理科教育学研究
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42 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著論文
  • 高橋 真理子, 松森 靖夫
    2002 年42 巻2 号 p. 1-12
    発行日: 2002/03/29
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,これまで研究対象としてほとんど取り上げてこられなかったプラネタリウムの教育効果の評価を試みるものである。そのために,(1) 太陽の光について,プラネタリウム視聴前の子どもの認識状態を把握する,(2) プラネタリウム視聴1週間後と約4ヶ月後の子どもの認識状態を調査し,その変容様態について把握し分析する,(3)得られた結果に基づき,望ましいプラネタリウム投影を志向するための視点について提案する。得られた知見は,次の通りである。(1) 理科単元「日なたと日かげ」を学習する前の小学校3年生でも,太陽について多様な考えを持ち合わせており,特に,「燃焼と光」や「熱と光」を結びつけて考えている子どもが多数存在した。(2) プラネタリウムの視聴により,約80 %の子どもの考えに何らかの変容が認められた。科学的に正しい考えへと変容した子どもが存在したが,中には,視聴後に逆に誤った考えを持つに至った者も存在した。(3) プラネタリウムの視聴によって考えが変容し,約4ヶ月後もその考えを保持していた子どもは10 %程度であった。これらの結果に基づき,今後のプラネタリウム投影のあり方について提案した。

  • 金 京沢
    2002 年42 巻2 号 p. 13-23
    発行日: 2002/03/29
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    20世紀初頭,日本の理科教育は中国の理科教育に大きな影響を与えた。当時,中国では理科教育論に関する和書か多く翻訳され,理科教師としてお雇い日本人教習が活躍され,実験設備は日本から輸入されたり,あるいは日本の製品が模造されたりしていた。本研究では上記の事実を取り上げ,中国の理科教育論の形成における日本の影響について考察した。その結果,以下のことが明らかとなった。①中国において理科教育は実用的価値以外にも教育的・教養的価値があることが認識されるようになった。②理科教育において理科教授法が進歩したことにより,教科書や掛け図以外にも理科教育には実験・観察のための施設設備や器具等が必要であるという認識が高まった。③理科の教材・教具の国産化の重要性が認識され,国産品が現れるようになった。④アームストロングの発見的教授法が日本を通して中国にも紹介され,理科教育における生徒実験の重要性が認識されるようになった。

資料
  • 白數 哲久, 荻野 雅
    2002 年42 巻2 号 p. 25-34
    発行日: 2002/03/29
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    筆者は小学校理科の問題解決的な学習において, どの程度の主体性を児童に期待できるかを検討するために, 2つの新しい尺度を考案した。1つは問題解決的な学習において,児童にどの程度の主体性かあったかを示すS密度である。このS密度は次の式で求める。S密度=ある単元での主体的な学習の度合いを数値化した全ポイント合計÷その単元の授業時数もう1つは児童の学習内容に対する印象の良し悪しを示すI指数である。このI指数は次の式で求める。Ⅰ指数=ある単元での児童の学習内容に対する印象を数値化した印象度得点合計÷児童数 本研究では,相関表(S I相関表)を用いて両者の相関関係を調べ,次のような結論を得た。(1) S密度が低いと,I指数も低い。特にC領域「地球と宇宙」でこの傾向が強い。(2) S密度か普通または高いと,I指数も普通または高くなる傾向が見られる。(3) S密度が非常に高くてもI指数は普通程度にとどまる。この現象が見られたのはB領域「物質とエネルギー」でのみである。今回考案したS密度あるいはそれを求めるプロセスは,教師か授業計画の反省あるいは修正に用いるのに有効である。

  • 永川 元
    2002 年42 巻2 号 p. 35-42
    発行日: 2002/03/29
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    筆者は,土壌微生物の働きに関する教材として,それまでに報告されたリバーサルフィルムによる定性的な土壌評価実験を改良し,フィルムの腐食の程度を,簡易自作比色計によって,半定量的に評価する方法を報告している。今回, このフィルムによる土壌の評価方法を使って,実際のクラブ活動での教育実践研究を行った。その実践の中で,生徒たちの土壌に対する概念構造化がどのように形成されるかを,概念地図を用いて分析を行った。その分析の中で,生徒が使用した概念ラベルを,「日常語彙」・「準専門語彙」・「専門語彙」という3つの語彙グループに分ける試みを行った。それをレーダーチャートとして図示することにより,地図上における語彙の使われ方の特徴を捉えることかできた。また,それにより生徒個々の実践前後や他人との概念ラベルの比較が容易になった。さらに,概念ラベルのレーダーチャートと概念地図の構造とを比較し,概念地図を「日常的理解」・「科学的理解」・「統合的理解」の3つの段階に分ける試みを行った。その結果,この実践を通して,生徒のそれぞれの「概念ラベル」が,専門化,階層化,複雑化,関連化していることがわかった。つまり,生徒の概念ラベルのレーダーチャートおよび概念地図の構造とを分析検討することにより,彼らの「土壌」に対する概念構造が,実践前の「日常的理解」から実践後の「統合的理解」へと変容していくことを明らかにすることができた。

  • 清水 誠
    2002 年42 巻2 号 p. 43-50
    発行日: 2002/03/29
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,教師が保持する科学観と理科授業の実態について調査し,両者の関係を明らかにすることを試みた。その結果,以下の点が明らかになった。(1) 小・中学校の教師は,伝統的科学観を保持する割合が高い。理論の規準で伝統的科学観を保持する教師は,一貫して伝統的科学観に基づく科学の方法を保持する。また,理論の規準で現代的科学観を保持する教師であっても,その半数以上が科学の方法では伝統的科学観を保持する。(2) 小学校の教師の多くは,構成主義学習論的な考え方に立った指導を璽視する。一方,中学校の教師の多くは内容の系統性を重視する。こうした違いがあるが,理科の学習を進める際に多くの教師か配慮するとしたものは,小・中学校ともに伝統的科学観に基づいた科学の方法である。

  • 松本 朱実, 森 一夫
    2002 年42 巻2 号 p. 51-61
    発行日: 2002/03/29
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    動物園・水族館(以下動物園と称す)は,子どもが体験を通して動物や環境との関わりを学ぶ場としての可能性を有する。しかしながら,わが国では学校教育での動物園利用の位置づけが明確でなく,また,つぎに「どのような指導を行えば教育効果が上がるか」という研究は,今まで十分になされてきていない。本研究は,学校における動物園利用の教育的意義を検討するとともに,利用の実態を明らかにした上で,効果的指導法のあり方を探ることを目的とした。そこで,動物園の特性は「生きた野生動物の展示」であり,展示動物との関わり合いを通して「生命」と「共生」についての理解を図ることが動物園利用の教育目的であると措定した。しかるに,利用の実態を調査したところ,教師側は「生命」についての理解を期待しているものの,「共生」理解に関する期待値が動物園側よりも低く,双方の目標に齟齬のあることが認められた。また,教師側・動物園側ともに動物園見学による教育効果に満足する割合は期待値よりも低く,さらに動物に関する事前指導を実施した学校は42 %に留まっていることが示された。そこで,効果的指導法のあり方を探るために,児童に観察したい動物のイメージを表現させる事前指導法を試行した結果,動物の新たな事実を発見するという効果が示された。また,当日の指導内容を検証した結果,観察に重点を置く指導が動物に対する関心を高め,また,獣医によるレクチャーが生命についての理解を深める効果をもたらした。さらに,感想文の分析により,話し合いを導人した指導法の重要性が示唆された。以上の結果から,動物園利用による指導のあり方として,「問題意識の喚起」「観察と記録」「動物園側からの情報提供」「話し合い」が有効と認められた。さらに,具体的な教材を導入して理科学習と関連させた指導法の実践案を提示する。

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