理科教育学研究
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63 巻, 1 号
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巻頭言
特集「グローバルな視点からみた理科教育」
原著論文
  • 中村 泰輔, 小笹 哲夫
    2022 年 63 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    国内で国際バカロレア(IB)の日本語デュアルランゲージ・ディプロマプログラム(DLDP)に取り組む高校におけるIBDP理科科目の実践を事例として,実践開始以来直面した諸課題を踏まえつつ,日本語DLDPにおける理科の特質と,日本の高校理科の実践へ効果的に作用しうる部分を探った。日本語DLDPにおける理科の特質として次の4点が挙げられる。第1に,グループワークが多用されること,第2に,理科の内容のみならず理科を取り巻く多様な観点を取り込んだカリキュラム構成であること,第3に,独立した学習者としての学習成果を求める工夫がなされていること,第4に,理科各科目で学ぶ内容についての深い理解や思考力が最終試験において問われることである。これらの特質を日本の高校理科へ反映させることで,協働的な学び,教科横断的な学び,探究に重点を置く学びを指向しつつ,理科各科目の深い内容理解およびハイレベルな思考力の育成が見込まれることが明らかになった。

  • LACORTE Rogelio Bañares, 大嶌 竜午, 岩崎 春乃
    2022 年 63 巻 1 号 p. 15-31
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    日本の理科教育は,国際調査において一貫して高い評価を得ている。一方,フィリピンでは,日本と同様の探究的な学びを強調するカリキュラムがあるにもかかわらず,国際調査等において生徒の到達度は低いままである。類似したカリキュラムでも,理科教育実践において違いがあるのだろうか。本論文では,以上を踏まえ,日本の公立中学校一校において理科教育の様々な側面を調査し記述することで,日本の学校における理科教育実践の特質を明らかにするとともに,グローバル化する社会において日本の理科教育を発展させるための改善点を指摘することを目的とする。特に本稿では,参与観察に基づく外国人理科教師の日本の理科教育実践に関する認識と,生徒を対象として行われた理科授業に関するアンケート結果(N=205)について説明する。研究の結果,以下のことが判明した。1)日本の中学校の理科授業では,探究的活動を通じて,知識内容および手続きに関わるスキルの獲得が重点的に取り扱われている。2)教師や塾等の支援による個に応じた学習により,生徒の理科の学習意欲と関心を高めている。3)生徒は,仮説,予想,結果解釈等の探究のプロセスを楽しんでいる一方,自分で問題を見つけて解決することや,自分で実験手順を計画することには完全な自由度は与えられず,「レシピ型」の実験に従うよう要求されていると認識している。4)日本の生徒は,高い水準の学習規律を保持している。そこで,生徒が自分で問題を見つけ,探究する活動や問題解決のために自分自身で実験を計画するようなより自由度の高い活動を取り入れることが求められている。また,生活に根差した理科教育の推進や,e-LearningやICT機器の活用は,グローバル化した現代社会という観点からも,改善・発展が求められる分野である。

特集「将来を切り拓く若手研究者による理科教育学研究」
原著論文
  • 亀田 直記
    2022 年 63 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    山陰海岸ジオパークには京都の木津温泉や兵庫の城崎温泉といった温泉地がエリアの中に多数ある。多様な泉質があるにもかかわらず,その違いが一目でわかるような資料は博物館でも見られず,地域住民や観光客に情報として提供されていない。山陰海岸ジオパーク全体の公表されている泉質を調査・整理したところ,5種類の泉質があることがわかった。地図に泉質の違いを示した資料を作成し,地理的特徴や地質と関連させた観光の活性化について思考させる授業を高等学校で行った。学習者は泉質の定義,エリアでの泉質の違い,温泉の効能といった複数の資料を読み取って,温泉地の科学的な特徴を理解できた。さらに,その特徴を活かした温泉の活用並びに地域活性化のアイデアを考えることができた。

  • 川崎 弘作, 雲財 寛, 中山 貴司
    2022 年 63 巻 1 号 p. 41-51
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,「法則」の構築過程に基づく学習指導が知的謙虚さの育成に有効か否かを明らかにすることを目的とした。このために,小学校第6学年「てこの規則性」において「法則」の構築過程に基づく学習指導による授業実践を行った。その結果,質問紙調査による量的分析において,理科における知的謙虚さのうち「一般化への慎重さ」因子の得点の平均値が向上していたと判断でき,児童の実践後の感想に対する質的分析から量的分析の結果を支持する記述がみられた。このことから,「法則」の構築過程に基づく学習指導は「一般化への慎重さ」に関わる知的謙虚さの育成に有効であると判断した。

  • 比樂 憲一, 遠西 昭寿
    2022 年 63 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    自然科学においては,実際に実験ができないような状況ではシミュレーションが行われる。観察結果がよく一致するシミュレーションを選択することで「どのようになっているか」を理解しようとする。本研究は,「月は日光を受けて輝き,私たちの周りを公転しているので日光の当たる角度が変わり,形が変化して見える」という理論からなる理論モデルに基づくシミュレーションを行い,実際の観察事実と理論モデルとの一致によって,この理論モデルを成立させた理論にコミットさせることを試みた,小学校第6学年における実践的研究である。児童は,観察事実がこの理論モデルによく一致することから,上述した理論に対するコミットメントを形成できた。実際の観察と中心に地球をおいた一般的な月の公転モデルの間では,視点移動・空間認識の困難性が生じることが報告されているが,公転する月の中心に地球ではなく,観察者である「私」を直接に置くことで,その困難性から逃れることができた。また,このモデルでは,太陽を我々の周りを回る24時間時計として認識すると夜間の太陽の方位を推定できるので,夜間でも「太陽と月の関係」を知ることができた。さらに,月齢がわかれば,月の観察が可能な「時刻と方位」を決定できるので,月の観察を計画的・予測的に行うことが可能になった。

  • 森川 大地, 石飛 幹晴, 中村 大輝
    2022 年 63 巻 1 号 p. 61-69
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,問題事象から変数を見いだす力に着目し,その測定方法を開発することを目的とした。研究の目的を達成するために,当該能力を「目の前の問題事象の中から,変化し得る要素を特定する力」と定義した上で,複数の調査問題を作成した。作成した調査問題を用いて,小学生1044名(第3学年195名,第4学年96名,第5学年382名,第6学年371名)を対象とした調査を実施し,項目反応理論の2母数モデルに基づく分析を行った。その結果,開発した問題は十分な識別力を持っており,当該能力が平均よりやや低い集団において高い弁別性を有していることが明らかになった。また,測定した能力値を学年ごとに比較した結果,問題事象から変数を見いだす力は,上位の学年ほど高い傾向にあることが明らかになった。

  • ―半構造化面接と授業分析を基にして―
    渡辺 理文, 杉野 さち子, 森本 信也
    2022 年 63 巻 1 号 p. 71-84
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,理科を専門とする小学校教員1名を対象にし,対象者のもつアセスメント・リテラシーの具体を個性記述的に分析して示した。また,その対象者がアセスメント・リテラシーを自覚的に用いて授業を計画・実践した事例を示した。方法として,AbellとSiegelの提案するアセスメント・リテラシーの理論的枠組みとモデルを援用した。この枠組みとモデルは,評価の目的,対象,方略,解釈・行動に関わる四つの知識で構成されている。半構造化面接によって,対象者のもつアセスメント・リテラシーの具体を分析し,その具体を枠組みにして,小学校第6学年「水溶液の性質」の授業を計画・実践した。結果として,教師が自身のもつアセスメント・リテラシーを自覚的に用いた授業事例を示すことができた。日本の理科教師のアセスメント・リテラシーの分析に,AbellとSiegelの提案する枠組みとモデルは援用可能であった。

一般
原著論文
  • ―SDGsのねらいに沿ったカリキュラム・マネジメントの構築を踏まえて―
    佐藤 真太郎, 藤岡 達也
    2022 年 63 巻 1 号 p. 85-94
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,防災を含む安全教育に求められるカリキュラム・マネジメント(現代的な課題に関連した教科横断的な教育内容)の具体的な取り組みとして,SDGsゴール11「都市と人間居住地を包括的,安全,強靭かつ持続可能にする」を核に,安全教育(防災教育)のねらいに沿った,水害を軽減する方法を考える教材の開発を行った。そして,小学校第5学年の児童を対象に,その教材を活用した授業の教育効果を,安全教育の目標に照らして検証した。その結果,児童は理科や社会科で学んだ知識を基に,思考力・判断力・表現力等を駆使して,水害を軽減する方法を考えていることがわかった。また,教科教育と学校行事や特別活動を結びつける役割も期待できることが示唆できた。さらに,本稿で扱った教材を用いた授業実践を通じて,SDGsゴール11だけでなく,SDGs6.6やSDGs12.8など,他のSDGsのターゲット達成にも可能性を示すことができた。

  • ―電気回路の単元の授業を通して―
    塩嶋 公輔, 森下 將史, 片平 克弘
    2022 年 63 巻 1 号 p. 95-106
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    科学現象を他者に分かりやすく伝える技能が重要視されていることを鑑みて,本研究では,先行研究の分析をもとに,科学現象の説明に生徒がアナロジーを用いる上で,どのようなアナロジーの特徴や扱い方を理解しておくべきかを特定した。その結果,(1)アナロジーでは説明できない箇所があるという「アナロジーの限界」,及び,(2)説明する内容の量的な「因果関係の類似性」への言及の重要性を抽出した。その結果を受け,本研究では,抽出したアナロジーの特徴や扱い方を生徒に教授するための授業案を作成し,中学2年生の生徒を対象に授業を行い,生徒のアナロジー利用の変化を調査した。その結果,特筆すべき効果は認められたとは言えないが,アナロジーを用いて科学現象を説明する際に,「アナロジーの限界」について着目する生徒は増加傾向にあった。また,「因果関係の類似性」に関しても,効果についてはクラスによって大きく異なっていたものの,言及する生徒の増加には効果はあった。この2点の成果に加えて,「一対一対応の制約」すなわち,「新たにアナロジーでの説明のために導入した1つの要素が,説明される内容中のある1つの要素と結びつくという制約」を理解させる重要性が明らかとなった。

  • 瀧本 家康
    2022 年 63 巻 1 号 p. 107-115
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,岩石や水の重要な物性である比熱について,簡易に測定可能な実験方法を開発し,試行実践を行った。その結果,水については,理論値よりも過大評価される傾向があったが,岩石については,ほぼ妥当な値を得ることができた。海陸風や季節風の成因を理解するためには,岩石と水の比熱が大きく異なることを理解することが非常に重要である。本稿の方法では具体的に水と岩石の比熱を得ることができ,岩石と水では4倍前後の比熱の違いがあることを理解するために十分な結果が得られた。

  • ―熱と仕事の関係と熱平衡を例に―
    瀧本 家康
    2022 年 63 巻 1 号 p. 117-126
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,高等学校物理の熱力学分野における熱と仕事の関係と熱平衡の実験におけるデジタル温度ロガーの活用例について紹介した。実験にデジタル温度ロガーを活用することで,温度変化の過程について詳細かつリアルタイムで生徒に示すことができ,視覚的に熱力学現象を捉える有効な方法の一つといえる。特に,熱と仕事の関係については,水温の変化について多くの生徒がイメージしにくいことが明らかとなり,本稿の実験後には正しい実験結果を表現することができた。

  • ―導電性粘土を用いた指導プログラムによる素朴概念の修正―
    露木 隆, 郡司 賀透, 岩山 勉
    2022 年 63 巻 1 号 p. 127-138
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,高等学校物理の「電気と磁気」単元の電気抵抗に関する素朴概念の抽出を行い,その修正を行うための教材及び指導プログラムを検討し,実践した。最初に,電気抵抗の形状と抵抗値に関する学習前の概念調査から,多くの生徒が「電気抵抗の体積が大きいほど抵抗値も大きくなる」「電気抵抗の長さが長いほど抵抗値は大きくなり,断面積には依存しない」といった素朴概念を持つことが明らかになった。これらの素朴概念を修正し,科学的概念を形成するため,本研究では導電性があり,抵抗率と形状を自由に変えることのできる導電性粘土を製作し,実験に用いた。実験を通して素朴概念と科学的概念の矛盾点を明確化するとともに,実験後のグループ討議を通して素朴概念の獲得要因を明確化し,さらに既有の知識の中で科学的概念の説明方法を考えた。実験群と統制群の事前,事後及び遅延調査の結果から,導電性粘土を用いた指導プログラムにより,電気抵抗に関する素朴概念が修正され,科学的概念が形成されるとともに,形成された科学的概念が保持されることも確認できた。

  • ―第5学年「振り子の運動」における児童の素朴な考えを生かした授業展開を通して―
    中山 貴司, 木下 博義
    2022 年 63 巻 1 号 p. 139-150
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,小学校理科において,教師主体の「導入アプローチ」にイマージョン的要素を組み込んだ指導法を考案し,実践を通してその効果を検証することを目的とした。この目的を達成するため,第5学年「振り子の運動」(全13時間)において,理科における批判的思考力の6つの力を児童に説明した後,考案した「熟考シート」を用いてそれらの力を教師が継続的に指導(教師主体の「導入アプローチ」)しながら,児童の素朴な考えを生かした授業を展開(イマージョン的要素)する指導法を考案した。そして,質問紙や「熟考シート」を基に検証した結果,考案した指導法は,「探究的思考」「合理的思考」「自己による反省的思考」「目標志向的思考」及び「懐疑的思考」といった批判的思考力の育成に寄与したことが明らかになった。

  • 馬場 賢治
    2022 年 63 巻 1 号 p. 151-160
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    空気に関する学習は実験を通して議論することが効果的な手法の一つである。本研究では,体験型の実験を通して,静力学平衡を利用した気圧と高度の関係から空気の重さについての考えさせる取り組みを行った。一般的なアネロイド型気圧計を用いる他に気圧計搭載のスマートフォンを利用させたところ,学生の実験に対する理解や姿勢,反応が良くなった。スマートフォン搭載の気圧計に関しては,アネロイドより良い精度であった。また,「気圧」に関しては小学校課程では取り扱わないことから,本実験を基にした提案を行った。同時に中学校課程以降の学習段階での提案も行った。これらから空気の重さや気圧に関する議論が授業の中で期待される。この気圧の概念が分かれば,小学校課程から天気図を用いた防災教育に繋げることも可能である。

  • ―「てこ」の単元を用いて―
    日上 奈央子
    2022 年 63 巻 1 号 p. 161-168
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,モンゴル国小学校理科の動画教材の問題解決場面を分析し,同国政府の目指す「子どもの発想や思考を促す指導」及び初等教育コアカリキュラム理科の目標である「問題解決過程の習得」に沿った教材となっているか否かを,モンゴル国,日本の両国で取り扱われている内容である「てこ」を素材として明らかにすることである。問題解決場面及び問題解決場面のつながりについてそれぞれルーブリックを用いて分析し,研究対象のモンゴル国の動画教材について以下6つのことが明らかとなった。①コアカリキュラムの理科の目標に示されていない課題場面は設定されていない。②てこの単元の2つの動画の評価の合計数値の差は比較対象の2つのWEBサイトに比べて大きく,場面,問い,思考を促す試みの3つの設定において各動画でばらつきが大きい。③背景,仮説,方法の3場面において問いや思考を促す試みが比較的少ない。④基本的な問題解決場面である背景から考察の6場面の設定が見られる。⑤問題と考察の2場面は他の場面に比べ,子どもの思考を促す試みがなされている。⑥問題と考察の場面に関連性は見られるが,他の場面との関連性は限定的である。以上のことから,モンゴル国政府の目指す教育方針やコアカリキュラム理科の目標に沿った動画教材とするためには,問題と考察の2場面以外の問題解決場面においても問いや子どもの思考を促す試みを設定し,問題解決過程全体を通して関連性を持たせることが必要である。

  • 三宅 志穂, 大貫 麻美
    2022 年 63 巻 1 号 p. 169-178
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,BSCS 5E Instructional Model(5Eモデル)を参考にして,非医療系の大学に所属する女子大学生(本稿では一般女子大学生と記す)向けの生命科学倫理教育のための教養科目として試行的授業プログラムを立案した。その実践を通して,1)生命倫理教育テーマとしての「終末期」の妥当性,2)5Eモデルの援用によるプログラム構成の有効性と課題について検討した。検討の素材には,参加学生の記述した「終末期に大切にしたいこと」を用いた。本研究において,まず「終末期」というテーマは参加学生の間に浸透していない生命倫理問題のひとつであることが明らかになった。このテーマに対して5Eモデルのプロセスに基づき,参加学生には関与させることから始めて,具体的イメージの創出をはかるためのカード型ゲーム,ドキュメンタリー映像資料の活用による,探索,説明,精緻化をはかり,最後に評価として「終末期に大切だと思うこと」を表させるやり方を展開した。5Eモデルを参考にしたプログラム展開により,認知度の低かったテーマに対して,参加学生の率直で道徳的な意思を導き出すことに成功した。また,「終末期」は生死を対象とする個々人の倫理観形成が,自分の率直な思いを重ねながら構築できるテーマになると分かった。本プログラムは一般女子大学生に「生」を支えるあり方について考えたり,価値観の変容を導く一助となるテーマと内容であったと理解された。

  • 山岡 武邦, 沖野 信一, 松本 伸示
    2022 年 63 巻 1 号 p. 179-188
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,理数系学部に在籍する国立理科系大学生319名を対象に,素朴概念の形成過程や,その克服の過程を明確化させることを目的として,2013年から2018年にかけてアンケート調査を行ったものである。調査対象者319名が記述した434個の素朴概念を分析した結果,次の6点が明らかとなった。(1)素朴概念を抱く時期は,男女ともに小学生の時期が多いこと,(2)素朴概念を抱く時期は,女子の方が男子に比べて幼い時期であること,(3)素朴概念を形成する分野ごとの男女比率は,物理分野は相対的に男子多く女子が少ない。生物分野は女子が相対的に多く男子が少ない傾向があること,(4)素朴概念が形成される原因について分野別に比較をすると,物理分野は実体験を基にした理解,化学分野は直感的理解や不可視を根拠にした理解,生物分野は他の助言を根拠にした理解,地学分野は漫画や映画等に基づく理解の割合が,相対的に多い傾向にあること,(5)素朴概念の形成に関する原因は,性差や発達段階の差によらないこと,(6)素朴概念を克服した方法について分野別に比較をすると,物理分野は数式による証明,化学分野は学校での実験等による実体験との照合,生物分野は学校での実験等による実体験との照合とSNSやテレビ番組,地学分野は発達段階に応じた理解の割合が,相対的に多い傾向にあること,が明らかとなった。

  • ―Y社の2011年と2020年の検定済教科書を比較して―
    山田 健人, 本田 勇輝, 木原 義季, 河本 康介, 山田 貴之
    2022 年 63 巻 1 号 p. 189-204
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,Y社の2020年検定済中学校理科教科書に掲載されている観察・実験等の「問い」を対象に,関根ら(2012)に基づいて「問い」の分類を行い,2011年検定済中学校理科教科書との比較から「問い」の特徴を明らかにすることを第一の目的とした。また,山田ら(2021)の3つの観点で整理された特徴的な技能との関連性について検討することで,「問い」の特徴を明らかにすることを第二の目的とした。分析の結果,以下の2点について明らかになった。(1)「どのように+動詞(how+動詞)」や「どのような+名詞(how/what+名詞)」,「何(what)」といった検証可能な「問い」は増加している反面,「はい・いいえ(yes/no)」のような検証が難しい「問い」は減少していることが明らかになった。(2)関係性や規則性を見いだすための「問い」や「何(what)」では,「定量的」や「仮説設定」が多く含まれている反面,手段としての「問い」や観察・実験等もしくは作業等を促す「問い」では,「仮説設定」や「変数制御」が少ないことが明らかになった。

  • 山中 真悟, 小茂田 聖士, 古石 卓也
    2022 年 63 巻 1 号 p. 205-213
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,理科における批判的思考の発達過程の一端を明らかにすることで,各発達段階における指導法への示唆を導出することを目的とした。この目的を達成するため,理科における批判的思考の発達検討質問紙を作成するとともに,小学校第6学年および高等学校第1学年を対象に質問紙調査を行った。分析の結果,『反省的側面』については小学校第6学年段階ではすでに形成されているものの,他の2側面については高等学校第1学年段階にかけて形成されていく可能性が示唆された。また,各発達段階における指導法への示唆として,小学校段階では「実験や学習のねらいとその達成のための手段を意図的に分けて考えさせる」「自分達とは考えの異なる仮想人物の予想や考察を検討させる」等の指導が,高等学校段階では「自身の一度出した結論をもう一度吟味させる」等の指導が有効である可能性が示唆された。

  • ―脊椎動物の祖先共有の認識に注目して―
    山野井 貴浩, 小川 博久, 川島 紀子
    2022 年 63 巻 1 号 p. 215-223
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    中学校理科における進化の学習では,脊椎動物は祖先を共有しながらも進化してきたことを理解させることが求められている。これまで進化のしくみや進化の定義に関する認識調査は中学生対象になされてきたが,祖先共有の認識についての調査は国際的にもほとんど行われていない。そこで本研究は,中学生の祖先共有の認識と他の進化認識との関係を明らかにするため,5つの質問群から成る質問紙を作成し,進化の学習を終えた中学生を対象に質問紙調査を行った。欠損値を含んだ回答を除き,1175名の回答を用いて統計分析を行った。その結果,以下の3点が明らかとなった。1.ヒトとチンパンジーといった哺乳類どうしの祖先共有の認識は強いが,哺乳類と爬虫類および魚類の祖先共有の認識は弱いこと,2.祖先共有の認識と進化の道筋に関する図の選択に明確な関連は見られないこと,3.脊椎動物は祖先を共有しながらも,ヒトに向かって進化していくという誤った進化観が形成されていること。今後,本研究で明らかとなった生徒の認識を踏まえた授業開発がなされることが期待される。

資料論文
  • ―テキストマイニングを用いて―
    雲財 寛
    2022 年 63 巻 1 号 p. 225-232
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は『理科教育学研究』に掲載されてきた論文の傾向を量的に明らかにすることを目的とした。1999年から2020年までに掲載された695件の論文タイトルを対象にテキストマイニングを行った結果,小学校や中学校に言及した論文タイトルや,具体的な授業実践に言及した論文タイトルが相対的に多いことが明らかになった。また,コーディングルールを設定し,語の出現数を集計した結果,「目的・カリキュラム」に言及した論文が30件,「指導法」に言及した論文が268件,「教材開発」に言及した論文が191件,「認識・発達」に言及した論文が161件,「教師教育」に言及した論文が69件という結果になった。したがって,『理科教育学研究』には,指導法,教材開発,認識や発達に着目した論文が多く,目的・カリキュラムや教師教育に着目した論文が少ない可能性が示唆された。

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