理科教育学研究
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63 巻, 2 号
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原著論文
  • 市橋 由彬
    2022 年 63 巻 2 号 p. 235-244
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    中学1学年の生徒の大多数が溶液中の物質は「目に見えない小さな粒(粒子)になる」と教科書で学習している。一方で,その粒子の大きさのとらえ方は生徒によって様々である。また,中学1学年の生徒に粒子概念を定着させる取り組みはあるが,特殊な器具を用いたりすることが見受けられる。本実践ではコロイド溶液とセロハン膜を用いた透析実験を通して,生徒が「目に見えない小さな粒子」という表現に対して正しいイメージを持てるようになるかを検証している。セロハンは中学2学年および中学3学年でも使用する機会のある物質で,中学1学年から使い慣れておくことは以後の学習理解において有用である。また,使用した塩化鉄(Ⅲ)は可溶性で有色のため,知識を有しない中学1学年の生徒であっても実験で起きている現象を理解しやすい。中学1学年に対して実施した本実践の結果,塩化鉄(Ⅲ)水溶液やセロハンなど,初めて使用する物質であっても実験中の変化や既習内容をもとに,セロハン膜を通り抜けられない物質の粒子と通り抜けられる物質の粒子の違いを考え,その考えをもとに溶液中の粒子の大きさを考察できることが分かった。また,実践後の調査により生徒が溶液中の「目に見えない小さな粒子」の大きさを具体的にイメージできていることが確認できた。さらに後日行った確認テストの結果から,そのイメージが定着していることも確認できた。したがって,本実践は溶液中の粒子の大きさを具体的に理解させる上で効果的であると考えられる。

  • ―理科教員養成課程学生の模擬授業の評価の分析を通して―
    内海 志典
    2022 年 63 巻 2 号 p. 245-254
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    PCKは,複雑な構造であるが,理科教員養成課程学生の模擬授業の評価に見られる教師の知識領域を分析することにより,教師が分析の際に働かせたPCKについて明らかにすることができる。本研究では,学生の評価を分析する際の差異を顕在化することを通して,教師のPCKを明らかにすることを研究の目的とする。その結果,次の4点が明らかとなった。(1)理科教師と大学教員の両者は,同一の模擬授業における学生の同一の評価の記述であっても,それらの解釈に差異が生じている。(2)理科教師は,異なる模擬授業の評価において,異なる評価の解釈をしている。(3)大学教員は,多くの模擬授業の評価において,ある程度,評価の解釈に一貫性が見られる。(4)模擬授業の評価の解釈の違いは,信念や教師経験の違いによると考えられる。

  • 岡村 博史, 榊原 範久, 山田 貴之
    2022 年 63 巻 2 号 p. 255-266
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,中学校理科の仮説設定・実験計画場面において,批判的思考を育成する「仮説設定・実験計画Critical Thinkingシート(以下CTシート)」を開発し,CTシートを用いた教育実践の効果を検証することを目的とした。開発したCTシートには,批判的思考のプロセスの4つの段階,「明確化」,「推論の土台の検討」,「推論」,「意思決定」に対応した記述欄を設けた。また,学習者が他者からアドバイスをもらえるようにし,多面的な思考が促されるようにした。質問紙分析,CTシートの記述分析,発話分析,CTシートの評価の分析から,他者との関わりによって学習者の批判的思考の働きが活性化し,一度立てた計画を反省的に見直したり,実験計画の妥当性を吟味したりする力の向上に効果があることが明らかとなった。

  • ―中学校第1学年理科「フックの法則」において―
    河本 康介, 山田 貴之
    2022 年 63 巻 2 号 p. 267-280
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学校第1学年理科「フックの法則」において,「関数的な見方・考え方」を働かせ,かつ「理科と数学の教科等横断的な学習の意義」を構成する因子を高める授業方略を組み入れることによる,2量関係について,実験結果の表からグラフを作成して式に表したり,表やグラフ,式を分析・解釈したりする力や,「理科と数学の教科等横断的な学習の意義」に対する意識に及ぼす効果を明らかにすることであった。この目的を達成するために,中学校第1学年の生徒を対象としたフックの法則の理科授業を行い,2量関係の理解の程度を測定する調査問題と,「理科と数学の教科等横断的な学習の意義」に関する質問紙調査を行った。その結果,比例関係にある事物・現象のグラフから比例関係的に考察する考え方と,比例関係を示すグラフの直線から式化する力の育成に効果があることが明らかになった。また,実験群の事前~事後で,4因子(因子2「関数的な見方・考え方」,因子3「理数学習の有用性」,因子4「理科における学習方略」,因子6「数式化・数値化の意識」)に有意な上昇が認められ,「理科と数学の教科等横断的な学習の意義」に対する意識の向上に一定の効果があることが示唆された。本研究の授業方略は,2量関係を理解させ,「理科と数学の教科等横断的な学習の意義」を認識させる上で,一定の効果があることが明らかになった。

  • ―質的データ分析法を用いた生徒の発話分析―
    小林 優子
    2022 年 63 巻 2 号 p. 281-297
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,日本の高等学校で行われている探究活動においてNOSが言及される場面を明らかにした。そのために,自然科学の探究を行う生徒2名と人文社会科学の探究を行う生徒2名を対象に,1年間の探究活動中の発話を記録し,質的データ分析ソフトウェアを用いて質的に分析した。NOSの要素のうち「主観性」,「科学と社会」,「科学の中の社会・文化」に着目して分析したところ,いずれの生徒においても「目的に合わせた方法」や「研究の蓄積」などのサブカテゴリーにおいて発言に深まりが見られた。このことから,NOSの指導を意識していない日本の探究活動においてもNOSについて学ばれる可能性を指摘することができる。一方で,「科学内部の社会的プロセス」や「科学者間のコミュニケーション」についてはほとんど言及されておらず,言及されるNOSには偏りがあることが明らかになった。また,これ以外のNOSについても探究活動の進捗に合わせて質的な深まりが見られた。こうした質的な深まりは,探究する領域の違いや指導形態の違い,生徒の個人的な経験や関心に影響を受けることが明らかになった。

  • ―オーストラリアン・カリキュラムと学習領域の統合―
    杉山 紗里奈, 内海 志典
    2022 年 63 巻 2 号 p. 299-310
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    わが国において,STEM教育への関心が高まっている。しかし,わが国における諸外国のSTEM教育の研究は,アメリカやイギリスに着目したものが多く,オーストラリアに関する研究は極めて少ない。そこで,本研究では,オーストラリアン・カリキュラム評価報告機関(ACARA)が開発したオーストラリアン・カリキュラム(AC)を中心として分析し,オーストラリアにおけるSTEM教育の特徴について検討した。その結果,オーストラリアにおけるSTEM教育の特徴として,次の3点が挙げられる。(1)STEM教育は,科学,技術,数学の各学習領域の中に位置づけられている。(2)エンジニアリングは,技術の中に内包されている。(3)一般に,カリキュラムの統合の度合いは低いが,指導書“STEM Connections Workbook”のプロセスに従って授業設計をすることで,統合の度合いが中程度もしくは高い状態になっている。わが国でも,理科,技術,数学が個別の教科として存在しているため,オーストラリアのSTEM教育のアプローチは,わが国でSTEM教育を実践する際の参考となることが示唆される。

  • ―教材に着目して―
    杉山 紗里奈, 内海 志典
    2022 年 63 巻 2 号 p. 311-322
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    STEM教育は,過去10~20年,国際的に注目を集めている。オーストラリアにおいても,STEM教育が推進され,独自のSTEM教育を行っている。しかしながら,わが国において,オーストラリアのSTEM教育に関する研究は極めて少ない。特に,オーストラリアの中等教育科学におけるSTEM教育の活動内容に着目した先行研究は見られない。そこで,本研究では,オーストラリアの中等教育科学におけるSTEM教育の教材「水のゲーム」と「フィルム・キャニスター・ロケット」について分析し,その活動に見られる特徴について検討した。その結果,それらの教材の特徴として,次の5つの活動の特徴が見られた。(1)授業の序盤に,活動全体の中心となる問題を取り扱う。(2)グループで議論し,調査方法や解決策,改善策に関するアイデアを出す。(3)実施した解決策や調査方法について,基準を用いて評価し,改善策を考え,改善する。(4)解決策や調査結果を外化し,他者に向けて伝達する。(5)授業の終盤に,活動全体を振り返り,自己評価を行う。本研究で明らかにしたこれら5つの活動の特徴は,わが国でSTEM教育を導入する際の示唆となる。

  • ―小学校第3学年「ゴムの力のはたらき」の学習単元を事例に―
    鈴木 進, 峯田 武典, 和田 一郎
    2022 年 63 巻 2 号 p. 323-331
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    理科学習では,子どもが自然事象に関わり形成された活動的表象を起点に,問題解決活動が展開される。活動的表象は,子どもの活動に応じて様々な種類の表象が形成され,その種類に応じて様々なルートを形成しながら映像や記号的な表象形式への変換が生じると考えられる。そこで本研究では,小学校第3学年「ゴムの力のはたらき」に関する学習を事例に,活動を通じて形成された多様な活動的表象とその後の表象形式の変換に関する実態を明らかにすることを目的とした。活動的表象の形成に関わり,自然事象に対する子どもの活動を捉えるため,ギブソン(2005)が提唱するアフォーダンスの理論に着目した。この指摘を踏まえ,誘発された活動を通じて知覚情報を獲得することで活動的表象が形成されることを捉えた。その上で,表象形式の変換過程をモデル化している和田・森本(2010)の指摘に基づき,子どもが形成した活動的表象とその後の表象形式の変換の実態を捉えた。これらの視点を踏まえ,事例的分析を行った結果,アフォーダンスによる活動は6つに分類され,これに関連した活動を通じて知覚した情報により形成された活動的表象は10種のパターンに分類された。さらに問題解決活動を通じ,多様な表象形式へと変換されることが明らかとなった。

  • 瀧本 家康, 村島 香里
    2022 年 63 巻 2 号 p. 333-344
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    高等学校「物理」における「力のモーメント」の学習に関して,高校生がどの程度「力のモーメント」のつり合いについて理解しているかを明らかにするために理解度を測定できる問題を作成し,高校生と大学生を対象に試行調査を実施した。調査の結果,「力のモーメント」を考える上で重要な「うでの長さ」については,多くの生徒・学生が「支点から作用点までの距離」を「うでの長さ」と誤認識している可能性が高いことが示唆された。そこで,本稿では「力のモーメント」のつり合う条件を見いだすことができる新たな実験装置を提案した。この実験装置は先行研究で提案されていた装置の長所を継承しつつ,製作面や費用面の課題を解決したことにより,安価に多数の装置を製作することが可能となった。高校生を対象とした試行実践の結果,実験装置を用いて考察することを通して物体の回転条件を見いだせるようになり得ることが示唆された。これにより,生徒実験を通じて「力のモーメント」のつり合いをこれまで以上に実感を伴って理解できると考えられる。

  • ―第1学年「水溶液の性質」のオンライン授業実践を通じて―
    中西 一雄
    2022 年 63 巻 2 号 p. 345-355
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,中学校理科授業において,生徒のICTを活用することに対する有用性の認識が,オンライン授業に対する評価にどのように影響を及ぼしているのかを明らかにすることで,今後の学校現場におけるオンライン授業の効果的な実施に向けた示唆を得ることを目的としている。そのため,中学校第1学年の生徒を対象に,ICT活用の有用性の認識を測定した後,「粒子」を柱とした内容に位置づく単元におけるオンライン授業の実践を行い,オンライン授業に対する評価を質問紙調査を用いて検討した。ICT活用の有用性の認識を用いた階層クラスタ分析により生徒を類型化した上で,質問紙調査の回答を分析したところ,オンライン授業に対する評価の多くの項目において,ICT活用の有用性の認識が高い生徒のオンライン授業に対する評価が高くなる傾向が示された。また,ICT活用の有用性の認識のうち,特に「学びへの積極性」「他者との比較・共有」がオンライン授業に関する評価に促進的な影響を与えていることが示されたこれらの結果から,今後はオンライン授業を非常時の代替手段のみとして捉えるのではなく,オンライン上での学習を日常的な授業実践において授業デザインに組み込むことが効果的であることが示唆された。

  • 中村 大輝, 佐久間 直也
    2022 年 63 巻 2 号 p. 357-371
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,仮説設定の思考過程に関する先行研究に基づき,仮説設定を「変数の同定」と「因果関係の検討」に分割した段階的指導法を開発した。変数の同定の段階では,一部の条件(変数)が異なる複数事象の比較を通して事象に関連する複数の変数を見出させるとともに,見出した変数を学級内で共有する。因果関係の検討の段階では,変数間の因果関係を場合分けして整理した上で,自身の仮説を文章化させる。このような指導法の効果を明らかにすることを目的として,中学校第2学年「電流とその利用」の単元で2回の継続的な指導実践を行った。その結果,複数事象の比較を通した仮説設定の段階的指導法は,学習者の仮説設定の質を向上させることが支持された。

  • 西澤 輝, 香取 慶則
    2022 年 63 巻 2 号 p. 373-380
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学生の化石に対する認識および抱いている誤概念を明らかにすることである。中学校第2年生の生徒105名を対象として中学生にアンケート調査を実施した。その結果,以下の3点が明らかになった。1)化石の中でも,特にアンモナイトは非常に多くの生徒に認識されている傾向があり,生徒にとって最も代表的な化石である。反対に,現行学習指導要領にて取り上げる代表的な化石として記載されている化石のうち,シジミ,ブナ,ナウマンゾウは比較的生徒に認識されていない傾向があった。2)約7割の生徒は生痕化石を含む化石の定義を正しく認識しているが,体化石に比べて生痕化石を認識している生徒は非常に少なく,生痕化石にはどのような痕跡の化石があるのかといった具体的な生痕化石の種類について認識していない生徒が多かった。3)化石に関する誤概念を抱く生徒の内,生物とは関係のない物理現象によってできた地質構造などが化石であるという誤概念をもつ生徒が多く,体化石のみが化石であり生痕は化石ではないという誤概念をもつ生徒もわずかに存在した。以上のことから,生徒が認識している化石の種類には大きな偏りがあることや,化石について一定の誤概念を保持していることが明らかになった。

  • ―Y社の2010年と2019年の検定済教科書の比較を通して―
    本田 勇輝, 山田 健人, 栗原 淳一, 山田 貴之
    2022 年 63 巻 2 号 p. 381-398
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の第一の目的は,Y社の2019年検定済小学校理科教科書に記載されている観察・実験等の「問い」を対象に,吉田(2012)に基づく分類を試みるとともに,吉田(2012)が分析を行った2010年検定済小学校理科教科書及び山田ら(2022)が分析を行った2020年検定済中学校理科教科書との比較による「問い」の特徴を明らかにすることであった。また,第二の目的は,山田ら(2021b)の3観点(「定性的・定量的」,「仮説設定の有無」,「変数制御の有無」)と「問い」との関連について検討することで,その特徴を明らかにすることであった。その結果,以下の3点が示唆された。

    (1)Y社の2019年検定済小学校理科教科書に記載されている「問い」のうち,「はい・いいえ(yes/no)」,「どのように+動詞(how+動詞)」,「どのような+名詞(how/what+名詞)」の合計数が全体の約72%を占めること

    (2)「変化・状態」や「手段」を問う「どのように+動詞(how+動詞)」といった検証可能な「問い」が増加している一方で,「呼びかけ」のような検証が難しい「問い」は減少していること

    (3)2019年検定済小学校理科教科書と2020年検定済中学校理科教科書を比較すると,前者の方が後者よりも「はい・いいえ(yes/no)」については有意に多く,「どのような+名詞(how/what+名詞)」と「呼びかけ」については有意に少ないこと

    さらに,第二の目的である山田ら(2021b)の3つの観点で整理された特徴的な技能と「問い」との関連を検討した結果,以下の3点が示唆された。

    (4)「定性的・定量的」では,「どのような+名詞(how/what+名詞)」の「性質」において定性的な「問い」の方が有意に多いこと

    (5)「仮説設定の有無」では,「はい・いいえ(yes/no)」,「どのように+動詞(how+動詞)」,「何(what)」において仮説設定を含む「問い」の方が有意に多いこと

    (6)「変数制御の有無」では,「どのような+名詞(how/what+名詞)」,「どれくらいか(how量)」において変数制御を含まない「問い」の方が有意に多いこと

    今後,Y社以外の2019年検定済小学校理科教科書を分析対象に加え,本研究で得られた知見の適用可能性について検討することが課題として残されている。

  • ―相互評価活動下において考察記述の定型化指導を組み込む学習活動を通して―
    山内 慎也, 郡司 賀透, 飯田 寛志, 後藤 顕一
    2022 年 63 巻 2 号 p. 399-414
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,相互評価活動下において考察記述の定型化指導を組み込む中学校理科の授業を実践し,学習者の考察における科学的な表現の育成を明らかにすることを目的として行った。この目的を達成するために,相互評価活動を取り入れる群,考察記述の定型化指導を取り入れる群,相互評価活動下において考察記述の定型化指導を組み込む群を設定し,学習者の調査問題と授業に関する自由記述における回答の分析を行った。分析の結果から,相互評価活動下において考察記述の定型化指導を組み込む授業を行うことは,相互評価活動と考察記述の定型化指導のいずれか一方を取り入れる授業を行うことと比較して,科学的な表現における根拠(理由)の改善が見られたこと,その要因の一つは,相互評価活動下において考察記述の定型化指導を組み込む授業を行うことで,学習者は自己評価や他者評価を行う中で,グループで話し合い,探究の過程を振り返るなどの協働的な学びを通して考察の書き方が分かるようになり,さらに,教師から書き方についての指導を受けることで,考察に結果,主張,根拠を書く意識を持ったことにあると明らかになった。

資料論文
  • 亀田 直記, 瀧本 家康
    2022 年 63 巻 2 号 p. 415-423
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    身近な現象である雲を,授業の中で実際に観察する機会は少ない。本研究では,学習者個人が持つ端末により雲のタイムラプス動画を撮影させ,雲の特徴,特に動きと発生について捉えることができるかどうかを調査した。雲の動きが比較的捉えやすい秋を対象として生徒の所有する端末を利用して任意の日に撮影させ,得られた動画から読み取れる雲の特徴を発表させた。撮影した動画と発表内容を分析した結果,82%の生徒が問題なく動画撮影に関係する端末の操作を行うことができ,高校生程度の端末の操作に慣れている生徒であれば,各自の端末を活用することが可能であることが示唆された。しかし,個々人の端末を用いて撮影した場合,教材として見やすい動画が撮れているとは限らない。生徒一人ひとりが得た動画から雲のどういった特徴に着目する傾向があるのか指導者は把握しておくことが望ましい。通常の空の観察に比べ,タイムラプス動画では雲の動きや発生を捉えやすく,動きは100%,発生は84%が撮影できていたにもかかわらず,指導者が何を観察するのか指示しなければそれらは着目されにくいことが明らかになった。この背景として,実際の空で雲の動きや発生を観察した経験が乏しいことが原因の1つと考えられ,室内実験のみではなく,動画などを用いて実際の様子を観察する活動を取り入れることが望まれる。

  • ―コロナ禍における高大連携の生徒実験―
    小長谷 幸史, 小田島 大, 山家 真奈美, 高橋 悠斗, 古俣 真夕, 重松 亨
    2022 年 63 巻 2 号 p. 425-435
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    分子生物学など幅広い分野で用いられているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は,現在では高等学校の生物の教科書にも記載され,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査で用いられていることにより社会にもPCRが広く認知されるようになった。高等学校の生徒に対してPCRの原理と応用に関する質問紙調査を行った結果,ほぼ全員PCRという言葉を知っていたが,SRAS-CoV2の検査に関すること以外の記述はほとんどなかった。この生徒に対し大学と連携によるPCRの実験を伴った授業を行った。授業は通常の授業時間のなかで説明,PCRの操作,電気泳動を含めて2校時内に行うものとし,PCRは3台の温度の異なるウォーターバスを用いて生徒が反応液の入ったPCRチューブを移動させる“手動PCR”の方法で行った。PCRは原核細胞の16SリボソームRNA遺伝子のほぼ全域の約1500 bpの部分を標的とし,試料は納豆から分離したBacillus subtilisの菌体およびそのDNA,納豆の粘りを用いた。1校時目に全体の説明とPCRの反応操作を行った。PCRの条件は初期変性2分間の後,94°C 20秒間56°C 20秒間72°C 20秒間の25サイクルで行った。2校時目にPCR後の反応溶液を電気泳動に供した結果,9班中2班で目的のPCR産物が得られていた。本実践では感染症対策を十分にとって行うことができた。授業後の課題の設問への解答にはPCRの原理や検査以外の応用の記述がみられるようになった。本実践により通常の授業時間の2校時と課題による時間外学習によりPCRについて学ぶことができる生徒実験が構築できる可能性が見出された。

  • 瀧本 家康
    2022 年 63 巻 2 号 p. 437-444
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    平成29年(2017)告示の中学校学習指導要領解説理科編では,第3学年「太陽系と恒星」の単元において,「太陽や惑星の大きさなどの特徴を理解させる」ことを目標としている。地学領域に特有な見方・考え方である時間的・空間的スケールのうち空間的スケールに着目し,大学生を対象に太陽系の惑星について,大きさと太陽からの距離についての認識調査を行った。その結果,惑星の大きさについては,①地球型惑星では実際よりも大きく認識していること,特にその傾向が水星と火星で顕著であること,②地球型惑星は外側ほど大きい,あるいは木星と土星以外の惑星の大きさは概ね同程度であると認識していることの2点が明らかになった。一方,惑星の距離については,①惑星間の距離は概ね等間隔である,②地球型惑星は実際よりも8倍以上遠くに位置していると認識していることの2点が明らかとなった。

  • ―困惑状況を生起させる方法の開発―
    前田 光哉, 寺田 光宏
    2022 年 63 巻 2 号 p. 445-453
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー

    理科における資質・能力としての粘り強さは「主体的に学習に取組む態度」を評価する際の基本となる側面であり,問題解決の過程や探究の過程などの学習過程の中での育成が重要である。数学科では数学的推論で発揮される粘り強さを試行錯誤と相互作用する好奇心,困惑,当惑などの感情を可視化することで見取る研究がある。一方理科では粘り強さが発揮される状況は具体的に示されておらず,先行研究は見当たらなかった。本研究では,理科学習における資質・能力としての粘り強さを育成する上で必要な困惑状況を生起させる方法を開発することを目的とした。理科における困惑状況が生起される条件を「ものづくり」と「素朴概念」の2つから整理し,試行錯誤が可能な「割り箸天秤」の作製・困惑状況の起点となる「たしかめ活動」の開発を行った。これらの有効性を確かめるため,中学1年生24人を対象に調査を行った。学習者の試行錯誤の様子についてのビデオ分析の結果,たしかめ活動を行った素朴概念を保持する15人の学習者に対して困惑状況を生起させることができた。さらに,困惑状況下に置かれた学習者は,困惑状況下で試行錯誤を続けることができる学習者と,行き詰まりを感じて当惑状況へと移行して試行錯誤をやめたり,課題から離れたりするなどの課題を回避する学習者に分かれることが明らかになった。開発した方法は有効であり,理科において困惑状況は粘り強さが発揮される状況の1つであることが分かった。また,当惑状況へ移行した学習者への支援を検討の必要性が理科においても示唆された。

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