日本の理科教育は,国際調査において一貫して高い評価を得ている。一方,フィリピンでは,日本と同様の探究的な学びを強調するカリキュラムがあるにもかかわらず,国際調査等において生徒の到達度は低いままである。類似したカリキュラムでも,理科教育実践において違いがあるのだろうか。本論文では,以上を踏まえ,日本の公立中学校一校において理科教育の様々な側面を調査し記述することで,日本の学校における理科教育実践の特質を明らかにするとともに,グローバル化する社会において日本の理科教育を発展させるための改善点を指摘することを目的とする。特に本稿では,参与観察に基づく外国人理科教師の日本の理科教育実践に関する認識と,生徒を対象として行われた理科授業に関するアンケート結果(N=205)について説明する。研究の結果,以下のことが判明した。1)日本の中学校の理科授業では,探究的活動を通じて,知識内容および手続きに関わるスキルの獲得が重点的に取り扱われている。2)教師や塾等の支援による個に応じた学習により,生徒の理科の学習意欲と関心を高めている。3)生徒は,仮説,予想,結果解釈等の探究のプロセスを楽しんでいる一方,自分で問題を見つけて解決することや,自分で実験手順を計画することには完全な自由度は与えられず,「レシピ型」の実験に従うよう要求されていると認識している。4)日本の生徒は,高い水準の学習規律を保持している。そこで,生徒が自分で問題を見つけ,探究する活動や問題解決のために自分自身で実験を計画するようなより自由度の高い活動を取り入れることが求められている。また,生活に根差した理科教育の推進や,e-LearningやICT機器の活用は,グローバル化した現代社会という観点からも,改善・発展が求められる分野である。
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