生活科において,児童が動植物の立場に立って考えることは,自然と人間との共生についての学習の出発点になる。そして,自然と人間との共生では,物事を考えるときの価値の基準を,人間を中心としたものから動植物の生命・生態・自然を中心としたものへと広げることが大切である。したがって,児童が動植物の立場に立って考えるとき,その考えは動植物の生命・生態・自然を中心とした考えであるかが重要となる。そこで本研究では,昆虫を取り上げ,学校で昆虫を飼育してきた小学校第2学年の児童を対象にして,①昆虫の立場に立って考えることができるか,②もしできるとすれば,その考えは昆虫の生命・生態・自然を中心とした考えであるかについて,質問紙調査を通して明らかにした。その結果,次のことがわかった。(1)昆虫の立場に立って自分の考えを記述した児童は,カマキリでは全体の25.0%,コオロギでは23.1%であった。こうした児童は,昆虫には家族や仲間がいると捉えたり,昆虫の姿や様子から推測される昆虫の気持ちに共感したりするなど,昆虫を対象として視点取得を身に付けていることがうかがえた。(2)上記の児童のうち,昆虫の生命・生態・自然を中心とした考えを記述した児童は,カマキリでは全体の13.5%,コオロギでは8.7%であった。こうした児童の考えは,自然との共生を図る上で大切な自然(昆虫)についての理解,自然(昆虫)と人間(自分)とのつながりについての理解,そして自然(昆虫)に対する感性や情動を含んでいた。以上を踏まえると,生活科の授業において,昆虫と直接触れ合う活動の中に,昆虫の立場に立って考える場面を設け,その場面で児童が発する昆虫の本来の生命・生態・自然についての考えを取り上げることは重要である。そうした機会は,児童が生活科から理科へと学習を進め,自然と人間との共生についての認識を深めていく過程において,その基礎の形成に役立つと考えられる。
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