理科教育学研究
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64 巻, 1 号
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特集「将来を切り拓く若手研究者による理科教育学研究」
巻頭言
原著論文
  • 田中 達也, 山口 悦司
    2023 年 64 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,アーギュメント自己評価能力の向上を支援するための教授方略を開発し,その有効性を小学校理科授業の実施を通して評価することである。本研究で開発した教授方略は「ルーブリックを使用したアーギュメント自己評価」である。具体的には,教師がルーブリックに記載された評価の観点などのルーブリックの使用方法を指導し,その後,学習者がルーブリックを使用して自分自身の構成したアーギュメントの適切性や問題点を評価するというものである。小学校第4学年児童を対象に,開発された教授方略を導入した小学校理科授業を実施するとともに,アーギュメント自己評価能力に関する調査,アーギュメント構成能力に関する調査,自己評価におけるルーブリックの使用に関する調査を実施した。これらの調査結果から,次の3点が明らかとなった。(1)授業前から授業後にかけて,児童のアーギュメント自己評価能力が向上した,(2)児童は授業中のアーギュメント自己評価の際に,ルーブリックに記載された評価の観点を用いることができていた,(3)児童のアーギュメント自己評価能力とアーギュメント構成能力には関連性が見られた。これらのことから,本研究で開発した教授方略は,アーギュメント自己評価能力の向上とともに,アーギュメント構成能力の向上も支援するという可能性をもつものであることが示唆された。

  • 中込 泰規, 加藤 圭司
    2023 年 64 巻 1 号 p. 13-26
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,二次元平面に展開する従前のイメージマップを拡張した立体型イメージマップを開発すると共に,生徒の主体的な課題解決を通した科学的知識の統合・創発にどのように寄与するかを明らかにすることを目的として,中込・加藤(2020)が明らかにした「俯瞰する行為」における思考過程と照らし合わせながら事例的分析を行なった。結果として,本研究で開発した立体型イメージマップを介して創り上げた抽象的な知識を基にして,異なる内容間を比較する視点の獲得と,具体的な知識から抽象的な知識を統合・創発しようとする思考が促されることが示唆された。また,同一単元内における異なる内容間の比較を通して,アブダクティブな思考が介在し,それにより抽象的な知識が少しずつ創り上げられていく可能性が示唆された。

一般
総説論文
  • ―ナラティブレビューとメタ分析を通して―
    亀山 晃和, 原田 勇希, 草場 実
    2023 年 64 巻 1 号 p. 27-50
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は近年の我が国の理科教育学における「対話的な学び」の研究の傾向と研究成果を理科の学習指導要領に記述されている資質・能力の枠組みに基づき導出することであった。ナラティブレビューとメタ分析を行った結果,研究の傾向では以下の3点が明らかとなった。第一に,近年“アーギュメンテーション”の構成概念から研究が盛んに進められていたことである。第二に,資質・能力のうちとりわけ思考力・判断力・表現力等に該当する教育効果の育成を目的とした「対話的な学び」の実践研究が多く蓄積されていたことである。第三に,多くの研究は「対話的な学び」の実現要因となりうる教師の指導要因を検討していたことである。研究成果は「対話的な学び」の実践事例が確かに正の教育効果を持ち,その効果量が前後比較で大きな効果量,条件比較で小~中程度の効果量であったことである。

原著論文
  • 植原 俊晴
    2023 年 64 巻 1 号 p. 51-62
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,①中学生が化学変化を化学反応式で表す際の難しさに関する実態を明らかにすること,②「物質モデルカード」を導入した授業を行い,上述の難しさを克服することに対する効果を検証することであった。①については,中学3年生を対象にして化学式や化学反応式に関する調査を行ったところ,化学式の意味を高度な知識理解の水準で理解することや,化学式から原子の種類や数に関する情報を正しく把握することが,化学変化を化学反応式で表すときの難しさであることが示唆された。②については,中学2年生を対象に「物質モデルカード」を操作させる授業(実験群)と「原子や分子のモデル」を描画させる授業(対照群)を行い,化学式や化学反応式に関する調査を行ったところ,学習直後の調査(事後調査)では,実験群と対照群で化学変化を化学反応式で表すことに対する効果に差は認められなかった。しかし,その後の調査(遅延調査)では,実験群で有意に多くの生徒が化学変化を化学反応式で表すことができていた。事後調査で化学反応式を表すことができていた生徒について,遅延調査で化学反応式を表すことができた生徒とできなくなった生徒の調査結果を比較したところ,「物質モデルカード」を操作させる授業には,化学変化を化学反応式で表すために必要な知識を保持させる効果があると推察された。

  • 小野寺 かれん, 藤井 浩樹
    2023 年 64 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/07/31
    ジャーナル フリー

    生活科において,児童が動植物の立場に立って考えることは,自然と人間との共生についての学習の出発点になる。そして,自然と人間との共生では,物事を考えるときの価値の基準を,人間を中心としたものから動植物の生命・生態・自然を中心としたものへと広げることが大切である。したがって,児童が動植物の立場に立って考えるとき,その考えは動植物の生命・生態・自然を中心とした考えであるかが重要となる。そこで本研究では,昆虫を取り上げ,学校で昆虫を飼育してきた小学校第2学年の児童を対象にして,①昆虫の立場に立って考えることができるか,②もしできるとすれば,その考えは昆虫の生命・生態・自然を中心とした考えであるかについて,質問紙調査を通して明らかにした。その結果,次のことがわかった。(1)昆虫の立場に立って自分の考えを記述した児童は,カマキリでは全体の25.0%,コオロギでは23.1%であった。こうした児童は,昆虫には家族や仲間がいると捉えたり,昆虫の姿や様子から推測される昆虫の気持ちに共感したりするなど,昆虫を対象として視点取得を身に付けていることがうかがえた。(2)上記の児童のうち,昆虫の生命・生態・自然を中心とした考えを記述した児童は,カマキリでは全体の13.5%,コオロギでは8.7%であった。こうした児童の考えは,自然との共生を図る上で大切な自然(昆虫)についての理解,自然(昆虫)と人間(自分)とのつながりについての理解,そして自然(昆虫)に対する感性や情動を含んでいた。以上を踏まえると,生活科の授業において,昆虫と直接触れ合う活動の中に,昆虫の立場に立って考える場面を設け,その場面で児童が発する昆虫の本来の生命・生態・自然についての考えを取り上げることは重要である。そうした機会は,児童が生活科から理科へと学習を進め,自然と人間との共生についての認識を深めていく過程において,その基礎の形成に役立つと考えられる。

資料論文
  • 亀田 直記, 瀧本 家康
    2023 年 64 巻 1 号 p. 73-78
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/07/31
    ジャーナル フリー

    比喩的にも使われる科学用語である風化は,学習指導要領上では高校地学で取り扱われる。本研究では教員養成課程に在籍し理科教育を専攻する大学生が,風化の定義を正確に理解しているかを明らかにした。理科教員免許取得に関わる必修の授業の受講生にアンケート調査を行い,花崗岩が風化してできた真砂はどのようにできたか仮説を立てさせた。アンケート調査の結果,風化の正しい定義を選んだ者は37%にとどまり,風の作用による岩石の移動・変化という誤った選択をした者が53%と最も多かった。真砂の形成についての仮説設定では,中学・高校の教科書の記載に沿った視点の記載が16%にとどまり,誤りである侵食・運搬・堆積に関連した記載が42%,衝突の視点に沿った記載が21%となった。理科教員を目指している大学生は風化と運搬作用中に生じる破砕・摩耗による細粒化を混同している可能性があり,風化を正確に理解する教材の開発や,学習指導要領の該当箇所の見直しを検討することが望まれる。

  • 瀧本 家康
    2023 年 64 巻 1 号 p. 79-87
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/07/31
    ジャーナル フリー

    中学校理科第3学年「地球と宇宙」の「太陽系と恒星」では,太陽の観察を行い,その観察記録や資料に基づいて,太陽の特徴(形,大きさ,表面の様子など)を見いだして理解することが求められている。太陽の大きさについては,太陽系で最も大きいことを理解することがねらいとされており,そのためには,太陽と太陽系の惑星の大きさを比較することが必要である。その際,太陽の大きさを実際に測定することができれば,より実感を伴った理解につながると考えられる。太陽の大きさを測定する教材はこれまでにも提案されていたが,太陽直視の危険性や精度面での課題等が残されていた。そこで,本稿ではそれらの知見や測定原理を踏まえながら,遮光シートを目盛り付きの木材に貼り付ける工夫を施すことで直接太陽の見かけの大きさを測定することができるとともに,より高精度の測定が可能な教材に改良を行った。実際に改良した教材を用いて中学3年生を対象に実践を行った結果,得られた太陽直径の平均値は145万kmであり,誤差率2.1%の精度で測定することができた。

  • 中村 大輝, 松浦 拓也
    2023 年 64 巻 1 号 p. 89-97
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/07/31
    ジャーナル フリー

    幼少期の自然体験と将来の学力変数の関連を指摘する先行研究は多いが,その多くは観察研究であり,因果関係を検討する上での重大な問題を抱えている。因果関係を検証するための理想的な研究デザインはランダム化比較試験であるが,参加者が自然を体験するか否かをランダムに割り当てる研究の実施は倫理的に難しい。そこで次善の策として,本研究では傾向スコアを用いた統計的因果推論の手法に着目し,観察研究のデータから幼少期の自然体験の因果効果を推定した。具体的には,東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が実施した縦断調査の公開データを用いて,小学校1年生までの自然体験が小学校4年生時点での理科学習への動機づけに及ぼす因果関係を検討した。傾向スコア分析の結果,幼少期の単発的な自然体験の効果は認められないが,幼少期の日常的な自然体験は小学校4年生時点での理科学習への動機づけを向上させることが明らかになった。

  • 山本 高広
    2023 年 64 巻 1 号 p. 99-110
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,我が国における高等学校教師の「システム思考」の認識の実態を明らかにするため,アンケートによる認識調査を行って分析を試みた。その結果,本調査対象となった高等学校教師に関して,次の点が明らかとなった。(1)「システム」という用語から連想するキーワードとしては「論理的思考」や「考える」といったシステムを捉える上での動作や活動を教師はイメージする傾向にあった。(2)「システム思考」については,その概念を部分的に認識している教師が多く,大局的に把握している教師は少なかった。(3)「システム思考」を理科の授業中に取り上げたことがあると自覚している教師はほとんどいなく,理科において「システム思考」に関する実践が極端に少なかった。

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