本研究の第一の目的は,Y社の2019年検定済小学校理科教科書に記載されている観察・実験等の「問い」を対象に,吉田(2012)に基づく分類を試みるとともに,吉田(2012)が分析を行った2010年検定済小学校理科教科書及び山田ら(2022)が分析を行った2020年検定済中学校理科教科書との比較による「問い」の特徴を明らかにすることであった。また,第二の目的は,山田ら(2021b)の3観点(「定性的・定量的」,「仮説設定の有無」,「変数制御の有無」)と「問い」との関連について検討することで,その特徴を明らかにすることであった。その結果,以下の3点が示唆された。
(1)Y社の2019年検定済小学校理科教科書に記載されている「問い」のうち,「はい・いいえ(yes/no)」,「どのように+動詞(how+動詞)」,「どのような+名詞(how/what+名詞)」の合計数が全体の約72%を占めること
(2)「変化・状態」や「手段」を問う「どのように+動詞(how+動詞)」といった検証可能な「問い」が増加している一方で,「呼びかけ」のような検証が難しい「問い」は減少していること
(3)2019年検定済小学校理科教科書と2020年検定済中学校理科教科書を比較すると,前者の方が後者よりも「はい・いいえ(yes/no)」については有意に多く,「どのような+名詞(how/what+名詞)」と「呼びかけ」については有意に少ないこと
さらに,第二の目的である山田ら(2021b)の3つの観点で整理された特徴的な技能と「問い」との関連を検討した結果,以下の3点が示唆された。
(4)「定性的・定量的」では,「どのような+名詞(how/what+名詞)」の「性質」において定性的な「問い」の方が有意に多いこと
(5)「仮説設定の有無」では,「はい・いいえ(yes/no)」,「どのように+動詞(how+動詞)」,「何(what)」において仮説設定を含む「問い」の方が有意に多いこと
(6)「変数制御の有無」では,「どのような+名詞(how/what+名詞)」,「どれくらいか(how量)」において変数制御を含まない「問い」の方が有意に多いこと
今後,Y社以外の2019年検定済小学校理科教科書を分析対象に加え,本研究で得られた知見の適用可能性について検討することが課題として残されている。
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