理科教育学研究
Online ISSN : 2187-509X
Print ISSN : 1345-2614
ISSN-L : 1345-2614
50 巻, 2 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
総説
  • 杉本 剛
    2009 年 50 巻 2 号 p. 1-9
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は、自然事象に対する人間の情報処理の方法の概念として、分析的処理と全体的処理の概念(分析的処理・全体的処理概念)を導入することによる自然認識研究の改善点を挙げ、今後の研究において改善するために必要な課題を呈示することを目的とした。考察の結果、自然事象に対する人間の情報処理の方法に適合した自然認識の調在方法が用いられていない問題・全体的処理による自然認識を対象とした研究が進展していない間題(改善点1)、分析的処理あるいは全体的処理のみを研究対象とする問題(改善点2)、分析的処理と全体的処理の相補性による自然認識の形成(以下、自然認識の相補的形成)を研究対象としない問題(改善点3) が考えられた。上記の各改善点に対して、人間の情報処理の方法と適合した自然認識の調査方法を実施すること・全体的処理による自然認識を対象とした研究を進展させること(課題1)、分析的処理と全体的処理を共に研究対象として自然認識研究を実施すること(課題2)、最も効果的に自然認識の相補的形成を促進させる授業デザインなどを実証的に追究すること(課題3) が今後の必要な課題であると考えられた。

原著論文
  • 海野 桃子, 安藤 秀俊
    原稿種別: 本文
    2009 年 50 巻 2 号 p. 11-19
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    現在,理科の自由研究は長期休業中の課題として小・中学校等で広く取り組まれており,教科書にも多くのページを割いてその指導方法が紹介されている。しかし,理科の自由研究の作品とその教科書での記載に関する考察的な研究はなされておらず,中学校における自由研究に対する実態調査もあまり行われていない。そこで,まず教科書における自由研究の取り扱いを詳細に検討したところ, 自由研究の方法や具体的な事例が多く示されていることが明らかになった。また,理科の自由研究の現状を把握する日的で,中学校においてアンケート調査を行い, 自由研究に対して生徒の意識が肯定的か否定的か,また,学年差,男女差などの検定を行った。その結果,中学校では理科の自由研究に対して,「やる気度」や「頑張り度」は強く,有意に肯定的な意識を持っているものの,「楽しさ度」や「役立ち度」などでは否定的な意識がうかがえた。今後,理科教師はこれらの点を踏まえた指導や支援をしていくことが重要と考えられた。

  • 小野瀬 倫也, 藤枝 央真, 森本 信也
    2009 年 50 巻 2 号 p. 21-30
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は中学生が「化学変化と原子・分子」の学習において粒子モデルを駆使し,既有の概念と新たな概念をリンクさせながら自分なりの理解,すなわち論理を組み立てていく様態を分析し,学習支援のあり方について考察したものである。分析の結果,被験者の表現の中から科学概念構築に関わる,以下の要素を抽出した。すなわち,「(1)主題に対するキーワードを用いる。(2)文章で説明する。(3)自分の表現としてのモデルを用いる。」である。さらに,これらの要素は以下に示す4つの段階に分類された。①自分の考えを表現できない段階。②自分の考えはあるが,文章,モデル表現ができていない段階。③自分の考えを文章で表現できているが,モデルとしての表現がない段階。④自分の考えをモデルと文章で表現できている段階。これらの要素とその段階を踏まえた実践の結果,その有効性が実証された。

  • 金子 健治, 小林 辰至, 伊東 明彦, 渡辺 一博
    2009 年 50 巻 2 号 p. 31-38
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    中学校理科の「力と運動」の単元では斜面を滑り落ちる物体の学習をするときに,斜面上の台車の運動のようすと力の大きさを測定する実験を行う。通常,この実験結果から斜面上の物体の運動は,一定の大きさの力によって生じる運動であることを理解させようとしている。しかし,多くの生徒は速く動いている物体ほど大きな力がはたらいていると考えていて,斜面上の物体の運動が一定の大きさの力で生じているとは理解していない。そこで本研究では,台車を水平面上で一定の力で引く実験を取り入れることが,斜面上の物体の運動が一定の大きさの力で生じていることを理解させるために有効ではないかと考え,実践を行い,評価した。その結果この検証実験は「物体がゆっくり進む時は運動する向きに小さな力がはたらいていて,物体が速く進む時は運動する向きに大きな力がはたらいている。」という考えを実験前に意識化できた生徒には有効であることが明らかになった。

  • 五島 政一, 小林 辰至
    2009 年 50 巻 2 号 p. 39-50
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本論文では,川喜田二郎が問題解決のプロセスのモデルとして提案したW型問題解決モデルを応用した理科教育用のW型問題解決モデルとその学習モデルを提案した。そして,そのモデルに基づいて,科学的リテラシーを育成するための理科教育のあり方について体験から思考の段階までを総合的に考察し,その内容と方法について提案を行った。以下にその概要を述べる。1. 川喜田二郎のW型問題解決モデルを応用して,理科教育のためのW型問題解決モデルの「問題提起→探検→観察→発見→仮説の設定→推論→実験計画→観察・実験→検証→一般化→日常生活へ応用」の過程を科学的リテラシー育成の観点から一連の科学的探究のプロセスと対応させ,従前の問題解決能力育成に関する学習モデルの問題点を述べた。特に問題点の1つとして,野外観察が体系的に指導されてこなかったことを述べるとともに,子どもの問題解決能力を育成する上で配慮すべき探究の過程や観点について,モデルに基づき説明した。2. PISA2006調査の中で指摘されている科学的リテラシーを育成する3つの科学的能力「科学的な疑間を認識すること」,「科学的な証拠を用いること」,「現象を科学的に説明すること」のうち, 日本の理科教育の課題となっている「科学的な疑問を認識すること」や「現象を科学的に説明すること」を, W型問題解決モデルに位置付けて考察した。3. 子どもの科学的リテラシーを育成するための方策として, W型問題解決モデルをさらに5つの学習モデルに小類型化するとともにそれぞれについて具体的な事例を提案した。

  • 齋藤 裕一郎, 黒田 篤志, 森本 信也
    2009 年 50 巻 2 号 p. 51-67
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    科学概念の理解は概念についての自覚性と随意性の二つの性質により成立する。ヴィゴッキーはこの科学概念の教授原理として「発達の最近接領域」を提案した。本研究では「発達の最近接領域」を取り込んだ理科授業を分析することにより、教授原理としての機能を明らかにした。その結果、子どもに科学概念の構築プロセスを自覚化させる理科授業をデザインすることにより、子どもは科学概念の内化を促進させ、概念の自覚性と随意性を実感することができた。

  • 三田 幸司, 山崎 敬人
    2009 年 50 巻 2 号 p. 69-80
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,小学校理科授業において小集団での話し合い活動が協同的な学びとなるための要因を明らかにすることであった。小集団での話し合い活動のプロトコルやワークシートの記述内容を分析した結果,協同的な学びが認められた小集団では,「自他の実験結果や考えの差異を指摘する発話」の出現率が高かった。また,話し合い活動が協同的な学びとなるためには,「差異の原因を探ろうとする発話」をメンバー全員が行うことや,「問題解決のための新しい視点を生む発話」を共有して共に問題解決しようとする応答の発話が重要であることが明らかになった。さらに,協同的な学びが認められた小集団では,同一の表現を連続して複数の子どもが発言しているという事例が他のグループよりも多い傾向にあることが分かった。

  • 清水 誠, 安田 修一, 高垣 マユミ
    2009 年 50 巻 2 号 p. 81-88
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,認知心理学の分野で認知的な効果が期待されている相互教授の方法を中学校の理科学習に導入し,その効果を探った。学習内容は第2学年で行われる動物単元の消化と吸収である。授業後の生徒の記述からは,相互教授を導入した授業は生徒の科学的な概念の形成に有効であることが確認された。また,発話の分析結果からは,相互教授を導入した議論の場では自分の考えを主張する発話が多く見られるなど活発な相互作用が行われていることが認められた。

  • 高橋 多美子, 高橋 敏之
    2009 年 50 巻 2 号 p. 89-97
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本論では,10代から60代までの年代別に,幼少期における自然体験20項目の増減を調査し,その調査を基に.今後の幼少期における自然体験の望ましい在り方を考察した。全体的に見れば幼少期の自然体験は若年層ほど減少傾向にあるが,詳細に分析すると,①顕著な減少傾向,②微細な減少傾向,③微細な増加傾向に分類された。そして視点を変えると,④二極分化傾向,⑤性差がある項目のあることが判明した。今後の幼少期における望ましい自然体験の在り方として,第1に身近な自然環境の整備,第2に保育における自然体験の補完,第3に子どもを取り巻く大人の重要性を言及した。

  • 鶴田 孝一, 小池 守, 高津戸 秀
    2009 年 50 巻 2 号 p. 99-106
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    長野県内の公立中学校3年生を対象に,二酸化窒素浄化装置を用いて,自動車排気ガスを浄化する物質を調べる実験から成る3時間の単元を実施した。その結果生徒は,木材由来の有機物に浄化作用があることや,自然界に存在するものが持つ浄化能力は人の知恵や科学技術により活用できることを理解した。また学習終了後生徒の持つ環境認識は悲観的認識から希望的認識へと変容し,環境保護活動などへの働きかけが誘発された。以上のことから,本学習は環境教育において有益であることが示唆された。

  • 松浦 拓也, 柳江 麻美
    2009 年 50 巻 2 号 p. 107-119
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    認知過程において重要な役割を担っているメタ認知に関する研究が,協同的な学習場面においても行われるようになっている。協同的な学習場面においてメタ認知を育成する手法を検討するためには,学習者間のやり取りにおけるメタ認知の様相について,詳細な研究を行う必要があると考えた。本研究では,授業者がメタ認知の育成を意図的には行っていない協同的な理科学習場面を対象に, どのような状況において生徒のメタ認知が活性化しているのかについて明らかにすることを目的とした。中学1年生を対象に,協同的な理科学習場面における発話を記録し,メタ認知的モニタリングやコントロールが機能した結果としてのメタ認知的発話を抽出した。そして,メタ認知が機能する状況を議論の構造と関連付けて検討するために,丸野らの研究を参考にデイスカッションのフェーズを特定し,分析に用いた。その結果,非論証フェーズよりも論証フェーズにおいてメタ認知がよく機能していることが明らかとなった。また,論証フェーズに移行するきっかけとして. 1) 異なる考えの主張2) 友達からの要請(「正当化の要請」や「フィードバックの要請」), 3) 他者のメ夕認知的発話(矛盾点を指摘した発言),4) 文字化,という4つの要因を抽出した。

  • 松森 靖夫, 佐々木 智謙
    2009 年 50 巻 2 号 p. 121-129
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,天球に関する高等学校第1学年の生徒の認識状態を把握するものである.具体的には,質問紙法により用語“天球”に関する認識調査を行った.得られた主な知見は以下のようになった.(1) 天球という用語に関して,「聞いたことがない」と答えた生徒が30%以上も存在したこと.(2)天球という用語を聞いたことがあると答えた生徒であっても,天球という用語に関して科学的に正しく理解している生徒は皆無であったこと.(3)天球という用語に関する生徒の回答は多様であり,計13類型に分類できた.

資料
  • ナタウイット ポートジャナタンテイ
    2009 年 50 巻 2 号 p. 131-138
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本論はタイの理科教育の最近の状況についてまとめたものである。タイの教育は憲法により12年間の無償の教育が保障され,義務教育はそのうち9年間である。タイは,2001年に基礎教育段階のカリキュラムを改訂し,科学は基礎教育段階において主要教科群の一つに位置づけられた。そして,第1学年から第12学年までの科学教育において,科学的な知識と探究のプロセスの系統性が示された。新しい科学教育の枠組みは,タイ国民が科学的リテラシーを身につけることである。科学のカリキュラムは国レベルと地方レベルがある。国レベルでは8教科を設定し、科学はその一つである。科学教育カリキュラムは以下の内容である:生物とその生き方,生活と環境,物質とその特性,カと動き,エネルガー,地球の変化,探偵と宇宙,科学の性格。タイの科学教育に関する新しい動向としては,学習者が一人で学んでいくための図書館,ビデオやテレビ,理科室植物園,科学博物館等々の施設・設備の充実を図っている。今後の課題としては,科学の教員が,量的にも質的にも不十分ということである。

  • 相場 博明, 柊原 礼士
    2009 年 50 巻 2 号 p. 139-147
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    小学6年生「大地のつくり」の単元を学習する前の小学校5年生と学習後の中学校1年生における,礫,砂,泥についての認識調査を行った。その結果,学習後の中学生でも半数近くが泥と砂の違いを正しく認識していないことがわかった。この問題を解決するために,身近な食品を利用した簡易粒度表の教材開発を行った。小学校5年生を対象に簡易粒度表を作成させたところ,容易に短時間で作成させることができた。また,簡易粒度表を活用させることで,小学校5年生でも,堆積岩1)の粒子の大きさに着目させることができ,堆積岩の鑑定能力が大幅に上昇することがわかった。

  • 松本 榮次, 松本 伸示
    2009 年 50 巻 2 号 p. 149-158
    発行日: 2009/11/06
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    学校教育における天体観察は、取り組みにくい現状があったが、星座カメラi-CANやインターネット望遠鏡が開発され、パソコンの画面を通してであるが、リアルタイムに天体観察の学習を行うことができるようになってきた。しかし、インターネット望遠鏡を利用した学習では、白黒画像による学習が中心であった。ところが、最近ではワンショットでカラーの天体撮影ができる望遠鏡もできてきた。その結果、リアルタイムで星座の学習をしながら、その一部分をカラー画像のまま拡大、観察することも可能となった。実践した授業により、カラー画像を用いたリアルタイムによる学習は白黒画像よりも、情意面が活性化されて児童が豊かに表現するようになり、また星の違いを理解することも深まることが示唆された。

feedback
Top