2. このように生徒の認識が変容した原因は,実験を通して音エネルギーから電気エネルギーヘの変換を体感し,理解したことにある。これらのことから,本学習は,音エネルギーに対する生徒の理解を深めるのに有効であることが示唆された。

  • 山岡 武邦
    2010 年50 巻3 号 p. 145-154
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,過去31年にわたる愛媛県立高校入試理科問題における問いかけを独自の観点から分類し,その特徴や傾向を探ることを目的とした。分析対象とした問いかけは1331題であり,「短答式」「論述式」「選択式」といった解答形式,「科学用語」「計算」「現象説明」「理由説明」「図・グラフ」といった内容形式の観点から分類し,検討を行った。そして,学習指導要領の改訂を参考に,第一期(昭和56年度から昭和63年度),第二期(平成5年度から平成9年度),第三期(平成14年から平成19年度)に分けて,問いかけの特徴や傾向の経年変化を検討した。その結果,次の3点が明らかとなった。(1)解答形式では「論述式」,内容形式では「理由説明」の問いかけが,第1分野 ,第2分野 ,総合分野を通じて少ないこと,(2)問いかけの解答形式や内容形式は分野により傾向が異なり,第1分野で「短答式」「計算」の問いかけが多く,第2分野で「選択式」,「現象説明」の問いかけが多いこと,(3)高校入試理科問題の問いかけは,上述の第一期から第二期にかけてその傾向が大きく変化したことが明らかとなった。

資料
  • 櫻井 勇良
    2010 年50 巻3 号 p. 155-160
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本論文では静電気を用いた三種類の実験教材の試作結果について述べている。一つ日は、静 電気と水流の関係を観察する教材である。一時的に帯電状態にした帯電物を用いた場合、瞬間的な観察になり、観察者は現象を見逃す恐れがある。そこで、現象を連続的に観察できるようにするために金属電極と高電圧直流電源を用いた。また、蛇口を使う代わり分液ロートに水道水を貯め、先端のコックを調整することで落下する水の状態を水滴から水流まで変えられるようにした。水は有極性分子なので水流は正電極および負電極のいずれからも引きつけられる。したがって、電極間を落下させた場合、水流の落下位置に近い方の電極の方に水流は曲がる。ところが、電極間のほぼ中央を水流が落下した場合は、これとは異なる動きが見られる。つまり、水流は、いずれかの電極の方に曲がるのではなく、電極間を交互に曲がるようになる。これに伴い、放電が起きる場合もある。二つ目は、水滴を静電気で分裂させる教材である。連続的に水滴を供給できる道具を試作し、それを静電高圧発生装置に装着することでレイリー分裂現象を連続的に観察できるようにした。水滴が熱を使わずに一瞬で無くなることは観察者に強い感動を与える。三つ目は、静電気で煙を取り除く教材(電気集じん器)である。プリント基板、釘、アルミテープを用いて集じん用の電極を試作、煙が静電気によって取り除かれる様子を容易に観察できるようにした。これらの実験教材は、観察者に認知的不調和(驚き、葛藤、協調欠如)の中の驚きを誘発させることを目指して作られたものである。実際に授業やイベントで試作した教材を用いた結果、観察者の多くが驚き・興味を示した。

  • 那須 悦代, アグベコ ジュリウス・コフィ, アブカリ モーゼス・アブドゥライ, 喜多 雅一
    2010 年50 巻3 号 p. 161-165
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    2008年に公表された学習指導要領改訂案では「理数教育の充実」が大きな目標となった。求められるのは知識の蓄積だけでなく知識を統合して活用し日常生活や社会との関連を重視した学習であろう。例えば「氷が水に浮く」ことはほとんどの生徒が知っている。しかし水分子をイメージして理由を説明できる生徒は少ない。そこで日常生活の三次元空間で起こる出来事を,その物質を形づくる原子や分子の世界として視覚化できる教材が必要になる。通常使われる分子模型でも水分子の形は作れるが,その極性や運動の様子までは理解しにくい。発泡スチロールを活用した分子模型は多数報告されているが,本研究では発泡スチロールに磁石を組み合わせて新しい水分子モデルをつくり形だけでなく極性による特性や運動の様子を視覚化できる教材を開発した。高校生を対象とした授業実践では,「水分子には隙間がある」ことを認識できた割合が35%から89%となった。また日本だけでなくガーナの高校でも実践した結果高校生が極性分子を理解する教材として有効であり,科学遊びから探究をめざす教材となるものである。

  • 正元 和盛, 星子 泰通
    2010 年50 巻3 号 p. 167-171
    発行日: 2010/03/03
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    調整が簡単なクラスターデキストリンの特性を活用し,それを代用デンプンとして用いて、だ液の働きを調べる実験の単元の授業を構成した。ヨウ素デンプン呈色反応後にだ液で消化した溶液は,ヨウ素による糖発色試薬の妨害があるので糖発色試薬による糖の確認には直接には使えない.そこで,だ液によるヨウ素デンプン反応呈色の消失と,だ液による消化後の分解産物確認実験を分けて行った.本実験は行程、用いる材料も簡便なので個人実験として行いうる.これらは1単位時聞の1/3ほどの時間ですむ実験なため,生徒による結果と考察の時問を十分に取ることができ,消化に関する生徒の理解を深める授業方法として有効であると考える.

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