理科教育学研究
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46 巻, 1 号
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原著論文
  • 小野瀬 倫也, 森本 信也
    2005 年 46 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    理科学習において子どもが科学概念を構築するためには,「学習を動機づける信念」を持つことが欠かせない。そして,科学概念の構築を具体的に実現させるためにはこの信念に基づく「自己制御的学習のストラティジー」が用いられなければならない。本研 究は,理科授業において子どもが獲得する科学概念が.子ども固有の「学習を動機づける信念」と「自己制御的学習のストラティジーの相互作用の結果として生じることを明らかにした。そして,ここで構築される概念は学習固有のプロフィールである,という仮定に立ち,子どもにおける科学概念の構築過程の実態分析とそのモデル化を試みた。その結果,以下に挙げる子ども特有の学習モデルを抽出することができた。1 .学習の概括と情報の統合を行いながら学習を進める。2 .学習情報の統合を行いながら演繹 的に概念構築をする。3 .知識の累積の成果をアナロジーとしてまとめる。4 .既有の概念プロフィールへのコミットメントを保持しながら学習を進める。5 .既有の概念プロフィールに対するコミットメントを解除しながら学習を受け入れ,進める。抽出された子どもの学習モデルは,すべてではないにしろ典型的なモデルを特定するための手がかりになるものと考えられる。

  • 菊地 洋一, 高橋 治, 坂本 有希, 佐藤 明子, 武井 隆明, 村上 祐
    2005 年 46 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    イオン学習は,中学校理科においては生徒が理解しにくい内容であると指摘されてきた。そして現学習指導要領(平成10 年告示)では,改訂によりイオン学習が中学から高校へ移行され,義務教育段階では扱う必要のない内容となった。しかしイオン学習を巡る問題は理科教育における重大な問題をはらんでおり,イオンが削除されたことの影響は大きいと考えられる。そこで本研究では,はじめに自然科学におけるイオンの位置づけを確認し,中学校理科の教育課程の組み立てについての整理を行った。続いてイオン学習の関連事項について,中学校教師に詳細なアンケート調査を行い,イオン学習の理解度や位置づけについての実態を明らかにした。これらの視点から改めて中学校理科におけるイオン学習の実態や位置づけについて調在・検討を行った。中学校教師に対するアンケート結果から中学校段階でのイオンの学習の必要性が強く示された。その理由は以下の3点に要約できる。(1) イオンは自然科学教育の根本要素(基礎・基本)である。(2) イオンは生活者としての科学的リテラシーの重要要素である。(3) イオン学習は思考カ・探究心の育成や化学の面白さを伝えるのに良い内容である。「イオン」は自然科学およびその教育において紛れもなく基礎・基本的な事項であり,重要な根本要素である。イオンを削除した現学習指導要領下では他の多くの学習内容について,削減,質の変化,説明できないことなどが生じてきている。すなわちイオンの削除は,単なる学習内容の3割減に止まらず多くの学習内容の質的変化をもたらした。イオン学習が多少難解な内容であったにしても中学校理科できちんと学習する必要がある。その際,教育内容の組み立ての再構築を模索する必要がある。イオンを含めた粒子概念の早い時期での導入は,学習の系統性を考えた場合に大変魅力的であり,教育現場からの要望も多い。

  • 木下 博義, 松浦 拓也, 角屋 重樹
    2005 年 46 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,まず観察・実験活動における生徒のメタ認知の実態を明らかにし,次に生徒のメタ認知の働きを高めるための指導法への示唆を導出することを目的とした。このため,中学校1〜3年生248名を対象に,14項目から成る質問紙調査を行った。その結果,次の3点が明らかになった。①観察・実験活動において,生徒はある程度メタ認知を働かせている。②観察・実験の前では他者との関わりによるメタ認知,途中では自分自身によるメタ認知の働きが高い。しかし,観察・実験の後ではどちらのメタ認知の働きも十分ではない。③生徒のメタ認知の働きには,教師の関わりが強く影響している。そして,生徒のメタ認知の働きを高めるための指導法への示唆として,次の2点を導出した。(1)仮説に照らして結果を考察する場面において,グループでの活発な話し合いを多く取り入れる。(2)同場面において,生徒のメタ認知的な意識を高めるような問いかけ,フラッシュカードなどを活用する。

  • 小池 守, 宮田 斉, 高津戸 秀
    2005 年 46 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    紫外線を色の濃さで簡便に検出できるUVチェックビーズを用いた紫外線学習と教材の有効性を検討するため,小学校4年生を対象に3時間扱いのUVビーズを使った体験活動を中核に据えた学習単元を設定し授業実践を行った。紫外線の強さはUVチェックビーズの色(オレンジ,青,黄,紫)の濃さで調べ,学習の有効性は授業観察と単元前後の質問紙調査により検討した。また,児童の認識に対する保護者の影響を調べるため,保護者に対しても質問紙調査を実施した。その結果,児童の認識は保護者の考えに強く影響されていた。UVチェックビーズを用いた実験は,児童に紫外線の強さを認識させるために十分活用できるものであり,児童の紫外線に対する偏った負のイメージの認識を再構成して,正負両方のイメージの認識へと変容させるために有効であることが明らかとなった。

  • 坂井 裕介, 磯崎 哲夫
    2005 年 46 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本小論では地域実態史的アプローチを用い,特に大正期から昭和初期における静岡県の中学校と師範学校を中心として,理化学生徒実験の地域実態(中央の政策がどのように静岡県に伝播し,実現されたのか。また,そこには静岡県の特色がどのように活かされたのか)を解明することを目的とした。その結果,次のことが明らかとなった。①大正7 (1918) 年に文部省が訓令した『師範学校中学校物理及化学生徒実験要目」に掲げられた理念を静岡県は忠実に伝播し,実行しようとする意図が認められた。②静岡県が生徒実験設備等のために各学校に支給した地方費は全国平均を下回る額であったが授業料の値上げや,各学校と県当局との交渉により,次第に実験設備等が整備,改善されていった。③当時の中学校は生徒実験書を用い,生徒が自ら実験をし,教師主導の知識注入型授業からの脱却が図られた。①昭和7 (1932) 年には実験・実習を重視するように実施要項が出され,改めて生徒実験の徹底を図ることが通達された。⑤工業都市としての静岡県の特性を活かし,理化学の日常生活への応用を学ぶ工場見学実習も企図されていた。

  • 清水 誠, 石井 都, 海津 恵子, 島田 直也
    2005 年 46 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    水の状態変化についての学習は,概念変化が難しく,子ども達の素朴概念を修正し科学的な概念を形成させるための教授論を考えることが大きな課題となっている。本研究は,水の状態変化の授業に小グループの話し合いを取り入れ,認知過程を外化することが概念変化に有効ではないかと考え調べることにした。手続きとしては,予想と考察時に小グループで話し合いを行い,考えを外化させた群とこれを行わない群で比較することにした。また,児童の考えを外化させる方法として,話し合いに加えワークシートと付箋紙を使用した。授業の結果,小グループで話し合いをし,各自の考えを外化させる教授方法は,子どもの概念変化を促す効果が見られることが明らかとなった。

  • 多賀 優, 草地 功, 戸北 凱惟
    2005 年 46 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    高等学校2学年を対象として,火成岩の分類と結晶分化作用の授業の前後に火成岩の多様性とその形成過程がどのように生徒に認識され概念構造が変化するのかを,コンセプトマップ法を用いて調べた。その後,引き続いて,ある生徒のコンセプトマップを考察させる授業実践を行ったところ,結晶分化作用の概念や,マグマ中で鉱物が晶出後に集まり岩石になるという形成過程についての概念が確立された。これをいくつかの概念系に分けて検討したところ,分類についての概念が減り,成因についての概念が増加し,階層的なコンセプトマップから自由度の高いコンセプトマップへと変化が見られ,成因について理解させる学習によって結果的に火成岩や鉱物の個々の知識の位置づけが明確になった。

  • 藤岡 達也
    2005 年 46 巻 1 号 p. 69-80
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    近年,都道府県の財政悪化,教育課題の多様性から,理科教育に携わる現職教員研修機関(教育センター)運営上の厳しさが指摘されているが,その理科教育に果たす重要性を再確認するとともに今後の在り方を先行的な取組から探った。最初に,教育センターの存在意義や任務をその設立や変遷から確認し,現在の初任者研修,教職経験者研修管理戦研修等のライフステージに応じた研修と理科教育との関連を検討した。次に理科教育の課題が多様性にわたる今日,重要視される他機関との連携について論じた。その場合に,教育センターが学校と諸機関との連携をコーデイネートするとともに,教員養成系の大学・大学院と共同のもと教育研究を進めていく意義も述べた。また,教員研修だけでなく,これからの教育センター職員の育成についても他機関との連携において検討されるべきことを触れた。今日,教育センターはカリキュラムセンター化機能に加え,夏季休暇中の多様な研修設定などの要望や課題にも応える必要がある。従来の教育センター業務の質・量的な変化もあり,悲観的に捉えられがちではあるが,新たな教員研修の設定や様々な機関と連携した研修を検討することにもなり,理科教育に関しても,これまでにない多岐にわたった展開が期待できる。

  • 山崎 敬人
    2005 年 46 巻 1 号 p. 81-90
    発行日: 2005/09/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,教育実習における教壇実習として取り組まれた理科授業に焦点をあて,理科授業の構想と実践に関する教育実習生の認識と思考について事例的に検討した。その結果,教育実習生は理科授業の構想と実践に際し,子どもの興味や関心を引いたり学習活動を楽しくしたりすることや,実際に体験することで理解や記憶を容易にしたりすることに理科授業における実験の意義があると考えている一方で,指導教師にみられたような授業構想と子どもの実態とのズレを想定するような思考や,理科の学習内容,教材,教授方法などに関する具体的で的確な「学習者の視点」は,教育実習生には認められないことなどを指摘した。また,理科授業の構想と実践にかかわる教師としての力量の獲得と向上のための課題として,教師(教育実習生)が授業構想で想定したものと授業実践での子どもの実態との間の「ズレ」の有無,及び,その内容や要因を,授業の反省を通して検討していくとともに,「学習者の視点」から教授知識などを問い直し再構築していくこと,そして,そうした営みを実験観や理科授業観の問い直しと不可分のものとして行っていくことの必要性を指摘した。

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